上 下
44 / 91
アルバ国にて

アルバ国へ

しおりを挟む
次は、サラーサ国の更に南にある国、アルバへ向かう。

アルバ国までの道のりはなだらかで。
特にこれ、といった難所とかはないらしい。


昨日と同じく、アーディルが先導で隊列を作って大トカゲとツチノコを走らせる。……ツチノコは滑ってるんだけど。

「残りあと七ヶ国か。話し合い、上手くいくといいなあ」
ふと呟いた。

アーディルの代わりに、補佐役のイムラーンが王様代理としてついてるけど。
アーディルも、そう長く国を空けられないし。

移動時間がかなり掛かるので、国に滞在できるのは一つの国に一泊二日くらいだという。


「私だけならともかく、ミズキも同行するのだ。間違いなく成功するだろう」
前を往くアーディルは、笑顔で振り向いた。

いや、国家間の細かい交渉は全部アーディルに丸投げするけどな!?


†††


この世界には、昔は50ヶ国以上の国があったそうだけど。地図を見る限り、今では10ヶ国まで減少してしまっていた。

滅亡した国の中には、ハカムの一族が襲撃して、オアシスを使い潰した国もいくつかあるそうだ。
本当にとんでもない悪党だな。


ワーヒドとイスナーン、サラーサ。
それと、これから向かうアルバとハムサという国は同じ大陸にあるようだ。

おもだった国は、他に5つ。それらはこことは別の大陸になる。

海があった頃は船で移動できただろうけど。
海溝があった場所は、今では深い渓谷みたいになっているので、移動するのが大変だという。


他の大陸に行く場合、比較的通りやすい場所を通って移動することになるそうだ。

アルバの王様との会談が済んだら、ワーヒドからやや東北にある山脈を越えた向こうにある、というハムサ国で会談して。
それから、別の大陸に向かうらしい。大忙しだ。


アルバ国にも、もうすでにワーヒド国の王と”水の天使”が行くことを報せてあるという。

アーディルが今やワーヒドとイスナーン、両国のスルタンになったということは、全ての国へ通達されたそうだ。
電話も無いのに、情報伝達が早いなあ。さすがは魔法のある世界だ。


†††


「見えてきた。あれがアルバ国だ」

アーディルの示す先には、ピサの斜塔みたいに傾いた大きな塔が見える。
あそこがアルバ国か。

あまり高くはない石垣の塀に囲まれた国のようだ。


やっぱり石造りの門の前には、いかにも兵隊っぽい男が数人立っていた。
見張りの兵だろうか?

ツチノコを指差して、ざわざわしている。


は、かのハカムがるソーバン・カビラに見えるが?」
兵隊っぽい男たちの中でも一番身長も横幅も大きな男がこちらへ近付いてきて。ツチノコに槍を向けた。

ああ、それで警戒してるんだ。
有名なんだなあ。

『そのような名はとうに捨てた。我が名は”ツチノコ”。こちらの愛らしきマラークの、唯一にして忠実なるしもべである。我が主に害意ある者にしか牙を剥かぬ』

「なんと……!」
渋い声でしゃべる大蛇に、みんなびっくりしていた。


「それは失礼した、ツチノコ殿。……そちらが噂のマラーク殿に、ワーヒド国のスルタンとお見受けするが?」
大男の問いに。

「いかにも。私が偉大なるワーヒドの王、アーディルである」
隊列の先頭にいたアーディルが、ニーリーからふわりと降りて、応じた。

いちいち動作が格好いいなあ。


「名乗るのが遅れたが、我はアルバ国の頑強なる王、ヤシム。小さきマラークよ、かの”伝説の魔獣”を従えるとは気に入った! 歓迎しよう」
カラカラと笑った。

ああ、この人が王様だったんだ。
そりゃあんたよりは小さいけど。小さい言うな。

……ここも、王様が直々に出迎えに来たのか。
魔法でメッセージが届くことはあっても、他国の王様が直々に会談に来るって、滅多にないことみたいだもんな。


†††


アルバ国王ヤシムは、30歳くらいの、肩幅も広くて強そうな大男だった。

赤い髪に、黄緑色の目。
堀が深くて鼻も高い。眉毛が濃いけど顔立ちは悪くない。というか、わりと良い方かな?

初期に見たアーディルやハカムが抜きん出て整ってたもんだから、どうしても点数が厳しくなりがちなのかもしれない。


短めの日除け布を頭から被り、紐で留めていて。
肩に羽織っているマントみたいな布の下は、大きな宝石の填め込まれた首飾りとベルト、腰巻のみ。足は革製の編み込みサンダルだ。
こっちの格好はアラブ風というより、エジプトっぽい感じだ。

よく日に焼けた、はち切れそうな大胸筋やシックスパックの見事な腹筋を惜しみなく見せている。
ムキムキだ……。


「さて、ワーヒド国のスルタンよ」
ヤシム王はアーディルに、射るような視線を向けた。

「どこにも隙が無い。サクルのような良い目だ。……どうかな? ひとつ手合わせでも」
そう言って槍を一振りし、ニヤリと笑った。

どうやら、かなり好戦的な王様みたいだ。


ワーヒド国の新しいスルタンはまだ若い優男だという噂を聞いて。
ひと目見て、弱そうだったら追い返してやろうと思って待ち構えていたという。

「よかろう。互いを知るには剣を合わせるのも一つの手であろう」
アーディルは腰のベルトから曲刀を抜いて構えた。


わあ、かっこいい……。
とか見惚れてる場合じゃない。


†††


「え、話し合いに来たんじゃないの?」

刃を潰してない刀で戦って、お互い無事で済むとは思えないんだけど。
アーディルが負けるはずはないけど。

他国の王様に怪我でもさせたら遺恨が残りそう。


「我と対等に話したくば、勝負に勝つがよい! ……いざ、勝負!」
と。
ヤシム王はやたら重そうな、金属でできた槍を軽く振り上げてみせた。


……勝者としか話をしない、か。
脳筋め。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~

楠ノ木雫
BL
 俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。  これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。  計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……  ※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。  ※他のサイトにも投稿しています。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

処理中です...