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宝石のようだと思いました。
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「……宗司様って、考え方意外とシビアですよね。メンタル鋼鉄というか……。むしろ裏社会、めっちゃ向いてるんじゃないですか?」
失礼な。
裏社会なんて向いてないし。
「一応、法学部で弁護士志望だし! 客観的視点とか、考え方が公平って言って欲しいんですけど!」
え? 普通のメンタルだったら、イタリアマフィアの首領に攫われたら折れてるって?
相手がマフィアだって気付いた時点で?
何で精神的に折れなかったかって。
それは。
イタリア語で、だけど。
愛してるって、何度も言われたからかも。
心から愛しいって気持ちがこもっていた。
それに。
痛みは与えられなかった。
むしろ、気持ち良過ぎるくらい。
この人は何か、深い理由があって。
それで、してるんだろうなって思えたからかな?
それから色々あって。
ヴィットーリオから、僕に対する異常なまでの執着を告白されて。
ヴィットーリオの感情も、生きる目標も。
何もかも、僕に依存してたとか聞かされて。
何で僕にそこまで? とは思ったけど。
もう、最初からこうなる運命だったと思うしかないじゃないか。
「やっぱり僕、ドMなのかな……。あそこまで愛されて、重いって思うどころか、嬉しかった。でも、僕のことでヴィックが思い悩んで苦しんでるなら、どうにか不安を取り除きたいって思うんだ」
「ドMどころか、もはや聖母レベルだと思います」
何で拝むの?
*****
「ほらー、ボス。ちゃんと愛されてるじゃないですかー」
苦笑している南郷さんの視線の先を追うと。
その先には。
ヴィットーリオが、図書室のドアの横に立ってた。
「あれ、ヴィック、仕事してたんじゃ……」
見れば、耳にはインカムをつけている。
ああ、話を聞いてたのか。
盗聴器はどれだろう。
また、服のボタンかな? しょうがないな。
「僕に愛されてるかどうか、不安に思ってたの?」
気まずそうに、頷いてる。
「盗み聞きしても怒らないとか、もはやブッダですよね……」
だから拝むのやめて。
自分はお邪魔でしょうから、と。南郷さんが部屋を出て行った。
「僕も好きだって言ったのに。信じてくれなかったんだ?」
まあそれはお互い様だけど。
僕の場合はヴィットーリオのスペックが高すぎて、自分なんかじゃ不釣合いだと思ったからだ。
「……ストックホルム症候群ではないかと思った。彼の言葉は、真実ではないのかと……」
基が言ってた。
攫って、拘束して身体を奪って。逃げ場も全て無くして閉じ込めてしまったから。
それで、僕に出来たのは。
相手を好きになって、精神の均衡を保とうとすることだけだって?
「好きじゃなきゃ、誰かに近寄られるのも嫌だ。でも、ヴィックは嫌じゃなかった」
「……それは私が幼い頃、君に暗示をかけたからだ」
自分以外の人間には嫌悪感を持つように。触れさせないように。
そう仕向けた、という。
とんでもない幼児だな……。
幼くして、独占欲がすごすぎる。
「それでも。この大きな手も、熱い肌も。大好きなことには変わりないよ」
ヴィットーリオの手を取って。
僕の頬にあてる。
「……血に穢れた手でも?」
「ヴィックは無意味に他人の命を奪ったりはしない。その必要性があったんじゃ、しょうがないね」
*****
クリスティアーニは麻薬には手を出さない、という掟のある組織だと聞いた。
掟破りには死を、という厳しい罰もある。
縄張りに麻薬を持ち込むことも許さないんじゃ、麻薬を売りたい組織からは煙たがれ、敵も多いはず。
密売人、テロリスト、暗殺者。
人の命どころか自分の命も顧みない狂信者とか、そんな敵対組織相手に不殺精神じゃやっていけない。先手必勝だ。
悪の芽というものは、摘むどころか根絶やしにしないと、根が残っていたらどこまでも蔓延っていくものだ。
色々な事件を知れば、更生の余地なんかない、生まれながらの悪人がいることを嫌でも知る。
法の限界も。
「でも、高山に住む人とか、医療目的で必要な人もいるから。麻薬をこの世から完全に根絶できないのが難しいよね……」
ヴィットーリオは肩を竦めて。
