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アレックス

可愛い子猫のおねだり

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「水の精霊さん。力を貸して」
と、お願いしただけで。

『いいわよ。かわいい子猫ちゃん。何のご用かしら?』

眷属ではなく、四大精霊である本体が。
水の精霊ウンディーネが、実体化、いや、現界した!?

しかし、軽いな! 
こんな優しげな水の精霊、初めて見たぞ。


「ええええええ!?」
イアソンが驚いてるが、俺もびっくりだ。

「あの、ここに雨を降らして欲しいんだ。いっぱい」
ルーファスが描いた地図の、上側を指すと。

『お安い御用よ』
対価も要求せず、水の精霊は消えた。


指定の位置辺りで、雨雲が発生している。

おいおいおい……。
そんな張り切って土砂降りにしなくても……。

しかし、その気持ちもわからないでもない。
俺だって、可愛いにゃんこに可愛くお願いされたら、そりゃ張り切る。全力で行く。


*****


「土の精霊さん。力を貸して」

『喜んで力を貸すぞ。かわいいミケ猫ちゃん』
何だと!? 土も来た!?

ユキミは、また例の地図を指して。
「あの、ここら一帯の植物や動物を、避難させてあげたいんだけど……」
『簡単じゃ』


……そうか。
簡単か。地形変動が簡単と言うのか。

ほいほい言うこと聞いてしまうのか。
気難しいと評判の土の精霊ノームまで。そんな好々爺っぽい笑顔して。

イアソンだけでなく、俺も遠い目をしていたと思う。


「詠唱も対話も対価もナシで精霊が二つ返事とか……何なのもう……」
イアソンが、かつてないほどへこんでいる。

かなり苦労して、火の精霊イフリートと契約したのを知ってるだけに、気の毒としか言いようがない。
ユキミは、難なく火の精霊も風の精霊シルフィードも呼んで、あっさり使うだろうな。
さっきみたいに。

「ほら、神子だし。精霊だって、喜んでいうこときくだろ……」
なにしろ、四大精霊の生みの親である神の使いである。


しかし、水と土の精霊を使って、何をしようとしたのだろう。
彼らは攻撃的なことを嫌うが。

「ユキミ、精霊に何をお願いしたんだ?」

ユキミは、かわいい笑顔で。
「罠張ってるかもだから、敵のアジトを流そうかと思って」


曰く。
木の根がない土は、雨で簡単に流れる。

斜面にある家は、土ごと崩れて流れ落ちる。
つまり、わざと土砂崩れを起こさせようというのだ。


「は!?」
凄い力技だった。

それを。
いとも簡単に成し遂げたのだ。


*****


精霊は、少々張り切りすぎたようだ。
ユキミが予想したよりも土砂崩れの威力が強すぎて、小屋の中は散々な有様だったらしい。

かわいそうに。
ユキミはしょんぼりしてしまって。

抱き上げたら、甘えるようにくっついてきて、寝てしまった。
精神的に、疲れたのだろう。


小屋はティグリスが解体し、死体はアーノルドが浄化した。

暗号で書かれたメモなどは無事だったようで、イアソンが解読を急いでいる。
潜伏地の予想はついたらしく、次の行き先は決まった。


次に向かうのは、”黄昏の町”。

過去、近くに鉱山や侯爵の屋敷があり栄えていたが。
廃坑、廃爵により、かつての繁栄も、今は翳りをみせてきている。

この町の近くに、未だ廃屋がいくつか残っている。
やつらはそこを根城にしているようだ。


*****


宿を取り。
広間で夕食後、会議をした。

イアソンがユキミに守護獣の話を説明していた。
知りたいことがあれば、俺に聞いてくれればよかったのに。


獣を極限まで飢えさせ、人を呪わせ。
それを惨殺し、殺意だけしかない獣の魂を作り、憑かせる。

悪神信奉者たちは、そんなおそろしい方法で、より強く邪悪な”ケモノ”を作ろうとしているようだ。


「他に聞いておきたいことはある?」
イアソンが何故かやたら親切になっている。

「これは、精霊も二つ返事できいちゃうのわかるよ……」

そうだろう。
お願いされたら張り切ってしまうの、わかるよな。


何故かその後、ティグリスがユキミに耳や尾を見せてやったり。
スウェーンが滅多に出さないウサギの耳を出したりして。

……何のアピールなんだ、お前ら。

ユキミもユキミだ。
俺のツガイだというのに、他の男の尾を、気安く触るものじゃない。


我ながら、心が狭いとわかっている。
だが。

俺だけのものにしたい。閉じ込めてしまいたいと思う。

この荒れ狂う感情を。
どうにか抑えようとしているのに。


「じゃあ、アレックスだけのものだって、教えて?」

濡れたような瞳で。
上目遣いで俺を見て。俺の尾を掴んで。

どうしてそんなに、俺を煽るんだ。

小悪魔にゃんこめ!


*****


何度口付けても初々しい反応をして。物慣れない様子が可愛い。

それなのに。
抱いてしまえば、淫らに求めてくる。

どれだけ俺を夢中にさせたら気がすむのか。


「ふぁ、あっ、あん、」

甘い声を上げて。
俺の指を、貪欲に咥え込む。

狭いのに、柔軟に俺を受け入れてくれる入口。

しっぽを俺の腕に絡ませてくる。
くすぐったいが。

愛おしくてたまらなくなる。


まだ固い蕾を解して。
柔らかくなれば食べ頃だ。

「ユキミ、」

「ん、」
腰を突き出すように上げて、しっぽを上に。

どうぞ召し上がれ、とばかりに差し出されて。
浅ましいくらいに貪ってしまう。


俺の可愛いツガイ。愛している。
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