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シチリアの穏やかな午後
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今日はヴァレンティーノの家で昔から代々所有しているっていう農場の様子を見に行くので、僕も見学に連れて行ってくれるそうだ。
おやつの時間までに帰ってくる、ってマンマに言って。
ロレンツォの運転する黒くていかつい車に乗って出かけた。
窓とかドアとかぶ厚いのは、防弾仕様だったり……?
ロレンツォは無言だけど、話しかけられてもなんか困るので助かる。
通りすがりの人が、コッポラ帽を脱いで頭を下げたりして。
崇はそれに、鷹揚に手を上げて応えてる。
地元でも、もうすっかり顔が知られてるんだな。
「アランキャロッサ畑だ」
広大な畑だ。
トーニオは危うくここに埋められるところだったのか……。と思わず遠い目になる。
ブラッドオレンジの旬は、2月中旬頃から3月上旬だって。
じゃあまだ食べ頃じゃないんだ。残念。
でも、そこで作ったっていうブラッドオレンジジュースを飲ませてくれた。
思ったより酸味は少なく、甘くて美味しかった。
*****
お昼ごはんは、マンマの特製弁当だ。
高台で、地中海を眺めながら食べる手作りパニーノはとても美味しかった。
具のプロシュートやモッツアレラチーズも最高。
素材もいいんだろうな。
イタリアで、こんな贅沢な時間を過ごせるとは思わなかった。
スープジャーで持たせてくれた小麦とひよこ豆のスープも美味しい。
まだ熱々だ。
子供の頃からの癖が出たのか、なんか崇がやたら甲斐甲斐しく世話をしてくれるんだけど。
それを見て、ロレンツォが目を丸くしてた。
もう子供じゃないんだから、フルーツくらい自分で食べられるってば。
次に行ったオリーブ畑も広かった。
搾油所があって、オリーブの実を絞るところを見せてもらった。
鮮度の良いオリーブオイルは飲めるんだって。
でも慣れてないとお腹を壊すかもしれないっていうので、辞退した。
酪農もしてるけど、牧場はちょっと遠くにあるからまた今度、って言われた。
行く時間、あるかなあ?
牛だけじゃなく、羊や山羊のチーズも作ってるそうだ。
ずいぶん色々なものを手がけてるんだ。
マフィアって、もっと人に言えないような後ろ暗い仕事をしてるイメージだったけど。
考えてみれば、当たり前か。
犯罪ばっかじゃ警察に捕まっちゃうもんね。
*****
おやつの時間に、ヴァレンティーノのお屋敷に戻った。
外から改めて見ると、屋敷っていうか、お城みたいな感じだなあ。
石造りの重厚そうな建物で。
周囲は丈夫そうな石塀に鉄格子で囲まれてるし、あちこちに監視カメラがついてるのが見える。
立派な鉄の門扉の前に強面の見張りっぽい人が数人立ってるのは、マフィアのお屋敷ならではの風景?
庭も広くて。門から家までには結構な距離がある。
プールや東屋っぽいのも見える。
温室もあるようだ。
そういえば、廊下とかに花が飾ってあったっけ。
ここで咲いた花かな?
落ち着いてよく見れば、ここってこんな、美術館みたいな立派な建物だったんだ。
大勢が入れる食堂があるくらいだもんな……。
ここに来た時は目隠しされた状態だったから、どんな家かはわからなかった。
車から降りて、すぐ扉があって。それは寝室に直接繋がってた感じだけど。裏口に車をつけたのかな?
