4 / 56
大企業の総帥に誘拐されてしまいました。
しおりを挟む
「ああ、大学には留学のため、という理由で休学届けを出しておいた。それと、奨学金も全て返済した。アルバイト先にも辞めると言っておいたが。随分気に入られていたようだな。残念がっていたそうだ」
「えっ!?」
留学って? 休学届け出したって!?
勝手に!?
それと、奨学金を返済?
バイト先に辞めるって連絡したって……どういうこと!?
「あ、あの、どうして……?」
「何故、と問うか?」
ヴィットーリオ総帥は、座っていたソファーから優雅に立ち上がり、僕の目の前に立った。
見上げるほど、背が高い。
改めて目の前にすると、眩しいほどの美貌だ。
生きる世界が違うというか。別世界の住人だと感じる。
その別世界の美貌の総帥は、堂々と言い放った。
「宗司、君は今日……いや、明日から、私に飼われるのだから」
「ええっ!?」
飼われるって。クリスティアーニの総帥に!?
どういうこと!?
*****
拉致られた。
世界的大企業、クリスティアーニの総帥に。
理由はわからない。
わかっているのは、現在、クリスティアーニのプライベートジェットでイタリアに向かって飛んでいるってことのみ。
一応パスポートは身分証明用に取得してあったけど。ビザはどうしたんだろう。
予防注射とか、検疫はいいの? 出国手続きとかもしてないけど。
……などと細かいことを気にしてる場合じゃない。
誘拐だこれ!!
考えてみれば。
仮通夜の夜から、やんわり軟禁されてたような気がする。
日本での犯行だけど、国際警察の管轄になるんだろうか。
むしろなにやら治外法権っぽい雰囲気がぷんぷんするんだけど。
……クリスティアーニには、とある黒い噂があった。
今は様々な部門で名を馳せているクリスティアーニの前身は、オリーブオイルなどを輸出する小さな会社だったらしい。
多くのイタリアマフィアは、オリーブオイルの輸出に関わってるって噂だ。
つまり、クリスティアーニはマフィアなんじゃないかって。
昔から、クリスティアーニは、スキャンダルなど一切出ない。
一般的にはクリーンな会社だってイメージだけど。マスコミも多くを語らないって、何か裏があるに決まってる。
証拠もなく、決め付けてはいけないけど。
*****
「やけにおとなしいな。飛行機は初めてで緊張しているのか?」
からかうように頬を撫でられて。
猫じゃないんだから、とそれを避ける。
「……別に、緊張とかしてないです」
窓から視線を外しながら言った。
今まで飛行機で旅行はしなかったのか、と聞かれた。
修学旅行は海外、という学校も多いらしいけど。ずっと区立・都立校だったためか、国内だったので行かなかった、と答えた。
移動はだいたい新幹線かバスで。中学は京都・奈良。高校は萩・広島だ。
聞くところによれば、修学旅行がスキーだった所もあったようだ。
しかし、自国の歴史を学ばずして、何が修学旅行か。
別にうらやんでない。
「修学旅行、か。日本の学校は楽しそうだな……」
外国の人にはそう見えるのか。
総帥になるくらいの人だから、英才教育とかで忙しくてそれどころじゃなかったのかもしれないけど。
「全然少しも楽しくなかった。小学校の時なんか、日光で。華厳の滝だったんだから。超有名な心霊スポットで、飛行機なんかよりよほど怖かったし!」
京都のホテルも広島のホテルも出るって有名なところで。
こっくりさんとかやり出す奴もいて、大変だった。
「……そうか、飛行機が怖いのか。……それは、申し訳ない事をしたな……?」
ヴィットーリオの肩が、細かく揺れている。
笑われてしまった。うう。
「怖いのなら、ここに収まるか? もし墜落したとしても、この腕に抱いたままパラシュートで降りてやろう」
ヴィットーリオは両手を広げて見せた。
怖かったら、その胸に飛び込めって?
「冗談じゃな……うひゃあ!?」
がくん、と。
落下したような。浮遊感というのか。奇妙な感覚が。乱気流?
思わずヴィットーリオの腕の中に飛び込んでしまったのは、クッションにするためだ。
きっと。
……笑うなってば。
*****
給油とかでどこかの空港に寄ったり、半日くらいかけて。
自家用ジェット機は、イタリアに近い、地中海のどこかの島に降りたようだ。
人食い鮫がいるから、泳いで逃げようと思わないほうがいい、と言われた。
どっちみちカナヅチなので、元から泳げない。
島には、大きな城がそびえ建っていた。
随分歴史のありそうな建物だ。
海も近いし、維持費がとんでもなく掛かりそうだ。
城を囲んでいる森には獰猛な犬が十数頭放たれてるから、逃げようとは思うな、とも忠告された。
不審者には喉笛に喰らいつくよう訓練を受けてるとか。恐ろしすぎる……。
城の警備も物々しいというか。
どう見てもマフィアな面々だった。
スーツの懐が不自然に膨らんでいるのは、銃かな……?
