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おまけ/忠実なる側近・シャオフーの手記
側近のたくらみ
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殿下は母の死のこともあって、王宮には居難かったのか。
留学予定の時期を早めて、国を飛び出した。
側近である私も無論、一緒にである。
大学の試験も、難なく首席合格。
殿下は目立ちたくないからと辞退したため、次席の私が挨拶をする羽目になった。
そこで成績優秀者は後々も寮長など面倒ごとを押し付けられることを知る。そう、私は矢面に立たされたのだった。
これも職務のうちと我慢したが。
殿下は最短で理工学部を卒業した。
が、学科を変えて医学を学ぶためまた入学。
在学生が先輩と呼ぶべきか新入生なのか混乱してたのも愉快だった。
医師免許は取得しなかったものの、論文を書いて博士号はとったようだ。
雷が人に与えるダメージについての論文だった。
王妃の死は、殿下にどれほどの影響を与えたのだろう。
†††
大学には隣国のアホ王子も在学していた。
こっちは真実、アホである。
今のうちに恩を売っておくのもいい、と言いながら手助けしてしまうあたり、殿下も甘い。
殿下は以前から国の企業のいくつかを任されていて、謎の若手実業家として稼いでいた。
まさか取引先も、相手がまだローティーンの子供とは思いもよらないだろう。面会が必要な場合は影武者も用意されていた。
そうして稼いだ金で、まだマクランジナーフの所有していないマスコミ各社やスポンサーの株を着々と買い占めていた。
こうして世のマスコミを黙らせているのか……、と感心した。
多くの国民は何故情報が国外に出ないのか、不思議に思っているようだが。
それも仕方ない。
あの国には表に出せない秘密が多すぎる。
†††
大学で様々な企業や王家の子息とコネクションを築き、所有の会社は業績をあげ。
殿下は個人でも大金を稼ぐようになった。
その金で、自宅を建設した。
殿下が20歳になった時、国王陛下は王位をアスラン殿下に譲って隠居する、と公言されている。
またすぐに王宮に戻ることになるのでは? と言ったが。
それまでは自由を満喫したいとのこと。
ヤマトナデシコの趣味は読書であった、と言い、図書室の内容を充実させていた。
通常、趣味が読書というのは特に趣味のない人の言い訳である。
しかも10年前なら、趣味も変わろうというものだ。
今回は事実だったので、黙っていたが。
自宅の見取り図を書いて。
自分用かと思ったら、嫁に渡すのだという。
皆が皆、殿下のように自宅で迷子にはなるとは限りませんよ? という言葉は心に秘めておく。
いつ何がブーメランになるかわからないので。
†††
日本の調査班からは、度々荷物が届いていた。
雪哉少年……いや、もはや雪哉様とお呼びしよう。
雪哉様の書かれた作品の載った本やエッセイの載った雑誌が主で。
それらがようやく、一冊の本になったのだ。
ああ。
殿下に付き合って日本語を勉強しておいて良かった。
翻訳することなく自分で読める、この幸せよ。
とある事情で彼の投稿作を読んで以来、すっかり虜になってしまったのである。
彼の書く文章は、日本在住の諜報班、調査班までも魅了してしまった。
彼はとても心優しく、繊細な性格のようで。
殿下がいきなり訪ねて行ったら驚いてショック死してしまいそうだ。
できればそっとしておきたいものだが。
しかし、残念なことに日本の読者には見る目がなく。
本の売り上げは不振なようで。
出版社は次回作を刷るのに躊躇しているとのこと。
筆を折ることがないといいのだが。
……ハッ、その資金、殿下に出させればいいのでは?