「うちも正義の味方というわけではないのだがね。麻薬に溺れた国は価値観を歪め、経済の流れを澱み濁らせる。商売の邪魔だから排除しているだけだ」
排除してるだけ、って。
そんな簡単な話じゃなかっただろうな。
身体中にある傷痕が物語ってる。
今まで、どれほどの血が流れたのか。
想像もつかない。
拳銃を規制しようとした指導者は暗殺されて。
メキシコなんて、麻薬撲滅しようとした権力者は警察を含め、数えきれないほど惨殺されてきた。
正義心だけじゃ、太刀打ちできない。
暴力に対して暴力を振るうことも、時と場合によれば間違ってないと僕は思う。
法律では建前上、許されないけど。
その法律すら、金と力さえあればどうにでもなるのが今の世の中だ。
*****
ヴィットーリオは自分を我儘だと言ったけど。
僕なんて、相当なエゴイストだと思う。
もしもヴィットーリオが崖から落ちそうになっていて。
僕がその手を離して近くにあるボタンを押せば百人の命が助かるとして。
僕は百人の命を犠牲にしても、ヴィットーリオの手を離さないだろう。
非力だから、一緒に落ちるかもしれない。
でも。
ヴィットーリオなら。
僕をひょいと持ち上げてボタンを押して。同時にみんな助けちゃいそうだ。
理由は。
僕のために他人が死んだら、僕が悲しむだろうから。
どんな無理をしてでもやってのけるだろう。
ヴィットーリオは、そういう人だ。
僕はそれほど博愛主義ではないのにね。
日本語で言うのに躊躇したヴィットーリオの気持ちが今なら理解できる。
確かに言いにくい。
Ti amoの方が百倍言いやすい気がする。
「愛してるよ、ヴィック。ヴィックがそう望むなら、一生地下室に閉じ込められたってかまわない。その代わり、ずっと、側にいて」
「……!」
驚いたように瞬かせたヴィットーリオの目から。
涙が零れた。
瞬きの度に、零れ落ちる涙が、まるで宝石みたいに綺麗で。
思わず見惚れてしまう。
失礼な。
裏社会なんて向いてないし。
「一応、法学部で弁護士志望だし! 客観的視点とか、考え方が公平って言って欲しいんですけど!」
え? 普通のメンタルだったら、イタリアマフィアの首領に攫われたら折れてるって?
相手がマフィアだって気付いた時点で?
何で精神的に折れなかったかって。
それは。
イタリア語で、だけど。
愛してるって、何度も言われたからかも。
心から愛しいって気持ちがこもっていた。
それに。
痛みは与えられなかった。
むしろ、気持ち良過ぎるくらい。
この人は何か、深い理由があって。
それで、してるんだろうなって思えたからかな?
それから色々あって。
ヴィットーリオから、僕に対する異常なまでの執着を告白されて。
ヴィットーリオの感情も、生きる目標も。
何もかも、僕に依存してたとか聞かされて。
何で僕にそこまで? とは思ったけど。
もう、最初からこうなる運命だったと思うしかないじゃないか。
「やっぱり僕、ドMなのかな……。あそこまで愛されて、重いって思うどころか、嬉しかった。でも、僕のことでヴィックが思い悩んで苦しんでるなら、どうにか不安を取り除きたいって思うんだ」
「ドMどころか、もはや聖母レベルだと思います」
何で拝むの?
*****
「ほらー、ボス。ちゃんと愛されてるじゃないですかー」
苦笑している南郷さんの視線の先を追うと。
その先には。
ヴィットーリオが、図書室のドアの横に立ってた。
「あれ、ヴィック、仕事してたんじゃ……」
見れば、耳にはインカムをつけている。
ああ、話を聞いてたのか。
盗聴器はどれだろう。
また、服のボタンかな? しょうがないな。
「僕に愛されてるかどうか、不安に思ってたの?」
気まずそうに、頷いてる。
「盗み聞きしても怒らないとか、もはやブッダですよね……」
だから拝むのやめて。
自分はお邪魔でしょうから、と。南郷さんが部屋を出て行った。
「僕も好きだって言ったのに。信じてくれなかったんだ?」
まあそれはお互い様だけど。
僕の場合はヴィットーリオのスペックが高すぎて、自分なんかじゃ不釣合いだと思ったからだ。
「……ストックホルム症候群ではないかと思った。彼の言葉は、真実ではないのかと……」
基が言ってた。
攫って、拘束して身体を奪って。逃げ場も全て無くして閉じ込めてしまったから。
それで、僕に出来たのは。
相手を好きになって、精神の均衡を保とうとすることだけだって?
