上 下
60 / 61
おまけ:赤竜王の思い出

ツガイのアルバム

しおりを挟む
「重そうだ。貸して、持つよ」
朔也が自分の部屋から持って来た荷物を渡してもらう。

「……けっこう重いよ?」

私にとってはそう重くないのだが。
ずいぶんと、沢山の本だ。


「これは?」

「教科書とレシピと青峰さんにあげる本と、アルバム」
宝物だと云う。

赤ん坊の朔也。
子供の朔也。

そのほとんどが、病院での写真だという。

桜の写ってる写真があった。
「入学式、家族全員で撮った写真。次の日、熱出して寝込んじゃってさ」

最近までの写真が、所狭しと貼ってあった。


「子供の頃から可愛い」

朔也は病室での写真を開いて見せ。
写っている子供を指差した。

「ここに写ってる子、もういないんだ」
それは。


一人、また一人と。友が”いなくなる”のが怖くて。
いつしか友を作るのをやめたという。

自分も、いつ”いなくなる”かわからなかったから。


手術が成功し、大学へ行っても、その癖は抜けず。
朔也のことをサクヤン、と呼んでいたあの男の名も覚えてないと。


ああ、朔也の儚さは。
そういうところから来ていたのか。

いつ自分が消えても、誰も悲しまないようにと。


「それで、いいんだ」
朔也は、自分に言い聞かせるように呟いた。

桜のように、儚い笑みで。


*****


夏国に戻り、荷物を置く。

朔也は、眩暈を起こしたようだ。
少々顔色が悪い。

まだ、余裕はあると思ったのだが。
龍玉を取り込んで、日が浅かったせいだろうか?

「朔也、」
抱き締めて、龍気を与える。


「あ、……楽になってきた」
朔也は私を見上げ、微笑んだ。

「ツガイに抱き締められて回復するなんて、便利な身体だな?」


何という事だろう。
私の方が元気を与えられてしまった。


朔也は知らないようなので、龍気や龍の精の話をした。
望殿とは、そのような話はしないのだろうか?

