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45歳童貞、異世界へ行く

俺氏、真夜中に華麗に変身す。

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「それで、魔術師様のお名前は?」


神祇官に訊かれて、皇帝の笑顔が固まった。

あ。
そういえば、名乗りあってなかった。

俺にはステータス見えてるから名前とか身分がわかるけど。
これ、他の人には見えない仕様なのだろうか。

たぶん、『鑑定眼』ってやつだよな。


っていうか。
名乗れよあんたら!

黙って連れ去るとか、普通に人攫いじゃないか!


*****


「陛下……まさか、名乗りもせずに連れて来たのですか……?」
神祇官は呆れた眼差しで皇帝を見た。


皇帝は気まずそうに頭を掻いた。
耳は横に伏せている。

「興奮のあまり、名乗るのを忘れていたようだ。すまない。私の名は、」

「知ってる。ガイウス皇帝、オクタウィウス騎士長官、ルキウス神祇官」
順番に指を差して言う。

「おお……」
感心して。


何の魔法だろう、読心術? なんて話してる。

魔法じゃない。
単に、ステータスを見ただけだ。

他の人には見えてないようだ。これ、神様のサービスだろうか。
鑑定ってやつかな?


「俺は百目鬼要。百の目の鬼でどうめき。肝心要のかなめ」

漢字圏じゃない国で通じるかわからないが、
名前の説明は昔からこれと決めている。アドリブがきかないのだ。コミュ障なので。

ケントゥムオクルスラルウァ……?」
「雄々しいお名前ですね。鬼退治をされていた家系なのでしょうか」
知らんわ。


などと話していたら。
城門へ向かって、続々と兵士が戻ってくるのが見えた。

魔術師の捜索に出ていたっていう部隊かな?


何か妙に騒がしいなと思ったら、怪我人が数名出たらしい。
医者を呼んでくれ、とか言ってる。

なんでも、馬が突然上空に現れたドラゴンに驚いて。暴れてしまい、乗ってた騎士が落馬して骨折しちゃったとか。
痛そう。

それって、間接的に俺のせい……だよな。

何とかしてやりたい。
確か白魔法か神聖魔法に、治療系の魔法があったような気がする。


あ、あった。『癒しの風』。
これだ。

うぇんとぅすventusさーなーてぃーうすsānātīvus


兵士達に風が当たると。

「おお、擦り傷が消えた!」
「うおおお、骨折が治ってるぞ!?」

風が当たった兵士は、病気や怪我が治ったと喜んでいる。
虫歯や水虫まで治ったようだ。

凄いな魔法。


*****


「只今の『癒しの風』は、神よりお告げのあった魔術師様が、治療魔法を掛けてくださったのです」
神祇官が兵士達へ高らかに伝えると。

偉大なるマグナ魔術師マグスばんさーいイウベンティウム!」
皇帝陛下ばんざーいアベ・カエサル!!」

兵士達から声が上がった。
やたら人数が多いもんだから、歓声がもはや怒号に聞こえる。


軍団レギオの編成単位は、1個歩兵大隊コホルス=3個歩兵中隊マニプルス、1個歩兵中隊=2個百人隊ケントゥリア
1個百人隊=10個軍団兵コントゥベルニウム

軍団兵は十人隊長デクリオンによって統率される8人からなる最小単位だ。
で、1個歩兵大隊は6個百人隊から構成。

軍団の司令官である軍団長レギオニスを指揮する士官レギオーやらその副官、軍団長補佐する幕僚など。もう、物凄い人数になる。

騎兵は2百人強。
つまり、ひとつの軍団は6千人から1万人で編成されている。

帝政ローマでは軍団に通し番号を与えていて、それは帝国全土で50くらいあったので、帝国全体の総兵力は30万人~50万人だったと言われている。

さすがにそこまでの人数は居ないだろうけど、ざっと見たところ、2万人くらい兵がいるようだ。
百人隊長の被ってる兜には独特な羽飾りがついてるので、遠目でだいたいの人数の目星がつくわけだ。


偉大なるマグナ魔術師マグスばんさーいイウベンティウム!」
声はなかなか止まない。

あわわ。
だいたい俺は、人から注目されるのには慣れていないし。

体育会系の人たちこわい。


思わず、兵に手を振っている皇帝のマントの中に隠れた。
……だからしっぽモフモフするなっての。


*****


今は雨季じゃないので、城の井戸から水が出ないため、飲料水が少ない。
ゆえに、飲み物はワインかエールくらいしかありません、と言われた。

酒は嫌いなんだよな……。苦いし。
あんなの、何が良くて飲んでるんだろう。水がないから仕方なく?

