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レティシアにて
イニス:橙色の記憶
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イザヤから、愛している、と言われた。
抱き締められながら何度もそう言われると、本当に愛されているような気持ちになってしまって困る。
でも、そんな言葉を本気にしてはいけない。
どうせ、王子様の気まぐれのようなものだろう。
本気にして、その気になって。
飽きられて、捨てられたときに傷付くのはいやだ。
王子なんだし。
ちゃんとした相手を嫁……というのか、相手に選ぶはずだ。
異世界から来た得体の知れない、しかも元男娼である汚らわしい僕など、イザヤにはふさわしくない。
第一、僕は男の嫁になんてなりたいと思わないし、子供を孕みたいとも思わない。
自分が子供を生むなんて、悪夢でしかない。
女神のご加護なんて、僕にはないだろうけど。
◆◇◆
……皆、同じだ。
僕に、勝手に感情を押し付けて。
そっとしておいて欲しいのに。かまわないで欲しいのに。
あいつだって。幼稚園のときに、僕の頬に、むりやりキスをした。股間を握られたりした。
したほうは忘れたとしても、されたほうは忘れたりしない。
いやだったから。
中学になって。
いじめという名目で服を脱がせて、自慰をさせるのを見てた。僕の性器を踏みつけた。
……ホモなのは、おまえじゃないか。
僕は違う。違うのに。
何で理不尽な暴力を受けなければならなかったんだ。
おまえなんか大嫌いだ。
みんな、大嫌いだ。
どうして僕だけが、こんな目に遭わなくちゃいけないんだ。
救いを求めて死んだはずなのに、異世界なんかに来てしまって。
よりによって、異世界でも異常だと言われるようなヘンタイの集まる娼館のやつに拾われて。
性器を切断されて。死ぬほど痛い目に遭わされて。
少年趣味のヘンタイに身体をもてあそばれて。
お尻に入れられたら、おかしくなるような身体にされて。
毎日毎日お尻に突っ込まれて。精液まみれにされて。
娼館から助け出されたと思ったら、少年趣味の王子の気まぐれで飼われて。
抱かれて。
その上、子を産めとか。
愛してる、なんて。
ありえないよ。
この世界のやつらはみんな、頭がおかしいんだ。
僕も、おかしくなっちゃったんだ。
裏切られるのがこわいのは、相手を信じているから。
信じたいと思うからで。
僕は。
イザヤを。どう思っているんだろう?
◆◇◆
気がついたら、馬車の中で。
毛布に包まれた状態で寝ていたようだ。
……朝方まで、抱かれたんだった。
なのに、それほど身体がつらくないのは、イザヤの魔力の高い精のお陰なのかもしれない。
橙色のマントは、魔力が高い男の証だって言ってた。
橙色のマントで思い出した。
僕を初めて抱いた、あの大男。
羽織ってはいなかったけど、橙色のマントを手に持っていた。
常連になって、僕に孕めと言ったのもあいつだ。
あいつも、身分の高い男だったのかもしれない。顔は覚えてない。
捕まったのかな? どうでもいいか。
イザヤのほうが魔力が強いからか、橙色で強く記憶に残ったのはイザヤだったけど。
◆◇◆
馬車の外が、ざわざわしている。
……レモン爆弾? 酸っぱそうな名前だ。
よくよく聞いてみると、レモン汁を針状にして爆発させて、相手を穴だらけにする魔術らしい。おそろしい。
盗賊のリーダーらしき男は、爆発物の中心にいたため、人相がわからなくなるほどぐちゃぐちゃの穴だらけになっていたとか。
イザヤの騎士団に手を出すのは、死にに行くのと同じことらしい。
そんな強いんだ……。ハーマンとか、優しそうなのに。
人は見た目によらないってことかな。
イザヤは……まあ、あの完璧に美しい笑顔で拷問しそうな雰囲気あるけど。
イザヤが50人いた盗賊団を、そのレモン爆弾で、一人でやっつけたみたいだ。
なるほど、その死体の回収のため、馬車が停まっているのか。
しばらくかかりそうなので、横になる。
その気になれば、いくらでも残酷になれる人なんだ。
とてもこわい人。
だけど、僕には愛してるとか言う。おかしな人。
少年趣味のヘンタイで。魔力が強くて。王子様で。ものすごい美形で。
魔法がえげつなくて。サド?