†††
ここまでのアスラン殿下の評価は、概ね良いものだが。
しかし、雪哉様の婿としてはどうだろう。
閨中指南を向かわせても、返してしまう一途さ、潔癖さ。
他の女を抱いた腕で初恋の君を汚したくないとのことで。
これには国王陛下も私も苦笑いであった。
経済力、頭脳に関しては全く問題ない。
顔も、最高級レベルで良い。
いざという時に大切な人を助けられるように、と鍛錬を欠かさないため、彫刻のように美しく鍛えられた肉体。
私も鍛えてるが、もう殿下を一人で運ぶのは無理そうだ。
殿下が色々勉強して、ここまで努力するのも。
全ては初恋の君を迎えるため。
……数分会話しただけでそこまで思い入れできるストーカー気質が気持ち悪いな。
全ての美点を凌駕するキモさである。
ドン引きである。
しかし、そのくらいの根性がないと、他人の一生を支えることは難しいかもしれない。
まして、男同士である。
よし、まずはテストだ。
†††
雪哉様の従兄妹である、美雪嬢に事情を話したところ。
快く協力を申し出てくれた。
シンデレラ作戦というプランも出してくれた。
女性のツボは女性にしかわからないだろう。いや、雪哉様は男性だが。
雪哉様と瓜二つに育った彼女の振袖姿の写真を手に入れ、殿下に見せてみた。
しかし、良く似た別人だと、一瞥で判断し、興味を示さず。
実の親ですら見間違うという写真だそうなのに。
何をもって判断しているのだろう?
野生の勘か。
しかし、それでいい。
ここで惑わされるようでは、彼の夫として、不合格である。
私は殿下に告げた。
「アスラン殿下の初恋の君、特定出来ております。準備も整い、ご希望通り、殿下の誕生日に式を挙げることも可能かと」
「おお、ようやくか。これで安心して求婚に向かえる」
いい加減、自力で探そうとしていたところだったようだ。
危なかった。
その気になれば、秒で見つけてしまうだろう。
恐るべしストーカーである。
†††
「して、彼女の名は?」
「仕事したら教えてあげます」
殿下が寄付をされてる茶道の家元が、茶会をするので。
それに参加するよう言った。
美雪嬢は怪我をしたと偽り欠席し、代わりに雪哉様を寄越す手筈である。
殿下に見せた写真と同じ着物で。
さて、計画通り行くといいが。
「……私に見合いでもさせたいのか?」
状況はそれに近い。
しかし、目的は別にある。
「いいえ、仕事です。全員由緒正しい大和撫子で振袖姿の若い女性が集まりますが、手を出してはいけませんよ? 後宮作りたいなら別ですが」
「手など出すか!」
冗談だと言うのに、真面目に怒るのだ。
この殿下は。
留学予定の時期を早めて、国を飛び出した。
側近である私も無論、一緒にである。
大学の試験も、難なく首席合格。
殿下は目立ちたくないからと辞退したため、次席の私が挨拶をする羽目になった。
そこで成績優秀者は後々も寮長など面倒ごとを押し付けられることを知る。そう、私は矢面に立たされたのだった。
これも職務のうちと我慢したが。
殿下は最短で理工学部を卒業した。
が、学科を変えて医学を学ぶためまた入学。
在学生が先輩と呼ぶべきか新入生なのか混乱してたのも愉快だった。
医師免許は取得しなかったものの、論文を書いて博士号はとったようだ。
雷が人に与えるダメージについての論文だった。
王妃の死は、殿下にどれほどの影響を与えたのだろう。
†††
大学には隣国のアホ王子も在学していた。
こっちは真実、アホである。
今のうちに恩を売っておくのもいい、と言いながら手助けしてしまうあたり、殿下も甘い。
殿下は以前から国の企業のいくつかを任されていて、謎の若手実業家として稼いでいた。
まさか取引先も、相手がまだローティーンの子供とは思いもよらないだろう。面会が必要な場合は影武者も用意されていた。
そうして稼いだ金で、まだマクランジナーフの所有していないマスコミ各社やスポンサーの株を着々と買い占めていた。
こうして世のマスコミを黙らせているのか……、と感心した。
多くの国民は何故情報が国外に出ないのか、不思議に思っているようだが。
それも仕方ない。
あの国には表に出せない秘密が多すぎる。
†††
大学で様々な企業や王家の子息とコネクションを築き、所有の会社は業績をあげ。
殿下は個人でも大金を稼ぐようになった。
その金で、自宅を建設した。