龍の精は、万病の薬にもなり、若さを保つ。
そのため、龍の男の精を欲す女も多い。

しかし、不老長寿目当ての人間にも狙われる。
故に、弱い個体には絶対に地上には降りないよう教育する。

朔也も、まだ龍になったばかりである。一人で絶対に降りないよう、気をつけねば。


自分が瀕死だった時も、それで回復するのか疑問を持ったようだが。

さすがにあの状態では抱くのは不可能だっただろう。
下半身が潰されていたのだから。


そして、異世界の人間がここに長期間滞在するには龍気が必要で。

相手に受け入れる気が無ければ、取り入れるのは困難だと説明した。
朔也は今、龍玉があるので大丈夫だが。


先程のは、異世界の穢れた空気に曝され、弱っていたので。
龍気を与え、回復を促したのだと云った。


*****


「最初、ここに朔也を連れて来た時に、龍気を与えてみたらすんなり受け入れたから。すっかりツガイとして認められたとばかり思ってた」

「いや、言えよ。異世界人の俺にそんな知識はないから」
怒られてしまった。

云われてみれば、そうだった。


望殿が陛下に騙された話をした。
精にも龍気は豊富なので、精でないといけない、と教え込んだと。

そういう先人の失敗を見ていたので、結婚式までは色々我慢していた。
とても我慢した。

褒めて欲しいくらいである。

今だって。
抱きたくて、たまらないのだ。


「……いい?」

朔也の細い身体を抱き締めながらねだると。
頬を染めて、こくりと頷いてくれた。


陽光が差し込むのが、気になるようだ。
服を脱がすと、恥ずかしそうに胸に顔を埋め、隠そうとしている。

まだ明るいうちに、このような淫らな行為をするのは気が咎めるようで。
新婚なのだから、一日中盛っても仕方がないと思うのだが。

私はここから動きたくない。
窓の覆いを降ろすよう、使用人に命じれば良いのだろうが。

朔也のこんな愛らしい姿は誰にも見せたくない。


試しに、覆いを降ろすよう、使用人に命じようかと問うと。
いやいやと首を横に振ってしがみついてくる。

何度か身体を重ねているのにも関わらず、このような初心な反応をされ、どうしようもなく昂ってしまう。


*****


一刻も早く、朔也に入りたいが。

焦ってはいけない。
繊細な蕾は、傷付きやすいのだ。

香油を手に取り、慣らしていく。


「……そういえば、龍玉に願えば、ここ、濡れるようになるらしいよ」

「う、嘘だろ? 男がそんな、……んっ、馬鹿、指動かすなって、」
ここ、と中で指を動かし示すと。

びくりと反応して、可愛い。


普通の人間が、龍姿になるくらいである。
願えばその程度のことは可能だろう。

陛下に、わたしのツガイはそこまでわたしを欲しがってくれたのだ、と散々自慢された。
正直、羨ましかった。


朔也は厳しい顔をして。
「陛下に忠告しといた方がいい。ベッドでのことを他人に言うのはマナー違反だから、嫌われるぞって」

「え、そうなの……!?」

皆、わりとそういう話は聞くのも話すのも大好きなのだが。

人間は、そんなに性について隠さなければいけないものなのか。
慎ましい者ばかりなのだろうか。


「そうだよ。俺も聞かなかったことにしとくから、口止めしといた方がいいぞ」
「わかった……、」

私も可愛いツガイを自慢したかったのに。残念だが、朔也がそう云うなら。諦めよう。
可愛いツガイに嫌われたくはない。


「いいから続き、」
朔也は、私の背に手を回し、頬に口付けた。


照れ屋なツガイの、愛らしい催促に。
思わず頬が緩んでしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】そろそろ浮気夫に見切りをつけさせていただきます

ユユ
恋愛
夫の浮気癖は承知している。 それは婚姻前からだった。 政略結婚だから我慢せざるを得なかった。 だけど婚姻して20年。 我慢しなくていいだろうと判断した。 だって、あんなことを言われたらねぇ。 * 作り話です。 * 5万文字未満です。 * 暇つぶしにどうぞ。

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

信じない信じたくない信じられない

真城詩
BL
短編小説です。

完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!

音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。 頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。 都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。 「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」 断末魔に涙した彼女は……

ヒーローは洗脳されました

桜羽根ねね
BL
悪の組織ブレイウォーシュと戦う、ヒーロー戦隊インクリネイト。 殺生を好まないヒーローは、これまで数々のヴィランを撃退してきた。だが、とある戦いの中でヒーロー全員が連れ去られてしまう。果たして彼等の行く末は──。 洗脳という名前を借りた、らぶざまエロコメです♡悲壮感ゼロ、モブレゼロなハッピーストーリー。 何でも美味しく食べる方向けです!

異世界でおまけの兄さん自立を目指す

松沢ナツオ
BL
【お知らせ】 都合により、本編完結後の第二部、「おまけだった兄さん〜」を非表示にさせていただきました。 本編完結済み。 某大手デパート社員の湊潤也は、契約の為空港に向かう途中に神子召喚に巻き込まれた。 神子の彼曰く、BLゲームの中らしい。俺には関係ないけど! その上、最初にキレまくったせいで危険人物扱いされるし扱いも酷い。 それでも前向きに生きようと、経験を生かし自立をするぞ!と頑張る奮闘記。 主人公がたまに歌う場面がありますが、歌詞を書く予定はありません。読みながら脳内に再生された歌で補完をお願いします。 作中、予告なく男性妊娠の表現あり。現在作中では出産していません。 新章ではあります。 暴力表現も出て来ます。苦手な方は回避を御願いします。 改稿しておりますので、表現が違う箇所は緩くお読みいただけると助かります。 ifストーリーを番外編として分けて掲載しています。そちらもよろしくお願いします。

ゾンビBL小説の世界に転生した俺が、脇役に愛され過保護される話。【注、怖くないよ】

いんげん
BL
「ゾンビBL小説の世界」に、転生してしまった主人公。 死ぬ運命の脇役グループ救済するのかと思いきや おっさんを惑わせたり 年下クール相手に性教育したり 小説の主人公に過保護されたり。 総愛されみたいになっている話です。 ゾンビ世界なのに、割と平和な感じで暮らしています。ゆるっと読める小説を目指してます。 基本は、主人公受け視点。主人公は、華奢な可愛い系(転生前は平凡)アホの子かも。 攻めは、強面おっさん、クールな二十歳、超絶美形の三人ですが、一棒一穴。挿入は一人にします。

旦那様と楽しい子作り♡

山海 光
BL
人と妖が共に暮らす世界。 主人公、嫋(たお)は生贄のような形で妖と結婚することになった。 相手は妖たちを纏める立場であり、子を産むことが望まれる。 しかし嫋は男であり、子を産むことなどできない。 妖と親しくなる中でそれを明かしたところ、「一時的に女になる仙薬がある」と言われ、流れるままに彼との子供を作ってしまう。 (長編として投稿することにしました!「大鷲婚姻譚」とかそれっぽいタイトルで投稿します) ─── やおい!(やまなし、おちなし、いみなし) 注意⚠️ ♡喘ぎ、濁点喘ぎ 受け(男)がTSした体(女体)で行うセックス 孕ませ 軽度の淫語 子宮姦 塗れ場9.8割 試験的にpixiv、ムーンライトノベルズにも掲載してます。

処理中です...