11 / 47
東の国の王
休戦協定の提案
しおりを挟む
……どうしたらいいんだろう。
怒った大人なんて、親父か母ちゃんくらいしか知らない。
それでも、ここまで怒ってるのは見たことないし。だいたい、素直に謝れば許してくれた。
兄ちゃんも姉ちゃんも俺には優しかった。
中条家は末っ子には甘いのだ。俺だけ平凡顔なのを哀れんでのことかもだけど。
学校は私立だったからか、先生もおっとりしてたし。怒鳴られたこともない。
そもそもぼっち属性だ。
クラスメイトからは距離を置かれてたし、まともに友人と付き合ったこともない。
だから喧嘩のやりかたも、仲直りのしかたすら知らない。
……俺って、とんでもなく箱入り息子だったんだな……。
今になって、やっと気付いた。
俺みたいな甘ちゃんが、この先やってけるのかなあ?
こんな、戦争とかある世界で。
不安だ。
†††
「……そんな顔をしないで、黒き小さな神の子」
「うわっ、」
アレクにぎゅっと抱き締められた。
そんな顔、って。
どんな顔してたんだよ、俺。
「すみません。あなたに不敬な真似をしているのを見て、嫉妬のあまり精神が真っ白に染まり、我を忘れるところでした。怯えさせてしまいましたか……?」
心配そうに俺を見つめる、キラキラ輝く美貌が至近距離にあった。
……っておい。アンタはいいのかよ!?
手を握るどころか、めっちゃ抱擁されてるんですけど! それは不敬じゃないのか?
「神の次の次に偉いのは王なので、神使に触れても許されるはず」
俺の非難の視線を真っ直ぐ受け止めて。
アレクはきっぱりと言い切った。
さすが王様。堂々としてる。
しなくてもいい場面だと思うけど。
一番偉いのが神様で。その次に偉いのが神使らしい。あと僅差で神馬。で、越えられない壁を挟んで王様、以下略ってヒエラルキーになるらしい。
へえ、王より偉いんだ? 黒ポメが。
そりゃ兵士達も「ははー」って崇めちゃうよな。
「王以外、御身に触れることまかりならぬ、ということです。……ナーサル」
ひれ伏しているナーサルに。
ちゃっかり自分を除外して、アレクは言った。
「私のレイトが悲しむ顔は見たくない。故に、今回だけは特別に恩赦を与えよう。以後、己の立場を考えた行いをせよ。慈悲深き神使に感謝するがよい」
……いや、アンタのものでもないからな!?
いつの間にか、俺のことを名前で呼んでるし。
っていうか、抱き締めたままそういうこと言うのやめてほんとマジで。
「ああ、小さき神使様の黒き御心に、心より感謝を捧げます……」
ナーサルは、地に伏せるように礼をした。
だから、褒めてるように聞こえないんだってば!
†††
アレクにも、他の国と休戦して物々交換をしてみたらどうか、という話をしたら。
めちゃくちゃ称賛された。……アレクなりに、なんだろうけど。
この国では、「黒い」とか「小さい」は、最上級の褒め言葉に当たるらしい。小さいだけでも、愛らしい生き物に見えるようだ。
そういやこの国の人たち、みんな俺よりも背が高くて大きかった。
初めて小っちゃいことで得したよ! やったね。少しも得した気分にならないけどな!
でもってた、だでさえ小さい上に”双黒”である俺は、この世界では誰からの好感度もMAX間違いなしの、世界一愛される生き物らしい。逆ハーも夢じゃない。ヤッター、異世界バンザーイ。
……正直泣きたい。
そんなの全く全然一ミリも嬉しくないんだけど!!
「私の肌も、もう少し黒ければ……貴方と並んでも、遜色がなかっただろうに……」
世にも美しい顔に憂いを浮かべているアレクが、ちらちらと俺の顔を見ながら、拗ねている。
……黒いのが褒め言葉、ってことは。
俺に言って欲しい言葉が、うっすら理解できてきたけど。
正直あんまり言いたくない。
だって。言ったら喜んで、絶対ぎゅってされるのわかってるし。
だから、そんな切なそうな目で見るなってば。
……仕方ないな。
「アレクは充分、黒いと思う、よ……? ……腹とか」
あ、うっかり本音が。
「……!?」
アレクがバッ、と顔を上げて俺のことを見た、と思ったら。目の前が真っ黒に。
苦しい。
そんな嬉しそうに、涙目で飛びついてこないで欲しい。
おいおい、”腹が黒い”ってのは、こっちじゃ褒め言葉だったの!?
