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大和撫子、砂漠の王子に攫われる
ムハージル国王、発見
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おっと、人の足、発見!
毛玉がその周りを跳ねてる。
……その人の身体が詰まってて、そこから先には行けないようだ。
先が狭くなってて、詰まっちゃったのかな?
「ハルハダジャイダン?」
「مساعدة……」
くぐもった声が、辛うじて聞こえた。
これじゃ大声で助けを呼んでも、穴の外には聞こえないだろうな。
足をじたばた動かしている。
「ラー・タタハラク、サーイドゥラン」
暴れるのをやめたその人の足を掴んで。
引っ張ってみる。
でも、俺の力ではびくともしなかった。
脚のサイズも大きいし。
相当重いんだろう。
†††
「アスラン、見つけたけど、俺じゃ無理ー。俺の足、引っ張って出してー」
「ああ、大丈夫か? ……引くぞ、」
アスランは俺の両足を掴んで。
ずるずると、前にいた人ごと引っ張り出される。
すごい力だ。
穴に詰まってた人は痛い痛い、と言ってるけど。
我慢して欲しい。
俺だって、足を引っ張られて痛いのだ。
直接足を引っ張れる位置まで出たので。
俺はアスランに確保され、下がった。
探索隊が、数人掛かりで男を引っ張り出している。
アスラン、凄いな。
「無茶をするな。ユキヤも出られなくなってしまったらどうする」
俺の乱れた裾を直して、浴衣に付いた砂を払い落として。
ぎゅっと抱き締められた。
心配しすぎだよ。
「あの子たちは俺を、そんな危険な場所には連れてかないと思うよ?」
だって。
神様のお使いなんだし。
†††
わっ、と。
安堵したような声がした。
王族らしく、豪華な衣装に包まれた青年が穴から出てきた。
頭に被った布を直している。
ちょっとやつれている様子だけど。
目立った外傷はないし、無事なようだ。よかった。
わりと大柄なのに、あんな狭い所に入ろうとするなんて。
無理をするなあ。
あの穴、俺がギリギリ通れるくらいだぞ?
飛び込んだの?
まさかあんな狭い空気穴の中に居たとは、と。
みんな驚いていた。
確かに、この体格で、あんな狭い所に入ってるとは思わないよな。
もし、神の使いが現れなかったら。
いつまでも発見されずにいて、危なかったかもしれない。
『やれやれ、相変わらず人騒がせな男だな、ハマド。ハリスに託された手紙を見て、驚いたぞ』
ぐったりした男に、アスランが言った。
ハリスとは、あの鷹の名前のようだ。
男は、おお、アスランではないか、とアスランを見上げて呟いた。
二人は知り合いっぽい。
親しいのかな?
王族って言ってたし、王子仲間?
『……大事な物が、そこの穴に転がって入ってしまって。取ろうとしたら、穴に詰まってしまったのだ』
気を落としたように、がっくりと肩を落としている。
ああ、それでこんな無茶を……。
ハマドは最初、鷹に命じて取らせようと思ったけど。
どうもうまくいかなくて。
自分で取りに入ったら、うっかり詰まってしまい、もはや自力では前にも後ろにも行けない状態になってしまった。
助けを呼ぼうにも、みっしり詰まっていたせいで。
洞窟の中には声が届かなかったようで。
メモをするために手帳は持っていたので、どうにか手紙を書いて。
空気穴の先にいた鷹の脚に結び、飛ばしたという。
ハリスは鷹匠に預けてあるので無事だ、とアスランが言ったので、少しほっとしたようだ。
†††
そんなに大事な物なら、ちょっともぐって取ってきてやろうかな、と思って空気穴の方を見たら。
ちょうど空気穴から戻ってきた毛玉が、くわえていたものを俺の手に落とした。
……指輪だ。
落とし物を届けてくれた、お利口な毛玉を撫でてやる。
賢くて可愛いとか最強じゃないか?
緑色の目を細めて。笑顔みたいに見えるな。
かわいい。
案内をしてくれたアメジストっぽい目の子も、俺の手の上に乗ってきた。
よしよし。いい子だな。
案内してくれて、ありがとう。
「もしかして、大事なものって、これ?」
アスランが失せ物とはあれのことか、と通訳して、俺を示すと。
『ああ、これだ! ありがたい。母の形見なのだ。……よかった……』
指輪を渡すと。
ハマドは心底ほっとしたようにへたりこんでしまった。
お母さんの形見だったのか。
そりゃ、必死になって探すよな。
「ハダーダジャディド」
「……إلاهة……」
ぽかんと口を開けて俺を見てると思ったら。
がしっと手を握られた。
それに驚いて、毛玉が逃げた。
ああ……。
今逃げちゃったの、あんたの命の恩人だぞ?
