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王様はホワイトタイガー

異世界の王に囚われる

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暫定イケメンは、顔の覆いを外し。

『そうか。私はナミル・ビン・アズィーズ・ビン・タラール・アル・ペトラ。この国の王だ』
堂々と名乗った。

……は? リアル王様? マジで?


あ、暫定じゃなくて、イケメン確定だった。マスクを取っても、凛々しい美形だ。
鼻も口も、バランスよく整っている。背も高いし。声も良いし。

しかも、王様だって? 本物の。
偽物、というか、名前だけ「王子」で 一般人パンピーな俺は、なんだか勝負に負けた気分だ。


最初から勝負になってないような気もするけど。


†††


ナミル・ビン・何とかいう王様が言うことには。

ここは異世界で。
自分達の祖先も大昔に、竜巻によってこの世界に運ばれて来たそうだ。

祖先は、アラビア語圏のヒトだったみたいだ。
ああ、それで公用語がアラビア語に……。


しかし、今のところ異世界的な要素は見られないんだが。

ここ、ほんとに異世界なのか? ドッキリか何かじゃないのか?
って、一般人を騙して誰が得をするんだか知らないけど。

石油王くらいの超大金持ちなら、道楽でそのくらいの金額は出すかもしれない。
そんな人が存在するなら、の話だが。


竜巻に飛ばされてどこか別の世界に行くのは、『オズの魔法使い』だったっけ?
何なんだ。
ファンタジーの世界かよ?

てか、何で俺、いきなりアラビア語が理解できるようになったんだ?
それはファンタジーというか、ミラクルだ。

ここが異世界だっていうのはまあ、置いといて。

何で俺がこうやって、異世界の王様に拘束される羽目になったんだ?
っていうか、いい加減、この拘束を外してくれないかな。腕とか痛いし。


王様は言った。
『あの実は、非時香菓マクランの実と呼ばれるものだ。食べればこの世界の住人となり、あらゆる言語を理解できるようになるが、二度と元の世界には戻れない。体質が合わなければ、即死するものである。喜べ、ナナミ王子。そなたは選ばれし我が国の住人となったのだ』

てめえ、何てもんを食わしやがった!? 喜べねえよ!! 感謝もしねえぞ!?
……などという罵倒の言葉は呑み込んだ。
辛うじて。

相手はこの国で一番偉い王様だし。打ち首は御免だ。

せっかくこうして生き延びてるわけだし。
我慢我慢。


更に。
王様は、腰に手を添えて、アオリ状態で偉そうに言った。
実際偉いんだろうが。

『元の世界では王子だろうが、ここではそなたもただの平民だ』
と。

いや、元の世界でも俺は普通にド平民ですが?
名字がこれだからか、よく優雅な生活してそうとか誤解されるが。

王子って、日本に700人くらいしかいない、珍しい名字なんだってさ。イエーイ。
更に読み方までオウジな人だともっと減るとか。


†††


王様は、ずい、と顔を近づけてきた。
悔しいほどのイケメンだ。


『そなたは愛らしい顔立ちをしているな。おとなしくしていれば、私が飼って、大切に可愛がってやってもいい』
頬を、微妙な感じで撫でられて。なんか、ぞわぞわする。

『……なんと滑らかな。こんな肌は、初めてだ』


これは。
間違いないよな。

ええと。……この、ナミルとかいう王様は。つまり。
男が好きなヒト、なんだよな……?


俺は違うぞ!?
男には、全く、性的な興味なんてないから!

美形とか、良い身体してるヤツはデッサンしたくなるけど。
それだけだ。


「んっ、」
……ちょっと、首とかくすぐるみたいに撫でるの、やめてくんないかな。
ぞくぞくする。

『どうする? おとなしく私のペットになるか?』
「冗談じゃない、そんなのお断りだ!!」

思わず即答してしまった。
全力で。


男達がざわめいた。
王に逆らうとは命知らずな……とか言ってる。


ヤバい。
もしかして、王様に逆らえば、死罪とか?


†††


『ほう、私に逆らうというのか、面白い』
ナミル王はにやりと笑って。

『”ワルドの間”へ運べ、丁重にな。拘束は解くな』
男達に告げて、出て行った。


”ワルドの間”?
何だ? 拷問部屋か? こことは別に拷問部屋があるのか?

男達も、困惑している様子だ。

怯えた顔でこそこそと話しないでくれないかな。
こわいだろ!

よりによって、こんな時期に……、とか言ってるのが聞こえた。
何の時期なんだ?


X型の台から外されて。
両手両足をまとめられて、ちょっと見エジプトのミイラみたいな状態で担架のようなものに乗せられて、四人がかりで運ばれた。

これが丁重な運ばれ方、なのだろうか?

残りの人達は前後を歩いている。いよいよ葬られてます感が強くなる。
王様に逆らったわけだし、このまま埋められても不思議ではない気がするが。


運ばれている途中で、窓から外が見えた。

ここの周囲は一面が砂漠らしい、ということだけはわかった。
逆にいえば、それ以外はわからなかった。

この建物は、全体的に石造りのようだ。
砂漠だからだろうか? でも、暑さも感じず、わりと涼しい。


石って断熱効果あるんだな。
などと余計なことを考えて現実逃避する俺だった。


†††


運び込まれた”ワルドの間”とやらは、女性用の部屋のように見えた。

全体的にピンクっぽい彩色で。装飾とかも花のような意匠で女性的、というか柔らかい感じだし。天蓋付ベッドとかもあるし。
何となく、お妃様の部屋っぽいイメージだ。

その、天蓋付ベッドまで運ばれてしまう。天井から下がってるレースは薄紫色だった。


まさか。
ものすごく、嫌な予感がするんだけど……。


『怪我をしたくなければ、抵抗するな』
と言われて。
手枷と足枷が外された。

やっと自由になった、と手を見たら。
手首が赤くなっていて、血が滲んでる。体重が掛かってたせいかな?


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