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大和撫子、砂漠の王子に攫われる

王子の新居と、砂漠の風呂

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王宮の中も案内しようか、と言われたけど。
あんなでかい城の端から端まで歩いたらフルマラソンより疲れそうなので断った。

だってあれ、車で移動するような距離じゃないか。
ウエディングドレスにハイヒールでそんな長距離歩けないっての。


それでは、今日は外から見るだけにして我が家に帰ろう、と。
車を方向転換させ、王子の家へ向かったわけだが。


”実家”もそうだったけど!
こっちもって規模じゃないじゃん!

お屋敷じゃんか!
それも豪邸だよ! 茶道の総本家より広いよ!!

これもう立派なお城だよ!!


†††


さすがに喚きたてるのはみっともないとわかっているので、心の中で思いっきり突っ込んでおく。


まあ、王子が寄付したお金で大きくなった茶道の総本家より王子の家が広いのは、当然のことなのかもしれないけど。
うう……、1DKのアパートが精一杯な自分の稼ぎが情けなくなる……。

いいんだ。
生きてるだけで丸儲けって言うし。

落雷で助かって、残りの人生の運を全て使い果たしたと思えば……。
いや良くない。


しかし。お金持ちってのは、どうして皆、屋敷の入口とかにエレファントの像とか、巨大なオブジェを置きたがるのだろうか……。

ここのオブジェはライオンだった。
それも、金色のライオンだ。ゴールデン・ライオン。ゴージャスだね。

……メッキですよね? オール24金だとか言わないよな?
は? 強度を考えて18金にしたから安上がり? メッキは剥げるからもったいない? こんな置物に金を使う方がもったいないだろバカなの?

ちょっと待って? 目にはまってる、あのキラキラした石も、まさか、本物の宝石とか使ってないよね?
……プラスチックは劣化するから駄目? ああそう。

え? ”アスラン”はトルコ語でライオンって意味なの? だからこの家のモチーフはライオンにした? ……へー、そうなんだー。

自分の巨大な銅像ぶっ建てるよりはマシかな……。


うう……。
”家”の中に入る前からだいぶ疲れてしまったじゃないか。


†††


ぐったりしつつ、ド派手な入口を通り過ぎると。

高い吹き抜けの天井には、繊細な幾何学模様が描かれていた。
わー、東京駅丸の内口みたい、と思ってしまう一般人。上野の科学博物館の天井も見事だよな。


吹き抜けの謎空間には、使用人一同が集まっていた。
この家の主人である王子と、ウエディングドレス姿の俺に向かって、一斉に恭しく礼をした。

一般家庭には使用人なんていないぞ、という突っ込みはしない。
そこは生まれながらの王子様だからな。仕方ない。

その生粋の王子様は。
使用人に対し、彼が私の妻だ、という妙な説明をしている。

そういや神父も”him”なのに”wife”って言ってた気が……。

教会で、結婚相手の”ヤマトナデシコ”が男だっていう説明は、俺が父さんにエスコートされて出てくるまでに済ませてたんだろうか? なんか普通に祝われてしまったが。
王子の相手が女装の男なのに大騒ぎにならないって、すげえ開かれた国だなマクランジナーフ。


「ようこそ我が家へ。今日からここはユキヤの家でもあるのだから、王者のように楽にしてくれたまえ」
王子は舞台役者のように、大袈裟に腰を折ってみせた。

王子だからか、一挙手一投足、どんな動作をしても優雅でかっこよく綺麗に見えるんだよな。
つい目を奪われてしまう。

一目惚れしたという相手を脅して無理矢理連れ去るクソ根性はともかく、お育ちはいいもんな……。


「これが我が家の見取り図だ。慣れぬ内はこれを持っているがよい」
と、紙を渡された。

地図が必要な自宅なんて見たことねえよ! 今初めて見たわ!


†††


入り口に、今いるここが、吹き抜けのあるエントランスホール。左右に分かれた螺旋階段で二階へ上がる。
ここ、ニ階建てなのか。へえ、天井高いんだな。


二階は全部、夫婦のスペースとは贅沢だな。
何畳あるの?