殿下が20歳になった時、国王陛下は王位をアスラン殿下に譲って隠居する、と公言されている。
またすぐに王宮に戻ることになるのでは? と言ったが。
それまでは自由を満喫したいとのこと。
ヤマトナデシコの趣味は読書であった、と言い、図書室の内容を充実させていた。
通常、趣味が読書というのは特に趣味のない人の言い訳である。
しかも10年前なら、趣味も変わろうというものだ。
今回は事実だったので、黙っていたが。
自宅の見取り図を書いて。
自分用かと思ったら、嫁に渡すのだという。
皆が皆、殿下のように自宅で迷子にはなるとは限りませんよ? という言葉は心に秘めておく。
いつ何がブーメランになるかわからないので。
†††
日本の調査班からは、度々荷物が届いていた。
雪哉少年……いや、もはや雪哉様とお呼びしよう。
雪哉様の書かれた作品の載った本やエッセイの載った雑誌が主で。
それらがようやく、一冊の本になったのだ。
ああ。
殿下に付き合って日本語を勉強しておいて良かった。
翻訳することなく自分で読める、この幸せよ。
とある事情で彼の投稿作を読んで以来、すっかり虜になってしまったのである。
彼の書く文章は、日本在住の諜報班、調査班までも魅了してしまった。
彼はとても心優しく、繊細な性格のようで。
殿下がいきなり訪ねて行ったら驚いてショック死してしまいそうだ。
できればそっとしておきたいものだが。
しかし、残念なことに日本の読者には見る目がなく。
本の売り上げは不振なようで。
出版社は次回作を刷るのに躊躇しているとのこと。
筆を折ることがないといいのだが。
……ハッ、その資金、殿下に出させればいいのでは?
†††
ここまでのアスラン殿下の評価は、概ね良いものだが。
しかし、雪哉様の婿としてはどうだろう。
閨中指南を向かわせても、返してしまう一途さ、潔癖さ。
他の女を抱いた腕で初恋の君を汚したくないとのことで。
これには国王陛下も私も苦笑いであった。
経済力、頭脳に関しては全く問題ない。
顔も、最高級レベルで良い。
いざという時に大切な人を助けられるように、と鍛錬を欠かさないため、彫刻のように美しく鍛えられた肉体。
私も鍛えてるが、もう殿下を一人で運ぶのは無理そうだ。
殿下が色々勉強して、ここまで努力するのも。
全ては初恋の君を迎えるため。
……数分会話しただけでそこまで思い入れできるストーカー気質が気持ち悪いな。
全ての美点を凌駕するキモさである。
ドン引きである。
しかし、そのくらいの根性がないと、他人の一生を支えることは難しいかもしれない。
まして、男同士である。
よし、まずはテストだ。
†††
雪哉様の従兄妹である、美雪嬢に事情を話したところ。
快く協力を申し出てくれた。
シンデレラ作戦というプランも出してくれた。
女性のツボは女性にしかわからないだろう。いや、雪哉様は男性だが。
雪哉様と瓜二つに育った彼女の振袖姿の写真を手に入れ、殿下に見せてみた。
しかし、良く似た別人だと、一瞥で判断し、興味を示さず。
実の親ですら見間違うという写真だそうなのに。
何をもって判断しているのだろう?
野生の勘か。
しかし、それでいい。
ここで惑わされるようでは、彼の夫として、不合格である。
私は殿下に告げた。
「アスラン殿下の初恋の君、特定出来ております。準備も整い、ご希望通り、殿下の誕生日に式を挙げることも可能かと」
「おお、ようやくか。これで安心して求婚に向かえる」
いい加減、自力で探そうとしていたところだったようだ。
危なかった。
その気になれば、秒で見つけてしまうだろう。
恐るべしストーカーである。
†††
「して、彼女の名は?」
「仕事したら教えてあげます」
殿下が寄付をされてる茶道の家元が、茶会をするので。
それに参加するよう言った。
美雪嬢は怪我をしたと偽り欠席し、代わりに雪哉様を寄越す手筈である。
殿下に見せた写真と同じ着物で。
さて、計画通り行くといいが。
「……私に見合いでもさせたいのか?」
状況はそれに近い。
しかし、目的は別にある。
「いいえ、仕事です。全員由緒正しい大和撫子で振袖姿の若い女性が集まりますが、手を出してはいけませんよ? 後宮作りたいなら別ですが」
「手など出すか!」
冗談だと言うのに、真面目に怒るのだ。
この殿下は。
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