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はじめの夏の国

異世界でアイスクリームを作る。

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『体調はどうだ?』


うわ!?
王様来ちゃった。

『ラクとハルに叱られてしまった。無理強いをするなと。……乱暴したつもりはなかったのだが……』

ウルジュワーンは俯いた。
どうやらかなり反省してるようだけど。

いや、叱られたんなら、来るなよ……。


どれ、と呟いて。
優しい手つきで、額に触れられる。

さすがに王様の手をぺしっと払うわけにもいかないので。
ぎゅっと上掛けを握り締めた。


でも。
ウルジュワーンの手、嫌じゃなかった。

何でだろう?


◆◇◆



『ふむ。少し、熱があるようだな。冷たいものでも寄越そう』
と、ウルジュワーンが手を叩いて。

自動人形が、トレイを手に入って来た。
器に入ってる、白いのは……アイスかな?


上半身を、そっと起こされて。

『北方の氷菓子だ。甘くて冷たいぞ。……ほら、』
スプーンですくって。口元に持ってこられる。

子供じゃあるまいし。自分で食べられるっての。


あ。……美味い。
素朴な味がする。手作りアイスみたいな味だ。

よく、祖母ちゃんと一緒に作ったっけ。

牛乳、卵黄、砂糖だけで作った、バニラビーンズとか入ってない、シンプルなやつ。
こっちにも、あるんだ。


『美味いか?』
ウルジュワーンは、蕩けそうなくらい甘い顔をして、俺を見てる。

うう。動悸がヤバイ。

超絶美形のそんな表情。
こんな至近距離で見せられちゃ、犯罪級にヤバイってば。キュン死にしそう。


こくこく頷いたら。また口元にスプーンを運ばれた。


◆◇◆


全部、ウルジュワーンの手で食べさせられてしまった。
全くもう、赤ちゃんじゃないんだから。


『どんな味かな。ん、』

キスされて。
口の中、舌が、探ってる。


『……甘いな?』
ふっ、と優しく微笑まれて。

自分の顔が真っ赤になったのがわかる。
顔が熱い。

甘いのは、あんたの態度です!


『む、また熱が上がったか。……横になっておれ』

そうだな。
熱があったのも、主にあんたのせいだよ!!!!


寝かされて。
ウルジュワーンがベッドに入って来た。

びくっとしたけど。
寝かしつけるように、ぽんぽん背中を叩かれる。


……子守唄だろうか。やたら美声で歌ってる。

上手いなあ。
天はいくつもの才能をこの人に与えすぎでは?


優しい手。優しい声。

聴き入ってるうちに、寝てしまったようだ。
あんなことをされた相手なのに。


何故だか、安心してしまったんだ。


◆◇◆


『手づから貴重な氷菓子を食べさせて、子守唄を歌って一緒に寝た、……?』
ハルさんが、驚いて引いていた。

『あの、縦のモノを横にも置かない。ものぐさウーさんが? 嘘でしょ!?』


いや、それはいくらなんでも、やる気無さ過ぎだと思う。

何でも面倒くさがって、自動人形にやらせてしまうらしい。
王座も、自動で移動するんだって。ものぐさすぎだよ。

それで、あのいいカラダが保てるのか……。羨ましい。


「氷菓子……アイスって、ここだと貴重なの?」
砂漠の中の国だからかな? でも、それにしては普通に水とか使ってるけど。

『そっちじゃ、アイスっていうの? そりゃ貴重だよ。”冬の国バラド シターァ”でしか売ってない、”夏の国ウチ”じゃ幻のお菓子だもの。超人気でさあ。僕も口にしたことないよ! ああん、いいなあ!』
ハルさんが身悶えている。

何やら色っぽくて。
いけないものを見ている気になる。


「あれって、そんなに貴重なものだったんだ……。氷と材料さえあれば、作れると思うけど……」

『え、ほんとに!?』
手を、がしっと掴まれた。

ハルさんは、意外に大きな手だった。指は俺より細いけど。


◆◇◆


この世界、冷蔵庫的なものはあるようだ。

氷も、材料もあるのに。
アイスの作り方はわからないのか。不思議。


牛乳、卵黄、砂糖を用意してもらって。

卵黄と砂糖をよく混ぜて。牛乳を鍋に入れて、弱火であたためて。
沸騰する前に卵黄と砂糖を混ぜたのを加えてかき混ぜる。

再び火にかけて、とろみがつくまで木ヘラで混ぜて。
氷水が入った金属のボウルに、小さめの金属のボウルを置いて、鍋の中身を入れる。

冷えたら、ひたすらまぜる。空気が均一になるまで混ぜる。
冷蔵庫に入れて、半分くらい固まったらまた混ぜる。
また冷やす。


以上。

ハンドルをくるくる回して作るやつがあったら、もっと楽に出来るけど。
それまでは、こうやって作ってた。


『これで、ほんとにできるの?』
ハルさんは、熱心に手順をメモに取りつつも、半信半疑だ。

「できるよ。生クリームや練乳を入れたらなめらかになるけど、俺はこっちのが好き」


何かいつの間にか、ウルジュワーンまで見学に来てるし。

あ、あの金髪に金目の人が、アスファルことファっさんかな?
ダルさんもいる。ラクさんまで。


あんたら、城の警備はいいのかよ?
”印持ち”、ここに全員集合しちゃってんじゃん。

警護対象がここにいるからいいのかな?


◆◇◆


当然みたいな顔をして。
一番に味見をするのはウルジュワーンということになってた。

ここで一番偉い王様だからね。それは仕方ないね。
ハルさんがふくれっ面だけど。


……口を開けて、食べさせてもらえるまで待つの、やめてくれないかな。

ものぐさにも程があるよ、王様。
いたたまれなくなるから、とっとと食べさせよう。


「はい、アイスクリーム」
『うむ』

味わうように、しばらく考えて。

『……これは、確かに”冬の国”の氷菓子と同じ味だ……』

ウルジュワーンの感想に、ざわめきが広がった。


『ほう、こうして作るのだったか……』
『意外と手間が掛かるが、自動人形に任せればいいのか?』
『これで冬のにいつまでも大きな顔をさせずに済むな』

みんなが真剣に語り合ってる中。
ハルさんは満面の笑みを浮かべてアイスを食べている。幸せそうだ。良かったな。


『イチ。もっと食べたい』
ウルジュワーンに、肩をつつかれる。

だから、口を開けて待つなってば。鳥のヒナか。
この王様ときたら。


「はいはい」

仕方ない。
昨日は、食べさせてもらったし。

じゃあ、お返しということで。


『うむ。美味かった』
ああそう。満足そうで、何よりだ。

『イチは味見はしないのか?』


「え、いいよ。みんなで食べてよ」
と。
ぐい、と腰を引き寄せられて。


強制的に、味見をさせられた。
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