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総帥の自己評価が低すぎます。

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思わず笑ってしまった僕に。
二人は、驚いたようにこちらを見ていた。リッカルドまで。


「あ、……失礼しました」
思わず口を押さえた。

マルチェッロは、僕がイタリア語を理解してることを知らないから。
きっと、疎外感を覚えないように、日本語で話をしてくれていたんだろうに。

笑ってしまったら、失礼だよな。


「ヴィックが殺気立った様子で坊やを地下室に運び込んでた時はどうなることかと思ったけど。いい感じにおさまったのかな?」

マルチェッロは、血を見ることになるかと思ったー、と安心してるようだ。
いや、血は見た。

輸血で。


ヴィットーリオは、マルチェッロを睨んだ。
「まだおさまってはいない。さっきは求婚の最中だった。いいところで邪魔をしてくれたな?」

「え、今更!?」
目を剥いてこっちを見た。


ええそうです。今更なんですよ。自分の正体を明かしたのも。
色々されて。一週間も経ってから。

結婚するつもりで呼び寄せたって話なのに。
プロポーズをされたのはついさっきのことだったとか。

酷すぎない?


*****


マルチェッロは、クリスティアーニの総帥候補として名前が挙がるほど優秀だけど。
他にやりたいこともあるし、性に合わないから辞退したかったのに。それは周囲が許さなかったという。

古くからあるマフィ……一族らしく、血筋とか家柄とか、色々としがらみのある世界だというので。
ほぼ直系に近い血筋のマルチェッロと違い、直系の息子といえど、半分日本人の血を引いているヴィットーリオは、一部の頭の固い老人には認められなかったようだ。

そんな小うるさい偏屈な老人どもを、圧倒的なカリスマと卓越した統率能力を見せ付けて、敵対組織を壊滅させたことで黙らせた。

まず、最年少でマフィアの首領の座を得たヴィットーリオは。
そうして得た権力と資産を最大限利用して、クリスティアーニの資産を何倍も膨れ上がらせてみせたんだよ、と。
マルチェッロはまるで自分の手柄みたいに言った。

そうやって、会社経営でも類稀な商才というか能力を見せ付けた上で。
自分は幼い頃に離れ離れにされた男の幼馴染みと結婚するから子供を作らない。マルチェッロの子供に次代総帥の座を譲る、って表明したことで血筋派をも黙らせたんだそうだ。

そしてこの度、20歳を迎えたヴィットーリオは、見事クリスティアーニの総帥に選ばれた、という話だ。


さっき本人からだいたいの流れは聞いたけど。
ヴィットーリオが自分で語ってた内容より、ずっとハードな気がする。波乱万丈すぎるよ。

そこまでの努力をしてまで。
僕と再会して、結婚したいって望んでたのか……?

いまだに信じられない。


でも。
一週間もかけて、そのがっつきっぷりを身をもって体験したし。

これは信じざるを得ないか。


*****


「これでようやく宗司と結婚できる、と迎えに行ったのだが。宗司の母、夏子さんが亡くなっていたので、さすがに求婚はできなかった……」

「え、そうなんだ。……お悔やみ申し上げます」
マルチェッロは僕の方に向き直り、きちんと日本式に頭を下げた。

「ありがとうございます」
礼を返す。


すごいなあ。
お悔やみの言葉も出るのか。日本語達者すぎる。

優秀だって自分で言ってたけど、本当に優秀だ。

どこで覚えたんだろ。
軽い口調からして、日本語学校やヴィットーリオ経由じゃないと思う。

全然マフィアっぽくないし。
不思議な人だ。


「え!? っつーか、母親亡くしたばっかで傷心の子を攫って一週間もヤりまくってたのかよ!? 悪魔か!」

「いつまでも悲しみに浸るのは故人も望んでいないだろう」
「いや、お前が言うなっていうか。そういう問題じゃないでしょ!?」
マルチェッロは目を剥いて全力で突っ込んでいた。

どうやらヴィットーリオの従兄弟は、普通の感覚を持っていたようだ。

話し方もそうだけど。
ほんとにマフィアっぽく感じないな。


「結婚式は、せめてお母様の喪が明けてからにしなさいって……」
至極真っ当な意見を述べるマルチェッロに。

「今すぐにでも挙げたいのを四十九日まではと我慢しているというのに。来年まで待てとは鬼か」
周囲も驚くほどの天才だと讃えられてるはずのヴィットーリオは、子供みたいなことを言ってる。常識は学ばなかったのかな。

「いや、自分の欲望ばかりじゃなく、坊やの気持ちも考えてやれって言ってるんだよ」
マルチェッロは真顔で返した。

どうやらマルチェッロは、真剣に心配してくれているようだ。
僕との関係にヒビが入れば、ヴィットーリオの幸せにはならないから、かな?


ん?
なんか、モヤモヤする……。


*****


「……私と結婚するなど、嫌がるに決まっているだろう」

憂い顔も色気があるなあ。
……とか見惚れてる場合じゃない。


Cosaはぁ?」
「は?」
マルチェッロとハモった。


僕が。
ヴィットーリオとは結婚したくないって思うだろうから?

プロポーズを断ることは、想定内で?


無理矢理攫って、拘束して。脅して、抱いたって?

いや、どういう理由だよ!?


「引きも切らずわいて来る縁談話を片っ端から叩き潰しておいて。何よその自信の無さは」
マルチェッロは肩を竦めている。

ああ、やっぱり縁談話とか多かったんだ。
そりゃモテるよな……。

服飾部門のモデル、総帥がした方が売れるんじゃないかってくらいスタイルも顔も良いんだから。


「私の外見や、クリスティアーニの総帥候補という肩書きしか見ていない有象無象などどうでもいい」
ヴィットーリオは、吐き捨てるように言った。

総帥になってからは、見合い話を完全にシャットアウトしたようだ。
僕がいるからって。


*****


「宗司が好きだったのは。幼い頃の、少女のように愛らしかった私であって、今の姿は好みではないのだろう。ジョルジョのような容姿に育っていればよかったのだが、しかし私の背は15,6歳の時点で180を超え……今など、宗司よりも30cm以上高くなってしまった。その上、手も陰茎ペネもずっと大きく、可愛らしさの欠片もなくなってしまった」
憂い顔で言うが。

……それは自虐風自慢かな?
という意見はマルチェッロと完全同意だった。

気が合うな。
もしかしたら前世で兄弟だったのかもしれない。


「その上、万全を期して迎えに行く為には仕方なかったとはいえ、クリスティアーニ一家の首領になった私を恐れても当然だ。少なからず、手を汚しているのだから」
「ああ、の話も伝えたんだ……」

やっぱり。
マフィアという裏の顔は、秘密の話だったのか。
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