37 / 61
登山していたら赤龍王のツガイにされました。
クライミング・ハイ
しおりを挟む
絶景かな、絶景かな。
空気も澄んでるし、天気もいい。雲一つない、絶好の登山日和だ。
そして、さすが上級者コース。誰も居ない。
この辺で遭難したら、ひっそりと白骨になって、いつまでも発見されなかったりして。……なんて、縁起でもねえ。
さて。
この先に待ち受けているのは、この山の超難関コースといわれる、龍のあぎとだ。
岩が口を空けた龍の頭に見えるというのもあるが。
丁度、口のように見える窪みに風が吹き込むと、まるで怪物の鳴き声のように聞こえるからそう名付けられた、とか登山口にいわれが書いてあった。
大岩の間から強い横風が吹きつける中、頼りない鎖が渡してあるだけの細い足場を、岩に添って歩かねばならない。
足場の下は、急斜面のほぼ崖。さすが修験道に使われていただけある難所だ。
俄然燃えてくる。
*****
オオオ、と鳴き声のような音。
風の音だと知らなければ、昔の人とかは怪物の鳴き声かと思って怖がるだろうな。
「ひゃ、」
うっかり足元を見てしまい、ヒヤッとする。
ここから落ちたら、間違いなくお陀仏だ。
風も強いし、気をつけないと。
もう少し先の足場なら、比較的傾斜が緩やかなんだが。
ここだけ、崖のように切り立っている。だからこそ、一番の難所なんだけど。
鎖を渡す前は、もっと怖かったんだろうな。つけた人、凄い。
この山は険しいことで有名なだけあって、天狗伝説もあり、修験者の姿をよく見る、という話だ。
しかし、登っていく姿は誰も見たことがないという。ミステリーだ。
本物の天狗だったりして。
そういえば、下の神社には天狗のストラップが売ってたっけ。
帰りにでも買えたら、兄達のお土産にでもしようか。赤と緑の、可愛いカラス天狗だった。
「……ふう、」
やっと、広めの足場へ出た。
緊張したけど、それほど息は乱れていない。鍛えた甲斐があったなあ。
……あれ?
坂の途中に、何か光るものが。
あれ、ピッケルじゃないか? 何でこんな所に。
誰かの忘れ物か?
と、覗き込んでいたら。
『早まるんじゃない!』
突然、後ろから、リュックごと何者かに抱き締められた。
「うわあ!?」
足、足、浮いてる!?
こわっ!
*****
俺は、背後から謎の人物によって持ち上げられていたのだ。
20kg以上ある、装備ごと。
そのままバックブリーカーかまされるかと思った。
嘘だろ。
俺の体重とあわせて、合計100kg近くあるんだぞ!?
何だこいつ、もの凄い力だ。
『死ぬにはまだ早いぞ。生きていればきっと、いいことがあるから!』
は? 何だって?
俺、飛び降りと勘違いされたのか? こんな緩やかな傾斜の場所で?
アホか!
どうせするなら龍のあぎとのとこでするわ! しないけど!
「ち、違う、俺はただ、そこの落し物を見ようとしただけだ!!」
『……え?』
抱き上げられたまま、くるりと半回転して。
そいつは、坂の下を見たようだ。
『あ、本当だ。鎌みたいのが落ちてる』
ピッケルだよ。
そっと、地面に降ろされる。
地面に足が着いて、一安心する。
「ああ、びっくりした……」
まだ、心臓がバクバクいってる。
丈夫な身体になってよかったとしみじみと思った。
『すまなかった。とんだ勘違いをして、迷惑をかけたようだね』
頭を下げて。
顔を上げた男は。
やたら背の高い、物凄い美形だった。
*****
見れば、その男はまるで古代中国の文官のような格好をしていた。
文官にしてはカラーリングがやたら派手だが。
赤と黒の胡服で。袖や襟には手の込んだ金の刺繍が入っている。布地もシルクっぽいし。
コスプレや舞台衣装にしては高級そうだ。
鮮やかな赤い髪は上の方で結い上げ、金の簪で留めてあった。
手荷物は一切持ってない。
靴も、平べったい底のようだ。
目は、不思議な色をしている。紫紺、というんだっけ?
カラーコンタクトだろうか?
