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ネイディーンの女王

女神の祝福

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昨夜、たっぷり愛されてしまったせいで、ヌーブラをつけるのにもひと苦労である。

二人がかりで弄ったり吸い付いたりするから、そこが敏感になってしまっている。
痛いわけではないだけに、困ってしまう。


頬を桃色に染めながら、女物の下着をつけている海瑠の姿に、兄弟の目は釘付けだった。
若い二人には、目に毒である。

女性の服装も、とても似合っていて可愛らしいが。
一度でいいので、男の姿で抱きたいとも思っていた。元々、男を普通に抱く世界の人間である。


『騎士の制服とか着せて、脱がせてみたいな……上着だけとかさ。エロくない?』
『脱がせず局部だけ出させてするほうがクる』

『えー、それは女装のままのほうがクるけどなあ。ほら、オヤジ秘蔵の書物にもあったじゃない。ほんとは男なのに、オンナにされちゃったーみたいな』
『ああ、あえて脱がさぬ美学だな。……だが、』

若い兄弟は、何やらマニアックな会話を始めている。


「おまえらも早く支度しろ!!!!」
海瑠に怒られて、二人の王子はわたわたと出発の支度を始めた。

といっても、幼い頃から軍隊での経験もあり、慣れているので支度など5分で終了である。
早く支度しろと怒った海瑠が、彼らを待たせることになった。


◆◇◆


最初に宿泊したのは、エリノア城から十数キロほど離れた町であった。

まだこの辺りは、復興も進んでいる地域なのだが。
人口が伸び悩んでいたり、不況による買い渋りで商業が思うように発展しなかったりと、悩みがないわけではなかった。

だが、その辺りは何とかなりそうである。
女王陛下の悩ましい喘ぎ声を聞いてしまった騎士たちよりその熱は伝播し、のちに一大ベビーブームを引き起こすことになる。

一夜の交歓でも、子供ができることもあるのがこの世界であった。

食べ物、服、教育と。
子供が増えれば、自然と経済も動くものである。


そして、町を視察していた女王陛下の御姿をひと目でも見られた者は、たいそう羨ましがられた。
見た者は、まだ夢を見ているような心地で語った。

まだあどけなさを感じさせる、美少女のような容姿で。
艶やかな黒髪が映える、ライトオリーブの肌。柳のような眉。長い睫毛に縁取られたアーモンド形のぱっちりとした勝気そうな黒い瞳。やわらかそうなばら色の頬、ふっくらとした唇は微笑みを浮かべて。

紅い宝石のイヤリングに、それより上質そうな大粒の宝石で作られたネックレス。ネックレスを際立たせるようなふくよかな胸、きゅっとくびれた腰。
レースをふんだんに使ったふわりとしたピンク色のドレスの裾を持ちながら、滑るように優雅に歩くその姿は、誰もが目を奪われるものだった……と。


その絵姿は、飛ぶように売れた。
女王陛下を讃える歌も作られ、吟遊詩人は引っ張りだこだった。

女王と王子の出会いを脚本家が劇にし。
劇団は舞台の客席に立ち見でも客が入りきらず、野外公演を開き、人気を博した。

後回しにされていた芸術面での復興も、それで活性化したのであった。


視察団の移動は、それだけで経済を大きく発展させていた。


◆◇◆


馬車の中で、オーランドがくすくす笑っている。

「ん? どうしたオーランド?」
『女王陛下の御姿を見ると幸せになれる、と民が噂をしているそうです』

復興状況を調べ、情報収集をしてる中。
その噂はかなりの範囲で、爆発的に広まっているとのことだった。


「なんだそりゃ」
料理長がくれた蜂蜜入りのクッキーを子リスのように食べていた海瑠は、呆れた声を出してオーランドを見た。

『確かに、見ているだけで幸福だ』
クリシュナが頷いて、熱をはらんだ瞳で海瑠を見詰めた。

その視線に、服の下まで見られ、愛撫されているような気分になって。
海瑠は頬を染めた。

実際、クリシュナの頭の中で海瑠はあられもない姿で犯されていたので、間違いではなかったのだが。


「……そんな、見んじゃねえよ……」

『見るだけだ。触れてない』
あからさまにエロい視線を送られ。

海瑠は何となく居住まいを正し、軽く開いていた足を閉じた。


『香油いります?』
馬車の外、左側からナイジェルが声を掛けてくる。


「移動中、そういうのは禁止だからな!?」


◆◇◆


魔族に破壊された教会。
その無惨な爪あとが、未だ残っていた。

神父は幸い買出しに出ていたため生き残ったが、避難していた村人が何人か犠牲になってしまったという。

貧乏な村のことである。
神父は教会の修理を後回しにし、犠牲者を弔い、村の復興のために今も働いているという。


海瑠は地に膝を折り、手を合わせ。犠牲者に対し、安らかな眠りを祈った。

すると。
どこからか、花びらが舞い降りてきた。

花びらは、きらきらと光りながら舞い落ち、地に着く前に消えた。


『おお……』
『女神様から祝福された女王陛下……』
『女王様……』
ざわめきが聞こえる。

これは、教会を早く建て直し、女神様を敬い奉れ、という報せに違いない! と神父と村人は奮起した。


なんか、とんでもないことになってる……?

内心冷や汗をかきながらも、海瑠は女神のような優しげな微笑みを崩さなかった。
役者魂である。

そう、 紅天女くれないてんにょになるのだ。
気持ちだけは。


◆◇◆


『カイルが女神の祝福を受けていることは間違いなさそうですよ』

馬車に乗り。
報告を聞いていたオーランドが言う。


海瑠が歩いた場所に、あの、不思議な花が咲いていた。

花は見る間に散って。
そこに清浄な空気を残した、と。

それもあり、何処からかこの地に現れた女王陛下は、実は女神の化身なのではないかと噂されているらしい。


「じゃ、おれ、許されてるのかな?」

何か、目的があって、女神から呼ばれたのかもしれない。
女王として振る舞い、何かを成すように、と。

そう考えると、自分はここにいていいんだ、という自信がわいてくる。


どうしても、国民を騙している気分で、落ち着かなかったのだ。
女ではないのに、女だと偽って。


『当然だ。あの、海神の神官メレディスですら認めているのだ』
クリシュナは力強く頷いた。

『あれは化け物だしなあ。……メレ爺が認めたのですし、大丈夫でしょう』
オーランドもうんうんと頷いている。

二人は昔、友人たちと神殿に落書きをしたりイタズラをしたのを、千里眼でもあるかのように、どれが誰の仕業か突き止められて、たいそう怒られたのだという話をした。
ヤンチャないたずらっ子だったようだ。


◆◇◆


『女神より祝福が贈られたということは、この視察は間違いではないということだろう』
『私たちもついてますし、護衛の騎士たちも腕に覚えがある者ばかりです。不安になる要素は一切ありません。この際ですし、視察旅行を楽しみましょう? 夕日の美しいスポットなどいかがです?』

15歳の王子が、不安になっている海瑠を慰めようと、色々考え、精一杯頑張ってくれているのだ。
無口なクリシュナまで。

「おまえら……」
海瑠が目を潤ませていたら。


『香油はご入用で?』
リッターが馬車の右側から声を掛けてきた。

左側からは負けたー、とナイジェルが呟いているのが聞こえた。
何の勝負だ。

もうちょっと、空気を読んで欲しい。

いや、主人の心の動きを読みすぎているゆえかもしれないが。
これさえなければなあ。と海瑠は肩を落とした。


「手を伸ばすなオーランド」
『えー』

海瑠は瓶を受け取ろうとしているオーランドの手をぺしりと叩いた。
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