知れば知るほど、わからなくなってくる。
ほんと、わかんないよ。
◆◇◆
ニューエルという街に着いた。
ここを視察するらしい。
ヨーロッパの町並みみたいに見える。道行く人の顔も暗くないし、印象は普通の街、かなあ?
宿に着いたら、領主とかいう人が、イザヤに挨拶をしに来たようだ。
邪魔にならないように、後ろへ下がっておく。
領主は赤い髪の毛で、大きな男だった。腕なんか、丸太のように太い。
盗賊団に困らされていたので、お礼を言いたかったようだ。
ハーマンがレモン爆弾の話をして、領主の男は真っ青になっていた。
ハーマン、死体の話を詳細に説明するとか趣味が悪いよ。
僕の近くにいた兵士も涙目だ。
領主の男が帰るらしい。
こっちに向かって歩いてくるので、避けようと思ったら。
『イニス……?』
領主の男は僕の顔を見て、驚いたように言った。
『生きていたのか。更生施設にもいないというから、てっきり……』
誰だろう。
僕を知ってる……?
騎士たち以外で、名前を知ってるということは……娼館の客?
丸太のように太い腕。橙色のマント。
……まさか。あの時の。
「常連さん……?」
男の目は。
僕の首にあるものを凝視している。
『その首飾りは……まさか、』
『総員、オリバー伯を確保!』
イザヤの声がして。
視界が揺れる。
抱えられてる? 何で?
僕の近くにいた兵士が、血飛沫を上げて倒れたのが見えた。
抱き締められながら何度もそう言われると、本当に愛されているような気持ちになってしまって困る。
でも、そんな言葉を本気にしてはいけない。
どうせ、王子様の気まぐれのようなものだろう。
本気にして、その気になって。
飽きられて、捨てられたときに傷付くのはいやだ。
王子なんだし。
ちゃんとした相手を嫁……というのか、相手に選ぶはずだ。
異世界から来た得体の知れない、しかも元男娼である汚らわしい僕など、イザヤにはふさわしくない。
第一、僕は男の嫁になんてなりたいと思わないし、子供を孕みたいとも思わない。
自分が子供を生むなんて、悪夢でしかない。
女神のご加護なんて、僕にはないだろうけど。
◆◇◆
……皆、同じだ。
僕に、勝手に感情を押し付けて。
そっとしておいて欲しいのに。かまわないで欲しいのに。
あいつだって。幼稚園のときに、僕の頬に、むりやりキスをした。股間を握られたりした。
したほうは忘れたとしても、されたほうは忘れたりしない。
いやだったから。
中学になって。
いじめという名目で服を脱がせて、自慰をさせるのを見てた。僕の性器を踏みつけた。
……ホモなのは、おまえじゃないか。
僕は違う。違うのに。
何で理不尽な暴力を受けなければならなかったんだ。
おまえなんか大嫌いだ。
みんな、大嫌いだ。
どうして僕だけが、こんな目に遭わなくちゃいけないんだ。
救いを求めて死んだはずなのに、異世界なんかに来てしまって。
よりによって、異世界でも異常だと言われるようなヘンタイの集まる娼館のやつに拾われて。
性器を切断されて。死ぬほど痛い目に遭わされて。
少年趣味のヘンタイに身体をもてあそばれて。
お尻に入れられたら、おかしくなるような身体にされて。
毎日毎日お尻に突っ込まれて。精液まみれにされて。
娼館から助け出されたと思ったら、少年趣味の王子の気まぐれで飼われて。
抱かれて。
その上、子を産めとか。
愛してる、なんて。
ありえないよ。
この世界のやつらはみんな、頭がおかしいんだ。
僕も、おかしくなっちゃったんだ。
裏切られるのがこわいのは、相手を信じているから。
信じたいと思うからで。
僕は。
イザヤを。どう思っているんだろう?