†††
抱き締められて、ついドキドキしてしまうのが悔しい。
少々、いやかなり残念なイケメンなのに。
細身に見えるのに、胸板とかしっかりしてて。いい身体してるっぽいのも何か悔しい。
……くっそ、いい匂いさせるなっての。
相手は男なのに。ぎゅっと抱き締められても嫌じゃないってのがもうヤバイ。
俺の常識がピンチです、お母様。
「嬉しい。それはもはや、求婚の言葉と考えても良いのでは……?」
耳元で囁かれた。
何故だかハアハア興奮してる。
ちょっとヘンタイっぽくても、こんなイケメンならうっかり許してしまいそう。イケメン無罪。美形こわい。異世界ヤバい。
「それはない! 求婚の言葉じゃないです!」
うっかり流されてしまわないように、しっかり気をもたなくては。
……いや、そんながっかりした顔して見せてもダメだから!
怒った大人なんて、親父か母ちゃんくらいしか知らない。
それでも、ここまで怒ってるのは見たことないし。だいたい、素直に謝れば許してくれた。
兄ちゃんも姉ちゃんも俺には優しかった。
中条家は末っ子には甘いのだ。俺だけ平凡顔なのを哀れんでのことかもだけど。
学校は私立だったからか、先生もおっとりしてたし。怒鳴られたこともない。
そもそもぼっち属性だ。
クラスメイトからは距離を置かれてたし、まともに友人と付き合ったこともない。
だから喧嘩のやりかたも、仲直りのしかたすら知らない。
……俺って、とんでもなく箱入り息子だったんだな……。
今になって、やっと気付いた。
俺みたいな甘ちゃんが、この先やってけるのかなあ?
こんな、戦争とかある世界で。
不安だ。
†††
「……そんな顔をしないで、黒き小さな神の子」
「うわっ、」
アレクにぎゅっと抱き締められた。
そんな顔、って。
どんな顔してたんだよ、俺。
「すみません。あなたに不敬な真似をしているのを見て、嫉妬のあまり精神が真っ白に染まり、我を忘れるところでした。怯えさせてしまいましたか……?」
心配そうに俺を見つめる、キラキラ輝く美貌が至近距離にあった。
……っておい。アンタはいいのかよ!?
手を握るどころか、めっちゃ抱擁されてるんですけど! それは不敬じゃないのか?
「神の次の次に偉いのは王なので、神使に触れても許されるはず」
俺の非難の視線を真っ直ぐ受け止めて。
アレクはきっぱりと言い切った。
さすが王様。堂々としてる。
しなくてもいい場面だと思うけど。
一番偉いのが神様で。その次に偉いのが神使らしい。あと僅差で神馬。で、越えられない壁を挟んで王様、以下略ってヒエラルキーになるらしい。
へえ、王より偉いんだ? 黒ポメが。
そりゃ兵士達も「ははー」って崇めちゃうよな。
「王以外、御身に触れることまかりならぬ、ということです。……ナーサル」
ひれ伏しているナーサルに。
ちゃっかり自分を除外して、アレクは言った。
「私のレイトが悲しむ顔は見たくない。故に、今回だけは特別に恩赦を与えよう。以後、己の立場を考えた行いをせよ。慈悲深き神使に感謝するがよい」
……いや、アンタのものでもないからな!?
いつの間にか、俺のことを名前で呼んでるし。
っていうか、抱き締めたままそういうこと言うのやめてほんとマジで。
「ああ、小さき神使様の黒き御心に、心より感謝を捧げます……」
ナーサルは、地に伏せるように礼をした。
だから、褒めてるように聞こえないんだってば!
†††
アレクにも、他の国と休戦して物々交換をしてみたらどうか、という話をしたら。
めちゃくちゃ称賛された。……アレクなりに、なんだろうけど。
この国では、「黒い」とか「小さい」は、最上級の褒め言葉に当たるらしい。小さいだけでも、愛らしい生き物に見えるようだ。
そういやこの国の人たち、みんな俺よりも背が高くて大きかった。
初めて小っちゃいことで得したよ! やったね。少しも得した気分にならないけどな!
でもってた、だでさえ小さい上に”双黒”である俺は、この世界では誰からの好感度もMAX間違いなしの、世界一愛される生き物らしい。逆ハーも夢じゃない。ヤッター、異世界バンザーイ。
……正直泣きたい。
そんなの全く全然一ミリも嬉しくないんだけど!!
「私の肌も、もう少し黒ければ……貴方と並んでも、遜色がなかっただろうに……」
世にも美しい顔に憂いを浮かべているアレクが、ちらちらと俺の顔を見ながら、拗ねている。
……黒いのが褒め言葉、ってことは。
俺に言って欲しい言葉が、うっすら理解できてきたけど。
正直あんまり言いたくない。
だって。言ったら喜んで、絶対ぎゅってされるのわかってるし。
だから、そんな切なそうな目で見るなってば。
……仕方ないな。
「アレクは充分、黒いと思う、よ……? ……腹とか」
あ、うっかり本音が。
「……!?」
アレクがバッ、と顔を上げて俺のことを見た、と思ったら。目の前が真っ黒に。
苦しい。
そんな嬉しそうに、涙目で飛びついてこないで欲しい。
おいおい、”腹が黒い”ってのは、こっちじゃ褒め言葉だったの!?
