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獅子の王の寵愛

流されて、異世界

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気がついたら。
やわらかい、ベッドの上だった。

ここ、どこ?


坊やスィビィ、目が覚めたかい?』
優しい声。

声のしたほうを見ると。
長い金色の髪に金色の目の、とても綺麗な顔をした男の人が、ベッドの横で頬杖をついて、ぼくを見ていた。


きらきらして、綺麗で。
すごくかっこいい。

まるで、テレビの中の人みたいだ。これは、夢かな?


†††


『わたしの名前は、アサド・ビン・アブー・バクル・アル・ゲヘト……アサドという。坊やは?』

声も、すごく良い声だ。
日本語を話してるけど。外国の、俳優さんかな? 光ってるみたいに、きらきらして見える。


『ん?』
アサドと名乗った人は、首を傾げた。

まだ言葉が通じてないのかな、と呟いてる。
いけない、うっかり見惚れてる場合じゃなかった。

今、ぼくはこの人に、名前を聞かれたんだ。


松田、新まつだ しん。新です。すみません、言葉、わかります。大丈夫です」
慌てて名乗った。緊張したせいで、少し片言っぽくなってしまった。

シン? スィン?』

外国では、別の意味になるのかな?
アサドさんは自分の歯を指差してみせた。犬歯が鋭い。

「ええと、新しい、と書いてシン、です」
これで、通じるだろうか?

新しいジャディード、シン。わかった。新か。いい名前だね』
アサドさんは、にっこり笑った。

男の人なのに、思わず見惚れてしまうような綺麗な笑顔だ。


『年齢は、言えるかな?』
アサドさんに聞かれて。
急いで答えなきゃ、って思うのに。

名前と違って、咄嗟に出なかった。


年齢は……。

ええと。

何歳だっけ?


……どうしよう。
ぼく、名前以外、何にも覚えてないみたい。


†††


嘘をついてその場を誤魔化してもしょうがないと思って。
名前以外のぜんぶ、記憶が無いと伝えると。

アサドさんは、痛ましそうな顔をした。


『マクランの実の後遺症だろうか。子供には良くないものだったのか……?』

ぼくの頭を撫でている。優しい手。
枕のみ?

『骨格から、8歳から12歳だということだが。栄養状態も悪いようだ』
痩せた手を取られ、見られているのが恥ずかしくなる。

アサドさんの手は綺麗だ。
手のひらに、ごつごつしたたこがあるけど、日に焼けたような健康的な肌はつやつやだし。

アサドさん、と呼んだら、アサドと呼ばないと返事をしないよ、と言われたので。アサドって呼ぶことになっちゃった。
年上なのに、いいのかなあ。


簡単な算数の計算とか、いくつかの質問をされて。

『ふむ、賢いな。かなり高度な教育を受けているようだ。8歳ではないだろう。とすると、……12でいいか』

そんな感じで、わりと適当に。
ぼくの年齢は12歳、ということになった。


『これはハリム。使用人だ。新の世話を任せる』
ハリムというお兄さんを紹介された。

黒い髪に茶色の目の優しそうなお兄さんは、ぼくに向かって手を合わせて、頭を下げた。
何で拝まれてるんだろって思ったけど、これはお辞儀みたいなものらしい。

『よろしくお願いします。シン様』

……え、様!?


「よ、よろしくお願いします……」
思わず、アサドの後ろに隠れてしまった。


†††


どうやら、アサドはとても偉い人みたいだ。

使用人がいるし。
着ている服も、金色の刺繍がしてあって、すごく高価そうだし。


『陛下、いい加減、執務室へお戻りくださいませんか? 書類が山のように……、』
白髪交じりのおじさんが、アサドを呼びに来た。

……へいか?

『ラティーフ、ほら見ろ。起きたぞ。新しい、で新だ。12歳くらいなようだ』
アサドはぼくを引き寄せて、おじさんに紹介している。

『おや』
ぼくを見て、微笑んだ。

こわい人じゃなさそうだ。
ほっとする。

『これは家臣のラティーフ。口うるさいじいやだ』
『陛下……、』


「あの、よろしくお願いします」
慌てて頭を下げた。

『これはこれは愛らしい。陛下にはもったいないですな』

『ラティーフ、どういう意味だ?』
ぎゅっと抱き締められた。
『この子はわたしが拾ったのだ。わたしのものだ』


そうか。
ぼくは、アサドのものなんだ。

あったかい腕の中。
安心する。


†††


アサドの部屋で、一緒に眠った。

赤い夢を見た。
真っ赤で、こわい。

悲鳴を上げて、目を覚ました。


『どうしたんだい?』

こわい夢を見た、と言うと。
アサドは優しくぼくの背中を撫でて。ぎゅっと抱き締めてくれた。


『大丈夫。わたしの腕の中は、この世で一番、安心な場所だよ』
頬を舐められる感触がして。

びっくりして、見ると。

アサドは大きなライオンになっていた。
りっぱなたてがみの、凛々しい顔したライオン。

こんな夢、初めて見た。
……と思う。


「こんな大きくて強いライオンが守ってくれるなら、安心だね」

『そうだ。安心して眠りなさい』
頬を舐められた。
舌がざりざりして、痛いよ。


あったかい。
たてがみもふわふわで、いい匂いがする。

いい夢だなあ。


†††


目が覚めたら、アサドに抱き付いて寝ていた。


アサドは裸だった。
外国の人は、服を着て寝ないのが普通なのかな? ぼくはやわらかい、ボタンの無い服を着ているけど。

アサドって、いい匂いがするし。なんだかドキドキしてしまう。

寝顔もかっこいいな。
鼻が高くて、睫毛が長くて。

……あ、目が開いた。


アサドはぼくを見て、微笑んだ。
見惚れてしまうほど、素敵な笑顔だ。

『おはよう、新。よく眠れたかな?』
額にちゅーされちゃった。


「おはよう。いい夢を見たよ。アサドがね、大きなライオンになるの。かっこよかった」
『そうか、かっこよかったか』

嬉しそうに、頭を撫でられた。
アサドの手、大好きだ。大きくて、優しくて。あったかいから。
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