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プロローグ

不幸な人生の終わり

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産まれてから死ぬまで。
俺の人生は、思い返してみれば、笑えるほど不幸続きだった。


その”あまりに”ツイてない人生”は。
まず、産まれてすぐに親から捨てられたとことから始まったと言える。

へその緒が付いた状態で、裸のまま、凍死寸前の状態で発見されて、施設に拾われたという。……この時点で死んでいなかったのが奇跡、みたいな状況だったらしい。
不幸なことに、悪運だけは強かったようだ。むしろここで全ての運を使い果たしたのかもしれない。

命の恩人、ということになるんだろう。俺を見つけてくれた人には感謝をするべきなんだろうけど。ここで命を落としていれば、様々な苦しみを味わわなくても済んだのかもしれない、と思うと、素直に感謝できない。
発見者は、瀕死の赤ん坊が捨てられている、と場所だけ告げて、去って行ったそうだ。
関わり合いになりたくなかったんだろう。


その辺に放り出されていたらしいので、当然と言えば当然だろうけど。生みの親は名前を添えることも名乗り出しもしなかったため、俺の名前は養護施設の神島かみしま所長につけられた。
名字は所長から。名前は、施設の前に生えていたハナミズキの木の下で見つかったから瑞樹みずき。そのまんまだ。

その日から俺は、神島瑞樹として生きてきた。


†††


通常なら、美点となるだろうはずのものはすべて、逆に作用した。

顔の造作は悪くなかった……というか無駄に整っていると言われていたが。
それが災いして、小さな時から誘拐犯、ストーカー女や変質者の男から目をつけられ、狙われ。そいつらから逃げる途中で怪我を負うこともしばしばあった。
俺の異常なまでの不幸体質に気づけば皆、怯えたように逃げて行ったけど。


周囲から馬鹿にされないよう、猛勉強して成績は向上し、全国でも上位に入るほどだったが。
塾に通ってないのに点数が良いことで教師からは不正を疑われるし。学校では成績で負けた奴には逆恨みされ、いじめられるし。散々な目に遭った。


他人に親切にしようとしても。
不幸体質のせいか、全て裏目に出てしまう。手助けをしなきゃしないで、今どきの若者は、などと陰口を言われた。


俺の生活は、あまりに不自然なほどの不幸に襲われるのが当たり前だった。

施設や学校では突然天井が崩落したり、集団食中毒を起こしたり。侵入してきた野犬に噛まれるなどのアクシデントはむしろ日常茶飯事なくらいで。
窓からはひょうや野球のボールだけでなく、どこからか鉄の玉まで飛んでくる。

登下校時には、頭上から植木鉢だの鉄骨だのが降ってくる。怪我をすることはあっても命を落とすようなことはなかったのが不思議なくらい。
信号を守って歩道を歩いていても、わき見運転の自動車やバイクが目の前に突っ込んでくる。その上、ほぼひき逃げだったり保険未加入で轢かれ損。

眠れば毎日のように負う傷の痛みや悪夢にうなされ、安らぐ暇もない。

死亡事故こそ起こらなかったものの。
施設も学校でも、俺の近くに居たらとばっちりに遭う、不幸が移ると死神とか厄病神扱いされて。

誰も近寄ろうとせず、友人すらいない、孤独な日々を過ごした。


†††


僅かでも希望を持てば、完膚なきまでに叩き潰されてきた。

奨学生として支援金がもらえるはずだった私立高校の面接の日には、後ろから自転車にぶつかられて骨折。相手は逃げた。
入院費などは養護施設が出してくれたが。ただでさえ予算の少ない施設の財政を圧迫させることになり、子供たちから白い目で見られた。

退院してみれば。どういう訳か、推薦の話が流れてしまっていた。
そして、俺の代わりに推薦の枠を勝ち取ったのは、成績で負け、俺をいじめていた奴だった。
それでも公立高校までは入学費免除なので、施設の援助で通学することができたけど。

問題は、大学進学だった。
大卒の方が就職に有利だろうと進学を希望したはいいが。寮付きの奨学生の話も、同じような流れで推薦が消えてしまったのだ。

18歳になったら施設を追い出されるのは動かしがたい現実で。


奨学金の話が流れて、進学が不可能になったため、就職先を探そうと考えて。
ハローワークに向かう途中だった。

俺が、歩道橋に落ちていたバナナの皮に足を滑らせて、一番上の階段から地面にダイブしたのは。


†††


俺の死因はそれ・・だろう。

俺の人生、産まれてから死ぬまであまりにツイてなさすぎて、冗談みたいで。
思い返せば、笑えるくらいだ。

しかもバナナの皮で滑って転ぶ、とか古いコントみたいな死に方なんて。
聞いた人も困惑だよ。笑うに笑えないじゃないか。


それでも、階段から落ちて。
この高さから落ちたんじゃ、助からないだろうな、と悟った瞬間。

これでやっと、この冗談みたいに不幸の連続だった人生が終わる。
終わってくれるんだ。という暗い喜びにも似た考えが頭をよぎったのも真実だ。


それほど、不幸な人生だったから。
それが。
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