『ありがとう、美しいひと。わざわざ危険を冒してまで穴の中に入って助け出してくれた上、私の大切な宝までも取り戻してくれるとは。あなたは我が国の恩人ともいえよう。是非、我が国へ来てください。国をあげてお礼を……』
頭を下げられた。
いや、そんな。大袈裟だよ。
「ええと、恩人は俺じゃなくて、今逃げた毛玉……神様のお使いだよ、って言って? この人を探してくれたのも、指輪を持って来てくれたのも神様のお使いだし。俺は別に何もしてないってば」
アスランに助けを求める。
『結婚したことは報せたと思うが、改めて紹介しよう。彼は私の愛妻、ユキヤだ』
アスランは、ハマドの手から俺の手を取り戻し、得意げに言った。
知り合いなのに、結婚式には招待しなかったんだ……。
†††
『なんと。経済界の黒幕、魔王と恐れられる男の妻が慈愛溢れる女神とは、何の冗談だ?』
ハマドは肩を竦めた。
芝居がかった仕草も、俳優のような顔に合ってる。
アスラン、魔王とか呼ばれてるんだ……。
『冗談ではなく、ユキヤは”神の声を聴く者”だ。今も神の使いに導かれ、通常見つかるはずの無いハマドの居場所を見事探し当てることができたのだ。神の慈悲に感謝するが良い』
アスランが言って。
それを聞いたハマドはおお、と感心するように俺を見た。
だから変な風に買いかぶるのはやめてってば。
『神の声を聴く者……』
『結婚を祝いにも現れたとか』
『確かに、神の使いを操っていた』
『神の使いに、ハマド様の匂いを嗅がせているのを見たぞ』
作業員や捜索隊もざわざわしている。
……いや、だから、俺を拝むのはやめて。
一般人です!
†††
とりあえず、ハマドは念のため病院で検査をしてから、国に帰るそうだ。
少々脱水症状が見られたものの、元気だったようでよかった。
絶食慣れしてるのかな?
どういう知り合いなのか聞いたら。
アスランとは大学時代の同級生で。
レポートとか面倒見てたりしたけど、アスランだけスキップで先に卒業してしまったとか。
こちらの王族の間では、海外留学が主流らしい。
石を投げたら王族に当たりそうな学校って。
どんなセレブ学校だよ……。
毛玉がその周りを跳ねてる。
……その人の身体が詰まってて、そこから先には行けないようだ。
先が狭くなってて、詰まっちゃったのかな?
「ハルハダジャイダン?」
「مساعدة……」
くぐもった声が、辛うじて聞こえた。
これじゃ大声で助けを呼んでも、穴の外には聞こえないだろうな。
足をじたばた動かしている。
「ラー・タタハラク、サーイドゥラン」
暴れるのをやめたその人の足を掴んで。
引っ張ってみる。
でも、俺の力ではびくともしなかった。
脚のサイズも大きいし。
相当重いんだろう。
†††
「アスラン、見つけたけど、俺じゃ無理ー。俺の足、引っ張って出してー」
「ああ、大丈夫か? ……引くぞ、」
アスランは俺の両足を掴んで。
ずるずると、前にいた人ごと引っ張り出される。
すごい力だ。
穴に詰まってた人は痛い痛い、と言ってるけど。
我慢して欲しい。
俺だって、足を引っ張られて痛いのだ。
直接足を引っ張れる位置まで出たので。
俺はアスランに確保され、下がった。
探索隊が、数人掛かりで男を引っ張り出している。
アスラン、凄いな。
「無茶をするな。ユキヤも出られなくなってしまったらどうする」
俺の乱れた裾を直して、浴衣に付いた砂を払い落として。
ぎゅっと抱き締められた。
心配しすぎだよ。
「あの子たちは俺を、そんな危険な場所には連れてかないと思うよ?」
だって。
神様のお使いなんだし。
†††
わっ、と。
安堵したような声がした。
王族らしく、豪華な衣装に包まれた青年が穴から出てきた。
頭に被った布を直している。
ちょっとやつれている様子だけど。
目立った外傷はないし、無事なようだ。よかった。
わりと大柄なのに、あんな狭い所に入ろうとするなんて。
無理をするなあ。
あの穴、俺がギリギリ通れるくらいだぞ?
飛び込んだの?