†††
抱き締められて、ついドキドキしてしまうのが悔しい。
少々、いやかなり残念なイケメンなのに。
細身に見えるのに、胸板とかしっかりしてて。いい身体してるっぽいのも何か悔しい。
……くっそ、いい匂いさせるなっての。
相手は男なのに。ぎゅっと抱き締められても嫌じゃないってのがもうヤバイ。
俺の常識がピンチです、お母様。
「嬉しい。それはもはや、求婚の言葉と考えても良いのでは……?」
耳元で囁かれた。
何故だかハアハア興奮してる。
ちょっとヘンタイっぽくても、こんなイケメンならうっかり許してしまいそう。イケメン無罪。美形こわい。異世界ヤバい。
「それはない! 求婚の言葉じゃないです!」
うっかり流されてしまわないように、しっかり気をもたなくては。
……いや、そんながっかりした顔して見せてもダメだから!
0
お気に入りに追加
581
あなたにおすすめの小説
兄の恋人(♂)が淫乱ビッチすぎる
すりこぎ
BL
受験生の直志の悩みは、自室での勉強に集中できないこと。原因は、隣室から聞こえてくる兄とその交際相手(男)のセックスが気になって仕方ないからだ。今日も今日とて勉強そっちのけで、彼らをオカズにせっせと自慰に励んでいたのだが――
※過去にpixivに掲載した作品です。タイトル、本文は一部変更、修正しています。
【完結】異世界転移パパは不眠症王子の抱き枕と化す~愛する息子のために底辺脱出を望みます!~
北川晶
BL
目つき最悪不眠症王子×息子溺愛パパ医者の、じれキュン異世界BL。本編と、パパの息子である小枝が主役の第二章も完結。姉の子を引き取りパパになった大樹は穴に落ち、息子の小枝が前世で過ごした異世界に転移した。戸惑いながらも、医者の知識と自身の麻酔効果スキル『スリーパー』小枝の清浄化スキル『クリーン』で人助けをするが。ひょんなことから奴隷堕ちしてしまう。医師奴隷として戦場の最前線に送られる大樹と小枝。そこで傷病人を治療しまくっていたが、第二王子ディオンの治療もすることに。だが重度の不眠症だった王子はスリーパーを欲しがり、大樹を所有奴隷にする。大きな身分差の中でふたりは徐々に距離を縮めていくが…。異世界履修済み息子とパパが底辺から抜け出すために頑張ります。大樹は奴隷の身から脱出できるのか? そしてディオンはニコイチ親子を攻略できるのか?
主人公受けな催眠もの【短編集】
霧乃ふー
BL
抹茶くず湯名義で書いたBL小説の短編をまとめたものです。
タイトルの通り、主人公受けで催眠ものを集めた短編集になっています。
催眠×近親ものが多めです。
今世ではあなたと結婚なんてお断りです!
水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。
正確には、夫とその愛人である私の親友に。
夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。
もう二度とあんな目に遭いたくない。
今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。
あなたの人生なんて知ったことではないけれど、
破滅するまで見守ってさしあげますわ!
今ならもれなくもう一本ついてきます!!
丸井まー(旧:まー)
BL
ド淫乱淫魔のアーネは、男狩りが趣味である。ある日、魔王城の訓練場で美味しそうな男達を観察していると、警備隊隊長のリザードマン・ヴィッレに捕まった。訓練場から放り出されたアーネは、ヴィッレを喰おうと決意する。
リザードマン✕淫魔。
※♡喘ぎ、イラマチオ、嘔吐、鼻から精液、男性妊娠、産卵、お漏らし、潮吹き、ヘミペニス、前立腺責め、結腸責め、フィスト、ピアッシング注意。
※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。
王子様との婚約回避のために友達と形だけの結婚をしたつもりが溺愛されました
竜鳴躍
BL
アレックス=コンフォートはコンフォート公爵の長男でオメガである!
これは、見た目は磨けば美人で優秀だが中身は残念な主人公が大嫌いな王子との婚約を回避するため、友達と形だけの結婚をしたつもりが、あれよあれよと溺愛されて満更ではなくなる話である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1/10から5日くらいBL1位、ありがとうございました。
番外編が2つあるのですが、Rな閑話の番外編と子どもの話の番外編が章分けされています。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※僕はわがまま 時系列修正
※ヤード×サンドル終わったのでラブラブ番外編を末尾に移動 2023.1.20
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる