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大和撫子、砂漠の王子に攫われる
ヤマトナデシコ、神の声を聴く
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「雪哉様は、『神の声を聴く者』なのかもしれませんね。神の使いが姿を表すのは、本当に稀なことなのですよ」
シャオフーは言った。
あの不思議な生き物は、稀に、道に迷って困った人の前などに現れて道案内をしてくれたり。
夜に気温が極端に下がって砂漠で寒さに凍えていた人を取り囲み、その毛皮であたためてくれたりするそうだ。
ただし、悪人の下には現れない。善人が心底困っている時にだけ、現れるという。
そんなことが何度かあり。
いつしか、マクランジナーフの国民はあの不思議な生き物を”神の使い”と呼ぶようになった。
時々、その神の使いに好かれる人間が出て。
その人は、自然の声を聴き、災害などを予知し、国に幸福を招くといわれている。
それを『神の声を聴く者』と呼び。
現れると、国をあげて大切にするそうだ。
†††
「いやいや、とんでもない。俺は何の特殊能力もない、一般人だよ?」
おかしな風に買いかぶられても困る。
座敷童子か何かかよ。
「ユキヤは確かに、神の使いから好かれている。結婚式の日、私の腕にも来てくれたが。そこはユキヤが触れていた場所であった」
あ、そういえば王子の腕に乗ってたっけ。
教会の階段を降りる時、慣れないハイヒールが怖くて王子の腕にしがみついていたので。
それでそこに匂いが移ったのだろうと。
「ああ、美雪嬢のところへ行ったのも、雪哉様のヴェールを被せたからなのですね」
シャオフーも納得してるけど。
「ええっ、てっきり白い色が好きなのかと思ってたのに。そんな、触っただけでにおいがつくほど?」
思わず自分のにおいを確認してしまう。
俺、そんなにおうか?
こっちの水が肌に合わないとか? 加齢臭にはまだ早いはず……!
「昔は石鹸の香りだったが、今は、甘い花のような香りがするぞ」
くんくん襟足のにおいを嗅ぐな。
っていうか子供の頃から人の匂い嗅いでたのかよ!
変態っぽいな!
今更か。
†††
「まさか、雷に撃たれて体臭が変わったとか? ……あれ以来、何故か老けなくなったし……」
未だに女子高生の身代わりができるなんて異常だよな。
そういえばあの毛玉。
俺の手の上でうっとりとして、鼻をひくひくさせてたな。
あれって、手のにおいを嗅いでたのか?
可愛いから良いけど。
俺って不思議な生き物を呼び寄せるフェロモンでも出てるのかな? 王子も含めて。
「そうか……、私が見つけやすいよう時を止め、そのままの姿で待っていてくれたのだな……」
王子はしみじみと頷いている。
「おめでたい思考回路だな。ある意味羨ましい……」
「交渉向きではありますよ。こちらの要望はほぼ通しますし。かなり優秀な外交能力をお持ちです」
それ、力技って言わないか?
そんな王子を、無視して三日籠っただけで寝込むほど落ち込ませるとは、本当に愛されてるのですね、とか言われても困る。
「ああ、そうだ。ユキヤの”お守り”の修理が済んだのだ。家に届いているので、早く戻ろう」
と俺の手を引き、車が停めてあるスペースまで歩いた。
相変わらずのマイペースだ。
……といっても、俺の歩幅に合わせて歩いてくれてるけど。
†††
色々あったせいか、みんなお腹が空いていたので。
先に食事を済ませることにして。
加工場から届いたブレスレットを見せてもらうため、王子についていく。
そういえば。
何気に結婚指輪もプラチナだったな……。
……おい、何で寝室に届けさせてるんだ?
