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コスプレ男に襲われる

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心地好く揺れる馬車。

いくら話しかけても全く言葉が通じないので、疲れたんじゃないかな。
いつの間にか、居眠りしちゃってたみたいだ。

しかも、ゼノンの膝枕で。
何か心地いいなと思ったら、優しく背中とか撫でられてた。


「うわ、」
思わず飛び起きると。

肩から毛布が掛けられていたのに気付いた。
馬車に常備してるのかな?

「ええと、ありがとう……」

落ちかけた毛布を引き上げて。
見上げて目が合うと、ゼノンはにっこり笑った。


うう、何なんだよこの状況。
何か恥ずかしいぞ。

あ、しっぽパタパタ振ってる。モーター式かな……?


*****


太陽の傾きからして、馬車に連れ込まれたのは正午くらいだったのに。
車窓から見える景色は、すっかり夕暮れになっていた。

夕陽に染まってオレンジ色の、延々と続く田園風景。


何時間寝てたんだろう。
さらわれたというのに、うっかり寝てしまうとか、油断し過ぎだ。

……ああ、文化祭……。

どうなったんだろ。
もう、とっくに終わっちゃっただろうな。

でも俺のせいじゃないし。
こいつにさらわれたせいだし。不可抗力だよな。


しかし。
やった、女装して劇やらずに済んでラッキー、とも言い難い状況だ。

そりゃ高校火事にならないかな、とか文化祭中止になれ、とは願ったけどさ。
こういう形で不参加になるとは全く予想外というか。

無理矢理拉致されたわけだし。
犯罪だぞ。


あの後、警察とか呼んだのかな?
不審なコスプレイヤーに攫われたって報告を受けただろう、親父も母さんも、心配してるだろうな。
姉ちゃんはどうだかわかんないけど。


馬車が停まって。
着いたのは、大きな城の前だった。

……城、だよな? この規模は。

石造りの大きな建築物。
テレビとかで見る西洋の城みたいだ。

建物の周りに張り巡らされた城壁。

これまた立派な門には兵隊っぽい人が二人いて、こっちに敬礼してる。
その人たちもやっぱりイヌミミ付きのコスプレイヤーだ。


今、何時代だったっけ……?
未だに中世みたいな暮らしをしてる人たちがいるんだなあ。


*****


「わ、」
毛布に包まれるみたいにされて、抱き上げられた。

頭にはまた、ベールを被せられてしまう。


その状態で、馬車から降りている。
長時間座ってて、しかも俺の膝枕までしてたのに。足、痺れてないのかな。

普通にスタスタ歩いてるけど。


重厚な石造りの城の中は、白い漆喰? で全面を塗られてて。
シンプルながら凝った内装で。世界文化遺産とかに指定されそうな感じだった。

廊下は黒い石……大理石とか御影石かな? で、金縁の赤い絨毯が敷かれていて。
それがずっと奥まで続いている。


ゼノンはこんな立派なお城に住んでるのか?

まさか、どっかの国の王子様とかだったとかしちゃったりなんかして。
ははは、そんな訳ないか。

……世界に王国って、いくつあったっけ?


舞台袖に入る辺りで気を失ったか薬を嗅がされたかなんかして。
その間にどっかの国に連れてかれた、とか?

一日かそこら経過してたなら、気が付いた時には外に出ていたのも理解できる。
あの白い塔はエレベーターとか、管制塔みたいなもんだったとか?

今のところ、スマホを持った人や電線とか自動車とか近代的なものが一切見られないのは。
そういう文明的なものを遮断してる、排他的な国だとか……?

考えてみれば、皆笑顔で花を巻いてたのも、何かの宗教っぽい。
俺、生贄に選ばれたとかじゃないだろうな?


劇の衣装だから、スマホとか何も持たずにこんなところ来ちゃったけど。
ちゃんと、探してもらえるのか?

いつになったら、家に帰れるんだ……?
それより、生きてここから帰れる保証も。命があるかもわかんない。


*****


『ご結婚おめでとうございます』
『お幸せに!』

使用人っぽい人たちが大勢出てきて並んで。
敬礼した後、一斉に声を掛けられる。

街で言われてたのと、多分同じ言葉だと思う。
何て言ってるんだろ。

よくわかんないけど。……ものすごく嫌な予感がする。


そういえば。
色々あって、うっかり忘れてたけど。

俺、舞台の上で。
こいつにがっつりキスされちゃったんだよな……。


跪いて、花を渡されて。

受け取ったらキスされて。
驚いている隙に抱き上げられて、気が付いたら外にいて。

白い壁の迷路みたいなところから出たら、花を撒かれて、頭にベール被せられて。
みんなから笑顔で、何かを祝福されてる感じで。


それから馬車で、たぶんこいつんちに連れてかれた状況って。

そうだとは、考えたくないけど。
思い違いだといいけど。


……まるで。
結婚の申し込みを受けて。

結婚式を挙げた後みたいな感じじゃないか?


*****


悪い予感は的中してしまったようだ。


ゼノンはまっすぐに寝室に向かっていた。……天蓋付きベッドなんて生まれて初めて見た。
とか感心してる場合じゃない。

ベッドに降ろされて。
逃げようとしたら、あっさり押し倒されてしまった。

『怖いのか? 大丈夫だ、優しくする。だから逃げるな』
ゼノンの美貌が間近に。

「お、俺、こんな格好してても、男だから! あんたの嫁にはなれないよ!?」

ゼノンの手を取って、股間に。
これで俺が男だとわかって、襲うのをやめるかと思ったら。


『積極的だな。触って欲しいのか? なら丹念に可愛がってやろう』
ふっ、と笑った。


嘘だろ。
どういうことだよ。

俺が男だってわかったってのに、この人メチャクチャいい笑顔なんですけど!?


「んむ、」
またキスされてしまった。

しかも、舌を捩じ込まれてる。

舞台でされたのが、初めてだったのに……!
二回目もこのイヌミミ男にされるとは。

いい加減、このふざけたイヌミミ外せよ。ムカつく。


……あれ? 
耳があるべき場所になくて。

このイヌミミ、頭から直に生えてない?
ってことは。

しっぽも?
ぶんぶん振ってるしっぽを捕まえて、掴んでみる。

もふもふ。
あったかいな……。

まさか、これ。


*****


『!?』
あ、根元のほうを握ったら痛そうな顔した。

感覚があるの!? 本物のしっぽなのか、これ!?


『悪戯っ子め』
ゼノンはにやりと笑った。

何だよ、その色気のある笑みは。
思わずドキッとしてしまったじゃないか。


『可愛い俺の花嫁。あまり煽るな。もう我慢の限界なんだ』
ごり、と太股に固いのが当たった。

これって。

俺が男だって、わかってるのに。
俺に欲情して、こんなになってるのかよ!?

「え、ちょ、無理。ダメだって、」
抵抗しようとしても、易々と押さえつけられてしまう。


嘘だろ。
このまま俺、犯されちゃうの!?
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