いやいや、見た目で決め付けるのは良くない。
ジェット機を操縦していたパイロットも、ここの人なのかな?
降りてきて、ヴィットーリオの後ろについている。
鋭い目つきで、どう見てもマフィアな風貌だけど。全くカタギには見えないけど。
見た目で決め付けちゃ駄目だ。
うん。
*****
「Don Cristiani,buongiorno, tutto bene?」
城門の前にいた強面の男達がこっちにきて。
ヴィットーリオにイタリア語で話しかけてきた。
お疲れ様です、とかごきげんよう、ドン・クリスティアーニ?
ドンって首領のことだけど。
あんまり使われない表現だよな……。
第二外国語がイタリア語だったのは、どういった運命の悪戯なんだろうか。といっても、あまり早口だったり長文だったりするとわからなくなるけど。
「Quanto tempo ci vuole?」
どのくらいかかりますか、って聞かれてる?
何の話だろう?
「Sfortunatamente non posso venire con te」
ええと、どこかへ行く予定だったけど、残念ながら行けなくなった、って総帥が答えてるのか。
「È la mia persona amata」
ん? 今のは聞き違いかな?
”私の最愛の人”って聞こえたような……。
「Questo ragazzo?」
強面の男が僕を見た。
こ、怖い……。
絶対マフィアだよ、この人達!
「えっ!?」
留学って? 休学届け出したって!?
勝手に!?
それと、奨学金を返済?
バイト先に辞めるって連絡したって……どういうこと!?
「あ、あの、どうして……?」
「何故、と問うか?」
ヴィットーリオ総帥は、座っていたソファーから優雅に立ち上がり、僕の目の前に立った。
見上げるほど、背が高い。
改めて目の前にすると、眩しいほどの美貌だ。
生きる世界が違うというか。別世界の住人だと感じる。
その別世界の美貌の総帥は、堂々と言い放った。
「宗司、君は今日……いや、明日から、私に飼われるのだから」
「ええっ!?」
飼われるって。クリスティアーニの総帥に!?
どういうこと!?
*****
拉致られた。
世界的大企業、クリスティアーニの総帥に。
理由はわからない。
わかっているのは、現在、クリスティアーニのプライベートジェットでイタリアに向かって飛んでいるってことのみ。
一応パスポートは身分証明用に取得してあったけど。ビザはどうしたんだろう。
予防注射とか、検疫はいいの? 出国手続きとかもしてないけど。
……などと細かいことを気にしてる場合じゃない。
誘拐だこれ!!
考えてみれば。
仮通夜の夜から、やんわり軟禁されてたような気がする。
日本での犯行だけど、国際警察の管轄になるんだろうか。
むしろなにやら治外法権っぽい雰囲気がぷんぷんするんだけど。
……クリスティアーニには、とある黒い噂があった。
今は様々な部門で名を馳せているクリスティアーニの前身は、オリーブオイルなどを輸出する小さな会社だったらしい。
多くのイタリアマフィアは、オリーブオイルの輸出に関わってるって噂だ。
つまり、クリスティアーニはマフィアなんじゃないかって。
昔から、クリスティアーニは、スキャンダルなど一切出ない。
一般的にはクリーンな会社だってイメージだけど。マスコミも多くを語らないって、何か裏があるに決まってる。
証拠もなく、決め付けてはいけないけど。
*****
「やけにおとなしいな。飛行機は初めてで緊張しているのか?」
からかうように頬を撫でられて。
猫じゃないんだから、とそれを避ける。
「……別に、緊張とかしてないです」
窓から視線を外しながら言った。
今まで飛行機で旅行はしなかったのか、と聞かれた。
修学旅行は海外、という学校も多いらしいけど。ずっと区立・都立校だったためか、国内だったので行かなかった、と答えた。
移動はだいたい新幹線かバスで。中学は京都・奈良。高校は萩・広島だ。
聞くところによれば、修学旅行がスキーだった所もあったようだ。
しかし、自国の歴史を学ばずして、何が修学旅行か。
別にうらやんでない。
「修学旅行、か。日本の学校は楽しそうだな……」
外国の人にはそう見えるのか。
総帥になるくらいの人だから、英才教育とかで忙しくてそれどころじゃなかったのかもしれないけど。
「全然少しも楽しくなかった。小学校の時なんか、日光で。華厳の滝だったんだから。超有名な心霊スポットで、飛行機なんかよりよほど怖かったし!」
京都のホテルも広島のホテルも出るって有名なところで。
こっくりさんとかやり出す奴もいて、大変だった。
「……そうか、飛行機が怖いのか。……それは、申し訳ない事をしたな……?」
ヴィットーリオの肩が、細かく揺れている。
笑われてしまった。うう。
「怖いのなら、ここに収まるか? もし墜落したとしても、この腕に抱いたままパラシュートで降りてやろう」
ヴィットーリオは両手を広げて見せた。
怖かったら、その胸に飛び込めって?
「冗談じゃな……うひゃあ!?」
がくん、と。
落下したような。浮遊感というのか。奇妙な感覚が。乱気流?
