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アッシュ:断罪
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その日。
イズミは頭痛がするといって、早めに床についたとジャファルが言った。
イズミは魘されていた。
また、例の夢を見ているのか。
かわいそうに、と思う。悪夢から救ってやりたい。
しかし、わたしにはどうにもしてやれない。
悪夢の元凶はここにいるわたし自身なのだから。
悲鳴を上げて飛び起きたイズミに、いつものように水を渡すが。
イズミは、呆然とわたしを見ていた。
普段わたしを見るのとは、違う目つき、違う感情を感じた。
服を脱がし、肌に伝わる汗を舐め取ると。
びくりと震えた。
「いや、やだ……、」
反射的に。
抗うように、胸板を押された。
……まるで、はじめて、そうされたような反応。
震え、怯え。
わたしを拒む、その残酷なまでの反応で。
確信せざるを得なかった。
……ああ、イズミは思い出したのだ。
すべての記憶を。
わたしの犯した罪を。
その、怯えた視線に。
薄氷の上で成り立っていた、仮初の蜜月の終わりを知る。
†††
「イズミ? 何故、震えているんだい?」
耳たぶを甘噛みしながら、囁いた。
イズミはやはり怯えたように、わたしを見ている。
抱き締めても。
もう、いつものように甘えてはくれない。
「こわがらなくていい。わたしに逆らわなければ、ひどくはしないよ?」
脅しているも同然だった。
しかし、このやり方でなければ、イズミはわたしを受け入れてはくれないだろう。
わたしは、記憶を取り戻したイズミを犯した。
イズミは逆らわなかった。
ただ、怯えた目でわたしを見て。
おそらくは、記憶を失っていた時期の記憶もあるのだろう。
逆らっても無駄だとわかっているから、凌辱に耐えているのだ。
行為に慣れた身体は、いつも通りにわたしの愛撫に反応し、受け入れてくれているのに。
心はわたしを拒んでいる。
それならそれで、やり方を変えよう。
今までは子供相手だと思い、初めての時以来、ずっと手加減をしていた。
しかし。イズミはもうすぐ成人だ。
大人のセックスを教えてやろう。
お互い、愉しめるように。
拒むなら、拒めばいい。
記憶が戻ろうと、わたしはきみを手放すつもりはないのだから。
その身体に、更なる快楽を教えて。
わたしから離れられないような、淫らな身体にしてやらなくては。
わたしは明け方まで、思う存分イズミを味わった。
†††
仕事をしていたら。
ジャファルが用意したのか、車椅子に乗って、イズミが仕事部屋に来た。
歩けないほど、してしまったせいか。
そこまで身体をつらくしてしまったのはわたしだが。
「イズミ? 寝ていなくていいの?」
イズミは口を尖らせ、拗ねたように言った。
「……オレに寝てなくちゃいけないようなことをしといて、一人にすんな」
一人で寝ているのが寂しかった?
だから。
身体がきついのに。
わざわざ車椅子に乗ってまで。わたしに会いに来てくれたというのか。
胸に、何だか熱いものがこみ上げてくる。
「…………わかった。本日の仕事はすべてキャンセルして、添い寝を……」
「オレがここにいるから! 仕事はしてくれ!」
傷む腰を押さえながら、ちゃんと仕事をしろ、と叱られてしまった。
記憶を取り戻したイズミは、相変わらずイズミだった。
その愛らしい性格は変わっていなかったのだ。
それが嬉しかった。
すぐにでも添い寝をして子守歌でも歌ってやりたかったが。
イズミにちゃんと仕事をしろと言われたからには、放り出す訳にもいかない。
イズミをソファーに運び、毛布をかけてやった。
視線を感じる。
イズミは真っ黒い大きな目で、わたしが仕事をするところをじっと見ている。
これは張り切らずにはいられない。
出来る男のように見えていればいいが。
我ながら単純だとは思う。
いくら一人前に仕事をこなしていようと、ただの恋する男である。
好きな相手の前では見栄の一つも張りたくなるものだ。
†††
「アッシュ。オレは日本で行方不明扱いになってるのか?」
「……ああ」
そういえば、いい加減イズミの生存報告しないと。
ムスタも心配しているようだし。
いつまでも行方不明のままでは、死亡届を出されてしまう。
「家族に生存報告はして欲しいんだけど。あと、泉水はアッシュと結婚するから帰りませんって言いたい」
「……ああ…………え?」
今、何と言った?
アッシュと結婚するから帰りません?
