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奇跡的な出逢い

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「謝礼を受け取らない、か……、それは何となくわかる気がする。同じ日本人だからかな? 自分の発想じゃなく、教わって知ってたことで称賛されても、お金なんか受け取れないよ」

徳田さんはさっぱりした性格なんだな、と思った。
さすが浅草生まれだ。江戸っ子っぽい。


「”ニホンジン”というのは皆そうなのか? 謙虚なのだな。そのことを知る者はここでは他にいないだろうし、受け取っておけばいいものを」
そうやって割り切れればいいのかもしれないけど。

「昔から”お天道様に顔向けできない”って言葉もあるけど。俺は”ずるをする自分”になるのが嫌なんだよ」


そりゃ、文化レベル自体が違うんだ。
あっちでの常識なんて、こっちの人は知らないだろうし。

生活レベルが中世レベルっぽいこの世界に、いわば未来ともいえる、最先端の知識を教えたら、こっちも発展するだろう。

でもその知識は、先祖代々、昔の人達が頑張って研究して得たものだ。
それこそ血と涙の結晶みたいなものじゃないか。

それを横取りして自分の手柄にするなんてズルい真似はできない。


「俺の愛するツガイが 清々すがすがしく公明正大な性格で、とても誇らしい。俺は幸せだ」
ぎゅっと抱き締められた。
褒め過ぎだってば。

「俺は、この旅行で色々とゼノンの優しさを知ることが出来て、良かったと思うよ」
「スオウ……」

鼻を寄せられる。愛情表現がくすぐったい。
そのままキスされそうになって。


*****


「あっ、そういえば。他に猿人って呼ばれてる人っているの? 猿人は異世界人だったって可能性ない?」
ゼノンのキスから顔を避けた。

「……そう数は多くない。仙人……トクダは、耳の位置からして我々と違うだろう? 猿人と呼ばれているものの殆どは皮膚疾患だな」
あからさまに残念そうな顔して言った。


こっちじゃ毛皮ふさふさなのが自慢になるのかな。

耳の形が違う、地球人的な人は、たまに遺体になった状態で海辺へ流れ着いてくる時もあるけど。
生きてる”猿人”は滅多にいないらしい。


「一応、アナトリコでそれらしき者の姿を見たという噂もあるが……。あまり期待しない方がいいだろう」
アナトリコって、竜の国だっけ?

「うん。わかってる。もし同じ地球人だとしても、他の国の人だと言葉も通じないだろうしね」
「チキュウジン? それはニホンジンと違うのか?」


首を傾げてるゼノンに。
地球って言う丸い星に、いくつか大陸とか島があって。

日本というのはその中の小さな島国だと伝えた。

さらに47都道府県あって、徳田さんと同じ東京都民で。
その上東京には23区あって、わりと近い区に住んでいたと説明すると、納得したようだ。

八王子市とか区外の説明はいらないよね……。


「成程。この”星”には、国が77ある事は神によって知らされているが。この大陸に、国は5つしかない。周囲には、たくさんの国があるのだろうな……」

ゼノンは、他の地域に初めて興味を持ったようだ。
世界地図もないし、他にも国があるという噂だけだから、どうでもよかったとか。


残り72ヶ国か……。
それこそ動物神の数だけ国があったりして。

”猿人”はこことは違う大陸に流れてる可能性があるのか。

逆もあったりして。
人狼伝説とか、意外とこっちの世界から地球に流れてきた狼族だったり?


「そうか……。やっぱり、徳田さんと出逢えたのは、それこそ天文学的確率な奇跡みたいなもんだったんだね」
同じ世界、同じ国の同じ都市だなんて。

「俺とスオウの出逢いのほうが運命的で、途轍もない奇跡によるものだと思うが?」
拗ねたように言う。

妬いたみたいだ。
こういう所が可愛いと思う。


まあ、異世界に運命の相手を迎えに行っちゃうくらいだもんな。
奇跡というか、神様の導きな気がするけど。

徳田さんと話してる時、目がキラキラしてて、しっぽもぴんと立ってて。
可愛かったけど妬いた、と正直に言われてしまった。


ゼノンは本当に俺のことが大好きなんだなあ。


*****


不思議だ。

家族とも引き離されて。
知ってる人のいない世界に来たっていうのに。


もう、ここでの未来に不安を感じない。

それは、ゼノンがこうして揺るぎない愛情を示してくれるからだ。
一人でも心から信じられる相手がいるって、すごく幸せなことなんだと実感する。

まあ、王子様だから経済力がありそうっていうのもある。


……はっ。
そういえば、徳田さんは何で、俺が女装してることについてノーコメントだったんだろうか。

突っ込まれても説明に困っただろうけど。


太平洋戦争時代の軍人って、日本男児なら女々しい恰好をするな! とか言いそうなイメージだけど。
徳田さんは優しかったな。

異世界に来てから価値観が変わったのかも?
こっちじゃ魔法で、男でも子供が産めるそうだし。


「そういえば、男でも子供産めるって、どういう魔法なの?」
「……産みたいのか?」

「いや、絶対やだ。産むのは嫌。ただ、純粋な興味で、どういう感じなのか知りたいかなーって思っただけ!」
思わずぶんぶん首を横に振った。

ゼノンは、怖がらせたくなかったから、このことは教えたくなかったんだが、と前置きして。


まず魔法で盲腸の辺りに子宮を作って。
新しい内臓が馴染んでから睾丸を切除、男性器を変形させて膣を作るとか。

棒を入れて慣らす必要があるけど、そうすればちゃんと感度もある女性器になるって。

普通に怖いよ!
魔法で全部やるんじゃなく、本格的な性転換手術じゃないか。それ、完全に女の子の身体になっちゃうじゃん。


普通の性転換手術だと、子供までは出来ないけど。
魔法が加わると繁殖可能になるのか。

異世界こわい。


*****


「俺はありのままのスオウを愛している。だから子供はいらない」
頬を、愛おしそうに撫でられる。


うん。それはすごくありがたいと思う。
ゼノンがその気だったら、 あらがえないだろうし。

跡取りが欲しいからって、無理矢理性転換させられたら病みそう。
だったら子供産みたい女を選べよってなるもんな。

両親にも、俺との間には我が子だろうが入れたくないって言ってたくらいだし。
自分の子供にも嫉妬するほど好かれてて助かった、のかな……?


「ん、」

耳をはむはむと唇で挟むようにされて。
ゾクゾクする。

「可愛い、」
片方の手は俺の腰を引き寄せて。

もう片方の手で首とかこしょこしょくすぐられる。

「く、くすぐったいから、もう、」

馬車の中で悪戯するなっての。
全く。


……あ。
ちょうど横にいたタキと目が合った。

馬に乗ってるから、馬車と顔の位置があまり変わらないんだよな。
気まずそうに視線を逸らされてしまった……。

おかしなものを見せてごめんな……?


「ん? どうした?」
窓に視線をやってたのを、ゼノンの方を向かされた。

「タキに見られた……」
「ああ。護衛だからな。それがどうしたんだ?」

平然とした顔で。
何が問題なのか全く理解してないって感じだ。


この王子、羞恥心が存在しないのかよ!?
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