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陰謀の匂いがします。
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いつまでもこの島に居たいか? って聞かれたら、そりゃ、日本に帰りたいよ。
ここに閉じ込められるより。
だけど、住んでたアパートは勝手に引き払われたみたいだし。
現金とか持ち合わせてないので日本に帰ったとしても普通に詰むんだよね。
そこまで詳しく説明できるほどの語学力はなかったので。
『でも、海には人喰い鮫がうようよいるらしいけど、僕は泳げないし。それに、城の周囲には獰猛な番犬が放たれてるよ』
とりあえず、そう言ったら。
それなら、クルーザーを奪えばいいと言われた。
そのためには、ヴィットーリオの弱点を探るか、仕事部屋の暗証番号を手に入れなければいけない。
重要な物は仕事部屋にあるようだから、と。
僕がマルチェッロたちと一緒に仕事部屋に入るのを見たようで。
暗証番号くらい手に入るだろう、と言われたけど。
*****
「La debolezza di Vittorio……?」
あるのか、そんなの。
考えても、ちょっと思いつかない。
「Mi dispiace、 non lo so」
確かにヴィットーリオの仕事部屋には入った……というか。
連れ込まれたけど。
暗証番号の他に、網膜とか指紋とかの認証をしないと入れない、と教えると。
ジョルジョはがっくりと肩を落とした。
ジョルジョは、しばらく考えるような素振りをして。
僕の手を握った。
目と目が合う。
睫毛、長いなあ。
「Vieni con me!」
「che cosa?」
「Ho bisogno di te」
強引に手を引かれる。
グルル、と唸るような声がして。
子犬たちがジョルジョを取り囲んで威嚇していた。
「Non disturbare、Questo cane idiota!」
ジョルジョは足元の子犬を蹴っ飛ばした。
キャイン、と鳴いて。
床に叩きつけられた子犬を、慌てて拾い上げた。
「なんてひどいことをするんだ!」
「Cosa è successo!?」
騒ぎに、警備の人が部屋に入って来た。
*****
ジョルジョは小柄な身体を生かし。
素早く、身を隠すようにして逃げていった。
とにかく、床に叩きつけられた子犬が心配だと伝えて。
犬舎の人を呼んで。
子犬に怪我はないか診てもらった。
内臓や骨に異常はないようだ。
良かった。
幸い、ジョルジョが非力なお坊ちゃまだったお陰で、大怪我をすることはなかったみたいだ。
僕のことを引っ張ろうとする力も、弱かったし。
「……何があった!?」
報せを受けたのか、ヴィットーリオも駆けつけて来た。
かなり慌てていたらしく、いつもきっちりしている髪が乱れていた。
首領が取り乱しているのは、よほど珍しい光景だったようで。
それを見て、警備の人も犬舎の人もびっくりしていた。
「ジョルジョが、私の弱点を聞き出そうとした、と……?」
説明すると、ヴィットーリオは眉間に皺を寄せた。
「うん。この島から逃げるため、とか言ってたけど。なんか他にも目的がありそうな感じだったなあ」
ここから逃げる、も何も。
別にジョルジョは、ここに幽閉されている訳でもなく。
出入りは自由で。
むしろ、本人が希望している教育を受けている最中だという。
なら、余計不可解な行動をしていることになる。
僕の手を握ったり、見つめたりして。
たぶん、色仕掛け的なこともしようとしてたんだろうけど。
残念ながら、僕にその手は全然効かない。
何故なら、ジョルジョよりも綺麗な顔を見慣れてるから。
*****
「そういえば、あれを連れて来たのは、古参の幹部だったな。半分日本人の血が入っている私が首領になるのを最後まで反対していた者だ」
と、いうことは。
「ジョルジョはヴィットーリオを陥れるために送り込まれたスパイって可能性があるのかな?」
記憶が無いって名目で入り込んで。
本当の名前も伏せて?
子供の頃のヴィットーリオにそっくりなその顔立ちからして、全くの他人ではないとは思うけど。
けっこう近い親戚なのかな?
