上 下
39 / 61
登山していたら赤龍王のツガイにされました。

皇宮にて

しおりを挟む
「青峰、朱赫。そんなところで何してるの?」


日本語!?
はっきりとしたが聞こえた。

二人の言葉は、どこかエコーが掛かったように聞こえるが。今のはクリアな音だった。

『望殿。俺にもようやくツガイが見つかったんだ。望殿と同じ、異世界人だよ。……朔也』
さっき初めて名前聞いた癖に、前から知ってたみたいに呼ぶな。


望殿と呼ばれたのは、これまた美少年だった。

黒い髪に大きな黒い目。ちっちゃくて可愛らしい。男だけど、庇護欲を掻き立てるタイプというか。
この子も異世界人なのか? と思ったけど。

深町ふかまち のぞみだよ。よろしく」
ぺこりと頭を下げられた。

ああ、これは間違いなく日本人だ。
何か安心する。


*****


望ちゃんは地味な深衣を着ているが。
良く見れば裾や袖に、見事な銀の龍が刺繍してある。

そういえば、青峰さんの服にも緑の龍の刺繍が入ってるな。こちらは手縫いっぽいけど。

『ああ、望殿の作品と比べないでください。拙くて、お恥ずかしい……』
俺の視線に気付いて。

青峰さんは恥ずかしそうに、望ちゃんの後ろに隠れた。
背がでかいから隠せてないが。


あれ、自分で刺繍したのか。
望ちゃんの服の刺繍、プロの商品じゃなかったんだ。凄いな。

服の模様、皇帝は龍、皇后は鳳凰、文官は鳥、 武官は四本脚の獣だったりするけど。
ここは異世界だから、そういう階級とか関係ないのか?


「そういや朱赫の家の布団も、赤い龍の刺繍してあったっけ。あれもお手製だったり?」

布団がふかふかだったのも、望ちゃんによりふかふか布団文化が輸入されたからだったりして。
枕もクッションみたいだったし。

『うん、俺が作って刺繍したものだよ』
全部お手製かよ!

「マジか。上手いな……」
俺は不器用なので、ああいうのは無理だ。

『そうかな? ありがとう』
朱赫は笑顔だ。

何でさっきからそんなにご機嫌なんだ、あんた。


望ちゃんは、頬を染めている。
はっ。
朱赫の家の布団の話なんかしたから。ヤったって誤解したのだろうか?


違います、誤解です!!


*****


『皆、このような所で立ち話などして、どうした?』

『陛下』
「あ、雷音」


雄のフェロモン駄々洩れな美声の持ち主は、これまたゴージャスな男前で。
何と、皇帝陛下だった。

ホァン 雷音レイン陛下は望ちゃんのツガイで。
金色の龍なんだそうだ。

へえー。金龍か。ゴージャスな龍だな。最強のゴッドドラゴンって感じ?

金色の髪に、金色の目。浅黒い肌の、男らしいイケメンだ。
何なんだよこの世界、イケメンパラダイスか。しかもみんな背が高い。


しかし、望ちゃんとこの人だと、あまりにも犯罪的な体格差じゃないか?
いや、具体的に想像はしないが。

まあ、ツガイといっても、手を出してなければセーフか。


朱赫は陛下にも、同じような説明をして。

『それはめでたい。元白たちも、先を越されたとさぞ悔しがるだろうが。式は、ここの式殿を使えばよい』
『ありがたき幸せです』
朱赫は拝礼して。

おめでとう、とかみんなに言われているが。

……ちょっと待って欲しい。

何か、俺と朱赫が結婚式を挙げる流れになってるような気がするんだが。
俺の意志も聞かずに。


*****


「あの、あっちの家族とか、大丈夫? 俺は向こうには家族もいないし、未練もないからいいけど……」

望ちゃんが俺の傍に寄ってきて。
伺うように尋ねてきた。


ああ、やっとまともな感性の人がいた! 神様ありがとう!

感動のあまり、抱きつきたいけど。
我慢する。

皇帝陛下のツガイに気安く触れる訳にはいかないだろう。


「大丈夫も何も、俺、酸欠で気を失ってる間に異世界に連れて来られて、訳がわからない内にここに来たんだけど……」
酸欠の理由は言えない。

「ええっ!?」
飛び上がらんばかりに驚いていた。

だよねー。
びっくりだよな。


「相手の意志も確認せず異世界に連れてきたらダメだから!」

『返す言葉もありません……』
朱赫は、望ちゃんから叱られて、しょげている。

『いくらツガイであろうと、意志の確認もなく連れて来てはいかんだろう』

陛下からも怒られてやんの。
ははは。

……そんなしょげるなよ。かわいそうになってきた。

「…………」
望ちゃんは、お前が言うな、みたいな顔で雷音陛下を見ていた。


ああ、こっちもそんな感じだったのか。

陛下はその視線に気付いて、あわあわしている。
おお、どう見ても尻に敷かれている……。


*****


「とにかく俺はまだ学生の身だし。卒業するまでは結婚は出来ないよ。授業料が無駄になるし」


俺の発言に、皆、首を傾げた。

『卒業すれば、してくれるのかな?』
朱赫に訊かれて。

ん?
そういえば。絶対嫌だ、とは思わないな。

キスされても、気持ち悪くはなかった。
息が出来なかったけど。


運命のツガイ、というやつだからだろうか?
何で説明しないんだ、とか本人の意思を確認しないんだ、ってムカついたけど。

ま、いいか。


「いいよ。卒業したらな」
朱赫はやったー、と大喜びして。

よかったですね、と青峰さんに言われてる。
何か、ここの人って、みんないい人たちっぽいな。


「え、いいの!?」
望ちゃんは驚いている。

「とりあえずやりたいことはやったし、いいかな、と」

入りたかった大学には入った。
登りたかった山にも登れた。
見るべき程の事は全て見つ、みたいな感じだろうか、と言うと。

「人生諦めた人みたいなこと言ってる!」

おお、平家物語が通じたか。
見た目より子供じゃないのか?


