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再び、アナトリコ王国へ

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結局、カルデアポリのホテルを出たのは昼過ぎになってしまった。


長時間待機させてしまって、タキとノエには申し訳ない……。
家に着いたのは夕方で。

夕食を食べて、風呂に入って。
またイチャイチャしてから寝た。

さすがにこれ以上仕事を休めないらしく、ゼノンは仕事部屋に籠って山ほどある書類に囲まれているようだ。
王子様も大変だな。

猫の手として手伝いたいけど。
まだ文字の読めない俺は役に立たないからな。

眼精疲労回復くらい……?


少しでも力になるべく読み書きを覚えないと、と思って。
ゼノンが仕事をしている間、俺は図書室で勉強をすることにした。

徳田さんからもらった辞書が大活躍だ。


図書室では、タキが護衛として見張りに立ってる。
家の中なんだし、わざわざ警備をつけてくれなくてもいいのに。

でも、それでゼノンが安心して仕事が出来るなら、いいか。

あと、この辞書に載ってない言葉を教えて貰えるのは嬉しいかな。
さすがに最近の言葉とか、俗語までは網羅してなかった。

徳田さん、いかにも真面目そうだったもんな。


*****


さて。
勉強するか。……ええと。


神暦元年。
全能神は太陽、月、星、地、水、火、風、空気、天候、豊穣、重力、死、時間を司る十三の神を生み。狼、熊、獅子、竜など77の獣神を作り。

多くある星の中のひとつに、カルデアポリという大陸を作った。
大陸の中心には神の塔を建て、塔の周りに壁を張り巡らせた。

カルデアポリの他にも24の陸地を作り、様々な植物や生物を発生させ、それらが住める環境を整え、獣神の守護を受けた”ヒト”を作った。


神暦15年。
神はカルデアポリを一つの国とし、その周囲に獣神の守護を受けた四人の王を置き、四つの国を作った。
この大陸の他にも獣神の数だけ国を作り、全てに”ヒト”を配置した。


神暦20年。
ヒトに30年以上独身であることを禁じ、道逢の儀を決めた。


神暦百年。
西と北の国で領地争いが起こったので、神は二つの国の国境に高い山を築いた。
同時にカルデアポリに武器の持ち込みを禁じた。


それ以降。
神はこの世界に手出しをせず、ヒトを見守っている。


……これがこの世界の歴史か。

他にも、戦争とか色々あったんだろうけど。
他の国の情報とか入りにくいならダイジェストっぽくてもしょうがないか。

本当に神様がいる世界だもんな。
それで、この世界が出来て、もうすぐ千年になるんだ。

生き物とか食べ物がだいたい同じ感じだから戸惑うけど。
地球とは常識が違っても当たり前かも。


それとも。
地球も同じ神様が作ったけど、とっくに見放されてる状態だとか?

神様がこっちで猿神を作らなかったのもそのせいだったりして。
……うわ、何かシャレになんない。


*****


セルジオス王の王位継承パーティーから、一週間ほど経った頃だろうか。
アナトリコ王国から連絡が入ったと、ゼノンの仕事部屋に呼ばれた。

初めて入るけど。
王子の仕事部屋というより、書斎って感じがする。

机にはまだ、書類が山ほど積まれてる。


「え、”耳の無いヒト”が見つかったって……?」
ずいぶん早いな。

レオニダス王、本当に国中を探してくれてたんだ。
良い人だ。

「そうらしい。しかし、言葉が通じないため、間違いかもしれないのでスオウに確認しに来てほしいとのことだ」


言葉が通じない、か。俺もそうだったけど。
徳田さんと同じパターンかも。

ここに来てからまだ日が浅ければ、言葉を覚えられてない可能性が高い。

全然違う世界から来たって可能性もある。
さすがに同じ世界、同じ国だった徳田さんみたいな奇跡はそうそう起こらないだろう。

あまり期待し過ぎないようにしないと。


「ゼノン、」
「ああ、すぐに行こう。今回は飛竜を使う」

タキとノエが、さすがに単独で行くのは危険じゃないかって反対してたけど。

まだ片づけないといけない仕事もあるし。
確認したらすぐ戻ってくるから心配するな、と言って。

俺を抱えて、飛竜の飼育塔へ向かった。


*****


「スオウだ!」
アルギュロスは俺を見て、嬉しそうに翼をばたばたさせた。


「アルギュロス、久しぶり。元気だった?」
「元気だよ!」

「あのね、俺とゼノンをアナトリコの城まで送って欲しいんだけど」
「お安い御用さ」

世話係の人が手綱や鞍を掛けやすいよう、自分から頭を下げてくれた。


「……早いな……」
俺をしっかり抱えながら、ゼノンが感心している。

支度も手間が掛からなかったし。
手綱で方向を指示しなくても飛竜が自分で飛んでくれるんだから、そりゃ早いだろう。


「わあ、速いね」
スピードも速い。あっという間に景色が流れていく。

「えへへ、ほんとはもっと速く飛べるけど、スオウが乗ってるから加減してるんだよ」
「そうなんだ。ありがとうアルギュロス」

それと、これ以上は高く飛んではいけない高度があって、神様から怒られちゃうんだって。
ゼノンにもアルギュロスの言葉を通訳した。


「飛竜はそんなに知能の高い生き物だったのか……」

そりゃそうだよ。
牛や豚だって、犬と同じくらい賢いっていうし。

言葉が通じないだけで、知能が低いと思われるって酷いよな。
人よりよっぽど賢い生き物は多いと思うよ。


*****


アナトリコとの国境。

長い城壁が見えた。
アナトリコとカルデアポリとの間にはちゃんとした門があって、国の用事で行き来する場合はそこを通らないといけない。

レオニダス王から入国許可の連絡は入ってるということで。
指輪を見せるまでもなく、問題なく通過した。


お城の屋上で、レオニダス王が手を振ってるのが見えた。
その横には、近衛騎士。

屋上には飛竜用の止まり木があって、そこに降りた。


「おお、よくぞ参られた。お待ちしておりました」
待ちきれなくて屋上来ちゃうくらい、待たれちゃってた。

「急ぎの用とのことで、飛竜にて失礼、」
レオニダス王に簡略な挨拶をしたゼノンに抱え上げられて、アルギュロスから降りる。

飛竜に乗ったのは初めてだけど。
まだ飛んでるみたいな、ふわふわした感覚だ。


「乗せてくれてありがとう、アルギュロス」

「早く戻ってきてね。待ってるよ」
アルギュロスは嬉しそうに頬を摺り寄せてきた。かわいいな。

それを見て、レオニダス王はびっくりしてる。

「随分と人懐こい飛竜だ。……いや、天使殿だから、か」
なんか一人で納得してる。


飛竜は気位が高い生物だから。
普通、こんな風に懐かないんだって。

アルギュロスは子供みたいな口調だけどなあ。
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