まさかあんな狭い空気穴の中に居たとは、と。
みんな驚いていた。
確かに、この体格で、あんな狭い所に入ってるとは思わないよな。
もし、神の使いが現れなかったら。
いつまでも発見されずにいて、危なかったかもしれない。
『やれやれ、相変わらず人騒がせな男だな、ハマド。ハリスに託された手紙を見て、驚いたぞ』
ぐったりした男に、アスランが言った。
ハリスとは、あの鷹の名前のようだ。
男は、おお、アスランではないか、とアスランを見上げて呟いた。
二人は知り合いっぽい。
親しいのかな?
王族って言ってたし、王子仲間?
『……大事な物が、そこの穴に転がって入ってしまって。取ろうとしたら、穴に詰まってしまったのだ』
気を落としたように、がっくりと肩を落としている。
ああ、それでこんな無茶を……。
ハマドは最初、鷹に命じて取らせようと思ったけど。
どうもうまくいかなくて。
自分で取りに入ったら、うっかり詰まってしまい、もはや自力では前にも後ろにも行けない状態になってしまった。
助けを呼ぼうにも、みっしり詰まっていたせいで。
洞窟の中には声が届かなかったようで。
メモをするために手帳は持っていたので、どうにか手紙を書いて。
空気穴の先にいた鷹の脚に結び、飛ばしたという。
ハリスは鷹匠に預けてあるので無事だ、とアスランが言ったので、少しほっとしたようだ。
†††
そんなに大事な物なら、ちょっともぐって取ってきてやろうかな、と思って空気穴の方を見たら。
ちょうど空気穴から戻ってきた毛玉が、くわえていたものを俺の手に落とした。
……指輪だ。
落とし物を届けてくれた、お利口な毛玉を撫でてやる。
賢くて可愛いとか最強じゃないか?
緑色の目を細めて。笑顔みたいに見えるな。
かわいい。
案内をしてくれたアメジストっぽい目の子も、俺の手の上に乗ってきた。
よしよし。いい子だな。
案内してくれて、ありがとう。
「もしかして、大事なものって、これ?」
アスランが失せ物とはあれのことか、と通訳して、俺を示すと。
『ああ、これだ! ありがたい。母の形見なのだ。……よかった……』
指輪を渡すと。
ハマドは心底ほっとしたようにへたりこんでしまった。
お母さんの形見だったのか。
そりゃ、必死になって探すよな。
「ハダーダジャディド」
「……إلاهة……」
ぽかんと口を開けて俺を見てると思ったら。
がしっと手を握られた。
それに驚いて、毛玉が逃げた。
ああ……。
今逃げちゃったの、あんたの命の恩人だぞ?
『ありがとう、美しいひと。わざわざ危険を冒してまで穴の中に入って助け出してくれた上、私の大切な宝までも取り戻してくれるとは。あなたは我が国の恩人ともいえよう。是非、我が国へ来てください。国をあげてお礼を……』
頭を下げられた。
いや、そんな。大袈裟だよ。
「ええと、恩人は俺じゃなくて、今逃げた毛玉……神様のお使いだよ、って言って? この人を探してくれたのも、指輪を持って来てくれたのも神様のお使いだし。俺は別に何もしてないってば」
アスランに助けを求める。
『結婚したことは報せたと思うが、改めて紹介しよう。彼は私の愛妻、ユキヤだ』
アスランは、ハマドの手から俺の手を取り戻し、得意げに言った。
知り合いなのに、結婚式には招待しなかったんだ……。
†††
『なんと。経済界の黒幕、魔王と恐れられる男の妻が慈愛溢れる女神とは、何の冗談だ?』
ハマドは肩を竦めた。
芝居がかった仕草も、俳優のような顔に合ってる。
アスラン、魔王とか呼ばれてるんだ……。
『冗談ではなく、ユキヤは”神の声を聴く者”だ。今も神の使いに導かれ、通常見つかるはずの無いハマドの居場所を見事探し当てることができたのだ。神の慈悲に感謝するが良い』
アスランが言って。
それを聞いたハマドはおお、と感心するように俺を見た。
だから変な風に買いかぶるのはやめてってば。
『神の声を聴く者……』
『結婚を祝いにも現れたとか』
『確かに、神の使いを操っていた』
『神の使いに、ハマド様の匂いを嗅がせているのを見たぞ』
作業員や捜索隊もざわざわしている。
……いや、だから、俺を拝むのはやめて。
一般人です!
†††
とりあえず、ハマドは念のため病院で検査をしてから、国に帰るそうだ。
少々脱水症状が見られたものの、元気だったようでよかった。
絶食慣れしてるのかな?
どういう知り合いなのか聞いたら。
アスランとは大学時代の同級生で。
レポートとか面倒見てたりしたけど、アスランだけスキップで先に卒業してしまったとか。
こちらの王族の間では、海外留学が主流らしい。
石を投げたら王族に当たりそうな学校って。
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