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ハムサ国にて

ハムサ国の王と会談する

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ピラミッドもどきの入り口のような場所。
その前でうろうろしている、ローブ姿の人が十人ほどいて。

その人たちは、俺たちの姿を見て、嬉しそうに手を振っている。

あれ?
何か、めちゃくちゃ歓迎されてる感じ……?


近くまで行くと。
ピラミッドもどきの建物は、ピラミッドのように大きな石を積んで出来たものではなさそうだった。

高さ3、4メートルほどの巨大な四角い建物を、頂上に行くにつれて小さくして積み上げたような感じだ。
あちこちに、窓のような穴が見える。


†††


ローブ姿の一人が、待ちきれない様子でこちらに駆け寄って来た。

「マラーク様、ワーヒド国スルタンですね? ようこそハムサ国へ!」
お迎えの人は、声からして若い少年のようだ。

まさか、この人が王様じゃないよな……?


「騎獣はあちらへどうぞ。彼らが案内しますので」
すでに情報が流れているのか、ツチノコに驚いたりはしていないようだ。

「ご案内いたします」
一番下の建物の一角は厩になっていて、他のローブ姿の人がそこに大トカゲたちを誘導している。

ツチノコは、砂に潜っているという。
また砂クジラを見つけたら、捕まえてくれるそうだ。

可愛いやつめ! 思わず撫でてしまった。


「わたくし、スルタンの代理として皆様をご案内致します、ハムサ国のヤスミンと申します!」
そう言って。
魔法使いみたいなローブのフードを下ろした、俺と同い年くらいに見える少年は、深々と礼をした。

「どうぞ中へ。スルタンの所へご案内します」
ピラミッドもどきの中へと案内される。


名前しか名乗らなかったから、王様ではないみたいだけど。
服とかローブから見える装飾からして、身分が高そうな感じがする。
何かの役職持ちかな?

ヤスミンは、白に近い金髪の長い髪を三つ編みにして結っている。
淡い紫色の綺麗な瞳は涼やかで、けっこうイケメンだった。イケメンというか、美少年。
これなら、髭の生えてない少年が”娘”呼ばわりされるのも納得……かもしれない。

でも、アーディルと比べたら華奢に見えるけど。俺より背も高いし、体つきももしっかりしてそう。砂漠育ちだもんな……。


†††


ピラミッドもどきの中に入って。
トンネルみたいな長い廊下を抜けると、中央は四角い大きな広間で。

中は吹き抜けみたいになっていた。
十数メートルは上にある天井を見上げると、魔法陣みたいな模様が彫られている。


四方には部屋があって、上に行くと厚さが減っていき、部屋数が少なくなる感じだ。
それが、大きな螺旋階段みたいに見える。

階段もついてるけど。あれを昇って頂上まで行くの、大変そうだな……。
上の階の人、足腰鍛えられそう。

でも、こっちの人は砂漠でも足腰を鍛えてるだろうから平気なのかな?
俺は途中で行き倒れる自信がある。


窓から顔を出してこっちを見てるのは、ここの住民だろうか。

こっちに向けて笑顔で手を振っているので、振り返してみたら。
わあっ、と嬉しそうな声が上がった。

何か、すごい歓迎ムードなんだけど。
誰から何を聞いたんだろ?


「こちらへどうぞ。最上階でスルタンがお待ちです」
端にあった、四角い籠のようなものに乗るように言われた。

籠の底には、魔法陣みたいな不思議な模様が描かれている。天井に彫ってあるのと似ている。

これ、何だろう?
紐とかはないので、籠を引き上げたりするような、原始的なエレベーターとかじゃないようだけど。
この籠を、何かの動物が牽引するとか?

四人乗りらしいので、案内役のヤスミンと、アーディルと俺、ラシッドが乗り込むことになる。
アーディルは、セーレムと護衛の兵たちに、下で待機するよう命じた。


籠に乗ると。
何と、そのまま上昇した。


†††


ひええ。
籠の高さが膝下くらいしかないから、めちゃくちゃ心許ないんだけど!

思わず、アーディルの腕にがしっと掴まってしまった。

アーディルは満面の笑顔だ。
これ、怖くないの?


籠が頂上まで行くと。
天井の、魔法陣の彫られている部分に穴があいて。籠が中に入るのと同時に、床が閉じた。

これも魔法なのか。凄いな。


頂上にあったフラットな空間は、部屋みたいだ。
家具とか置かれていて、生活感がある。

部屋の中央には、囲炉裏いろりみたいなものがある。
テレビで見たことがあった。古民家とかにあるやつだ。真ん中の棒に鍋をひっかけて煮物を煮たり、囲炉裏端で魚を焼いたりするんだよな。実物は初めて見た。


青い僧衣みたいな服を着ている白髪の老人が、囲炉裏の火を調節していた。

煙が、上に吸い込まれていくのが見える。
天辺に、空気穴があるようだ。

ああ、なるほど。
ピラミッドもどきの天辺にあった吹き流しみたいなやつが、風もないのにたなびいていたのは、これだったのか。


老人は、こちらを見て笑顔を向けた。
「お迎えに上がれず、失礼をお許し下さい。水のマラーク様、ワーヒド国の偉大なるスルタンよ。ようこそ我が国へ。高潔なるハムサ国の王、ナエフと申します」

そう言って、お茶を出してくれた。

王様自ら、お茶を淹れてくれたんだ。
それは、水が貴重なこの世界では、最大級の歓迎の意を表すと聞いた。


「ああ、そのままで構わぬ。腰を痛めたと聞いたが?」
正式な挨拶をするためか、腰を上げようとしたナエフ王を、アーディルが制した。

「いやはや情けないことで。寄る年波には勝てませんな」
トントンと腰を叩いている。


ナエフ王は、腰を痛めているのか。

じゃあ、後でお風呂に入ることを勧めよう。
筋肉痛や疲労、腰痛には湯治が一番だ。……と心に決めた俺だった。


いや、私欲じゃなくて。
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