32 / 61
ツガイのつとめ
指輪の交換
しおりを挟む
鱗を加工する術を教わって。
雷音の指を見ながら、大きさを調節する。
お揃いの、シンプルなデザインにしようと二人で決めた。
結局、そのほうが飽きがこないだろうし。
「でね、指輪の内側にメッセージを入れたりするんだよ。お互いのイニシャル……ええと、名前を書いて。愛を込めて、とか」
『ほう。互いにしかわからぬ愛の告白か』
じゃあ、当日まで内緒で指輪にメッセージを入れよう、ということになったんだけど。
「え、そんな大々的にやるの!?」
また、他の国も招待して、盛大に祝うらしい。
指輪交換会という名目で。
でも、もう結婚式はやっちゃったし。
内々でよくない?
『羅刹国のこともありますし、皆、賛成でしたよ?』
羅刹国の女王も呼んだので。
これを機に、実際に会って、和解してもらおうという試みだそうだ。
そうだな。
直接会って、話してみれば、どういう人たちかわかるだろうし。
悪意があって襲ったわけじゃないって、分かり合えればいいな。
じゃ、俺の服も仕上げちゃおう。雷音と色違いのお揃いなやつ!
と、張り切っていたら。
*****
『すみません……、私のものまで……』
青峰が申し訳なさそうに頭を下げた。
「いいよ。みんなお揃いのデザインにしよう?」
自分も蔽膝に刺繍が欲しい、と元白にねだられて。
結局、四王みんなの蔽膝にそれぞれの色の龍を刺繍することになった。
こっちにもお針子さんというか、服を作ったりする専門の職人もいるんだけど。
王の龍姿をかたどるなど、とんでもない! 畏れ多い! と言うので。
俺が縫うのである。
なんでも、緊張して手が動かなくなるんだそうだ。
みんな、そこまで雲の上の人、って感じはしないけどなあ。
それは俺が異世界人で、龍帝のツガイって立場だったからかもだけど。
ここで生まれた龍人にとって、龍帝や龍王って、ほんとに尊敬の的なんだな。
俺にはそういうオーラがないせいか、わりと気安く声を掛けてきてくれる。
距離を置かれるより、俺はそのほうがいいかな。
でも、身の回りのお世話は、極力断った。
それは異世界育ちだからってことで納得してもらってる。
使用人に身体を洗ってもらったり、服を脱ぎ着させてもらうなんて、どうしても無理だった。
男に襲われたトラウマのせいもあるだろうけど。
でも、女の使用人に洗わせるとか、もっと無理!
雷音とか、素っ裸のままでも堂々としてるのは、そういうので慣れてるせいかも。
まあ、あれだけ立派な肉体なら、他人に見せても恥ずかしくないんだろう。
俺は無理!
*****
『機織り機よりも速いですね……しかも精確ですし』
気付けば、青峰が側に寄って、俺が刺繍しているのをまじまじと見ていた。
機織り機はあるのか。
そうだよな。
布を織るのって大変だし。足踏み式かな?
今度、聖獣の国に見学に行きたいな。
鶴の恩返しみたいに、織るところを見ちゃ駄目だったりして。
『ああ、この赤龍、夏王の龍姿そっくりですね。この、首の後ろの鬣が長いところとか』
青峰は頬を緩ませた。
この間、全員の龍姿を見たし。せっかくだから似せてみたんだ。
気付いてくれて嬉しい。
みんな、喜んでくれるといいな。
出来上がった蔽膝を渡したら。
みんな喜んでくれた。
まだ成龍じゃない元白は、正確に似せすぎだ、とか言って拗ねたけど。
成龍になったら新しいのを作るよ、と言ったらご機嫌を直した。
成長記録みたいで嬉しいって。
手乗りサイズだった時も、かわいかったなあ。
考えてみれば、龍の成長、っていう物凄く貴重なものを見てるのかも。
カメラが無いのは残念だ。
あ、そういえば、招待客は前と同じなんだよな。
今回は単なる披露会なので手ぶらで来てください、と言ってあるけど。
まあ十中八九、何か持って来るだろうな……。
返礼品とかは、雷音が考えてくれるからいいとして。
来てくれてありがとう的な、ちょっとしたお礼の品を作っておこう。
何がいいかな。
*****
当日。
冬雅は、俺が磨いた魚石を会場に飾っていた。
由来書きまで添えてあった。
『この素晴らしい業績は、是非他国にも自慢すべきだ』
とか言って。
え、そこまでのものなの?