ブドウジュースとか無いの? 犬はブドウ厳禁か? それとも半分ヒトだから大丈夫なのかな?
柑橘類系は余計喉が渇くからノーサンキューだ。キウイもちょっと……。


もう城門を閉めちゃったから、果物を仕入れるのは明日になるというので。
仕方ない。自力でどうにかするか。

「……井戸、どこ?」
「ん? 井戸に行きたいのか。だが水は枯れているぞ」

いいから、と井戸まで案内してもらって。


あくあaquaくらるすclarus

井戸いっぱい、あと飲料水用の樽に綺麗な水を発生させたら。
見ていた使用人たちが歓声を上げた。

いや、お礼はいいよ。
俺が飲みたくてやったんだし。

ああ、やっと水が飲める。


さっそく汲んだばかりの水をもらう。
冷たい水うまい。

後は何か食べ物作る系の魔法はないものか……。
って、そう都合よくはいかないか。


魔法は万能ではない。
いくら強大な魔法でも、使う人間の頭が鈍いと、咄嗟の時にその場に合った魔法なんて使えないだろうし。

うん。
俺みたいなやつね。


*****


「そのような大魔法を連発されて、大丈夫なのですか?」
神祇官が心配そうに言うが。

MP無限大なんだけど。

「平気。……あふ、」
あくびが出てしまった。

今、何時なんだろう。
夕方かな?

まだ外は暗くないのに。子供の身体だからか?
もう眠くなってしまった。


「ふふ、おねむの時間かな?」

頭を撫でるなっての。
余計眠くなる。

ひょい、と抱き上げられて。
「疲れたのだろう。少し眠るといい。起きた時、何か軽くつまめるものを用意させよう」


あたたかい腕と優しい声に、眠気を誘われて。
皇帝の腕の中、眠ってしまった。


「おやすみ、私の可愛い魔法使い」


*****


……お前のじゃねえよ!!


覚醒した。
眠気に負けて、うっかり寝てしまったが。

この皇帝、何で添い寝とかしてるんだ気持ち悪いな。と思うのは中身がオッサンだからだろうか。

子供相手なら、普通……かもしれないし。
いい加減、中身は見た目通りの子供じゃないんだと伝えるべきだろうか。

そういえば俺、まだ自分の顔を確認してないな。
と、見回すと。

壁に鏡がついてるのを発見。


布団を抜け出して。
あんげるすangelusあーらala

ぱたぱたと翼を動かして、鏡の前へ行く。


……おお。
これは。

真っ黒ツヤツヤの髪に、ぴょこんと生えている、もふもふの狐耳。
愛らしい顔。ふっくらほっぺ。

目は大きくて、くりくりしている。
そして、触り心地抜群なもふもふの大きなしっぽ。


滅茶苦茶可愛いじゃないか、俺!
まさに天使!

そりゃ女の子もキャーキャー言うし。
これは確かに思わずぎゅっと抱き締めたくなるほど可愛い。

でもな。
そうじゃないんだ。これじゃないんだよ。


第一、今の状態だと。
このまま、ペットみたいに皇帝に飼われそうだ。

どうしたもんか。


*****


よし、年齢操作の魔法があった。
これで青年の姿になっちゃえば、もうモフモフも添い寝もされないだろう。


おぺら-てぃおoperatioあえたすaetasゆべんとすjuventus


あ、飛ばなくても鏡が見えるくらいの身長になってる。

服は魔法使いのローブのままだが、ちゃんと身体に合っている。
サイズが自動調整されるのか。便利だな。


鏡で顔を確認してみると。

アーモンド型の大きな目は、少々釣り目気味だろうか。
すっきりと整った顔。細い眉、長い睫毛。

おお。
美青年じゃないか!

これなら女の子から普通にキャーキャー言われる容姿だ。
これだよ、これ!


でもって、女の子からキャーキャー言われてモテても、涙を呑んで振るのだ。

だって、偉大なる魔王である俺が魔法を使えなくなったら。
世の中の人たちが困るからな!
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