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アルバ国にて
アルバ国へ
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次は、サラーサ国の更に南にある国、アルバへ向かう。
アルバ国までの道のりはなだらかで。
特にこれ、といった難所とかはないらしい。
昨日と同じく、アーディルが先導で隊列を作って大トカゲとツチノコを走らせる。……ツチノコは滑ってるんだけど。
「残りあと七ヶ国か。話し合い、上手くいくといいなあ」
ふと呟いた。
アーディルの代わりに、補佐役のイムラーンが王様代理としてついてるけど。
アーディルも、そう長く国を空けられないし。
移動時間がかなり掛かるので、国に滞在できるのは一つの国に一泊二日くらいだという。
「私だけならともかく、ミズキも同行するのだ。間違いなく成功するだろう」
前を往くアーディルは、笑顔で振り向いた。
いや、国家間の細かい交渉は全部アーディルに丸投げするけどな!?
†††
この世界には、昔は50ヶ国以上の国があったそうだけど。地図を見る限り、今では10ヶ国まで減少してしまっていた。
滅亡した国の中には、ハカムの一族が襲撃して、オアシスを使い潰した国もいくつかあるそうだ。
本当にとんでもない悪党だな。
ワーヒドとイスナーン、サラーサ。
それと、これから向かうアルバとハムサという国は同じ大陸にあるようだ。
主だった国は、他に5つ。それらはこことは別の大陸になる。
海があった頃は船で移動できただろうけど。
海溝があった場所は、今では深い渓谷みたいになっているので、移動するのが大変だという。
他の大陸に行く場合、比較的通りやすい場所を通って移動することになるそうだ。
アルバの王様との会談が済んだら、ワーヒドからやや東北にある山脈を越えた向こうにある、というハムサ国で会談して。
それから、別の大陸に向かうらしい。大忙しだ。
アルバ国にも、もうすでにワーヒド国の王と”水の天使”が行くことを報せてあるという。
アーディルが今やワーヒドとイスナーン、両国のスルタンになったということは、全ての国へ通達されたそうだ。
電話も無いのに、情報伝達が早いなあ。さすがは魔法のある世界だ。
†††
「見えてきた。あれがアルバ国だ」
アーディルの示す先には、ピサの斜塔みたいに傾いた大きな塔が見える。
あそこがアルバ国か。
あまり高くはない石垣の塀に囲まれた国のようだ。
やっぱり石造りの門の前には、いかにも兵隊っぽい男が数人立っていた。
見張りの兵だろうか?
ツチノコを指差して、ざわざわしている。
「それは、かのハカムが操るソーバン・カビラに見えるが?」
兵隊っぽい男たちの中でも一番身長も横幅も大きな男がこちらへ近付いてきて。ツチノコに槍を向けた。
ああ、それで警戒してるんだ。
有名なんだなあ。
『そのような名はとうに捨てた。我が名は”ツチノコ”。こちらの愛らしきマラークの、唯一にして忠実なる僕である。我が主に害意ある者にしか牙を剥かぬ』
「なんと……!」
渋い声でしゃべる大蛇に、みんなびっくりしていた。
「それは失礼した、ツチノコ殿。……そちらが噂のマラーク殿に、ワーヒド国のスルタンとお見受けするが?」
大男の問いに。
「いかにも。私が偉大なるワーヒドの王、アーディルである」
隊列の先頭にいたアーディルが、ニーリーからふわりと降りて、応じた。
いちいち動作が格好いいなあ。
「名乗るのが遅れたが、我はアルバ国の頑強なる王、ヤシム。小さきマラークよ、かの”伝説の魔獣”を従えるとは気に入った! 歓迎しよう」
カラカラと笑った。
ああ、この人が王様だったんだ。
そりゃあんたよりは小さいけど。小さい言うな。
……ここも、王様が直々に出迎えに来たのか。
魔法でメッセージが届くことはあっても、他国の王様が直々に会談に来るって、滅多にないことみたいだもんな。
†††
アルバ国王ヤシムは、30歳くらいの、肩幅も広くて強そうな大男だった。
赤い髪に、黄緑色の目。
堀が深くて鼻も高い。眉毛が濃いけど顔立ちは悪くない。というか、わりと良い方かな?