「好きじゃなきゃ、誰かに近寄られるのも嫌だ。でも、ヴィックは嫌じゃなかった」
「……それは私が幼い頃、君に暗示をかけたからだ」
自分以外の人間には嫌悪感を持つように。触れさせないように。
そう仕向けた、という。
とんでもない幼児だな……。
幼くして、独占欲がすごすぎる。
「それでも。この大きな手も、熱い肌も。大好きなことには変わりないよ」
ヴィットーリオの手を取って。
僕の頬にあてる。
「……血に穢れた手でも?」
「ヴィックは無意味に他人の命を奪ったりはしない。その必要性があったんじゃ、しょうがないね」
*****
クリスティアーニは麻薬には手を出さない、という掟のある組織だと聞いた。
掟破りには死を、という厳しい罰もある。
縄張りに麻薬を持ち込むことも許さないんじゃ、麻薬を売りたい組織からは煙たがれ、敵も多いはず。
密売人、テロリスト、暗殺者。
人の命どころか自分の命も顧みない狂信者とか、そんな敵対組織相手に不殺精神じゃやっていけない。先手必勝だ。
悪の芽というものは、摘むどころか根絶やしにしないと、根が残っていたらどこまでも蔓延っていくものだ。
色々な事件を知れば、更生の余地なんかない、生まれながらの悪人がいることを嫌でも知る。
法の限界も。
「でも、高山に住む人とか、医療目的で必要な人もいるから。麻薬をこの世から完全に根絶できないのが難しいよね……」
ヴィットーリオは肩を竦めて。
「うちも正義の味方というわけではないのだがね。麻薬に溺れた国は価値観を歪め、経済の流れを澱み濁らせる。商売の邪魔だから排除しているだけだ」
排除してるだけ、って。
そんな簡単な話じゃなかっただろうな。
身体中にある傷痕が物語ってる。
今まで、どれほどの血が流れたのか。
想像もつかない。
拳銃を規制しようとした指導者は暗殺されて。
メキシコなんて、麻薬撲滅しようとした権力者は警察を含め、数えきれないほど惨殺されてきた。
正義心だけじゃ、太刀打ちできない。
暴力に対して暴力を振るうことも、時と場合によれば間違ってないと僕は思う。
法律では建前上、許されないけど。
その法律すら、金と力さえあればどうにでもなるのが今の世の中だ。
*****
ヴィットーリオは自分を我儘だと言ったけど。
僕なんて、相当なエゴイストだと思う。
もしもヴィットーリオが崖から落ちそうになっていて。
僕がその手を離して近くにあるボタンを押せば百人の命が助かるとして。
僕は百人の命を犠牲にしても、ヴィットーリオの手を離さないだろう。
非力だから、一緒に落ちるかもしれない。
でも。
ヴィットーリオなら。
僕をひょいと持ち上げてボタンを押して。同時にみんな助けちゃいそうだ。
理由は。
僕のために他人が死んだら、僕が悲しむだろうから。
どんな無理をしてでもやってのけるだろう。
ヴィットーリオは、そういう人だ。
僕はそれほど博愛主義ではないのにね。
日本語で言うのに躊躇したヴィットーリオの気持ちが今なら理解できる。
確かに言いにくい。
Ti amoの方が百倍言いやすい気がする。
「愛してるよ、ヴィック。ヴィックがそう望むなら、一生地下室に閉じ込められたってかまわない。その代わり、ずっと、側にいて」
「……!」
驚いたように瞬かせたヴィットーリオの目から。
涙が零れた。
瞬きの度に、零れ落ちる涙が、まるで宝石みたいに綺麗で。
思わず見惚れてしまう。
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