「その可能性が高いな……」
ヴィットーリオはジョルジョを今まで危険視はしていなかったようだ。
昔の自分に顔が似ているな、くらいで。
特に際立った才能もないし、今までジョルジョのことをあまり視界に入れてなかったとか。
ひどい。
5年くらい前から送り込まれてたらしいのに、ヴィットーリオの弱点も探れなかったのか。
スパイとしては未熟だろうけど。
でも、放っておいても問題ない、人畜無害な人間と思われるような演技をしてきたというなら、才能あるかも。
「誘いに乗った振りして、ジョルジョから何が目的なのか聞き出してみようか?」
言動からして、ジョルジョは多分、僕のことを年齢が近い子供だと思ってるようだった。
東洋人は若く見えるって言うし。
油断して、色々話してくれるんじゃないかな?
「駄目だ。危険な真似は許さない」
ヴィットーリオの腕の中に抱き込まれた。
そんな、怖い顔してみせちゃって。
まあ、そう言うと思ったけど。
*****
「……あれと一緒に逃げようとは思わなかったのか? 君はああいった顔が好みなのだろうに」
ヴィットーリオは、どこか自嘲的に呟いた。
もし僕を人質に取られていたら。
黙って望みのものを何もかも差し出さざるを得なかっただろう、という。
一家の首領より、総帥の座より。
何よりも、僕が大事だって。
今まで弱点という弱点の無かった、マフィアの首領にしてクリスティアーニの総帥であるヴィットーリオの、唯一の弱点。
それが僕なんだって言われても。
困るよ。
「だって。あんな、子犬を蹴るような子を、信用なんか出来ないし……」
ヴィットーリオは、子犬たちからも懐かれてた。
可愛がってるんだろう。
子供の頃、大人になったら大きな犬を飼いたいね、なんて話をしていたことを思い出した。
犬が走り回れるようなお屋敷を買うから、一緒に住もうね、とかも言ってたっけ。
……思い返せば、あの頃からちょっとアレだったな。
白いフリルのエプロンをつけて待ってて欲しい、とか言ってたし。
フリルの女性用下着なら着せられたっけ。
「別に、顔が好みだからって、好きになるとは限らないし」
自分で一番驚いたのは。鷹ちゃんにそっくりなあの子から”君が必要だ”って言われても、少しも心が動かなかったことだ。
そんな自分が信じられなかった。
「……では、今は。この顔の方が好き?」
甘く囁かれて。
ドキドキしてしまう。
自分がハンサムだと自覚してる分、タチが悪いと思う。
「じ、自意識過剰」
減らず口は、すぐに塞がれてしまった。
ここに閉じ込められるより。
だけど、住んでたアパートは勝手に引き払われたみたいだし。
現金とか持ち合わせてないので日本に帰ったとしても普通に詰むんだよね。
そこまで詳しく説明できるほどの語学力はなかったので。
『でも、海には人喰い鮫がうようよいるらしいけど、僕は泳げないし。それに、城の周囲には獰猛な番犬が放たれてるよ』
とりあえず、そう言ったら。
それなら、クルーザーを奪えばいいと言われた。
そのためには、ヴィットーリオの弱点を探るか、仕事部屋の暗証番号を手に入れなければいけない。
重要な物は仕事部屋にあるようだから、と。
僕がマルチェッロたちと一緒に仕事部屋に入るのを見たようで。
暗証番号くらい手に入るだろう、と言われたけど。
*****
「La debolezza di Vittorio……?」
あるのか、そんなの。
考えても、ちょっと思いつかない。
「Mi dispiace、 non lo so」
確かにヴィットーリオの仕事部屋には入った……というか。
連れ込まれたけど。
暗証番号の他に、網膜とか指紋とかの認証をしないと入れない、と教えると。
ジョルジョはがっくりと肩を落とした。
ジョルジョは、しばらく考えるような素振りをして。
僕の手を握った。
目と目が合う。
睫毛、長いなあ。
「Vieni con me!」
「che cosa?」
「Ho bisogno di te」
強引に手を引かれる。
グルル、と唸るような声がして。
子犬たちがジョルジョを取り囲んで威嚇していた。
「Non disturbare、Questo cane idiota!」
ジョルジョは足元の子犬を蹴っ飛ばした。
キャイン、と鳴いて。
床に叩きつけられた子犬を、慌てて拾い上げた。
「なんてひどいことをするんだ!」
「Cosa è successo!?」
騒ぎに、警備の人が部屋に入って来た。