……いや、もうあのことは忘れないと。
あれは、不運な事故だったんだ。
女の子じゃないんだし、貞操とか。ノーカンってことで。
痛い思いもしなかった……むしろ気持ちよかったし。
相手が紳士な崇で良かったくらいに考えよう。
良くないけど。
強盗に遭って殺されるよりは、だいぶマシだったじゃないか。
傷は浅いさ。……多分。
*****
マンマはたっぷりのカンノーリを用意して待ってくれてた。いっぱいあるので複数形。
ちゃんとみんなの分も作ってくれたんだな。
さすがだ。
初めて食べる本場の”カンノール”は、リコッタチーズクリームの中にチョコや果物が入ってて、もう悶絶級に美味しかった。
お昼ごはんもきっちり食べたっていうのに、何個でも食べられそう。
Squisito! って言ったら、喜んでくれた。
毎日こんな美味しい料理を食べられるのって羨ましいなあ、って思うけど。
ここの一家の”労働”の報酬だと思うと、おかわりも遠慮がちになっちゃったりして。
せめてお皿を運ぶよ……。
『ボスのカリーノ、すっかりマンマに餌付けされちまったようだけど。いいの?』
『可愛いだろう?』
絵に描いたようなイタリアの伊達男! みたいな人が、親しそうに崇に話しかけている。
笑いながら崇の背中を叩いて。
崇も笑ってる。
誰だろう?
あんな人、今朝、食堂にはいなかったよね。
垂れ目っぽい青い目に、栗色の髪。
スーツも決まってて、崇の隣りに並んでいても、違和感のない容姿だ。
僕とじゃそうはならない。
……あれ?
何で今、胸の辺りがきゅっとしたんだろ。
*****
『ミケーレが気になるのかい? サリーの従兄弟だけど、話しかけても噛みつきやしないよ。……いや、別の意味で危険かもしれないね』
台所から食堂を覗き込んでいたら、マンマが教えてくれた。
「cugino? 嘘、全然似てない……Non simile」
似てない、と言うと。
そりゃ似てないさ、と。マンマは話しても問題ない範囲で、ってことで。
彼のことを教えてくれた。
彼の名は、ミケーレ・ヴァレンティーノ。
ヴァレンティーノ・ファミリアーリの幹部で、崇の従兄弟だって。
父親のマリオ・ヴァレンティーノは養子で、崇がボスになる前は代わりにボスをやってた人なんだって。
養子なら、崇に似てないのも当たり前だ。他人だもんね。
マリオ、って。
もしかして、おばさんから無理矢理崇を攫ってった、あのおじさんかな?
怖そうな人だった。
百合おばさんが泣いてたのに、かまわずに、崇を連れてっちゃった。
ん?
噛み付いたりはされないだろうけど、別の意味で危険って、どういう事だろう。
っていうか、ここには話しかけたら噛み付く人がいるの!? こわっ!
おやつの時間までに帰ってくる、ってマンマに言って。
ロレンツォの運転する黒くていかつい車に乗って出かけた。
窓とかドアとかぶ厚いのは、防弾仕様だったり……?
ロレンツォは無言だけど、話しかけられてもなんか困るので助かる。
通りすがりの人が、コッポラ帽を脱いで頭を下げたりして。
崇はそれに、鷹揚に手を上げて応えてる。
地元でも、もうすっかり顔が知られてるんだな。
「アランキャロッサ畑だ」
広大な畑だ。
トーニオは危うくここに埋められるところだったのか……。と思わず遠い目になる。
ブラッドオレンジの旬は、2月中旬頃から3月上旬だって。
じゃあまだ食べ頃じゃないんだ。残念。
でも、そこで作ったっていうブラッドオレンジジュースを飲ませてくれた。
思ったより酸味は少なく、甘くて美味しかった。
*****
お昼ごはんは、マンマの特製弁当だ。
高台で、地中海を眺めながら食べる手作りパニーノはとても美味しかった。
具のプロシュートやモッツアレラチーズも最高。
素材もいいんだろうな。
イタリアで、こんな贅沢な時間を過ごせるとは思わなかった。
スープジャーで持たせてくれた小麦とひよこ豆のスープも美味しい。
まだ熱々だ。
子供の頃からの癖が出たのか、なんか崇がやたら甲斐甲斐しく世話をしてくれるんだけど。
それを見て、ロレンツォが目を丸くしてた。
もう子供じゃないんだから、フルーツくらい自分で食べられるってば。
次に行ったオリーブ畑も広かった。
搾油所があって、オリーブの実を絞るところを見せてもらった。
鮮度の良いオリーブオイルは飲めるんだって。
でも慣れてないとお腹を壊すかもしれないっていうので、辞退した。
酪農もしてるけど、牧場はちょっと遠くにあるからまた今度、って言われた。
行く時間、あるかなあ?
