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幸せな未来へ

九ヶ国王様会議

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「……私の魔法弾よりも威力のある攻撃だったが……」
イルハム王が呟いた。

そうなんだ?

「ハカムの魔法を打ち消されたぞ!」
「偉大なるマラーク様!」
わあっ、と。讃える声が広場に響いた。

ハカムは生命力を振り絞って最期の魔法弾を撃って、死んでしまった。
他の一族も、ハカムに生命を吸い取られて全員死亡。


裁判は、処罰を下すことなく、途中で終わってしまった。

でも、聴衆的には”神の奇跡”を目にしたので満足だったようだ。
イルハム王は、できればハカムはこの手で断罪したかった、と言ってたけど。

仇討ちをするはずのナドヤ王妃も、生きていたし。
どうにか溜飲を下げて欲しい。


じゃあ。
これから先の未来について、会議をしようか。


†††


先日、三ヵ国でも話し合ったけど。

今回は、全ての国の王様が集まった会議だ。
各国の産物や、地下資源の取引を話し合ったり。法律のすり合わせも行う。

国ごとでルールが違うと、争いの元になるから。


金や銀から貨幣を作って。その価値は一律同じものとする。
物々交換もいいけど、渡す現物が無い場合困るし。

「あ、もし不作とか、天候に問題があったら、俺に言ってください。何とかします」

俺が言い出しっぺで海を作ったので。
それによって台風や豪雨、旱魃などが起きた場合。責任取って対処しなくちゃだ。

「これは心強い」
「マラーク様のご加護が直々に得られるのですからね」

「我が妃が優しいからといって、あまり頼るでないぞ」
アーディルは相変わらずだ。


ワーヒド国うちからは、シルクやお茶。これから栽培するサトウキビで作った黒糖などを輸出することにした。


サイード王が国王になるイスナーン国は、海も近いし。漁業……海産物で取引するのをお勧めしておいた。
特に、サケとタラはお願いしておこう。


サラーサ国は予定通り、羊毛や毛皮。
それと、南国フルーツでの取引をすることになった。


ハムサ国は、サラーサ国から羊を譲り受けて羊毛と淡水魚、木の実や木製家具を売りにするそうだ。
精力的だなあ。


サブア国からは試作品のメイプルクッキーを出されて、合格点を出した。
小麦の研究も順調だって。


サマニア国はチリビーンズ、アロエ。
サボテンから作ったテキーラも好調のようだ。


ティスア国のコーヒー豆、カカオ作りも順調なようで。
試作品のチョコレートは、まだ苦かったけど。改良が楽しみだ。


アルバ国の周辺には地下に石油などの地下資源が眠ってるので、燃料として取引できる、と教えたら、ヤシム王は大喜びだった。


残るはスィッタ国だ。

今まで没交渉で、全てが謎に包まれた国だった。

表立って出て来るのも初めてなので。みんな、興味津々で発言を待っている。
他国から発言を期待されていたイルハム王は、俺を、助けを求めるような目で見た。

いや、そんな目で見られても、困るんだけど……。


†††


まあ、よく考えたらイルハム王も、まだ若い王様だし。
ずっとスィッタ国から出なかったし。他の国の人と話した経験も少ないからなあ。

17歳で立派な王様しているアーディルが特別優秀で、ザイルみたいな神経なだけで。
普通は、全国の王様に囲まれたら委縮しちゃうか。


「ええと、トビトカゲで配達業とか。スィッタ国特有の生き物なり食べ物なり、何か思い当たるものはありますか?」
と、話題を振ってみる。

水を吸わなくなったから、将来的には環境が変わって。あのジャングルはなくなるかもしれないけど。
位置的にはオーストラリアだから。

オーストラリアといえばコアラ……オージービーフ……。ポテト……カンガルー……。ハンバーグ……。ハイビスカス……ん?
だめだ、有袋類と食べ物しか思い浮かばない。その上ハワイと混同しそうになった。

だから俺、地理は苦手なんだってば!


「申し訳ない。何も思いつきません……」
イルハム王、がっくりしてる。

今まで動物や植物がいっぱいいるジャングルのある環境が当たり前で。他の国がどうなってるのかも知らなかったしな。
手紙の返し方も知らなかったくらいだ。


「失礼。スィッタ国スルタンは随分お若く見えますが。もしや代替わりされたばかりなのですかな?」
ハムサ国のナエフ王が質問した。

ナエフ王は好々爺というか、王様の中でも親しみやすい雰囲気だ。イルハム王も、ほっとしたように頷いた。


あ、そうだった。
アーディルとサイード王は事情を知ってるけど。

他の王様たちには、次元の亀裂が塞がったから、もう水が枯れていく不安はなくなった、ってことしか報告してなかったんだっけ。


アシャラ国のサイード王たちと一緒にスィッタ国に着いて。
スィッタ国のたった一人の住人、イルハム王の息子、カマルと会って。

みんなで亀裂を塞ぐ途中、亀裂から行方不明になっていたスィッタ国の人たちが出て来た、という話をした。

亀裂の向こうでは、時間の流れがおかしくて。
イルハム王が帰ってきたら、こっちでは14年も経過していたこと。

イルハム王が王を継いでから、本人の感覚でまだ一年しか経ってないこと。
ハカムの毒蛇に咬まれて殺されたと思っていた王妃が、昨日、地下施設で見つかったことも。


波乱万丈だなあ。


†††


「なるほど。色々なことがあったのですなあ」
「大丈夫、焦らなくともじっくり考えればいい案が浮かぶでしょう」

他の王様たちに慰められて、イルハム王が戸惑ってる。
みんな優しいなあ。


アルバ国のヤシム王はあからさまに「情けない、それでも王か」って顔をしてるけど。
視線で注意したら、肩を竦めて苦笑した。

口に出さなかっただけ成長したよな、と上から褒めてみたり。
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