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ジャングル風呂

ジャングルで一泊

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ツチノコはカマルに向けていた顔を、イルハム王に戻した。
『ふむ。では、やはり貴殿の妃を弑 しいしたは、我では有り得ぬことが明白になった』

「何だと……!?」
嘘をつくな、とイルハム王が声を荒げたけど。


『真実、我は今年で10歳になるのだからな。14年も前では、まだ卵も存在しておらぬわ』


「ええっ!?」
こんな渋い、オッサン声なのに!?

まだ10歳なの!?
ツチノコに暗算が出来たことよりも驚いてしまった。

いや、蛇としては、長寿なのか……?
蛇の平均寿命とかはよく知らないけど。

”伝説の大蛇”っていうから。100年くらいは余裕で生きてると思ってた。


でも、このツチノコがハカムの最高傑作で。
今まで色々な研究や実験を重ねてたっていうしな。

実は、色々な種類の毒蛇がいっぱいいたとか? イスナーン国の地下に研究室とかあったりして。
それはまずい。

そんな危険な国、まだサイード王には譲れないんじゃない? 戻ったらイスナーン国、捜索してみなくちゃ。
イスナーン国に残った、ワーヒド国の兵がすでに見つけてるかもしれないけど。

今頃、ハカムが行った悪事の証拠を探してるはずだし。


†††


『ハカムはじき、50になるはず。おそらく、奴が貴殿の妃を弑した本人であろう。現在、ワーヒド国の牢獄で裁きを待つ身であるが』

「え、ハカムってあれで49歳だったの!? ずいぶん若作りだな!?」
思わず突っ込んでしまった。

だって。最初見た時はアーディルより少し上くらいかな? って年齢に見えたもんな。
アーディルが17歳だって聞いて、自分の見る目の無さを知ったよ。


どこからか捕まえてきたヒトを使った蛇毒の実験をしている時に、毒も使いようによってはアンチエイジングの効果があることを発見した、って?
それを自分で率先して使い、若く美しくなった姿で惑わして。実験体を攫うのに役立ててたって。

マジか……。
あの、甘ったるい匂いも媚薬みたいなものだったのかな?

ハカムのことを気持ち悪いと感じてたの、やっぱり間違いじゃなかったんだな。
人体実験とか、邪悪すぎる……。


「ハカムが。我が妃を害した者が。まだ、生きているのか……!?」
俯いていたイルハム王が、顔を上げた。

14年も前のことだし。外は過酷な世界だから。
さすがにまだ仇が生き延びているとは思わなかったようだ。


「ああ。我が国の宝、ミズキを攫った罪により投獄したが。この会談が済み次第国へ戻り、裁判をするため、ハカムの罪状を調べているところだ。……スィッタ国スルタンよ、証人になるか?」
「頼む。この手で仇を討たせて欲しい」
アーディルの誘いを、イルハム王はすぐに承諾した。


残念ながら、イルハム王の妃を噛み殺した仇であろう大蛇はもう、生きていたとしても寿命で死んでいるだろう、とツチノコは言った。
ハカムは蛇たちを実験に使い、散々使い潰してから処分する。
最高傑作と言われた自分が産まれたからには、役立たずになった蛇は切り刻まれているに違いない、と。

「ツチノコ……、」

思わず、ツチノコの顎の下を撫でてやると。
ツチノコは、目を細めて喜んでいる。

『今は、この上なく幸福である。こうして、愛らしきマラークのしもべとして生きられるのだから』


「……ツチノコ殿。申し訳なかった……」
イルハム王は、頭を下げた。

神様以外に頭を下げない王族が。

俺たちにも、もう一度。
改めて謝罪した。

俺は許さないけど!


でもまあ、仇討ちの協力くらいはしてあげようか。
カマルのために。


†††


気付いたら、辺りが暗くなっていた。

もうすっかり日が落ちてしまっている。
昔話に白熱し過ぎたのかも。

ツチノコが道を作ってくれたとはいえ、さすがに夜のジャングルを進むのは危険だろう。
基本的に獣って、夜行性だし。ここには野生の肉食獣とかもいるみたいだし。ハブとかは木の上から降ってくるっていうし。
……というのは建前で。風呂を作りたかっただけだったりして。


「今から戻るのもなんだし、ここで野営する?」
と提案してみる。

ちょうど、ジャングルの木が生い茂ってない、広いスペースがあるんだ。
ここを土魔法で平らにすれば、皆でキャンプできそう。

「ああ、それがいい」
ジャングルをよく知っているカマルも。夜の森は獣も徘徊していて危険だから、なるべく動かない方がいい、と賛成した。
イルハム王も。


「では、野営の準備を整えよ」

アーディルが兵たちに命じて、へこんでいた土地を平らにさせて。
そこにテントを張らせた。

「じゃ、俺は泉を作るね!」

ジャングルがあるので、植物……は、必要ないか。
食用の果実くらいかな?

それと、虫除けハーブをいっぱい生やしておこう。
明かりに寄って来るだろうし。ジャングルの蛾とか、でかそう。


動物除けにはミントとか、匂いのきついやつかな?


†††


泉を作ると。
それを初めて見たカマルとイルハム王が驚いていた。

サイード王からも俺の能力について説明はされてたし、アーディルとツチノコの大怪我を治したのは知ってても。
実際に自分の目で見たら、かなり衝撃的な光景だったようだ。

この世界では、そんなに貴重な能力だったんだと改めて思った。


「すげえ! 大きな水たまりができたぞ!」
「おお、水のマラーク様……」

カマルは泉の前ではしゃいで。
イルハム王は俺に向かって手を組んで拝んでいる。

いや、拝まれても。
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