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おまけ/ロレンツォの手記

サルヴァトーレとの出会い

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私はシチリアの一般家庭に生まれた。
だが、死神モルテと呼ばれた不吉な相貌ゆえか、周囲から疎まれて育ち。

気付けば、愚連隊の頭になっていた。
16の時点で既に銃の扱いや、効率の良い人体の壊し方なども心得ていた。


そんな私をヴァレンティーノの構成員にならないかと誘ったのは、ヴァレンティーノの末端構成員だという、気さくな男だった。

その死神のような容姿はむしろ相応しい、と。
当時首領代理だったマリオ・ヴァレンティーノに気に入られ。

血の掟オメルタ”を誓い、ヴァレンティーノ一家の一員となった。


私はくだらない暴力に使っていた時間を、社会的知識を得たり、労働に使うようになった。
マフィアに属した方が人間らしい生活を送れるとは皮肉なものである。

ヴァレンティーノは、麻薬を嫌う組織である。

そこも私は気に入っていた。
薬で精神や肉体を破壊された仲間もいたのだ。


しかし、過去、麻薬を扱う組織と対抗し敵対してきたことで。今でもヴァレンティーノの一族は命を狙われているという。
ハエのように鬱陶しい連中だ。一気に駆除できれば良いのだが。


*****


当時11歳だった、次期首領とされているサルヴァトーレ・T・ヴァレンティーノ。

彼は平和な日本に住んでいたが、その身に危険が及んでいたのでシチリアに戻されたという。
まるで人形のような整った容姿の子供だと思った。

泣きも笑いもしない。無表情な子供。


何故か、子供の頃に読んだ、”星の王子様”のような少年だな、という印象を持った。

孤独な惑星で。
たった一人、バラの花を育てているようなイメージが浮かんだのだ。


サルヴァトーレは12の時に、屋敷を抜け出し、敵対組織に囲まれたが。
それをたった一人で撃退した。

肩に一発の弾丸を喰らい、足に擦過傷が二つできていたが、擦り傷を負った程度の反応で。
彼は相手が所持していた銃を奪い取り、精確に急所を狙い、4人の命を奪ったのだ。


情の薄い私ですら、最初に人の命を奪った時には手が震えたものだ。
だが、サルヴァトーレは抜け出したことを叱られるのが納得いかない、と思っている。

彼にとって、人の命などその程度の存在なようだ。


この子の心は壊れているのかもしれない、と私は思った。

彼はアインシュタインや歴史に名だたる天才と同様、いやそれ以上の天才であった。
天才故に、子供らしい感情を失っているのだと考えた。


*****


それからしばらくして。
マリオに呼び出され、サルヴァトーレ専属のお目付け役になることを任命された。

あの様子では、ボディガードなど必要なさそうだが。
それでも万が一、という場合がある。


サルヴァトーレは、毛むくじゃらのおっさんが側にいるのが鬱陶しいので屋敷を抜け出したのだという。
確かに、彼らは見た目からして暑苦しいが。

周囲を気にしていないようで、意外と繊細であった。

なので、私が適役だろうと。
確かに私は気配を消すのが得意だ。


私はその役目を引き受けた。

サルヴァトーレは何度か脱出を試みたが。
シチリアは私の庭である。

すぐに見つけ、その背後に立って。

何か見たいものがあるのなら案内すると言ったが。
特に無い、というので連れ帰る。

それを何度か繰り返したら、諦めたようだ。
お前は鬱陶しくないので、そこにいることを許す、と言われた。


多くの天才がそうであるように、人と会話ができないというわけではなかった。
むしろ人心掌握の巧みな、カリスマ性のある男である。

だが、感情が抜け落ちている。
決定的な何かが欠けていた。


*****


しばらくして、彼が留学したいと望んでいることを知った。
外国の有名大学では、資産家の子や王子などがいるので、コネクションを広げ、知識を得たいのだと。

私は才能に恵まれたサルヴァトーレが、そのような野心を抱いていたことに驚いたが。

彼は、幼い頃に引き離された大切な子と再会したい、そのためには財力と権力などの力が必要なのだと言った。
自分自身が権力を得たいわけではなかった。

単純に、その子のためだけに必要な力だから、得たいのだ。

大切な子の話をする時にだけ。
サルヴァトーレはまるで夢見る、普通の少年のようだった。


だが、この屋敷から離れて暮らすには、まだ彼の肉体は弱く、心もとない。
私は素手でも暗殺者に対抗できる術や、格闘技を教えることにした。

いくら天才で、頭では理解できても。
身体のほうまではなかなか付いてこないものだ。

しかし、軍式の厳しい訓練であったが。
夢を実現するために必要とあらば、彼は驚くべき集中力で覚えていった。


そして、留学が許可され。
私と数人の構成員を連れ、14歳にしてサルヴァトーレはハーバード大に入学したのだ。


*****


サルヴァトーレが精通し、しばらくして。

例の子を抱く夢を見たと言われた。
大切にしたいのに、何故汚したいと思うのか。

天才でも、理解ができないようだ。

若いうちは、穴があれば何でも入れたいと思うものだ。
そうは見えないが。
性欲をもてあましているのだろう。

解消すれば、妄想も消えるかもしれない。
なので、娼婦をあてがった。


サルヴァトーレは筆下ろしを済ませたものの。
例の子を思い浮かべないと勃起もしなかった、という。

その上。
精査したにも関わらず、娼婦の3人に1人は敵対組織の手の者であった。


似た感じなら抱けるかもしれない、というので、アジア系の男を呼んだ。
それでもやはり、例の子を思い浮かべないと駄目だったようだ。

”例の子”は、10歳くらいだろうか。

そんな子供を抱いたら犯罪である。
幼児売春はいけない。

どうにか成人済みの、若そうな見た目のアジア人男娼を見つけ、発散させるのに苦労したものだ。


*****


サルヴァトーレが試しに日本支社などの経営を任されることになり。

彼がまず最初に行ったのは、”例の子”の監視及び身辺警護であった。
それらの経費はすべてサルヴァトーレの私財から出していた。

そして、その子の誕生石や、ダイヤを買うのには金に糸目をつけず。
それでいて、自分は一切の無駄遣いをしないのだ。


恐るべき頭脳を持つ彼には本来必要の無いノートは、そのコピーを学友に譲るためで。
それはコネクションを広げるためである。

彼が積極的に動くのは、例の子と再会し、一緒に暮らすという夢を実現するため。
ただ、それだけだった。


私は、何故サルヴァトーレが星の王子様のように見えたか、理解した気がした。

この王子は、ただひとつ。
自分の愛したバラの花を咲かせるためだけに生きているのだ。
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