「ユキヤの手首に合うサイズに調整しようかと思ったのだが、やはり足首につけるのがよいかと思い、長さは変えていない」
つけるから、ベッドに腰掛けるように言われる。
別にソファーでもよくないか? って何を警戒してるんだか。
もう今更だよな。
洞窟で、王子のこと、受け入れちゃったんだし。
シャオフーが来なかったら。たぶん、あのまま身体を繋げてた。
†††
「いいと言うまで、目を閉じていてくれ」
箱を持った王子が、俺の前で跪いた。
「何だよ。なんかのサプライズか? 俺、サプライズとか嫌いなんだけど」
テレビの企画のサプライズプロポーズで。
フラッシュモブとか大金を使ったりして、人前で恥をかかせるのが忍びなくて断れない雰囲気を出すのがいやらしい、と思っているのは俺だけではあるまい。
サプライズのプレゼントや催しとかも、大抵相手の欲しいものとかじゃなく、やる側の独りよがりなのが多くて。
嬉しくなくても喜んでみせないとキレたりする奴いるし。
「……いいから早く」
微妙な顔をした王子に急かされて。
仕方ないので、おとなしくいうことをきいて目を閉じる。
しゃら、と音がして。
足首に、ひやりとした感覚。……ブレスレットの留め金をつけてるのかな?
王子にしては、もたもたしてるような。
「よし、いいぞ。目を開けたまえ」
「……前から疑問だったんだけどさ。その日本語、誰から教わったの?」
言いながら、目を開ける。
王子はまだ跪いた姿勢のままだった。
「私の言葉にどこか間違っている言い回しでもあったか? 日本から取り寄せたDVDだが? 身分の高い者に相応しい言葉を覚えるにはこれが最適であろうと勧められたのは、日本の時代劇だ。特に、سير أمير غنجيが最高だな。キモノが美しい」
げ、源氏物語……?
尊大な態度が帝っぽいっちゃぽいし、確かに似合ってるけど。
勧めたの誰だよ。シャオフーか?
あ。
右足首に、ブレスレット……いや、足用になったからアンクレットか。
いや、そんなことはどうでもいい。
「何で同じのが二本あるわけ!?」
まさか、ダミー作って惑わせようって訳じゃないよな?
本物の国宝はどっちだ、みたいな。
シャオフーは言った。
あの不思議な生き物は、稀に、道に迷って困った人の前などに現れて道案内をしてくれたり。
夜に気温が極端に下がって砂漠で寒さに凍えていた人を取り囲み、その毛皮であたためてくれたりするそうだ。
ただし、悪人の下には現れない。善人が心底困っている時にだけ、現れるという。
そんなことが何度かあり。
いつしか、マクランジナーフの国民はあの不思議な生き物を”神の使い”と呼ぶようになった。
時々、その神の使いに好かれる人間が出て。
その人は、自然の声を聴き、災害などを予知し、国に幸福を招くといわれている。
それを『神の声を聴く者』と呼び。
現れると、国をあげて大切にするそうだ。
†††
「いやいや、とんでもない。俺は何の特殊能力もない、一般人だよ?」
おかしな風に買いかぶられても困る。
座敷童子か何かかよ。
「ユキヤは確かに、神の使いから好かれている。結婚式の日、私の腕にも来てくれたが。そこはユキヤが触れていた場所であった」
あ、そういえば王子の腕に乗ってたっけ。
教会の階段を降りる時、慣れないハイヒールが怖くて王子の腕にしがみついていたので。
それでそこに匂いが移ったのだろうと。
「ああ、美雪嬢のところへ行ったのも、雪哉様のヴェールを被せたからなのですね」
シャオフーも納得してるけど。
「ええっ、てっきり白い色が好きなのかと思ってたのに。そんな、触っただけでにおいがつくほど?」
思わず自分のにおいを確認してしまう。
俺、そんなにおうか?
こっちの水が肌に合わないとか? 加齢臭にはまだ早いはず……!
「昔は石鹸の香りだったが、今は、甘い花のような香りがするぞ」
くんくん襟足のにおいを嗅ぐな。
っていうか子供の頃から人の匂い嗅いでたのかよ!