◆◇◆
気がついたら、馬車の中で。
毛布に包まれた状態で寝ていたようだ。
……朝方まで、抱かれたんだった。
なのに、それほど身体がつらくないのは、イザヤの魔力の高い精のお陰なのかもしれない。
橙色のマントは、魔力が高い男の証だって言ってた。
橙色のマントで思い出した。
僕を初めて抱いた、あの大男。
羽織ってはいなかったけど、橙色のマントを手に持っていた。
常連になって、僕に孕めと言ったのもあいつだ。
あいつも、身分の高い男だったのかもしれない。顔は覚えてない。
捕まったのかな? どうでもいいか。
イザヤのほうが魔力が強いからか、橙色で強く記憶に残ったのはイザヤだったけど。
◆◇◆
馬車の外が、ざわざわしている。
……レモン爆弾? 酸っぱそうな名前だ。
よくよく聞いてみると、レモン汁を針状にして爆発させて、相手を穴だらけにする魔術らしい。おそろしい。
盗賊のリーダーらしき男は、爆発物の中心にいたため、人相がわからなくなるほどぐちゃぐちゃの穴だらけになっていたとか。
イザヤの騎士団に手を出すのは、死にに行くのと同じことらしい。
そんな強いんだ……。ハーマンとか、優しそうなのに。
人は見た目によらないってことかな。
イザヤは……まあ、あの完璧に美しい笑顔で拷問しそうな雰囲気あるけど。
イザヤが50人いた盗賊団を、そのレモン爆弾で、一人でやっつけたみたいだ。
なるほど、その死体の回収のため、馬車が停まっているのか。
しばらくかかりそうなので、横になる。
その気になれば、いくらでも残酷になれる人なんだ。
とてもこわい人。
だけど、僕には愛してるとか言う。おかしな人。
少年趣味のヘンタイで。魔力が強くて。王子様で。ものすごい美形で。
魔法がえげつなくて。サド?
知れば知るほど、わからなくなってくる。
ほんと、わかんないよ。
◆◇◆
ニューエルという街に着いた。
ここを視察するらしい。
ヨーロッパの町並みみたいに見える。道行く人の顔も暗くないし、印象は普通の街、かなあ?
宿に着いたら、領主とかいう人が、イザヤに挨拶をしに来たようだ。
邪魔にならないように、後ろへ下がっておく。
領主は赤い髪の毛で、大きな男だった。腕なんか、丸太のように太い。
盗賊団に困らされていたので、お礼を言いたかったようだ。
ハーマンがレモン爆弾の話をして、領主の男は真っ青になっていた。
ハーマン、死体の話を詳細に説明するとか趣味が悪いよ。
僕の近くにいた兵士も涙目だ。
領主の男が帰るらしい。
こっちに向かって歩いてくるので、避けようと思ったら。
『イニス……?』
領主の男は僕の顔を見て、驚いたように言った。
『生きていたのか。更生施設にもいないというから、てっきり……』
誰だろう。
僕を知ってる……?
騎士たち以外で、名前を知ってるということは……娼館の客?
丸太のように太い腕。橙色のマント。
……まさか。あの時の。
「常連さん……?」
男の目は。
僕の首にあるものを凝視している。
『その首飾りは……まさか、』
『総員、オリバー伯を確保!』
イザヤの声がして。
視界が揺れる。
抱えられてる? 何で?
僕の近くにいた兵士が、血飛沫を上げて倒れたのが見えた。
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