*****
ジョルジョは小柄な身体を生かし。
素早く、身を隠すようにして逃げていった。
とにかく、床に叩きつけられた子犬が心配だと伝えて。
犬舎の人を呼んで。
子犬に怪我はないか診てもらった。
内臓や骨に異常はないようだ。
良かった。
幸い、ジョルジョが非力なお坊ちゃまだったお陰で、大怪我をすることはなかったみたいだ。
僕のことを引っ張ろうとする力も、弱かったし。
「……何があった!?」
報せを受けたのか、ヴィットーリオも駆けつけて来た。
かなり慌てていたらしく、いつもきっちりしている髪が乱れていた。
首領が取り乱しているのは、よほど珍しい光景だったようで。
それを見て、警備の人も犬舎の人もびっくりしていた。
「ジョルジョが、私の弱点を聞き出そうとした、と……?」
説明すると、ヴィットーリオは眉間に皺を寄せた。
「うん。この島から逃げるため、とか言ってたけど。なんか他にも目的がありそうな感じだったなあ」
ここから逃げる、も何も。
別にジョルジョは、ここに幽閉されている訳でもなく。
出入りは自由で。
むしろ、本人が希望している教育を受けている最中だという。
なら、余計不可解な行動をしていることになる。
僕の手を握ったり、見つめたりして。
たぶん、色仕掛け的なこともしようとしてたんだろうけど。
残念ながら、僕にその手は全然効かない。
何故なら、ジョルジョよりも綺麗な顔を見慣れてるから。
*****
「そういえば、あれを連れて来たのは、古参の幹部だったな。半分日本人の血が入っている私が首領になるのを最後まで反対していた者だ」
と、いうことは。
「ジョルジョはヴィットーリオを陥れるために送り込まれたスパイって可能性があるのかな?」
記憶が無いって名目で入り込んで。
本当の名前も伏せて?
子供の頃のヴィットーリオにそっくりなその顔立ちからして、全くの他人ではないとは思うけど。
けっこう近い親戚なのかな?
「その可能性が高いな……」
ヴィットーリオはジョルジョを今まで危険視はしていなかったようだ。
昔の自分に顔が似ているな、くらいで。
特に際立った才能もないし、今までジョルジョのことをあまり視界に入れてなかったとか。
ひどい。
5年くらい前から送り込まれてたらしいのに、ヴィットーリオの弱点も探れなかったのか。
スパイとしては未熟だろうけど。
でも、放っておいても問題ない、人畜無害な人間と思われるような演技をしてきたというなら、才能あるかも。
「誘いに乗った振りして、ジョルジョから何が目的なのか聞き出してみようか?」
言動からして、ジョルジョは多分、僕のことを年齢が近い子供だと思ってるようだった。
東洋人は若く見えるって言うし。
油断して、色々話してくれるんじゃないかな?
「駄目だ。危険な真似は許さない」
ヴィットーリオの腕の中に抱き込まれた。
そんな、怖い顔してみせちゃって。
まあ、そう言うと思ったけど。
*****
「……あれと一緒に逃げようとは思わなかったのか? 君はああいった顔が好みなのだろうに」
ヴィットーリオは、どこか自嘲的に呟いた。
もし僕を人質に取られていたら。
黙って望みのものを何もかも差し出さざるを得なかっただろう、という。
一家の首領より、総帥の座より。
何よりも、僕が大事だって。
今まで弱点という弱点の無かった、マフィアの首領にしてクリスティアーニの総帥であるヴィットーリオの、唯一の弱点。
それが僕なんだって言われても。
困るよ。
「だって。あんな、子犬を蹴るような子を、信用なんか出来ないし……」
ヴィットーリオは、子犬たちからも懐かれてた。
可愛がってるんだろう。
子供の頃、大人になったら大きな犬を飼いたいね、なんて話をしていたことを思い出した。
犬が走り回れるようなお屋敷を買うから、一緒に住もうね、とかも言ってたっけ。
……思い返せば、あの頃からちょっとアレだったな。
白いフリルのエプロンをつけて待ってて欲しい、とか言ってたし。
フリルの女性用下着なら着せられたっけ。
「別に、顔が好みだからって、好きになるとは限らないし」
自分で一番驚いたのは。鷹ちゃんにそっくりなあの子から”君が必要だ”って言われても、少しも心が動かなかったことだ。
そんな自分が信じられなかった。
「……では、今は。この顔の方が好き?」
甘く囁かれて。
ドキドキしてしまう。
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