初期に見たアーディルやハカムが抜きん出て整ってたもんだから、どうしても点数が厳しくなりがちなのかもしれない。
短めの日除け布を頭から被り、紐で留めていて。
肩に羽織っているマントみたいな布の下は、大きな宝石の填め込まれた首飾りとベルト、腰巻のみ。足は革製の編み込みサンダルだ。
こっちの格好はアラブ風というより、エジプトっぽい感じだ。
よく日に焼けた、はち切れそうな大胸筋やシックスパックの見事な腹筋を惜しみなく見せている。
ムキムキだ……。
「さて、ワーヒド国のスルタンよ」
ヤシム王はアーディルに、射るような視線を向けた。
「どこにも隙が無い。鷹のような良い目だ。……どうかな? ひとつ手合わせでも」
そう言って槍を一振りし、ニヤリと笑った。
どうやら、かなり好戦的な王様みたいだ。
ワーヒド国の新しいスルタンはまだ若い優男だという噂を聞いて。
ひと目見て、弱そうだったら追い返してやろうと思って待ち構えていたという。
「よかろう。互いを知るには剣を合わせるのも一つの手であろう」
アーディルは腰のベルトから曲刀を抜いて構えた。
わあ、かっこいい……。
とか見惚れてる場合じゃない。
†††
「え、話し合いに来たんじゃないの?」
刃を潰してない刀で戦って、お互い無事で済むとは思えないんだけど。
アーディルが負けるはずはないけど。
他国の王様に怪我でもさせたら遺恨が残りそう。
「我と対等に話したくば、勝負に勝つがよい! ……いざ、勝負!」
と。
ヤシム王はやたら重そうな、金属でできた槍を軽く振り上げてみせた。
……勝者としか話をしない、か。
脳筋め。
アルバ国までの道のりはなだらかで。
特にこれ、といった難所とかはないらしい。
昨日と同じく、アーディルが先導で隊列を作って大トカゲとツチノコを走らせる。……ツチノコは滑ってるんだけど。
「残りあと七ヶ国か。話し合い、上手くいくといいなあ」
ふと呟いた。
アーディルの代わりに、補佐役のイムラーンが王様代理としてついてるけど。
アーディルも、そう長く国を空けられないし。
移動時間がかなり掛かるので、国に滞在できるのは一つの国に一泊二日くらいだという。
「私だけならともかく、ミズキも同行するのだ。間違いなく成功するだろう」
前を往くアーディルは、笑顔で振り向いた。
いや、国家間の細かい交渉は全部アーディルに丸投げするけどな!?
†††
この世界には、昔は50ヶ国以上の国があったそうだけど。地図を見る限り、今では10ヶ国まで減少してしまっていた。
滅亡した国の中には、ハカムの一族が襲撃して、オアシスを使い潰した国もいくつかあるそうだ。
本当にとんでもない悪党だな。
ワーヒドとイスナーン、サラーサ。
それと、これから向かうアルバとハムサという国は同じ大陸にあるようだ。
主だった国は、他に5つ。それらはこことは別の大陸になる。
海があった頃は船で移動できただろうけど。
海溝があった場所は、今では深い渓谷みたいになっているので、移動するのが大変だという。
他の大陸に行く場合、比較的通りやすい場所を通って移動することになるそうだ。
アルバの王様との会談が済んだら、ワーヒドからやや東北にある山脈を越えた向こうにある、というハムサ国で会談して。
それから、別の大陸に向かうらしい。大忙しだ。
アルバ国にも、もうすでにワーヒド国の王と”水の天使”が行くことを報せてあるという。
アーディルが今やワーヒドとイスナーン、両国のスルタンになったということは、全ての国へ通達されたそうだ。
電話も無いのに、情報伝達が早いなあ。さすがは魔法のある世界だ。
†††
「見えてきた。あれがアルバ国だ」
アーディルの示す先には、ピサの斜塔みたいに傾いた大きな塔が見える。
あそこがアルバ国か。
あまり高くはない石垣の塀に囲まれた国のようだ。
やっぱり石造りの門の前には、いかにも兵隊っぽい男が数人立っていた。
見張りの兵だろうか?
