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ツガイは異世界の王子

砂漠の中のひと粒の宝石

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竜巻イウサールだ」
思わず、呟きが口から洩れる。


そういった時期だというのもあるが。興奮で、胸が躍る。
これだけの大きさのものは、何年ぶりであろうか?

砂嵐ハブーブではない。砂を巻き込まず、空気だけが渦を巻いている。不思議な現象である。

神の気まぐれだろう。
は、いつも”何か”をこちらの世界にもたらすのだ。

災厄ファヤダーンであろうか? それとも、財宝ジャウハラか。


さて。
今回は、あれに運ばれ、何がやって来るのだろうか。


†††


竜巻の消えた場所に、竜騎を走らせる。


人だ。
人が落ちている。

……髪は黒いが、肌の色は薄い。”あちらの世界”の、東方に住む人のように見えるが。

肩が上下し、呼吸をしているのがわかる。生きているようだ。
しかし、小さいな。

まだ、子供なのか?


「陛下、お手を触れてはなりません!」
医師のサラームが叫んだ。

から来た者は、未知の病原体を持っている可能性があるという。昔、それで我が国の者が大勢死んだと記録にあった。
怪我を治す術はあるのだが、未知の病は治せなかったようだ。

まずは、無害であるか、検査をしなければならない。マスクと手袋をつけ、子供を保管用の袋に入れる。


目を閉じているその姿は、どこかの姫君のようで可憐だが。
……男か。

手触りで確認する。
姫ならば、問答無用で後宮に入れたくなるような美人なのだが。

は我が国にもたらされた災厄か、宝か。
まだわからないが、おもしろいことが起こりそうである。


未知への期待に、胸が高鳴るのを感じた。


†††


所持品はなし。
衣服は念のため焼却処分。身体を洗浄し、細菌などの検査を始めた。


「結果はすべてよし、健康体です」

検査の結果、骨にも内臓にも異常はなく。18~22くらいの成人男性であるという。
外見は、子供のように見えたが。

これで、成人だと? 
私よりも年上にはとても見えないが。東方の者は、年齢よりも若く見えるのだろうか。


言葉が通じないようなので、やはり祖国の者ではなく、他から来た流れ者だろうと臣下が話している。
ヤークートは、殺すか捨てるかでしょう、などと勿体無いことを進言してきたが。
それは却下した。

近寄ってみると、よい香りがした。
洗浄したので、これは、この者の体臭なのだろう。


体質に合わねば命を落とすという天使マクランの実を食べさせたのは、賭けであったが。
どのみち、この世界ではあちらから来た人間は衰弱し、長く生きられない。
龍の血を飲ませれば生きられるというが。龍など滅多に姿を見せない。我らは半獣の野蛮な生き物だと見下されているのだ。

かれがこちらへ来たのが神の導いた運命であるのなら、生き延びるはず。


期待通り。
かれは見事、適応してみせた。


†††


名は、ナナミ王子というらしい。

感染の恐れがあるので焼却してしまったが、着ていた服も見た事のない素材で作られていた。
簡素なつくりに見えたが、王族の私服であったのだろうか?

なるほど王族らしい、凛々しく美しい顔立ちである。

何よりも、目がいい。
青みがかった白い部分と、黒の境目がくっきりしていて、吸い込まれるように美しい瞳だ。


私の氷のような瞳を見ても怯えず、動じることなく、まっすぐに見据えてくるのも面白い。
屈服させてやりたくなったが。
ナナミは私の命には従わない、という。

その自尊心、粉々にしてくれよう。

いつになく、躍起になっている。
かれを見ていると、胸の辺りがやたらとざわざわするのは何故だろう。

これは。
こののせいだけではあるまい。


ナナミを処置室から”薔薇ワルド の間”に運ばせた。

”薔薇の間”は、過去に王が愛妾を囲ったという宮である。
美しい女性で。王はことのほか寵愛し、外に出すのも禁じ、鎖で繋ぎ、死ぬまで閉じ込めた、といういわれがある。

私も、それほどまでに執着するような相手が欲しいと思っていたが。

ようやく、それを見つけたかもしれない。
求めていた、ツガイを。


よりによって、この時期に。
私の発情期が来る時期に、神が私の元へ遣わしたのだのだから。


†††


「投影機の拘束具で手首が傷付いておりました。肌がやわらかく、弱いようですので。どうぞ、お手柔らかに」
珍しく、忠告された。

サラームはナナミの怪我を治してやったらしい。

少し触れてみただけだが。
確かに柔らかく、容易く食いちぎれそうな肌だった。

外国の王子は、過保護なのだろうか? あれでは剣を振るどころか、持ったことすらなさそうだ。
ナナミの指も手も、たおやかな姫のようにほっそりとし、綺麗なものだった。


部屋へ行くと。

ナナミは寝台に座っていた。
それだけでも背筋の伸びた、良い姿勢であると感じる。

……生まれながらの王族とは、こういうものなのだろうか?
所詮は紛い物であり、見様見真似の王族に過ぎない我々とは、根本から違うように思える。


私が来たことに気付いているだろうに、こちらを振り返りもしない。
鎖で繋がれたことに腹を立てているのだろう。

めちゃくちゃに乱してやりたい、と思った。
そのすました顔が、屈辱や快楽で、無様に泣き崩れるところを見てみたい。

……穢してやりたい。
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