『ああ、これが噂の……』
朱赫が寄って来た。
じっと見詰めていたと思ったら。
『国宝指定する?』
『そうだな、これに値は付けられん。国宝にして、皇宮美術館に展示するか』
朱赫に言われて、冬雅が頷いている。
ここ、美術館とかもあるんだ……。
皇宮だけでも広いから、まだ全部の施設を回れてないんだよな。
でも、国宝指定ってさあ。朱赫も冬雅も大袈裟だってば。
『ああ望殿。それは新しい服だね。似合ってるよ。……いや、すごいなあ。見事な腕だ』
朱赫はさっそく、俺の蔽膝の刺繍に見入っている。
「うん、雷音のと色違いのお揃いなんだ」
『それは楽しみだ。陛下のは金糸なんだっけ?』
「そう。我ながら会心の出来だよ」
俺のは、襟と袖を銀の糸で刺繍してある。
『これも、ありがとう。俺にそっくりだって評判だよ』
自分の蔽膝を示して。
『私のも似てると評判だ。ほら』
冬雅も寄って来て、見せびらかしている。
『あ、本当だ。似てるなあ。この角の角度。ひげの長さといい、冬雅そっくりじゃないか』
『おお、朱赫の特徴を良く捉えている』
お互いの蔽膝を見てる。
何だかかわいいな。
龍って、ほんとかわいい。
*****
『望殿、そろそろ席に着いてください』
進行係の青峰が呼びにきた。
「あ、はーい。じゃあまた、」
二人に手を振って。雷音の待つ席に向かった。
青峰が、本日は皆様お忙しい中足をお運びいただいてまことにありがとうございます、などと始まりの挨拶をして。
『雷音陛下のツガイであらせられる望殿の故郷、異世界では結婚の際、指輪を交換されるとのことで。今回急遽宴を設けた次第でございます』
青峰の声、聞きやすくてよく通るなあ。
司会向きだ。
いよいよ、指輪の交換である。
こんな大々的にやらなくてもいいのに。
指輪の交換をするだけだよ? 恥ずかしいよ。
ああ、緊張する。
『我が最愛のツガイ、望へ。永久の愛を誓って』
雷音が、俺の薬指に金色の指輪をはめて。
「雷音へ。いつまでも仲良く寄り添えますように」
雷音の薬指に、銀色の指輪をはめた。
でも。
こうして、目に見える形で結婚を証明するのもいいもんだな、と思った。
雷音の指を見ながら、大きさを調節する。
お揃いの、シンプルなデザインにしようと二人で決めた。
結局、そのほうが飽きがこないだろうし。
「でね、指輪の内側にメッセージを入れたりするんだよ。お互いのイニシャル……ええと、名前を書いて。愛を込めて、とか」
『ほう。互いにしかわからぬ愛の告白か』
じゃあ、当日まで内緒で指輪にメッセージを入れよう、ということになったんだけど。
「え、そんな大々的にやるの!?」
また、他の国も招待して、盛大に祝うらしい。
指輪交換会という名目で。
でも、もう結婚式はやっちゃったし。
内々でよくない?
『羅刹国のこともありますし、皆、賛成でしたよ?』
羅刹国の女王も呼んだので。
これを機に、実際に会って、和解してもらおうという試みだそうだ。
そうだな。
直接会って、話してみれば、どういう人たちかわかるだろうし。
悪意があって襲ったわけじゃないって、分かり合えればいいな。
じゃ、俺の服も仕上げちゃおう。雷音と色違いのお揃いなやつ!
と、張り切っていたら。
*****
『すみません……、私のものまで……』
青峰が申し訳なさそうに頭を下げた。
「いいよ。みんなお揃いのデザインにしよう?」
自分も蔽膝に刺繍が欲しい、と元白にねだられて。
結局、四王みんなの蔽膝にそれぞれの色の龍を刺繍することになった。
こっちにもお針子さんというか、服を作ったりする専門の職人もいるんだけど。
王の龍姿をかたどるなど、とんでもない! 畏れ多い! と言うので。
俺が縫うのである。
なんでも、緊張して手が動かなくなるんだそうだ。
みんな、そこまで雲の上の人、って感じはしないけどなあ。
それは俺が異世界人で、龍帝のツガイって立場だったからかもだけど。
ここで生まれた龍人にとって、龍帝や龍王って、ほんとに尊敬の的なんだな。
俺にはそういうオーラがないせいか、わりと気安く声を掛けてきてくれる。
距離を置かれるより、俺はそのほうがいいかな。
でも、身の回りのお世話は、極力断った。
それは異世界育ちだからってことで納得してもらってる。
使用人に身体を洗ってもらったり、服を脱ぎ着させてもらうなんて、どうしても無理だった。
男に襲われたトラウマのせいもあるだろうけど。
でも、女の使用人に洗わせるとか、もっと無理!
雷音とか、素っ裸のままでも堂々としてるのは、そういうので慣れてるせいかも。
まあ、あれだけ立派な肉体なら、他人に見せても恥ずかしくないんだろう。
俺は無理!
*****
『機織り機よりも速いですね……しかも精確ですし』
気付けば、青峰が側に寄って、俺が刺繍しているのをまじまじと見ていた。
機織り機はあるのか。
そうだよな。
布を織るのって大変だし。足踏み式かな?