まさか、こんな格好で、登山したのか? ここまで? 逆ルートから来たにしても相当だぞ? 岩場を歩けるような靴じゃねえだろ。
クレイジーなコスプレイヤーだな。
「まったく。考えてもみろよ。こんな重装備で、わざわざこんな難所へ登山してまで自殺するような奇特なやつが、この世にいるわけないだろ?」
俺が言うと。
男は、微妙な顔をした。
まるで、そういうやつが、実際に居たみたいな。
……居たのかよ。
マジかよ、何の目的で!?
男は悲愴な顔をして。
『その方は、人生に絶望して。飛び降りなどは他人に迷惑がかかるので、誰にも発見されずにひっそりと死体になるため、自殺と見咎められぬよう、登山の装備を整えたと……』
おいおい、随分気合の入った自殺志願者だな。
「そ、そうか。まあ気を落とすな。俺は死ぬ気はないし、安心しろよ」
励ますように肩を叩いたら。
『あ、その方は現在とても幸せに暮らしてるし、ちゃんと生きてるよ』
ちゃんと生きてるのかよ!
紛らわしいわ!!
*****
……ん?
何かこの男、やたらいい匂いがするような気がする。
男も、不思議そうに首を傾げて。
『ちょっといいかな?』
俺の耳元の匂いを嗅いでる。
この人、なんか動物みたいだな。
邪気がないっていうか。
ああ、やっぱりいい匂いがする。
何ともたとえがたいけど、昂揚するような。
『とても、良い匂いがする。香水ではないようだけど……』
俺は、香水なんかつけてない。
むしろ登山で汗くさいくらいじゃないか?
「え、あんたもか?」
目が合った。
……あれ? これ、カラコンじゃねえな。
髪も、生え際を見る限り、染めたわけじゃなさそうな……。生まれつき、こんな派手な赤毛ってありえるのか?
眉と睫毛の色は、濃い赤だ。
綺麗だな。
思わず無言で見惚れてしまうほど。
……ん? 顔、近くね? うわ、近い近い!
*****
「っ!?」
気付けば。
がっしりと抱き締められて、キスをされているという状況だった。
何でだ。
どうしてこうなった?
しかも、すごい怪力だから、動けない。
「んうう、……んー、」
ぬるり、と舌先が唇を割り、侵入してくる。
ベロチューとか、女の子ともしたことがなかったのに! 何でさっき会ったばかりの男に、キスされてんだよ!?
俺のファーストキスを返せ!
などと、がっつり口を塞がれていては言えるわけもなく。
酸素。
酸素が足りない……。
ただでさえ、ここは地上より空気が薄いのに。
男の腕の中。
意識が遠のいていった。
空気も澄んでるし、天気もいい。雲一つない、絶好の登山日和だ。
そして、さすが上級者コース。誰も居ない。
この辺で遭難したら、ひっそりと白骨になって、いつまでも発見されなかったりして。……なんて、縁起でもねえ。
さて。
この先に待ち受けているのは、この山の超難関コースといわれる、龍のあぎとだ。
岩が口を空けた龍の頭に見えるというのもあるが。
丁度、口のように見える窪みに風が吹き込むと、まるで怪物の鳴き声のように聞こえるからそう名付けられた、とか登山口にいわれが書いてあった。
大岩の間から強い横風が吹きつける中、頼りない鎖が渡してあるだけの細い足場を、岩に添って歩かねばならない。
足場の下は、急斜面のほぼ崖。さすが修験道に使われていただけある難所だ。
俄然燃えてくる。
*****
オオオ、と鳴き声のような音。
風の音だと知らなければ、昔の人とかは怪物の鳴き声かと思って怖がるだろうな。
「ひゃ、」
うっかり足元を見てしまい、ヒヤッとする。
ここから落ちたら、間違いなくお陀仏だ。
風も強いし、気をつけないと。
もう少し先の足場なら、比較的傾斜が緩やかなんだが。
ここだけ、崖のように切り立っている。だからこそ、一番の難所なんだけど。
鎖を渡す前は、もっと怖かったんだろうな。つけた人、凄い。
この山は険しいことで有名なだけあって、天狗伝説もあり、修験者の姿をよく見る、という話だ。
しかし、登っていく姿は誰も見たことがないという。ミステリーだ。
本物の天狗だったりして。
そういえば、下の神社には天狗のストラップが売ってたっけ。
帰りにでも買えたら、兄達のお土産にでもしようか。赤と緑の、可愛いカラス天狗だった。
「……ふう、」
やっと、広めの足場へ出た。
緊張したけど、それほど息は乱れていない。鍛えた甲斐があったなあ。
……あれ?
