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黄龍大帝のツガイ

玉を磨く

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「出来たぁ……!」


仕上げの研磨が終わって。
3cmくらいの玉が出来た。ちゃんと丸いから、コロコロ転がる。

青峰、喜んでくれるかなあ。


『おお、素人などとご謙遜を。お上手じゃないですか。これなら商品として出せますよ。見事な真円です』
玉を眺めて、感心している。

お世辞でも、褒められると嬉しいもんだな。
せっかくだし、みんなにあげたい。

「赤と白と黒い石ってある?」

『ございますよ』
冬雅はにっこり笑ったようだ。

仮面でほとんど見えないけど、見惚れるような笑顔なんだろう。


『金剛石もございますが、いかがで?』
と出されたのはダイヤではなく、金色の石だった。

金剛石ってダイヤのことじゃなかったっけ? と思ったけど。
こっちではダイヤは虹石と呼んでるそうだ。虹色に光るからかな?


「それはいらない」

『そうですか……』
冬雅は残念そうだった。


*****


赤い石は、同じように玉にして。
白い石と黒い石は、服につける飾り石に挑戦してみた。

平べったく丸く加工して、真ん中に紐を通す穴をあける。
紐で結んで、タッセルをつければ完成だ。


『わあ、ありがとう、望。服に着けるね!』
『私にまで、ありがとうございます。仮面の飾り紐に致しましょう』
二人とも、喜んで受け取ってくれた。

『紐の加工もされるとは、随分と器用なのですね? 職人としての経験がおありで?』
冬雅は石を編むように結んでいる紐を見て、驚いている。

「老人と暮らしてたし、針仕事は俺がしてたんだ。内職もしてたし、裁縫は得意だよ」


目が悪くて、針を通せないからな。
ミシンも無いので、手縫いだし。

ドリームキャッチャーを組んだり、レース編みの内職もしたことがある。
手間は掛かるが、それだけになかなか実入りのいい内職だった。


『うわあ、その腕、是非我が国に欲しい……!』
本気の声だった。敬語も忘れてるし。

そう言われたら、嬉しくなる。

とりあえず、で選ばないで。
ちゃんと、自分に合った職を選ぶべきだったんだなあ、と思った。


*****


王族はだいたい、名前に自分の鱗の色をつけるという決まりがあるそうだ。

峰、赫……確かにそうだ。
あ、赫も赤いって意味なんだ。なるほど。

でもには色が無いじゃん、と思ったけど。
雅、っていうのは烏の鳴き声からできた字で、烏=黒なんだって。

じゃあ雷は金なの?
雷って青とか紫っぽいイメージがあるけどなあ。

雷音の黄という名字は、黄色は尊い色なので帝の名字にされたとか。


そんな世間話とかしながら。

いよいよ、水の入った石に挑戦だ。
割ってしまえば、中の魚が死んでしまうという。慎重に磨かないと。

振ると音がする、という話だけど。
振ったら中の魚がかわいそうなので、魚石に耳をつける。

確かに中に水があって、魚がいるような感じがする。
どんな魚かな。


石の中には、2ミリほどの水晶の層があるという。
そこまで磨けば、中を見られるそうだけど。少し加減を間違えただけで穴があいてしまうほどもろいものらしい。

緊張するなあ。


磨くのは全体じゃなく、上部だけでいいそうだ。
外側の石は、翡翠みたいで、それだけでも綺麗な石だ。インテリアとして飾るのにもいいだろう。

早く姿を見たいけど。
中には生き物がいるんだし、慎重にしないとな。


*****


元白に龍気を分けてもらったりしながら、何日かかけて磨いていって。
うっすらと水晶の層が見えてきた。

中で、何かが動いているのがわかった。
魚、ほんとにいるんだ!

わくわくしてきた。


目の細かいサンドペーパーで、撫でるように磨いていく。
焦ってはいけない。

そうやって、慎重に磨いていって。


「出た! 魚、居たよ! 二匹!」
呼びに行ったら。

冬雅と元白は休憩してお茶を飲んでたようで。

『わあ、凄い、魚石を磨き上げたんだ!』
『熟練の職人でも失敗することが多いんですよ。本当に凄い』
席を立ち、喜んでくれた。


『……苦労して磨き上げたその石ですが。最初に見せたいのは、誰と一緒が良いですか?』
冬雅に聞かれて。

頭に思い浮かんだ顔は。

「雷音、かな」


冬雅はにやりと笑ったようだ。
『……だそうですよ。良かったですね、陛下?』


え?


『望……!』
物陰から、飛び出してきて。

俺に抱きついてきたのは、雷音。まさにその人だった。


*****


「雷音!? 来てたの?」
『すまなかった。わたしは、謀るつもりはなくて……、』

『そういうのは後でいいので、早く見てきてください。私も今すぐ見たいのを我慢してるんですから!』
わりとぞんざいに、冬雅に作業室へ追いやられた。


「ほら、これが魚石だよ」
磨りあがったばかりの石を見せる。


両手に乗るくらいの大きさの石の中。
赤い魚が二匹、泳いでいる。

金魚みたいだけど、何か違う。
不思議な魚だ。

何を食べて生きてるんだろう?


石の中は川底みたいな感じで、砂があって。
水草みたいなのが生えている。

バイオスフィアみたいなのかな? これで一つの生態系が完成してるとか?


『……美しいな』
「そうだね。こんな綺麗な石があるんだ」

さすがファンタジーの世界だ。こんな不思議な石が存在するなんて。

雷音は、じっと魚石を見ている。
『この石は、真に心の美しい者でないと磨き上げることが出来ないものだ。欲に負け、割る者も少なくない。望は何を考え、磨いていた?』

何をって。
「姿は見たいけど、中の魚が死なないように、かな」

心は別に美しくは無いけど。
だいたい、無心で磨いてたかも。


*****


『これを売れば、一生遊んで暮らせるほどの財を得るというぞ』
「へえ、凄いね」


『他人事だな?』
雷音は首を傾げた。

「だって、俺はこれを磨くのを冬雅に頼まれただけで、俺のものじゃないもん。他人事だよ?」


俺はここに、気晴らしに石を磨きに来たわけで。
バイトでもない。

衣食住に困ってる訳でもないし。
それ以上は求めてない。

今のままで充分、贅沢だと思う。

上手く磨けたな、って褒めてくれれば。
それだけで嬉しい。


『……人間が、このように美しく純粋な心を持っているとは。愚かにもわたしは、無理矢理そなたを手に入れようと……』
ぎゅっと抱き締められた。


「身体から篭絡ろうらくして?」
『すまない……』

「腹立ったけど。これ磨いてる内に落ち着いたし。もういいよ」
ちゃんと反省してるようだし。

雷音の背中をぽんぽんと叩いて。

「さ、そろそろ冬雅たち呼んであげないと。切れるよ?」
二人を呼ぼうとしたら。


『もう来ております!』
もうすでに、扉の前で待機してた。
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