ツチノコを指差して、ざわざわしている。
「それは、かのハカムが操るソーバン・カビラに見えるが?」
兵隊っぽい男たちの中でも一番身長も横幅も大きな男がこちらへ近付いてきて。ツチノコに槍を向けた。
ああ、それで警戒してるんだ。
有名なんだなあ。
『そのような名はとうに捨てた。我が名は”ツチノコ”。こちらの愛らしきマラークの、唯一にして忠実なる僕である。我が主に害意ある者にしか牙を剥かぬ』
「なんと……!」
渋い声でしゃべる大蛇に、みんなびっくりしていた。
「それは失礼した、ツチノコ殿。……そちらが噂のマラーク殿に、ワーヒド国のスルタンとお見受けするが?」
大男の問いに。
「いかにも。私が偉大なるワーヒドの王、アーディルである」
隊列の先頭にいたアーディルが、ニーリーからふわりと降りて、応じた。
いちいち動作が格好いいなあ。
「名乗るのが遅れたが、我はアルバ国の頑強なる王、ヤシム。小さきマラークよ、かの”伝説の魔獣”を従えるとは気に入った! 歓迎しよう」
カラカラと笑った。
ああ、この人が王様だったんだ。
そりゃあんたよりは小さいけど。小さい言うな。
……ここも、王様が直々に出迎えに来たのか。
魔法でメッセージが届くことはあっても、他国の王様が直々に会談に来るって、滅多にないことみたいだもんな。
†††
アルバ国王ヤシムは、30歳くらいの、肩幅も広くて強そうな大男だった。
赤い髪に、黄緑色の目。
堀が深くて鼻も高い。眉毛が濃いけど顔立ちは悪くない。というか、わりと良い方かな?
初期に見たアーディルやハカムが抜きん出て整ってたもんだから、どうしても点数が厳しくなりがちなのかもしれない。
短めの日除け布を頭から被り、紐で留めていて。
肩に羽織っているマントみたいな布の下は、大きな宝石の填め込まれた首飾りとベルト、腰巻のみ。足は革製の編み込みサンダルだ。
こっちの格好はアラブ風というより、エジプトっぽい感じだ。
よく日に焼けた、はち切れそうな大胸筋やシックスパックの見事な腹筋を惜しみなく見せている。
ムキムキだ……。
「さて、ワーヒド国のスルタンよ」
ヤシム王はアーディルに、射るような視線を向けた。
「どこにも隙が無い。鷹のような良い目だ。……どうかな? ひとつ手合わせでも」
そう言って槍を一振りし、ニヤリと笑った。
どうやら、かなり好戦的な王様みたいだ。
ワーヒド国の新しいスルタンはまだ若い優男だという噂を聞いて。
ひと目見て、弱そうだったら追い返してやろうと思って待ち構えていたという。
「よかろう。互いを知るには剣を合わせるのも一つの手であろう」
アーディルは腰のベルトから曲刀を抜いて構えた。
わあ、かっこいい……。
とか見惚れてる場合じゃない。
†††
「え、話し合いに来たんじゃないの?」
刃を潰してない刀で戦って、お互い無事で済むとは思えないんだけど。
アーディルが負けるはずはないけど。
他国の王様に怪我でもさせたら遺恨が残りそう。
「我と対等に話したくば、勝負に勝つがよい! ……いざ、勝負!」
と。
ヤシム王はやたら重そうな、金属でできた槍を軽く振り上げてみせた。
……勝者としか話をしない、か。
脳筋め。
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