上 下
4 / 38
45歳童貞、異世界へ行く

俺氏、城に行ってドラゴン召喚す。

しおりを挟む
散々モフられて。
いい加減腹立ったので、げしげし蹴っていたら、やっと皇帝は正気に戻ったようだ。


「すまない、私は可愛いものに目がなくて、つい……」
頬を紅潮させて、咳払いをしている。

本気で蹴ってたのに、ノーダメージだし……。

「君は、どうしてここに?」
俺が座っていたのは、どうやらこの皇帝の領地の木だったようだが。

どうしても何も。
「気がついたら、その木の枝に座ってた」

うわ、舌ったらずなしゃべり方になってしまってる。
しかも、愛らしいボーイソプラノ。


「ああ、声も可愛い……!」
身悶えているが。

いくら可愛く見えても、中身は45歳のオッサンである。

女子高生に群がられる、中身オッサンの着ぐるみガワのようなものだろうか。
モテているのは自分じゃなくて、しょせんは。むなしい感じ。

そう、人はガワじゃない。中身なんだ。


生きていく上で、とても大事なことを教わった気がする。
神様ありがとう。


*****


「天から落っこちちゃったのかな?」
にこにこ笑いながら頭を撫でられている。

まあ、似たようなものか。
神様がいるのは天国だろうし。そこから来たのだから。


あんげるすangelusあーらala
背中に羽が生えて、飛べる呪文だ。

そうです、天使だったのです、ということで。

さっさと逃げよう。
このセクハラ皇帝、隙あらば撫でようとしてくるし。男に撫でられても微塵も嬉しくない。


ここ以外に、国はあるのかな?
次は、こういう変態が居ない国がいいな。

ぱたぱたと羽を動かして、飛んで逃げようとしたら。


「ちょ、ちょっと待った!」

「キャイン!?」
犬みたいな声が出た。

しっぽを掴まれたのだ。


魔法が解けて、再び皇帝の腕に落ちた。
そして、逃がさないとばかりに抱き締められた。

思わず涙目で睨んだ。

「し、しっぽ引っ張るな!」
しっぽ、じんじんする。

「す、すまない、痛かったのだな、ごめん。いや、実はお告げがあって、魔術師を探していたところだったんだ」


*****


神様のお告げで、この国に異界から魔術師が召喚されるというので。皆で手分けして、領地中を捜索していたところだったらしい。
魔術師は国で雇い入れ、大切にするように、というお告げだそうだ。

アフターケアも万全とは。神様優しい……。


でも、この皇帝のとこは何かイヤです。
しっぽ掴むし。

ああ、HPが7になってる……。
ダメージ食らってるじゃないか。全くもう。

撫でても治らないし。尻を撫でるのやめろ。


「まさか、こんな可愛らしい魔術師とは……」

てっきり迷子かと思った、と言われた。
ある意味迷子みたいなものだけど。


……いつまで尻を撫でてる。

ぺしぺし手を叩いてたら、やっとやめてくれた。
でも、俺を腕に抱いたままで、離してくれる気配がない。手を離したら飛んで逃げると思われたからだろう。それは正解だ。


皇帝は騎士に合図して。騎士は花火のようなものを打ち上げた。
煙の色は赤だ。信号弾か?

「狐人の子には何を食べさせれば良いのだろう?」
皇帝は騎士に訊いた。
「我々犬人と同じモノでいいのでは?」


え?
俺、キツネだったのか。

そういえば、しっぽの形が犬とは少し違うような気がしていた。

触ってみたら、すべすべもっふもふで気持ちいい。
これなら触りたくなる気持ちもわからないでもないかな……。でも触る前に意志を確認して欲しい。


などと考えている間に、城へ連れて行かれてしまった。


*****


城に行く途中。
通り掛かる皇帝一行を見た女の人たちが、きゃあきゃあ大騒ぎしていた。

半分は、俺を抱っこしている皇帝へのラブコールだった。美青年だもんな。それも皇帝。
そりゃモッテモテだ。


ああ、むなしい……。

俺に向けられるキャーと皇帝に向けられるキャーの違いがわかっているからだ。
俺が欲しかったのは、そっちのキャーだった筈だが。

そっちも、もうどうでもよくなってきた。

モテたとしても、こんな幼児体型じゃ何も出来ないし。
子供の無邪気を装って女の子の胸とか触りたいとも思わない。

そんな勇気があったらとっくに童貞捨てられてる。


城下町の町並みは石造りで、何となく地中海っぽい雰囲気がする。

日本とは空気が違う。
じめっとしてないで、さらっとした空気というのか。

空は目が痛くなるくらい青い。
東京ではこんな空、正月か夏休みで人が少ない時期くらいにしか見られなかったな。それでも、ここまで青くなかったか。

キツネも犬の仲間でいいんだよな?
確か犬って色盲だとか聞いたが、ちゃんと色は判別できる。半分は人だからだろうか。


街には店があって、果物とか花とか売ってる。
お菓子屋もあるようだ。

通貨の値段設定を確かめたいけど。どうすればいいのやら。


こんな時、コミュ障な自分が嫌になる。
何て言ったらいいのかわからない。

可愛くおねだりとか、絶対無理だ。
あわあわしている間に商店街っぽい道を通り過ぎてしまった。


この世界、文明レベルはどのくらいなんだろう?

皇帝と騎士は腰に剣を携えてるけど、儀礼用かもしれないし。
魔法がある世界だ。

神様のお告げで一国の皇帝が動くくらいだからな。
現代日本とは常識が違ったりするかも。

この世界のルールとかもわからないし、しばらく様子見するしかないか。


*****


お城は、石造りの立派なものだった。
文明は中世レベルかな?


城門に入ると。

「おお、お待ちしておりました!」
トーガを頭から被った美形の男が駆け寄ってきた。

トーガはギリシャ彫刻でよく見る、布を巻いたっぽい、あの服だ。

報せの信号弾を見て、いてもたってもいられず、つい飛び出して来てしまいました、と言っている。


ええと、ルキウス・ウァレリウス・メッサラ・カリストゥス。

神祇官ポンティフェクス。神官レベル100。
え、100がMAXじゃないのか?

おお、添え名が”Callistus”。『最も美しい人』だけあって、眩しいほどの美形だ。

巻き毛の金髪に、碧の目。
天使のような美しさ、とはこういう顔の事なんだろうな。

この人が、神様からのお告げを受信した神官長か。

しかし若いな。
偉い人ってジジイばっかなイメージだけど。


神祇官は、輝く笑顔で。
「陛下、お告げの魔術師様はどちらに?」

こちらにいるが。
どうやら俺は彼の視界に入っていないようだ。

「ひゃ、」
「ここだ、ここ。可愛いだろう!」
皇帝は俺の両脇を持って、神祇官の目の前に出した。

モノみたいに持つな。
しっぽで皇帝の手をビシバシ叩いても、喜ぶだけだった。


「え、そのちびっこが……魔術師……? まだ見習いなのでは?」
あ、鼻で笑ったな?


よくも馬鹿にしたな。
目にもの見せてくれるわ! などと魔王っぽいこと考えたり。


何か、あっと驚くような魔法は……、あ、これだ。召喚魔術。派手そう。


*****


いんぶぉかーれinvocareまぎかmagicaどらこdoraco


「…………えっ?」
「今の呪文は……、」

辺り一帯が陰って。
城の上に、馬鹿でかいドラゴンが現れた。


城よりでかいので、降りられないようだ。
上空を旋回している。

ばっさばっさと羽ばたく度に、ぶわあ、と風が巻き起こる。


「ドラゴンを……召喚……? 召喚魔術で、まさか、これほどのものを召喚するのが可能とは……」

神祇官は、あんぐりと口を開けて驚愕している。
美形が台無しだぞ。


「た、大変失礼致しました!!」
最敬礼した。

素直に謝ることができるって偉いな。
その潔さが羨ましい。


よし、許そう。
ええと、退去の呪文は、……これか。

あびーてabīte
ありがとうドラゴン、さよならー。

ドラゴンが消えて。
再び、青空が見える。


「ふふふ、凄いだろう! 先程は、天使の羽を生やしてぱたぱた飛んだのだぞ! その姿は愛らしい天使そのものだったぞ!」
皇帝が俺の脇を持ったまま、何故か自慢げに言った。

天使の羽アンゲルスアーラ、ですか? それは凄い。上級どころじゃなく、特級魔術師じゃないですか!?」
神祇官は興奮で色白の頬を紅潮させた。


上級? 特級?
凄い魔法使い=魔王じゃないのか……。

魔法の王様でいいじゃん。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
「パパと結婚する!」  8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!  拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 挿絵★あり 【完結】2021/12/02 ※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過 ※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過 ※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位 ※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品 ※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24) ※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品 ※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品 ※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

処理中です...