「うーん、俺さ。心臓が悪くて、高校の時に成功率3割くらいの手術して健康体になったんだ。だから今の人生、ボーナスステージみたいな感じなんだよな。余生っていうか」
「いやいやいや、よく考えようよ。永遠のパートナーだよ!?」

何でそんなによく考えろ、と言うのかと思ったら。


龍の王族と結婚すると。
相手が死なない限り、ほぼ永遠の時を生きることになるらしい。

自分は二十歳の時に結婚したけど、結婚するまではかなり悩んだって。

マジかよ。
望ちゃん、そんな高校生みたいな顔して二十歳過ぎなのかよ! ……じゃなくて。


不老不死とか、それ何て中二病?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

腐男子ですが、お気に入りのBL小説に転移してしまいました

くるむ
BL
芹沢真紀(せりざわまさき)は、大の読書好き(ただし読むのはBLのみ)。 特にお気に入りなのは、『男なのに彼氏が出来ました』だ。 毎日毎日それを舐めるように読み、そして必ず寝る前には自分もその小説の中に入り込み妄想を繰り広げるのが日課だった。 そんなある日、朝目覚めたら世界は一変していて……。 無自覚な腐男子が、小説内一番のイケてる男子に溺愛されるお話し♡

絶滅危惧種の俺様王子に婚約を突きつけられた小物ですが

古森きり
BL
前世、腐男子サラリーマンである俺、ホノカ・ルトソーは”女は王族だけ”という特殊な異世界『ゼブンス・デェ・フェ』に転生した。 女と結婚し、女と子どもを残せるのは伯爵家以上の男だけ。 平民と伯爵家以下の男は、同家格の男と結婚してうなじを噛まれた側が子宮を体内で生成して子どもを産むように進化する。 そんな常識を聞いた時は「は?」と宇宙猫になった。 いや、だって、そんなことある? あぶれたモブの運命が過酷すぎん? ――言いたいことはたくさんあるが、どうせモブなので流れに身を任せようと思っていたところ王女殿下の誕生日お披露目パーティーで第二王子エルン殿下にキスされてしまい――! BLoveさん、カクヨム、アルファポリス、小説家になろうに掲載。

【R18】満たされぬ俺の番はイケメン獣人だった

佐伯亜美
BL
 この世界は獣人と人間が共生している。  それ以外は現実と大きな違いがない世界の片隅で起きたラブストーリー。  その見た目から女性に不自由することのない人生を歩んできた俺は、今日も満たされぬ心を埋めようと行きずりの恋に身を投じていた。  その帰り道、今月から部下となったイケメン狼族のシモンと出会う。 「なんで……嘘つくんですか?」  今まで誰にも話したことの無い俺の秘密を見透かしたように言うシモンと、俺は身体を重ねることになった。

【完結】寝る前に自家発電して下半身丸出しのまま眠ってしまった俺が、朝起こしに来た幼なじみに美味しく頂かれてしまう話

ルコ
BL
 「ん、んんっ?んあぁぁぁっ??!」 俺、須藤 芽生(すどう めい)16歳。 朝、目が覚めたらなにやら下半身(局部)が湿った温かい何かに包まれていて、しかも時折絡み付くように吸引されている? ん~尋常じゃないほど気持ちいい・・・も、もしや、俺、フェラチオされちゃってる?!えっ、えっ??夢にまで見たフェラ初体験中??! う~む、あり得ない。ならこれはやっぱり夢か?夢だよな??夢にまで見ちゃってるんだよ。て事は俺の欲望が反映されているはずで・・・なら、今俺のモノを咥えているのは、昨日寝る前に自家発電のおかずにしたエロ動画「せーえきごっくん♡まりあちゃん♡♡」のまりあちゃんだろ?!あぁ・・・まりあちゃんが俺のを・・・  そう思って目を開けると、俺のチンコを咥えていたのは幼なじみの瀬名 樹(せな いつき)だった。 ーーーーーーーーー  タイトルそのまんまです! R18には*を付けます。て、ほぼ付いてますねw 三万字くらいの短編です(番外編を入れると四万字くらい?)。勢いだけで書きました。

童顔商人は聖騎士に見初められる

彩月野生
BL
美形騎士に捕まったお調子者の商人は誤って媚薬を飲んでしまい、騎士の巨根に翻弄される。

騎士さま、むっつりユニコーンに襲われる

雲丹はち
BL
ユニコーンの角を採取しにいったらゴブリンに襲われかけ、むっつりすけべなユニコーンに処女を奪われてしまう騎士団長のお話。

グッバイシンデレラ

かかし
BL
毎週水曜日に二次創作でワンドロライ主催してるんですが、その時間になるまでどこまで書けるかと挑戦したかった+自分が読みたい浮気攻めを書きたくてムラムラしたのでお菓子ムシャムシャしながら書いた作品です。 美形×平凡意識 浮気攻めというよりヤンデレめいてしまった

処理中です...