牛だけじゃなく、羊や山羊のチーズも作ってるそうだ。
ずいぶん色々なものを手がけてるんだ。
マフィアって、もっと人に言えないような後ろ暗い仕事をしてるイメージだったけど。
考えてみれば、当たり前か。
犯罪ばっかじゃ警察に捕まっちゃうもんね。
*****
おやつの時間に、ヴァレンティーノのお屋敷に戻った。
外から改めて見ると、屋敷っていうか、お城みたいな感じだなあ。
石造りの重厚そうな建物で。
周囲は丈夫そうな石塀に鉄格子で囲まれてるし、あちこちに監視カメラがついてるのが見える。
立派な鉄の門扉の前に強面の見張りっぽい人が数人立ってるのは、マフィアのお屋敷ならではの風景?
庭も広くて。門から家までには結構な距離がある。
プールや東屋っぽいのも見える。
温室もあるようだ。
そういえば、廊下とかに花が飾ってあったっけ。
ここで咲いた花かな?
落ち着いてよく見れば、ここってこんな、美術館みたいな立派な建物だったんだ。
大勢が入れる食堂があるくらいだもんな……。
ここに来た時は目隠しされた状態だったから、どんな家かはわからなかった。
車から降りて、すぐ扉があって。それは寝室に直接繋がってた感じだけど。裏口に車をつけたのかな?
……いや、もうあのことは忘れないと。
あれは、不運な事故だったんだ。
女の子じゃないんだし、貞操とか。ノーカンってことで。
痛い思いもしなかった……むしろ気持ちよかったし。
相手が紳士な崇で良かったくらいに考えよう。
良くないけど。
強盗に遭って殺されるよりは、だいぶマシだったじゃないか。
傷は浅いさ。……多分。
*****
マンマはたっぷりのカンノーリを用意して待ってくれてた。いっぱいあるので複数形。
ちゃんとみんなの分も作ってくれたんだな。
さすがだ。
初めて食べる本場の”カンノール”は、リコッタチーズクリームの中にチョコや果物が入ってて、もう悶絶級に美味しかった。
お昼ごはんもきっちり食べたっていうのに、何個でも食べられそう。
Squisito! って言ったら、喜んでくれた。
毎日こんな美味しい料理を食べられるのって羨ましいなあ、って思うけど。
ここの一家の”労働”の報酬だと思うと、おかわりも遠慮がちになっちゃったりして。
せめてお皿を運ぶよ……。
『ボスのカリーノ、すっかりマンマに餌付けされちまったようだけど。いいの?』
『可愛いだろう?』
絵に描いたようなイタリアの伊達男! みたいな人が、親しそうに崇に話しかけている。
笑いながら崇の背中を叩いて。
崇も笑ってる。
誰だろう?
あんな人、今朝、食堂にはいなかったよね。
垂れ目っぽい青い目に、栗色の髪。
スーツも決まってて、崇の隣りに並んでいても、違和感のない容姿だ。
僕とじゃそうはならない。
……あれ?
何で今、胸の辺りがきゅっとしたんだろ。
*****
『ミケーレが気になるのかい? サリーの従兄弟だけど、話しかけても噛みつきやしないよ。……いや、別の意味で危険かもしれないね』
台所から食堂を覗き込んでいたら、マンマが教えてくれた。
「cugino? 嘘、全然似てない……Non simile」
似てない、と言うと。
そりゃ似てないさ、と。マンマは話しても問題ない範囲で、ってことで。
彼のことを教えてくれた。
彼の名は、ミケーレ・ヴァレンティーノ。
ヴァレンティーノ・ファミリアーリの幹部で、崇の従兄弟だって。
父親のマリオ・ヴァレンティーノは養子で、崇がボスになる前は代わりにボスをやってた人なんだって。
養子なら、崇に似てないのも当たり前だ。他人だもんね。
マリオ、って。
もしかして、おばさんから無理矢理崇を攫ってった、あのおじさんかな?
怖そうな人だった。
百合おばさんが泣いてたのに、かまわずに、崇を連れてっちゃった。
ん?
噛み付いたりはされないだろうけど、別の意味で危険って、どういう事だろう。
っていうか、ここには話しかけたら噛み付く人がいるの!? こわっ!
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