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砂漠の獅子は幼き寵姫を愛す

ペトラ王の最期

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「王子は、また工場に?」
「ええ、最終動作の確認をしております。あれ・・の思いつきでこのような大事になるとは。困ったものです」
ペトラ王は苦笑した。


工場は、ナミル王子の発案であった。
まさか、実用化するとは誰も予想しなかったのだが。

「そういってやるな。世紀の大発明で、救世主になるかもしれぬのだぞ?」
「ええ。実は自慢の息子であります」

「ははは、猛虎と名高いペトラ王も、ただの親ばかであったか」


ナミル王子は珍しい、白い虎に生まれた。
力も強く、頭脳も優秀で。ペトラ王は、目に入れても痛くないというほど愛している。

子猫みたいに毛を逆立てるのが面白くて、つい何度かからかっていたら、どうやら嫌われてしまったようであるが。


†††


報せが来た。

連合軍の、先発隊が国境を越えて来たようだ。
こちらの兵を見て、怯むか?

しかし。
この兵の数は想定の範囲内だったのか、進軍は止まらない。

……愚か者が。
無駄に命を散らすか。


「全軍に告ぐ。……敵を、叩き潰せ! 我が国の力を見せつけよ!」

全軍進撃の号令に応じる声が、砂漠を震わせ、響き渡る。
胆力の弱いものなら、震え上がるだろう。

しかし、連合軍は未だその足を止めない。
何の策があるというのだ。


……砂ネズミの獣人?
変化したものが、砂地を滑るように駆け、工場の方へ向かった。

……このにおいは。

火薬。

奴等、爆弾を持っている。


まさか。
「ネズミを止めろ!! そやつら、工場を爆破するつもりだ!」


工場には、王子が。

試運転をしていると。先程、ペトラ王が。


†††


「ナミル、」
切羽詰ったような声に振り向くと。

ペトラ王が即座に虎に変化し。
電光石火の如き疾走で、ネズミを追っていた。


子を想う親が見せた、決死の追跡。

一匹は、ペトラ王の前肢の一撃で頭を吹っ飛ばされ、止まったが。
ペトラ王がネズミの胴体を叩いた直後、爆発した。

腹に、爆弾を抱えていたのだ。


誘爆で。
辺りのネズミも爆発したようだ。

ネズミを追い、爆発に巻き込まれた兵も少なからずいた。
ペトラ軍も、我が軍も。

……何という事だ。


酸鼻を極める、としかいえぬ状況であった。


†††


「ペトラ王!!」
倒れ付しているペトラ王の元へ駆け寄った。


かろうじて息はあるようだが。
重傷を負っている。

全身に、細かい破片が深々と刺さっている。
獣化していたため、ようやく生きながらえている状態だ。

人間の姿では、即死であっただろう。
だが。

この状態では。……永くはない。


「……息子を、」
ペトラ王の、血だらけの手を握った。
安心させるように。

「ああ。必ず、ナミルの身を守ろう。皆の希望である工場を、このペトラ国を。これ以上、決して壊させはしない。……救護班、急ぎペトラ王の治癒を!」


爆発に巻き込まれた負傷者も前線から下がらせ。
国境の方を見ると。

連合軍の第二隊がやってきていた。
性懲りもなく、爆薬を抱えているのが見えた。


怒りで、目の前が真っ赤になった。

愚かな。
禁忌をおかしてまで、利権を求めるか。

所詮は連合軍。
一国が沈もうが、まだ他の国があるという考えなのだろう。

浅ましい。
そのような愚かな者たちに、奪われて良い命など無い。


……赦してはおけぬ。


†††


獅子に変化し、敵陣へ突っ込み。

爆弾を抱えた敵を他の敵に叩きつけ、爆発させ。
誘爆に巻き込まれながらも。

わたしの姿に怯え、逃げ惑う敵将を足蹴にし。首を噛みちぎり、投げ捨てた。


数多の屍を踏みしめる血塗れの獅子を見て。
はじめて自分達がどのような相手に戦を挑んだのかを知り、恐怖したのだろう。

連合軍は、一旦退避を決め、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
烏合の衆め。


被害状況を聞きに、戻ると。
わたしの姿を見た兵士が、悲愴な声を上げた。

「陛下、御身に破片が!」

見れば脇に、大きな破片が刺さっていた。
前肢にも。


その状態で走り回ったせいだろう。さすがに、血を流しすぎたようだ。
貧血で目を回し、処置室へ担架で運ばれた。

点滴を打たれながら、破片の除去手術を受けた。……といっても、刺さった破片を引っこ抜かれただけだが。


「こっちは怪我人いっぱい来てて忙しいんですから、手間掛けさせないで下さいよ」
医師頭のムバラクは嫌そうな顔をしていた。

「王の大事に、何を言うか」
「陛下、どうせほっときゃ治るじゃないですか」

ずいぶんな言われようである。
わたしは獣の力が強いので、首が千切れない限りはまず死なないだろうといわれているが。


「……ペトラ王の容態は?」

「予断を許さない状況だとしか。あちらの医療班も優秀ですが。こればかりは」
運を天に任せるしかない、と。

さすがのムバラクも、神妙な顔をしている。



†††


「陛下、シン様がこちらに来られるようです。お見舞いをしたいと」
兵が報告に来た。

「何だと!? ……っく、ムバラク、包帯を巻け、包帯。新は、血が苦手なのだ。洗い流せ!」
慌てて人の姿になったら、傷が開いてしまった。


「陛下……」
呆れられつつも。
処置室の血を洗い流し、包帯を巻かれた。


「アサド、大丈夫!?」

ラースに付き添われ、新が処置室へ入ってきた。
顔色が悪い。

「これくらい、大した傷では……っく、」
動こうとしたが。塞がりかけていた傷が引き攣れた。


まだか。
早く塞がれ。

新を心配させてはいけない。
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