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大企業の総帥に誘拐されてしまいました。

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「ああ、大学には留学のため、という理由で休学届けを出しておいた。それと、奨学金も全て返済した。アルバイト先にも辞めると言っておいたが。随分気に入られていたようだな。残念がっていたそうだ」

「えっ!?」
留学って? 休学届け出したって!?

勝手に!?

それと、奨学金を返済?
バイト先に辞めるって連絡したって……どういうこと!?


「あ、あの、どうして……?」

「何故、と問うか?」
ヴィットーリオ総帥は、座っていたソファーから優雅に立ち上がり、僕の目の前に立った。

見上げるほど、背が高い。


改めて目の前にすると、眩しいほどの美貌だ。
生きる世界が違うというか。別世界の住人だと感じる。

その別世界の美貌の総帥は、堂々と言い放った。


「宗司、君は今日……いや、明日から、私にのだから」


「ええっ!?」
飼われるって。クリスティアーニの総帥に!?

どういうこと!?


*****


拉致られた。
世界的大企業、クリスティアーニの総帥に。


理由はわからない。
わかっているのは、現在、クリスティアーニのプライベートジェットでイタリアに向かって飛んでいるってことのみ。

一応パスポートは身分証明用に取得してあったけど。ビザはどうしたんだろう。
予防注射とか、検疫はいいの? 出国手続きとかもしてないけど。

……などと細かいことを気にしてる場合じゃない。
誘拐だこれ!!


考えてみれば。
仮通夜の夜から、やんわり軟禁されてたような気がする。

日本での犯行だけど、国際警察の管轄になるんだろうか。
むしろなにやらっぽい雰囲気がぷんぷんするんだけど。


……クリスティアーニには、とある黒い噂があった。

今は様々な部門で名を馳せているクリスティアーニの前身は、オリーブオイルなどを輸出する小さな会社だったらしい。
多くのイタリアマフィアは、オリーブオイルの輸出に関わってるって噂だ。

つまり、クリスティアーニはマフィアなんじゃないかって。


昔から、クリスティアーニは、スキャンダルなど一切出ない。
一般的にはクリーンな会社だってイメージだけど。マスコミも多くを語らないって、何か裏があるに決まってる。


証拠もなく、決め付けてはいけないけど。


*****


「やけにおとなしいな。飛行機は初めてで緊張しているのか?」
からかうように頬を撫でられて。

猫じゃないんだから、とそれを避ける。


「……別に、緊張とかしてないです」
窓から視線を外しながら言った。

今まで飛行機で旅行はしなかったのか、と聞かれた。
修学旅行は海外、という学校も多いらしいけど。ずっと区立・都立校だったためか、国内だったので行かなかった、と答えた。


移動はだいたい新幹線かバスで。中学は京都・奈良。高校は萩・広島だ。

聞くところによれば、修学旅行がスキーだった所もあったようだ。
しかし、自国の歴史を学ばずして、何が修学旅行か。

別にうらやんでない。


「修学旅行、か。日本の学校は楽しそうだな……」

外国の人にはそう見えるのか。
総帥になるくらいの人だから、英才教育とかで忙しくてそれどころじゃなかったのかもしれないけど。

「全然少しも楽しくなかった。小学校の時なんか、日光で。華厳の滝だったんだから。超有名な心霊スポットで、飛行機なんかよりよほど怖かったし!」

京都のホテルも広島のホテルもって有名なところで。
こっくりさんとかやり出す奴もいて、大変だった。


「……そうか、飛行機が怖いのか。……それは、申し訳ない事をしたな……?」
ヴィットーリオの肩が、細かく揺れている。

笑われてしまった。うう。

「怖いのなら、に収まるか? もし墜落したとしても、この腕に抱いたままパラシュートで降りてやろう」

ヴィットーリオは両手を広げて見せた。
怖かったら、その胸に飛び込めって?

「冗談じゃな……うひゃあ!?」

がくん、と。
落下したような。浮遊感というのか。奇妙な感覚が。乱気流?


思わずヴィットーリオの腕の中に飛び込んでしまったのは、クッションにするためだ。
きっと。


……笑うなってば。


*****


給油とかでどこかの空港に寄ったり、半日くらいかけて。
自家用ジェット機は、イタリアに近い、地中海のどこかの島に降りたようだ。

人食い鮫がいるから、泳いで逃げようと思わないほうがいい、と言われた。
どっちみちカナヅチなので、元から泳げない。


島には、大きな城がそびえ建っていた。

随分歴史のありそうな建物だ。
海も近いし、維持費がとんでもなく掛かりそうだ。

城を囲んでいる森には獰猛な犬が十数頭放たれてるから、逃げようとは思うな、とも忠告された。
不審者には喉笛に喰らいつくよう訓練を受けてるとか。恐ろしすぎる……。 


城の警備も物々しいというか。

どう見てもマフィアな面々だった。
スーツの懐が不自然に膨らんでいるのは、銃かな……?

いやいや、見た目で決め付けるのは良くない。

ジェット機を操縦していたパイロットも、ここの人なのかな?
降りてきて、ヴィットーリオの後ろについている。

鋭い目つきで、どう見てもマフィアな風貌だけど。全くカタギには見えないけど。


見た目で決め付けちゃ駄目だ。
うん。


*****


Donドン・ Cristianiクリスティアーニ  buongiornoブオンジョルノ tutto beneトゥット  ベーネ?」
城門の前にいた強面の男達がこっちにきて。

ヴィットーリオにイタリア語で話しかけてきた。
お疲れ様です、とかごきげんよう、ドン・クリスティアーニ?

ドンって首領のことだけど。
あんまり使われない表現だよな……。


第二外国語がイタリア語だったのは、どういった運命の悪戯なんだろうか。といっても、あまり早口だったり長文だったりするとわからなくなるけど。

Quantoクワント  tempoテンポ  ci vuoleチ ブォーレ?」

どのくらいかかりますか、って聞かれてる?
何の話だろう?

Sfortunaスフォルトゥナtamente タメンテ  non possoノン ポッソ  venireヴェニーレ con te コン テ
ええと、どこかへ行く予定だったけど、残念ながら行けなくなった、って総帥が答えてるのか。

È la miaエ ラ ミア  personaペルソナ amata アマータ


ん? 今のは聞き違いかな?
”私の最愛の人”って聞こえたような……。


Questoこの ragazzo小僧が?」
強面の男が僕を見た。


こ、怖い……。
絶対マフィアだよ、この人達!
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