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一歩先のこと

すべてを告白する

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「本当は、すぐに死んでもおかしくないような不運だったんだ。でも、神様が教えてくれた。死んだ両親が俺の守護霊になって、俺が死なないよう、護っていてくれてたんだって。魂が擦り切れるくらい、必死に」
アーディルの手は、優しく俺の頭を撫でている。

「最期は。18歳になる前に、歩道橋……ええと、階段の天辺から落ちて死んだんだ。そしたら天国? みたいなところにいて。神様が、自分の手違いで不幸な人生で終わったから。次の人生は、俺の望む世界に送ってくれるって言ったんだ」


アーディルは、黙って聞いてくれている。
それに励まされるように、話をした。

「今までは厄病神扱いされてきたから。俺は神様に、今度は出逢った人から感謝されるような人生を送りたい、って願った。……だから神様は、この砂漠の世界でオアシスを作る能力を与えてくれたんだと思う」

アーディルは息を呑んだ。
「……ミズキ、それでは、私は……」

俺を抱いて。
その能力を奪おうとしたことを、悔やんでいるようだ。

俺の生き甲斐を、奪おうとしてしまったから。

結果的に、奪われはしなかったけど。
それに。


アーディルの額に額を当てながら、告げる。
「でも、本心では、そうじゃなかった。誰でも良かったわけじゃない。ただ一人の特別な相手から愛されたい、求められたい、って願ってたんだ。口には出さなかったけど、神様はそれをわかってくれていて。俺を、アーディルと出逢わせてくれたんだと思う」


「ミズキ……」
「だから、俺は今、すっごく幸せだよ」

額を離し、会心の笑みを浮かべてみせる。

「ああ、私も幸せだ。……ではやはり、二人の出会いは神の決めた運命だったのだな?」
アーディルは、艶やかに笑った。


美しい、俺の王様。
俺ことを、初めて愛してるって言ってくれたひと。

「うん、そうだったみたい」


†††


「私は、私のもとへミズキを送ってくれた神に感謝する。そして、苛烈なほどに不運な人生を送ったというのに、神を、世界を恨むことなく。なおも美しい心を持ち続けたミズキを。心から尊敬する」
アーディルも、俺の額に自分の額をくっつけた。

「ミズキがそのように美しい心を持っていたゆえ、神も生まれ変わりの機会と偉大なる力を与えたのだろう」


そうかな?
そうだったら、いいけど。

「しかし。私にとってミズキは、愛らしいマラークであることに変わりないのだが。そう呼ばれるのは嫌か?」

そんな、小首を傾げてみせるとか。
あざとすぎる!


「そりゃ、神様がオアシスを作る能力を与えてここに送ってくれたから、神様の使いであることには変わらないんだろうけど。俺が天使って呼ばれるの、なんか申し訳ない気がして……」
なんせ、元厄病神だし。

俺自身の力ってわけでもない。

「皆にとっても、ワーハを平等に与えようとするミズキは間違えようもなくマラークである。気にせず堂々と呼ばれるがよい」
アーディルは羨ましいくらいにポジティブだ。


そういえば、この世界にはもう女の人なんていないのに。
ハカムはイスナーン国の前王は”娘”を集め、後宮に連れ去った、とか言ってた。

そのせいもあって、普通に女の人がいるもんだと勘違いしてたんだよな。紛らわしいな。


何でだか聞いてみたら。
イスナーン国というか。一部の国では、まだ若くてヒゲモジャじゃない男のことを”娘”と呼んでいるんだそうだ。

と、いうことは……。
うわあ……。あんまり考えたくないな……。


アーディルが他の国民みたいに髭を伸ばしていないのは。
王族は神の子孫で。そして一番偉い王様なので、神である太陽に対して素顔をさらしても不敬にはあたらないから、という理由だそうだ。

髭で顔を覆うのは、神様に対する敬意だったのか。
俺的には髭面の方が罰当たりな気もするけど。清潔感というか。

髭のないすっきりした顔のアーディルのが好きだから、別にいいか。


成人未満の子供は神様の子扱いなので、髭を生やさなくても許されるらしい。
ああ、俺が子供扱いされてたの、そのせいもあったのか……。

でも、俺は天使だから髭を伸ばさなくて良いんだって。
伸ばせって言われても困るけどな! まばらに細いのしか生えなくて、みっともない状態になっちゃう。


この世界、やっぱり国によって色々な決まりがあるんだ。

これから覚えなくちゃいけないことは沢山ある。
まずは、ワーヒドとイスナーン以外の国の事を知りたい。


†††


「この世界の地図ハーリタが見たい、と?」
アーディルは不思議そうに首を傾げた。

ちゃんと、地図を見たい理由を言ったほうがいいか。


「うん。出来れば、古い方がいいかな。あと、水と緑があった頃の本とか、あれば見せてほしい」
まだ、水や緑が豊富にあった頃の地図や本を見せてもらって。その頃みたいに、この世界を水で満たしたいと思う。

それで、その参考にするために昔の地図が見たかったんだと言った。


「もちろん、他の国の代表とも相談、というか、話し合いをしないといけないだろうけど……」
「ああ、ミズキが望むなら許可しよう」

兵たちに、図書室の特別室へ向かう、と伝えている。


地図って、この世界ではそうホイホイ見られる物じゃなかったようだ。
本当は国宝レベルで、王様以外閲覧不可のモノだった。国防関係でトップシークレットなのかな?


「ありがとう」
「構わぬ。我が国とて、無関係ではないからな」
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