変態っぽいな!
今更か。
†††
「まさか、雷に撃たれて体臭が変わったとか? ……あれ以来、何故か老けなくなったし……」
未だに女子高生の身代わりができるなんて異常だよな。
そういえばあの毛玉。
俺の手の上でうっとりとして、鼻をひくひくさせてたな。
あれって、手のにおいを嗅いでたのか?
可愛いから良いけど。
俺って不思議な生き物を呼び寄せるフェロモンでも出てるのかな? 王子も含めて。
「そうか……、私が見つけやすいよう時を止め、そのままの姿で待っていてくれたのだな……」
王子はしみじみと頷いている。
「おめでたい思考回路だな。ある意味羨ましい……」
「交渉向きではありますよ。こちらの要望はほぼ通しますし。かなり優秀な外交能力をお持ちです」
それ、力技って言わないか?
そんな王子を、無視して三日籠っただけで寝込むほど落ち込ませるとは、本当に愛されてるのですね、とか言われても困る。
「ああ、そうだ。ユキヤの”お守り”の修理が済んだのだ。家に届いているので、早く戻ろう」
と俺の手を引き、車が停めてあるスペースまで歩いた。
相変わらずのマイペースだ。
……といっても、俺の歩幅に合わせて歩いてくれてるけど。
†††
色々あったせいか、みんなお腹が空いていたので。
先に食事を済ませることにして。
加工場から届いたブレスレットを見せてもらうため、王子についていく。
そういえば。
何気に結婚指輪もプラチナだったな……。
……おい、何で寝室に届けさせてるんだ?
「ユキヤの手首に合うサイズに調整しようかと思ったのだが、やはり足首につけるのがよいかと思い、長さは変えていない」
つけるから、ベッドに腰掛けるように言われる。
別にソファーでもよくないか? って何を警戒してるんだか。
もう今更だよな。
洞窟で、王子のこと、受け入れちゃったんだし。
シャオフーが来なかったら。たぶん、あのまま身体を繋げてた。
†††
「いいと言うまで、目を閉じていてくれ」
箱を持った王子が、俺の前で跪いた。
「何だよ。なんかのサプライズか? 俺、サプライズとか嫌いなんだけど」
テレビの企画のサプライズプロポーズで。
フラッシュモブとか大金を使ったりして、人前で恥をかかせるのが忍びなくて断れない雰囲気を出すのがいやらしい、と思っているのは俺だけではあるまい。
サプライズのプレゼントや催しとかも、大抵相手の欲しいものとかじゃなく、やる側の独りよがりなのが多くて。
嬉しくなくても喜んでみせないとキレたりする奴いるし。
「……いいから早く」
微妙な顔をした王子に急かされて。
仕方ないので、おとなしくいうことをきいて目を閉じる。
しゃら、と音がして。
足首に、ひやりとした感覚。……ブレスレットの留め金をつけてるのかな?
王子にしては、もたもたしてるような。
「よし、いいぞ。目を開けたまえ」
「……前から疑問だったんだけどさ。その日本語、誰から教わったの?」
言いながら、目を開ける。
王子はまだ跪いた姿勢のままだった。
「私の言葉にどこか間違っている言い回しでもあったか? 日本から取り寄せたDVDだが? 身分の高い者に相応しい言葉を覚えるにはこれが最適であろうと勧められたのは、日本の時代劇だ。特に、سير أمير غنجيが最高だな。キモノが美しい」
げ、源氏物語……?
尊大な態度が帝っぽいっちゃぽいし、確かに似合ってるけど。
勧めたの誰だよ。シャオフーか?
あ。
右足首に、ブレスレット……いや、足用になったからアンクレットか。
いや、そんなことはどうでもいい。
「何で同じのが二本あるわけ!?」
まさか、ダミー作って惑わせようって訳じゃないよな?
本物の国宝はどっちだ、みたいな。
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