わたしと? イズミが?
本当に?
「ビザとかパスポートとかよくわかんないから、アッシュに任せていい?」
頷いてみせ。
「すぐに手続きを済ませる」
取り急ぎ、各所にメールを送る。
日本の外務省、法務省。我が国の外務、法務、大使館、広報と。
父にも連絡を入れなくては。
イズミのご両親に報告は? 今すればいいのか?
あとはスケジュールの変更と。
会場を抑えておかねば。
イズミがその気になってくれたなら、結婚式は盛大に挙げたい。
国際電話の使い方を教えて。
家族に連絡したいというイズミに電話を手渡した。
†††
家族との会話を聞いて。
浮かれていた気分が、冷水を浴びせられたように冷えた。
イズミはわたしが、少しなら日本語が理解できることを知らなかったのだろう。
いつかイズミの両親に挨拶をするために、練習していたことも。
イズミは親に、結婚の報告などしなかった。
しばらくは帰れない、と伝えただけで。
そうだ。
イズミは、わたしに閉じ込められて。
無理矢理犯されたのだ。
そんなことをしたわたしを。
……好きになど、なってくれるはずがなかったのに。
勘違いして浮かれた愚かなわたしを笑いたくば笑えばいい。
それでもわたしはイズミを愛することを止められない。
どうにかしてわたしに嫌われようと、色々考えているのだろう。
無茶なおねだりをして、甘えてみせればわたしがきみを嫌うとでも?
そんなことでわたしがイズミを嫌うわけがないのに。
むしろ喜んで貢ぐし、もっと甘えて欲しい。
甘えて、頼って。
わたしがいなければ生きていけないくらいになればいいとさえ思う。
しかし、イズミは根が真面目なのだ。
無駄遣いはするな、と怒られてしまった。
そんな愛らしいことを言われては、さらに好きになってしまうではないか。
これでは、手放せない。
わたしが生きている限り、イズミを解放することはできない。
……ああ、そうだ。
ならば。
このわたしを、消してしまえばいい。
アブドゥルハーディーらは、この国のためにならないので、どうにかしなくてはいけない。
王子の命を狙えば、さすがに無罪放免とはいかないだろう。
わたしは計画を進めた。
イズミと、結婚式を挙げよう。……人生最後の思い出だ。盛大に行こう。
イズミは頭痛がするといって、早めに床についたとジャファルが言った。
イズミは魘されていた。
また、例の夢を見ているのか。
かわいそうに、と思う。悪夢から救ってやりたい。
しかし、わたしにはどうにもしてやれない。
悪夢の元凶はここにいるわたし自身なのだから。
悲鳴を上げて飛び起きたイズミに、いつものように水を渡すが。
イズミは、呆然とわたしを見ていた。
普段わたしを見るのとは、違う目つき、違う感情を感じた。
服を脱がし、肌に伝わる汗を舐め取ると。
びくりと震えた。
「いや、やだ……、」
反射的に。
抗うように、胸板を押された。
……まるで、はじめて、そうされたような反応。
震え、怯え。
わたしを拒む、その残酷なまでの反応で。
確信せざるを得なかった。
……ああ、イズミは思い出したのだ。
すべての記憶を。
わたしの犯した罪を。
その、怯えた視線に。
薄氷の上で成り立っていた、仮初の蜜月の終わりを知る。
†††
「イズミ? 何故、震えているんだい?」
耳たぶを甘噛みしながら、囁いた。
イズミはやはり怯えたように、わたしを見ている。
抱き締めても。
もう、いつものように甘えてはくれない。
「こわがらなくていい。わたしに逆らわなければ、ひどくはしないよ?」
脅しているも同然だった。
しかし、このやり方でなければ、イズミはわたしを受け入れてはくれないだろう。
わたしは、記憶を取り戻したイズミを犯した。
イズミは逆らわなかった。
ただ、怯えた目でわたしを見て。
おそらくは、記憶を失っていた時期の記憶もあるのだろう。
逆らっても無駄だとわかっているから、凌辱に耐えているのだ。
行為に慣れた身体は、いつも通りにわたしの愛撫に反応し、受け入れてくれているのに。
心はわたしを拒んでいる。
それならそれで、やり方を変えよう。
今までは子供相手だと思い、初めての時以来、ずっと手加減をしていた。
しかし。イズミはもうすぐ成人だ。
大人のセックスを教えてやろう。
お互い、愉しめるように。
拒むなら、拒めばいい。
記憶が戻ろうと、わたしはきみを手放すつもりはないのだから。
その身体に、更なる快楽を教えて。
わたしから離れられないような、淫らな身体にしてやらなくては。
わたしは明け方まで、思う存分イズミを味わった。
†††
仕事をしていたら。
ジャファルが用意したのか、車椅子に乗って、イズミが仕事部屋に来た。
歩けないほど、してしまったせいか。
そこまで身体をつらくしてしまったのはわたしだが。
「イズミ? 寝ていなくていいの?」
イズミは口を尖らせ、拗ねたように言った。
「……オレに寝てなくちゃいけないようなことをしといて、一人にすんな」
一人で寝ているのが寂しかった?
だから。
身体がきついのに。
わざわざ車椅子に乗ってまで。わたしに会いに来てくれたというのか。
胸に、何だか熱いものがこみ上げてくる。
「…………わかった。本日の仕事はすべてキャンセルして、添い寝を……」
「オレがここにいるから! 仕事はしてくれ!」
傷む腰を押さえながら、ちゃんと仕事をしろ、と叱られてしまった。
記憶を取り戻したイズミは、相変わらずイズミだった。
その愛らしい性格は変わっていなかったのだ。
それが嬉しかった。
すぐにでも添い寝をして子守歌でも歌ってやりたかったが。
イズミにちゃんと仕事をしろと言われたからには、放り出す訳にもいかない。
イズミをソファーに運び、毛布をかけてやった。
視線を感じる。
イズミは真っ黒い大きな目で、わたしが仕事をするところをじっと見ている。
これは張り切らずにはいられない。
出来る男のように見えていればいいが。
我ながら単純だとは思う。
いくら一人前に仕事をこなしていようと、ただの恋する男である。
好きな相手の前では見栄の一つも張りたくなるものだ。
†††
「アッシュ。オレは日本で行方不明扱いになってるのか?」
「……ああ」
そういえば、いい加減イズミの生存報告しないと。
ムスタも心配しているようだし。
いつまでも行方不明のままでは、死亡届を出されてしまう。
「家族に生存報告はして欲しいんだけど。あと、泉水はアッシュと結婚するから帰りませんって言いたい」
「……ああ…………え?」
今、何と言った?
アッシュと結婚するから帰りません?
わたしと? イズミが?
本当に?
「ビザとかパスポートとかよくわかんないから、アッシュに任せていい?」
頷いてみせ。
「すぐに手続きを済ませる」
取り急ぎ、各所にメールを送る。
日本の外務省、法務省。我が国の外務、法務、大使館、広報と。
父にも連絡を入れなくては。
イズミのご両親に報告は? 今すればいいのか?
あとはスケジュールの変更と。
会場を抑えておかねば。
イズミがその気になってくれたなら、結婚式は盛大に挙げたい。
国際電話の使い方を教えて。
家族に連絡したいというイズミに電話を手渡した。
†††
家族との会話を聞いて。
浮かれていた気分が、冷水を浴びせられたように冷えた。
イズミはわたしが、少しなら日本語が理解できることを知らなかったのだろう。
いつかイズミの両親に挨拶をするために、練習していたことも。
イズミは親に、結婚の報告などしなかった。
しばらくは帰れない、と伝えただけで。
そうだ。
イズミは、わたしに閉じ込められて。
無理矢理犯されたのだ。
そんなことをしたわたしを。
……好きになど、なってくれるはずがなかったのに。
勘違いして浮かれた愚かなわたしを笑いたくば笑えばいい。
それでもわたしはイズミを愛することを止められない。
どうにかしてわたしに嫌われようと、色々考えているのだろう。
無茶なおねだりをして、甘えてみせればわたしがきみを嫌うとでも?
そんなことでわたしがイズミを嫌うわけがないのに。
むしろ喜んで貢ぐし、もっと甘えて欲しい。
甘えて、頼って。
わたしがいなければ生きていけないくらいになればいいとさえ思う。
しかし、イズミは根が真面目なのだ。
無駄遣いはするな、と怒られてしまった。
そんな愛らしいことを言われては、さらに好きになってしまうではないか。
これでは、手放せない。
わたしが生きている限り、イズミを解放することはできない。
……ああ、そうだ。
ならば。
このわたしを、消してしまえばいい。
アブドゥルハーディーらは、この国のためにならないので、どうにかしなくてはいけない。
王子の命を狙えば、さすがに無罪放免とはいかないだろう。
わたしは計画を進めた。
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