……え、これ、風呂? 風呂場広すぎない? 縮尺間違ってないかこれ。

しかも風呂の隣が夫婦の寝室ってさあ。布団とか、湿気吸ってカビそう。
トイレと風呂が一緒のユニットバスも、トイレットペーパーが湿っぽくなるらしいし。

そもそもここは砂漠だから、湿気を好むカビは存在しないのかな?
ほらあの、風呂に出る、黒いやつ。

まあ掃除係の人が毎日掃除してくれるみたいだし、カビなんか生えないか。

ルームシアターって規模じゃない、ほぼ映画館みたいなスペースがあるのはともかく。
ダンスフロアとかって、絶対必要なのか? 俺はダンスなんて知らないし、踊らないからな?


一階には食堂や応接間。
台所は基本的に使用人しか入らないという。上流階級あるあるかな?

この先は使用人のプライベートスペースなので立ち入り禁止、なんて区域まである。
使用人、住み込みなんだ。通うの大変そうだもんな……。


……大丈夫だよ、privateとspaceくらいは読めるから。
ふりがな振ろうとしなくていいって。

大抵の日本人は英会話が出来なくても読み書きだけはできるんだよ。

おかしいって? 変だとは俺も思ってる。
苦情は文科省に言ってくれ。


……いや、本当に言わなくていいからな?


†††


見取り図の説明書きがほぼ日本語なのは、王子のお手製だからだそうだ。

この見取り図、王子が自分で書いたの? 手先が器用なんだな。
なるほど、欠点は性格だけか。


「……俺の部屋とかは?」

夫婦の部屋や寝室、王子の仕事部屋とかはあるけど。
見事に客間とかは無いのな。

「夫婦なのに、必要ないだろう……と言いたいところだが。慣れるまでは一人になれる場所がないとストレスで弱ってしまうのだろう? 故に、検疫が終わればユキヤの部屋をそのまま再現した空間を作らせる予定だ」
すまし顔で何を言ってるんだか。

……おい、俺は小動物か何かか?


俺の部屋にあった荷物は、検疫や消毒が済み次第、すぐに送らせるそうだ。

俺自身の検疫とかはいいのか? と思ったら。
ジェット機に乗る前、振袖に着替えた部屋の照明が日光のように滅菌効果のあるライトで。振袖も滅菌済みだったそうだ。
徹底してんだな……。


あの可愛い生き物のためなら、厳重なのも納得だけど。


†††


「では、行こうか」
王子に手を引かれ、腰を支えられて。

食堂はあっちだ、などと説明される。


いや、もう見取り図見たし、わかってるっての。

緩やかなカーブを描く階段で、二階へ上がる。
大きな螺旋階段のあるか……。


「風呂にはここからも入ることが可能だが。内鍵がついているので安心だ」

そう言って、王子が廊下側からドアを開けると。
更衣所的なスペースがあった。

何が安心なんだ? 風呂でのぼせて倒れたとき?


おお。
湯船と床は段差がなくフラットな真っ白い石? で。
湯は掛け流しっぽい。

砂漠の国なのに、贅沢だな。


大きな窓からは、広大な砂漠が見える。
風呂、外から丸見えでは? 解放的すぎない?

近隣に家はないから大丈夫? 王子の家を除くような慮外者もいないから平気だって。
慮外者って……。

パパラッチとか盗撮に来ないなら、別に平気かな?


†††


しかし、綺麗な風呂場だなあ。

……何で湯船に薔薇の花びらとか浮いてんの? かぐわしいな!
女子かよ。


「新婚だからと、皆、気を遣ったのだろう」
と言って。

王子は後ろ手に、風呂の内鍵をカチリと閉めた。


何か、ものすごく嫌な予感がするんだが。
気のせいだといいなあ。

「風呂でゆっくり身体を解してから、寝室へ行こう」
笑顔のまま、俺の腰に手を回してきた。


…………え?
ナニをほぐすって?

寝室へ行こう、って。まだ昼間だぞ?
寝るには早いと思うが。


そういえば。
結婚式の後って。

通常、初夜って言うんだっけ? まだ夜じゃないけど。


つまり。
夫婦の、めての、ってやつ……?
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