思わずヴィットーリオの腕の中に飛び込んでしまったのは、クッションにするためだ。
きっと。
……笑うなってば。
*****
給油とかでどこかの空港に寄ったり、半日くらいかけて。
自家用ジェット機は、イタリアに近い、地中海のどこかの島に降りたようだ。
人食い鮫がいるから、泳いで逃げようと思わないほうがいい、と言われた。
どっちみちカナヅチなので、元から泳げない。
島には、大きな城がそびえ建っていた。
随分歴史のありそうな建物だ。
海も近いし、維持費がとんでもなく掛かりそうだ。
城を囲んでいる森には獰猛な犬が十数頭放たれてるから、逃げようとは思うな、とも忠告された。
不審者には喉笛に喰らいつくよう訓練を受けてるとか。恐ろしすぎる……。
城の警備も物々しいというか。
どう見てもマフィアな面々だった。
スーツの懐が不自然に膨らんでいるのは、銃かな……?
いやいや、見た目で決め付けるのは良くない。
ジェット機を操縦していたパイロットも、ここの人なのかな?
降りてきて、ヴィットーリオの後ろについている。
鋭い目つきで、どう見てもマフィアな風貌だけど。全くカタギには見えないけど。
見た目で決め付けちゃ駄目だ。
うん。
*****
「Don Cristiani,buongiorno, tutto bene?」
城門の前にいた強面の男達がこっちにきて。
ヴィットーリオにイタリア語で話しかけてきた。
お疲れ様です、とかごきげんよう、ドン・クリスティアーニ?
ドンって首領のことだけど。
あんまり使われない表現だよな……。
第二外国語がイタリア語だったのは、どういった運命の悪戯なんだろうか。といっても、あまり早口だったり長文だったりするとわからなくなるけど。
「Quanto tempo ci vuole?」
どのくらいかかりますか、って聞かれてる?
何の話だろう?
「Sfortunatamente non posso venire con te」
ええと、どこかへ行く予定だったけど、残念ながら行けなくなった、って総帥が答えてるのか。
「È la mia persona amata」
ん? 今のは聞き違いかな?
”私の最愛の人”って聞こえたような……。
「Questo ragazzo?」
強面の男が僕を見た。
こ、怖い……。
絶対マフィアだよ、この人達!
0
お気に入りに追加
291
あなたにおすすめの小説
淫紋付けたら逆襲!!巨根絶倫種付けでメス奴隷に堕とされる悪魔ちゃん♂
朝井染両
BL
お久しぶりです!
ご飯を二日食べずに寝ていたら、身体が生きようとしてエロ小説が書き終わりました。人間って不思議ですね。
こういう間抜けな受けが好きなんだと思います。可愛いね~ばかだね~可愛いね~と大切にしてあげたいですね。
合意のようで合意ではないのでお気をつけ下さい。幸せラブラブエンドなのでご安心下さい。
ご飯食べます。
珍しい魔物に孕まされた男の子が培養槽で出産までお世話される話
ききふわいん
BL
目が覚めると、少年ダリオは培養槽の中にいた。研究者達の話によると、魔物の子を孕んだらしい。
立派なママになるまで、培養槽でお世話されることに。
[R18]エリート一家の長兄が落ちこぼれ弟を(性的に)再教育する話
空き缶太郎
BL
(※R18・完結済)エリート一家・皇家に生まれた兄と弟。
兄は歴代の当主達を遥かに上回る才能の持ち主であったが、弟は対象的に優れた才能を持たない凡人であった。
徹底的に兄と比較され続けた結果グレてしまった弟。
そんな愚弟に現当主となった兄は…
(今回試験的にタイトルを長文系というか内容そのまま系のやつにしてみました)
【完結】彼女のお父さんに開発されちゃった自分について
七咲陸
BL
自分には可愛くて美しい、可憐な恋人のレイチェルが居る。そのレイチェルの父である彼は自分を好きだと言う。自分も彼に惹かれてしまい……
■侯爵家当主で彼女の父×子爵家子息
□やまもおちもいみもありません。ただただひたすらに作者の趣味と性癖を詰め込んだだけの話です。
■広い心でお読み下さい。終始ヤッてるだけです。
□R-18です。自己責任でお願いします。
■ちゃんとハッピーエンドです。
□全6話
えっちな美形男子〇校生が出会い系ではじめてあった男の人に疑似孕ませっくすされて雌墜ちしてしまう回
朝井染両
BL
タイトルのままです。
男子高校生(16)が欲望のまま大学生と偽り、出会い系に登録してそのまま疑似孕ませっくるする話です。
続き御座います。
『ぞくぞく!えっち祭り』という短編集の二番目に載せてありますので、よろしければそちらもどうぞ。
本作はガバガバスター制度をとっております。別作品と同じ名前の登場人物がおりますが、別人としてお楽しみ下さい。
前回は様々な人に読んで頂けて驚きました。稚拙な文ではありますが、感想、次のシチュのリクエストなど頂けると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる