砂漠の鳥籠

篠崎笙

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アッシュ:告白

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イズミが夜中に砂漠に出てしまい、行方不明になったことは、翌日には王宮とイズミのご家族にも知らせていた。
大規模捜索もしている、と。

しかし。
出入りの業者が奇跡的にイズミを発見したことを、かれらには知らせなかった。

意識の無い状態で運ばれ、看病で忙しかったというのを理由にして。
その時、イズミのこと以外頭になかったのは事実であるが。


発見から三日後。

全身の熱も下がり、ようやく目を覚ましたイズミは。すべての記憶を失い、言葉もわからない状態だった。
英語も日本語も。自分の名前だけでなく、何もかもわからない様子で。

熱により、脳神経を損傷したのでは、と医者は診断した。
しかし、幸い知性はあるようなので学習させれば社会復帰も可能だろうという見立てであった。

こうなったのはわたしの責任である。
この状態のまま放り出すわけにはいかないから、と自分に言い聞かせた。


本当は、手放したくはなかったのだ。
イズミを手に入れる、絶好の機会だと思ったから。

浅ましい考えだが。
わたしは、かれの親の元へ、イズミを戻してやることはできなかった。


そして。
イズミが言葉を話せるようになっても。

イズミが見つかったことを、未だに発表していない。


もう少しだけ一緒に居たい。
あともう少しだけ、と。ずるずると先延ばしをして。


†††


真っ白になったイズミに、わたしは言葉を教えた。

日本語でも英語でもなく、アラビア語を教えたのは、日本語を教えて、それがきっかけで記憶を取り戻さないように、との願いからだったのだろうか。


記憶を失っているだけで、知性はあったためか。イズミは乾いた砂が水を吸収するように言葉を覚えて、知識を得ていった。
一から教えるのも楽しかった。


イズミは、何かにひどく怯えていた。
言葉を話せない時も、夜は悲鳴を上げて目を覚ました。

大丈夫だよ、と言いきかせ、微笑んでみせて抱き締めると。
安心したように、わたしの腕の中ですやすやと眠った。


最初に目にしたのがわたしだったからか、ハリネズミのように警戒心の強かったイズミは、最初のうちはわたしが与えるものしか口にしなかった。

わたしがイズミのすべての世話をした。

わたしが傍に居ないと怯えて泣くので、片時も離さずにいた。

まるで子供を育てているようだったが。
わたしのイズミに対する愛情は、以前よりも増していた。


イズミがわたしに身を任せ、この手で全ての世話ができることに、愉悦を覚えていた。


愛おしくてたまらない。かわいいわたしだけの小鳥。
わたしが何を考えているかも知らずに、無防備に寝顔を晒して。

わたしは、精神が赤子のようになったイズミに対しても、劣情を抱いていた。


まだ自慰も知らず、溜めているのは成熟した身体に悪いだろうという名目で。
寝ている間に、かわいらしいペニスに吸い付き、その精を味わっていることにも気付かずに。

こんなわたしを信用しているのが哀れで、愛おしかった。


自分が異常であることは理解している。
だが、寝ているイズミに触れるのを止めることができなかった。


†††


言葉も覚え、意思の疎通が可能になり。
さすがにそろそろイズミの生存を報せなくてはと思い至った。

記憶を失って、どこかの施設で保護されていたのを発見したという事にして。
心配しているだろうイズミの家族にも連絡を入れようと。

そのくらいの良心は、まだあった。


「イズミもじゅうぶん言葉も話せるようになったし、大使館に連絡してみようか? 家族が見つかるかもしれないよ」
と提案した途端。

イズミは怯えて、パニック状態になってしまった。
鎮静剤が必要なほどに。


震え、泣きじゃくりながらイズミは言った。

暗闇の中、誰かから逃げている夢を見る。
捕まれば、怖い目に遭う。
それはそれはおそろしい夢なのだと。

だから、自分がここにいることは誰にも教えないで欲しい、と懇願された。


それを口実に。
わたしは、その通りにした。

そのまま、誰にも報せずに、イズミを”楽園”に閉じ込めることにした。
本人が望んだことだとうそぶいて。


皮肉なことだ。
夢の中でまで、わたしから逃げているというのに。

夜中、悪夢に魘され飛び起きるほど怯えているのに。
悪夢の原因である本人であるこのわたしに、助けを求めているのだから。


だが。わたししか頼る者がなく、わたしだけを見て。
わたしにすがり、必死に助けを求めるイズミがどうしようもなく愛しかった。


ずっとこのままで居られたら幸せだと思っていた。
そんなことは不可能だとわかっていたのに。


†††


イズミには、わたしの身分は教えなかった。
王子ではなく、ただのアッシュとして見ていて欲しかったから。

イズミがわたしを見る目は、憧れのようなものだった。恋情ではない。
それには気付いていた。


だが、わたしはイズミを抱きたかった。

すぐにでも衣服を剥いで、押さえつけて。その細い身体の、奥の奥まで貫いて。
一滴残らず己の精を注ぎ込み、においが沁み込むほど抱いて。

まっさらなイズミを滅茶苦茶に犯し尽くし、己の精で汚したい。自分だけのものにしたい、という凶暴なほどの劣情を抑えるのは、かなりの忍耐を必要とした。


イズミは驚くほど性に無関心だった。
元からそういった気質だったのだろうか? 性教育をしてもあまり反応がなく、自慰もしない。

ベッドを共にする度に、わたしがペニスに吸い付いているため、溜まらないからかもしれないが。


イズミから好きだと言われて。
我慢の限界が来た。

抗う身体を押さえ付け、力づくで犯してしまった。


はじめは嫌がって泣き叫んでいたが。
次第に声が甘くなっていった。

突き上げる度に、かわいい声で鳴く。
たまらなかった。

ペニスから零れる精が、イズミが味わっているのが苦痛だけではないことを教えてくれた。


イズミが気を失っても、抜きたくなかった。
抜こうとすると、引き止めるように締め付けられ。

わたしにとっても、初めての経験だった。
加減など、できなかった。


わたしは思う存分、イズミの中に欲望を注ぎ込んだ。


†††


イズミと結ばれた翌日の晩。


仕事を終え、寝室に戻って来たわたしを見て。
震え、泣きながら怯えるイズミを目の当たりにし、己のしたことに気付いた。

まだ何も知らない小さな子供を犯したようなものだった。


謝罪をし、もうしないと言おうとしたが。

イズミは、次は優しくして欲しい、と言った。

拒絶されなかった。
わたしを受け入れてくれたのだ。


二度目は腫れが引くのを待ち。
イズミの快楽を優先して、優しく抱いた。

怯えさせないよう、自分の欲望は抑えて。


何度かするうちに、後ろだけで達するようになった。
気持ちいい、アッシュが大好きだと言って、抱きついてくるようになった。

かわいい、わたしだけの小鳥。


それは仮初かりそめの蜜月であったが。
わたしは幸せだった。
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