今度、聖獣の国に見学に行きたいな。
鶴の恩返しみたいに、織るところを見ちゃ駄目だったりして。
『ああ、この赤龍、夏王の龍姿そっくりですね。この、首の後ろの鬣が長いところとか』
青峰は頬を緩ませた。
この間、全員の龍姿を見たし。せっかくだから似せてみたんだ。
気付いてくれて嬉しい。
みんな、喜んでくれるといいな。
出来上がった蔽膝を渡したら。
みんな喜んでくれた。
まだ成龍じゃない元白は、正確に似せすぎだ、とか言って拗ねたけど。
成龍になったら新しいのを作るよ、と言ったらご機嫌を直した。
成長記録みたいで嬉しいって。
手乗りサイズだった時も、かわいかったなあ。
考えてみれば、龍の成長、っていう物凄く貴重なものを見てるのかも。
カメラが無いのは残念だ。
あ、そういえば、招待客は前と同じなんだよな。
今回は単なる披露会なので手ぶらで来てください、と言ってあるけど。
まあ十中八九、何か持って来るだろうな……。
返礼品とかは、雷音が考えてくれるからいいとして。
来てくれてありがとう的な、ちょっとしたお礼の品を作っておこう。
何がいいかな。
*****
当日。
冬雅は、俺が磨いた魚石を会場に飾っていた。
由来書きまで添えてあった。
『この素晴らしい業績は、是非他国にも自慢すべきだ』
とか言って。
え、そこまでのものなの?
『ああ、これが噂の……』
朱赫が寄って来た。
じっと見詰めていたと思ったら。
『国宝指定する?』
『そうだな、これに値は付けられん。国宝にして、皇宮美術館に展示するか』
朱赫に言われて、冬雅が頷いている。
ここ、美術館とかもあるんだ……。
皇宮だけでも広いから、まだ全部の施設を回れてないんだよな。
でも、国宝指定ってさあ。朱赫も冬雅も大袈裟だってば。
『ああ望殿。それは新しい服だね。似合ってるよ。……いや、すごいなあ。見事な腕だ』
朱赫はさっそく、俺の蔽膝の刺繍に見入っている。
「うん、雷音のと色違いのお揃いなんだ」
『それは楽しみだ。陛下のは金糸なんだっけ?』
「そう。我ながら会心の出来だよ」
俺のは、襟と袖を銀の糸で刺繍してある。
『これも、ありがとう。俺にそっくりだって評判だよ』
自分の蔽膝を示して。
『私のも似てると評判だ。ほら』
冬雅も寄って来て、見せびらかしている。
『あ、本当だ。似てるなあ。この角の角度。ひげの長さといい、冬雅そっくりじゃないか』
『おお、朱赫の特徴を良く捉えている』
お互いの蔽膝を見てる。
何だかかわいいな。
龍って、ほんとかわいい。
*****
『望殿、そろそろ席に着いてください』
進行係の青峰が呼びにきた。
「あ、はーい。じゃあまた、」
二人に手を振って。雷音の待つ席に向かった。
青峰が、本日は皆様お忙しい中足をお運びいただいてまことにありがとうございます、などと始まりの挨拶をして。
『雷音陛下のツガイであらせられる望殿の故郷、異世界では結婚の際、指輪を交換されるとのことで。今回急遽宴を設けた次第でございます』
青峰の声、聞きやすくてよく通るなあ。
司会向きだ。
いよいよ、指輪の交換である。
こんな大々的にやらなくてもいいのに。
指輪の交換をするだけだよ? 恥ずかしいよ。
ああ、緊張する。
『我が最愛のツガイ、望へ。永久の愛を誓って』
雷音が、俺の薬指に金色の指輪をはめて。
「雷音へ。いつまでも仲良く寄り添えますように」
雷音の薬指に、銀色の指輪をはめた。
でも。
こうして、目に見える形で結婚を証明するのもいいもんだな、と思った。
14
お気に入りに追加
689
あなたにおすすめの小説
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
落第騎士の拾い物
深山恐竜
BL
「オメガでございます」
ひと月前、セレガは医者から第三の性別を告知された。将来は勇猛な騎士になることを夢見ていたセレガは、この診断に絶望した。
セレガは絶望の末に”ドラゴンの巣”へ向かう。そこで彼は騎士見習いとして最期の戦いをするつもりであった。しかし、巣にはドラゴンに育てられたという男がいた。男は純粋で、無垢で、彼と交流するうちに、セレガは未来への希望を取り戻す。
ところがある日、発情したセレガは男と関係を持ってしまって……?
オメガバースの設定をお借りしています。
ムーンライトノベルズにも掲載中
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ダブルスの相棒がまるで漫画の褐色キャラ
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
ソフトテニス部でダブルスを組む薬師寺くんは、漫画やアニメに出てきそうな褐色イケメン。
顧問は「パートナーは夫婦。まず仲良くなれ」と言うけど、夫婦みたいな事をすればいいの?
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる