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奈津:La mia vita è centrata intorno a aki(俺の生活は亜樹を中心に回ってる)
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亜樹の睡眠時間……というか生活サイクルは、俺にしてみれば無茶苦茶だと言わざるを得なかった。
原稿があるときは明け方まで起きて作業をして、昼近くまで眠っている。
無いときもだいたい同じで。一日中ぼんやりしている感じだが、それはネームを考えているらしい。
もう何年もこのサイクルで生活しているため、夜型の生活リズムを変えようとするとかえって体調を崩すそうだ。
漫画家というのは日光を浴びすぎると死ぬ。だいたいこのようなものだからいいんだ、と言われたが。
身体を壊さないのだろうか?
そうは言っても、一日数分は日光に当たらないと精神的にも悪いし、ビタミンD不足になってしまう。
カーテンを開けても目を覚まさないので、日光を浴びさせたりしてるが。
せめて、食事面では健康に気を付けてやらないとな。
亜樹が起きないので。
朝型な俺は、暇すぎて、家事や仕事に精を出すしかすることがない。
赤ん坊のようなあどけない可愛い寝顔。
起こすのも忍びない。
◆◇◆
昼前に買い物に出ると。
「あらこんにちは、なっちゃん。お買い物? あきちゃんは忙しいの?」
道行く近所の主婦に声を掛けられた。
もう、この辺の人たちとはだいたい顔なじみになった。
「こんにちは。明け方まで働いて、寝てるよ」
「あら、じゃあ寂しいわねえ。あ、今日は魚屋さんが特売だそうよ」
「ありがとう。じゃあ夕飯は魚にするかな。亜樹は肉より魚が好きだから」
「あきちゃんもいい旦那さんもらって羨ましいわ~」
ここらの住人は俺がゲイだろうが、実の兄とデキてようが、写真を撮ってネットに流したりおもしろおかしく他人に吹聴しないのがいいところだと思う。
引きこもりすぎて、亜樹の性別その他を忘れてるんじゃないかという疑惑もあるが。
ケーキ屋の娘、陽子さんは。
男同士、しかも兄弟だと理解した上で。
「ウエディングケーキ代わりといっては何だけど……」
と、教会と砂糖菓子の人形付きのケーキをお祝いにくれた。
フランス留学し、パティシエールとして賞を貰ったという職人の作品だ。
料金を払うと言ったが。
いいえ、お礼を言いたいのはこっちなの、と言って代金を受け取ってくれなかった。
意味不明だ。
「では、ありがたくいただきます。じゃあ何かの祝い事には、ここのケーキを買わせてもらうよ」
「はい! またのご来店をお待ちしておりますー!」
従業員の女の子も一緒になって、合唱するように言われた。
まさか、こんな風に祝福されるとは思わなかった。
いい人たちだ。
魚屋のオヤジさんも、お得意さんとみて、サービスしてくれる。
ちょくちょく買いに行くため、商店街の人達ともすっかり顔なじみになった。
「総菜屋の店主が、たまにはウチも利用して欲しいってよ」
「んー。亜樹には俺の手料理を食べて欲しいからなあ。……俺が食うか。わかった。顔出しとく」
「泣かせるなあ……」
と、小さなアジをオマケしてくれた。フリットにでもするか。
◆◇◆
買い物から戻ったら。
日本の出版社から、ブログに載せている風景写真を書籍化しないか、という連絡が来ていた。
亜樹が描いているところと同じ出版社だったので、いい返事をしておこう。
出版社に恩を売っておけば、後で何か、亜樹のためになるかもしれない。
そろそろ起き出す亜樹のために、朝メシを作る時間だ。
亜樹が食べている姿も可愛いが。俺が作った料理の写真を嬉しそうに撮ってるのを見るのも楽しみだ。見栄えも考えないと。
La mia vita è centrata intorno a aki。
充実した一日。幸せなことだ。
亜樹はネーム作業中だった。
頭を使うときは、糖分を消費する。
さっそく、いただいたケーキを披露するとしよう。
素晴らしい出来のケーキを見て、亜樹は脱力していた。
すでに周囲から結婚を事実として認められていることを、いい加減、諦めて受け入れればいいのに。
みんな祝ってくれているんだし。
「うう……美味しい……」
半泣きでケーキを食べていた。
亜樹はケーキの写真は撮らなかった。
まあ、さすがにこれは、ネットに上げることは出来ないだろうな。
俺はさっき撮った。
これは俺もブログに載せられない。
記念にはなるんだが。……名前をぼかすか?
◆◇◆
事実婚祝いのついでに。
聞きたかったことを、聞いてみる。
「亜樹のペンネーム、夏野千秋ってさ、俺の……奈津の千川亜樹、って意味?」
「ち、違うから。適当につけただけ!」
亜樹は真っ赤になって否定した。可愛い。
これは確定か?
つん、とそっぽ向いてるのが可愛くて、思わずキスしようとしたが。
「ネ、ネームの途中だから……、」
と、抗われてしまった。
……残念。
続きはまた後で。
3時。
亜樹の昼メシの時間だ。
俺は総菜屋で買った惣菜をいただいた。
うーん、味は悪くないんだが。
亜樹にはちょっと塩分が濃いな。店屋物だし、そんなもんか。
酒のツマミやおかずには丁度いいだろう。
◆◇◆
さて、亜樹の食事だ。
軽めなワンプレートで、見栄えも考えて盛り付ける。
ブロッコリーとカリフラワーとパプリカで温野菜のサラダを作る。
フリッタータにフロマージュのソースを掛け、刻んだパセリを振り、ドライトマトとガーリックのパスタを添えて。
昼メシを持っていくと、亜樹は嬉しそうにカメラを出した。
今日も合格だった。安心する。
いまいち見た目が好みな出来栄えでない場合、カメラを出さないのだ。
しかし、味は亜樹の舌に合っているようで、いつも美味そうに全部食ってくれるから、作り甲斐がある。
亜樹の嬉しそうな顔をみると、俺も幸せな気分になる。
満足だ。
原稿があるときは明け方まで起きて作業をして、昼近くまで眠っている。
無いときもだいたい同じで。一日中ぼんやりしている感じだが、それはネームを考えているらしい。
もう何年もこのサイクルで生活しているため、夜型の生活リズムを変えようとするとかえって体調を崩すそうだ。
漫画家というのは日光を浴びすぎると死ぬ。だいたいこのようなものだからいいんだ、と言われたが。
身体を壊さないのだろうか?
そうは言っても、一日数分は日光に当たらないと精神的にも悪いし、ビタミンD不足になってしまう。
カーテンを開けても目を覚まさないので、日光を浴びさせたりしてるが。
せめて、食事面では健康に気を付けてやらないとな。
亜樹が起きないので。
朝型な俺は、暇すぎて、家事や仕事に精を出すしかすることがない。
赤ん坊のようなあどけない可愛い寝顔。
起こすのも忍びない。
◆◇◆
昼前に買い物に出ると。
「あらこんにちは、なっちゃん。お買い物? あきちゃんは忙しいの?」
道行く近所の主婦に声を掛けられた。
もう、この辺の人たちとはだいたい顔なじみになった。
「こんにちは。明け方まで働いて、寝てるよ」
「あら、じゃあ寂しいわねえ。あ、今日は魚屋さんが特売だそうよ」
「ありがとう。じゃあ夕飯は魚にするかな。亜樹は肉より魚が好きだから」
「あきちゃんもいい旦那さんもらって羨ましいわ~」
ここらの住人は俺がゲイだろうが、実の兄とデキてようが、写真を撮ってネットに流したりおもしろおかしく他人に吹聴しないのがいいところだと思う。
引きこもりすぎて、亜樹の性別その他を忘れてるんじゃないかという疑惑もあるが。
ケーキ屋の娘、陽子さんは。
男同士、しかも兄弟だと理解した上で。
「ウエディングケーキ代わりといっては何だけど……」
と、教会と砂糖菓子の人形付きのケーキをお祝いにくれた。
フランス留学し、パティシエールとして賞を貰ったという職人の作品だ。
料金を払うと言ったが。
いいえ、お礼を言いたいのはこっちなの、と言って代金を受け取ってくれなかった。
意味不明だ。
「では、ありがたくいただきます。じゃあ何かの祝い事には、ここのケーキを買わせてもらうよ」
「はい! またのご来店をお待ちしておりますー!」
従業員の女の子も一緒になって、合唱するように言われた。
まさか、こんな風に祝福されるとは思わなかった。
いい人たちだ。
魚屋のオヤジさんも、お得意さんとみて、サービスしてくれる。
ちょくちょく買いに行くため、商店街の人達ともすっかり顔なじみになった。
「総菜屋の店主が、たまにはウチも利用して欲しいってよ」
「んー。亜樹には俺の手料理を食べて欲しいからなあ。……俺が食うか。わかった。顔出しとく」
「泣かせるなあ……」
と、小さなアジをオマケしてくれた。フリットにでもするか。
◆◇◆
買い物から戻ったら。
日本の出版社から、ブログに載せている風景写真を書籍化しないか、という連絡が来ていた。
亜樹が描いているところと同じ出版社だったので、いい返事をしておこう。
出版社に恩を売っておけば、後で何か、亜樹のためになるかもしれない。
そろそろ起き出す亜樹のために、朝メシを作る時間だ。
亜樹が食べている姿も可愛いが。俺が作った料理の写真を嬉しそうに撮ってるのを見るのも楽しみだ。見栄えも考えないと。
La mia vita è centrata intorno a aki。
充実した一日。幸せなことだ。
亜樹はネーム作業中だった。
頭を使うときは、糖分を消費する。
さっそく、いただいたケーキを披露するとしよう。
素晴らしい出来のケーキを見て、亜樹は脱力していた。
すでに周囲から結婚を事実として認められていることを、いい加減、諦めて受け入れればいいのに。
みんな祝ってくれているんだし。
「うう……美味しい……」
半泣きでケーキを食べていた。
亜樹はケーキの写真は撮らなかった。
まあ、さすがにこれは、ネットに上げることは出来ないだろうな。
俺はさっき撮った。
これは俺もブログに載せられない。
記念にはなるんだが。……名前をぼかすか?
◆◇◆
事実婚祝いのついでに。
聞きたかったことを、聞いてみる。
「亜樹のペンネーム、夏野千秋ってさ、俺の……奈津の千川亜樹、って意味?」
「ち、違うから。適当につけただけ!」
亜樹は真っ赤になって否定した。可愛い。
これは確定か?
つん、とそっぽ向いてるのが可愛くて、思わずキスしようとしたが。
「ネ、ネームの途中だから……、」
と、抗われてしまった。
……残念。
続きはまた後で。
3時。
亜樹の昼メシの時間だ。
俺は総菜屋で買った惣菜をいただいた。
うーん、味は悪くないんだが。
亜樹にはちょっと塩分が濃いな。店屋物だし、そんなもんか。
酒のツマミやおかずには丁度いいだろう。
◆◇◆
さて、亜樹の食事だ。
軽めなワンプレートで、見栄えも考えて盛り付ける。
ブロッコリーとカリフラワーとパプリカで温野菜のサラダを作る。
フリッタータにフロマージュのソースを掛け、刻んだパセリを振り、ドライトマトとガーリックのパスタを添えて。
昼メシを持っていくと、亜樹は嬉しそうにカメラを出した。
今日も合格だった。安心する。
いまいち見た目が好みな出来栄えでない場合、カメラを出さないのだ。
しかし、味は亜樹の舌に合っているようで、いつも美味そうに全部食ってくれるから、作り甲斐がある。
亜樹の嬉しそうな顔をみると、俺も幸せな気分になる。
満足だ。
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