坂の途中に、何か光るものが。
あれ、ピッケルじゃないか? 何でこんな所に。
誰かの忘れ物か?
と、覗き込んでいたら。
『早まるんじゃない!』
突然、後ろから、リュックごと何者かに抱き締められた。
「うわあ!?」
足、足、浮いてる!?
こわっ!
*****
俺は、背後から謎の人物によって持ち上げられていたのだ。
20kg以上ある、装備ごと。
そのままバックブリーカーかまされるかと思った。
嘘だろ。
俺の体重とあわせて、合計100kg近くあるんだぞ!?
何だこいつ、もの凄い力だ。
『死ぬにはまだ早いぞ。生きていればきっと、いいことがあるから!』
は? 何だって?
俺、飛び降りと勘違いされたのか? こんな緩やかな傾斜の場所で?
アホか!
どうせするなら龍のあぎとのとこでするわ! しないけど!
「ち、違う、俺はただ、そこの落し物を見ようとしただけだ!!」
『……え?』
抱き上げられたまま、くるりと半回転して。
そいつは、坂の下を見たようだ。
『あ、本当だ。鎌みたいのが落ちてる』
ピッケルだよ。
そっと、地面に降ろされる。
地面に足が着いて、一安心する。
「ああ、びっくりした……」
まだ、心臓がバクバクいってる。
丈夫な身体になってよかったとしみじみと思った。
『すまなかった。とんだ勘違いをして、迷惑をかけたようだね』
頭を下げて。
顔を上げた男は。
やたら背の高い、物凄い美形だった。
*****
見れば、その男はまるで古代中国の文官のような格好をしていた。
文官にしてはカラーリングがやたら派手だが。
赤と黒の胡服で。袖や襟には手の込んだ金の刺繍が入っている。布地もシルクっぽいし。
コスプレや舞台衣装にしては高級そうだ。
鮮やかな赤い髪は上の方で結い上げ、金の簪で留めてあった。
手荷物は一切持ってない。
靴も、平べったい底のようだ。
目は、不思議な色をしている。紫紺、というんだっけ?
カラーコンタクトだろうか?
まさか、こんな格好で、登山したのか? ここまで? 逆ルートから来たにしても相当だぞ? 岩場を歩けるような靴じゃねえだろ。
クレイジーなコスプレイヤーだな。
「まったく。考えてもみろよ。こんな重装備で、わざわざこんな難所へ登山してまで自殺するような奇特なやつが、この世にいるわけないだろ?」
俺が言うと。
男は、微妙な顔をした。
まるで、そういうやつが、実際に居たみたいな。
……居たのかよ。
マジかよ、何の目的で!?
男は悲愴な顔をして。
『その方は、人生に絶望して。飛び降りなどは他人に迷惑がかかるので、誰にも発見されずにひっそりと死体になるため、自殺と見咎められぬよう、登山の装備を整えたと……』
おいおい、随分気合の入った自殺志願者だな。
「そ、そうか。まあ気を落とすな。俺は死ぬ気はないし、安心しろよ」
励ますように肩を叩いたら。
『あ、その方は現在とても幸せに暮らしてるし、ちゃんと生きてるよ』
ちゃんと生きてるのかよ!
紛らわしいわ!!
*****
……ん?
何かこの男、やたらいい匂いがするような気がする。
男も、不思議そうに首を傾げて。
『ちょっといいかな?』
俺の耳元の匂いを嗅いでる。
この人、なんか動物みたいだな。
邪気がないっていうか。
ああ、やっぱりいい匂いがする。
何ともたとえがたいけど、昂揚するような。
『とても、良い匂いがする。香水ではないようだけど……』
俺は、香水なんかつけてない。
むしろ登山で汗くさいくらいじゃないか?
「え、あんたもか?」
目が合った。
……あれ? これ、カラコンじゃねえな。
髪も、生え際を見る限り、染めたわけじゃなさそうな……。生まれつき、こんな派手な赤毛ってありえるのか?
眉と睫毛の色は、濃い赤だ。
綺麗だな。
思わず無言で見惚れてしまうほど。
……ん? 顔、近くね? うわ、近い近い!
*****
「っ!?」
気付けば。
がっしりと抱き締められて、キスをされているという状況だった。
何でだ。
どうしてこうなった?
しかも、すごい怪力だから、動けない。
「んうう、……んー、」
ぬるり、と舌先が唇を割り、侵入してくる。
ベロチューとか、女の子ともしたことがなかったのに! 何でさっき会ったばかりの男に、キスされてんだよ!?
俺のファーストキスを返せ!
などと、がっつり口を塞がれていては言えるわけもなく。
酸素。
酸素が足りない……。
ただでさえ、ここは地上より空気が薄いのに。
男の腕の中。
意識が遠のいていった。
5
お気に入りに追加
683
あなたにおすすめの小説
【完結】そろそろ浮気夫に見切りをつけさせていただきます
ユユ
恋愛
夫の浮気癖は承知している。
それは婚姻前からだった。
政略結婚だから我慢せざるを得なかった。
だけど婚姻して20年。
我慢しなくていいだろうと判断した。
だって、あんなことを言われたらねぇ。
* 作り話です。
* 5万文字未満です。
* 暇つぶしにどうぞ。
王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。
なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。
二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。
失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。
――そう、引き篭もるようにして……。
表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。
じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。
ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。
ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。
完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!
音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。
頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。
都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。
「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」
断末魔に涙した彼女は……
ヒーローは洗脳されました
桜羽根ねね
BL
悪の組織ブレイウォーシュと戦う、ヒーロー戦隊インクリネイト。
殺生を好まないヒーローは、これまで数々のヴィランを撃退してきた。だが、とある戦いの中でヒーロー全員が連れ去られてしまう。果たして彼等の行く末は──。
洗脳という名前を借りた、らぶざまエロコメです♡悲壮感ゼロ、モブレゼロなハッピーストーリー。
何でも美味しく食べる方向けです!
異世界でおまけの兄さん自立を目指す
松沢ナツオ
BL
【お知らせ】
都合により、本編完結後の第二部、「おまけだった兄さん〜」を非表示にさせていただきました。
本編完結済み。
某大手デパート社員の湊潤也は、契約の為空港に向かう途中に神子召喚に巻き込まれた。
神子の彼曰く、BLゲームの中らしい。俺には関係ないけど!
その上、最初にキレまくったせいで危険人物扱いされるし扱いも酷い。
それでも前向きに生きようと、経験を生かし自立をするぞ!と頑張る奮闘記。
主人公がたまに歌う場面がありますが、歌詞を書く予定はありません。読みながら脳内に再生された歌で補完をお願いします。
作中、予告なく男性妊娠の表現あり。現在作中では出産していません。
新章ではあります。
暴力表現も出て来ます。苦手な方は回避を御願いします。
改稿しておりますので、表現が違う箇所は緩くお読みいただけると助かります。
ifストーリーを番外編として分けて掲載しています。そちらもよろしくお願いします。
ゾンビBL小説の世界に転生した俺が、脇役に愛され過保護される話。【注、怖くないよ】
いんげん
BL
「ゾンビBL小説の世界」に、転生してしまった主人公。
死ぬ運命の脇役グループ救済するのかと思いきや
おっさんを惑わせたり
年下クール相手に性教育したり
小説の主人公に過保護されたり。
総愛されみたいになっている話です。
ゾンビ世界なのに、割と平和な感じで暮らしています。ゆるっと読める小説を目指してます。
基本は、主人公受け視点。主人公は、華奢な可愛い系(転生前は平凡)アホの子かも。
攻めは、強面おっさん、クールな二十歳、超絶美形の三人ですが、一棒一穴。挿入は一人にします。
旦那様と楽しい子作り♡
山海 光
BL
人と妖が共に暮らす世界。
主人公、嫋(たお)は生贄のような形で妖と結婚することになった。
相手は妖たちを纏める立場であり、子を産むことが望まれる。
しかし嫋は男であり、子を産むことなどできない。
妖と親しくなる中でそれを明かしたところ、「一時的に女になる仙薬がある」と言われ、流れるままに彼との子供を作ってしまう。
(長編として投稿することにしました!「大鷲婚姻譚」とかそれっぽいタイトルで投稿します)
───
やおい!(やまなし、おちなし、いみなし)
注意⚠️
♡喘ぎ、濁点喘ぎ
受け(男)がTSした体(女体)で行うセックス
孕ませ
軽度の淫語
子宮姦
塗れ場9.8割
試験的にpixiv、ムーンライトノベルズにも掲載してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる