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二章 図南鵬翼
山陵崩る
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目が合うと慌てて頭を下げるが。ちらちらと、こちらを伺い見ている官僚が多い。
やたら注目されているようだが。
皇帝が外を歩いているから、って訳でもなさそうな視線だ。
何なんだ?
『ご無事ではないか』
『何だ、陛下がお倒れになったとは、ただの噂だったか』
『しっ、聞こえてるぞ』
俺の姿を見て官僚たちが話しているのを聞きとがめた伯裕が、睨みをきかせ。
官僚たちは気まずそうに手を合わせ、頭を下げた。
皇帝が。
朱亮が、倒れただって?
早く詳しいことを訊きたくて、気が逸るが。
天子が臣下の前で、不安な顔を見せてはいけない。
なんでもない顔をして、進む。
朱亮はこんなんだったっけ、と思い出しながら。
*****
ばたばたと、慌しい足音が聞こえて。
『探したぞ、李公。早く宮へ……え? 陛下!?』
珍しく焦っている様子の宗元が、目を丸くして。
後ろを振り返って。
もう一度、俺を見た。
「どしたの?」
首を傾げると。
宗元は、はあ、と息を吐いた。
『あ、ああ。こっちはあっちか……。一瞬、見間違えた。いや、とにかく皆、来てくれ』
伯裕と信季、合流した宗元と皇帝の寝室へ向かうと。
ベッドには、朱亮が横たわっていて。
その手を、ベッドの横に跪いた耀が、心配そうに握っている。
それを見て。
ズキン、と胸が痛んだ。
『李公を呼んだぞ、』
耀は。宗元の声に振り向いて。
目を瞠った。
『……亮……?』
『そこより動くな』
立ち上がって、こちらに向かいそうになっていた耀を、伯裕が止めた。
*****
俺が消えた後。
朱亮が現れて、耀を叱って。
しばらくして、がくりと倒れたらしい。
倒れた際の言葉は。
”我が天運、既に終えていたか”。
それから朱亮の意識がないようなので、信季が呼ばれたが。
伯裕も、陛下が大変だというので。信季はとりあえず先に、近かった伯裕の方へ行った。
そしたら、この俺がいたというわけだ。
なるほど。
あっちがこっちがと、混乱していた意味がわかった。
『……今にも”気”が消えてしまいそうです。あ、どうやらそっちの陛下を呼ばれているようですよ?』
朱亮の手を握って症状を診ていた信季が、俺を呼んだ。
手を握って欲しい、というので、握ると。
”朕は、既にここでの役目を終えていたようだ”
どこか自嘲しているような、朱亮の声が聞こえた。
魂だけの状態でもあんなにオーラがあって自信満々だったのに、今はほとんど力を感じない。
「え、役目を終えていたって。どういう、」
みんな、驚いてこっちを見た。
この声、俺だけにしか聞こえてないのか?
”天は、東亮。そなたを、御世の皇帝に選んだのだ”
「俺を!? 嘘だろ?」
”証拠に、星の力を持つ懐剣はそちらについていただろう?”
耀に渡された懐剣のことか?
服も元の世界に戻っていたはずなのに。いつの間にか、腰にあった剣。
不思議な力を持つ剣だ。
あの剣の力で。もう一度、この世界に流れてきたっていうのか?
*****
「朱亮、消えちゃうのか?」
”何、ただでは死なぬわ。あちらの世界に、空いた身体がある故。好きに使わせてもらおう”
「もしかして。俺の身体? いや、いいけど。川に落ちたよ?」
”問題ない。……東亮よ。耀を頼む”
「…………」
頼む、って。
”あれは、存外脆い男よ。幼少時の心の傷故か……心の無い人形のようであったのが、そなたの前では、ただの狭量な男になっていたとは。驚いたわ”
朱亮の声は、笑っている。
知ってるんだ。俺が、耀としたこと。
それなのに。
”頼むぞ。……東亮”
耀のことだけじゃなく。
劫の国や。国民のことも。頼まれたのだと伝わった。
「わかった。俺、頑張るよ」
朱亮の分も。
朱亮は。薄く微笑みを浮かべてみせて。
ざあっと、光の粒が崩れるように、消えてしまった。跡形もなく。
心が無い人形?
そんなことはなかったよ。
朱亮を心配して。とても心を乱していたんだ。
岡目八目というやつだ。
傍から見てる方が、物事が良く見える。
やたら注目されているようだが。
皇帝が外を歩いているから、って訳でもなさそうな視線だ。
何なんだ?
『ご無事ではないか』
『何だ、陛下がお倒れになったとは、ただの噂だったか』
『しっ、聞こえてるぞ』
俺の姿を見て官僚たちが話しているのを聞きとがめた伯裕が、睨みをきかせ。
官僚たちは気まずそうに手を合わせ、頭を下げた。
皇帝が。
朱亮が、倒れただって?
早く詳しいことを訊きたくて、気が逸るが。
天子が臣下の前で、不安な顔を見せてはいけない。
なんでもない顔をして、進む。
朱亮はこんなんだったっけ、と思い出しながら。
*****
ばたばたと、慌しい足音が聞こえて。
『探したぞ、李公。早く宮へ……え? 陛下!?』
珍しく焦っている様子の宗元が、目を丸くして。
後ろを振り返って。
もう一度、俺を見た。
「どしたの?」
首を傾げると。
宗元は、はあ、と息を吐いた。
『あ、ああ。こっちはあっちか……。一瞬、見間違えた。いや、とにかく皆、来てくれ』
伯裕と信季、合流した宗元と皇帝の寝室へ向かうと。
ベッドには、朱亮が横たわっていて。
その手を、ベッドの横に跪いた耀が、心配そうに握っている。
それを見て。
ズキン、と胸が痛んだ。
『李公を呼んだぞ、』
耀は。宗元の声に振り向いて。
目を瞠った。
『……亮……?』
『そこより動くな』
立ち上がって、こちらに向かいそうになっていた耀を、伯裕が止めた。
*****
俺が消えた後。
朱亮が現れて、耀を叱って。
しばらくして、がくりと倒れたらしい。
倒れた際の言葉は。
”我が天運、既に終えていたか”。
それから朱亮の意識がないようなので、信季が呼ばれたが。
伯裕も、陛下が大変だというので。信季はとりあえず先に、近かった伯裕の方へ行った。
そしたら、この俺がいたというわけだ。
なるほど。
あっちがこっちがと、混乱していた意味がわかった。
『……今にも”気”が消えてしまいそうです。あ、どうやらそっちの陛下を呼ばれているようですよ?』
朱亮の手を握って症状を診ていた信季が、俺を呼んだ。
手を握って欲しい、というので、握ると。
”朕は、既にここでの役目を終えていたようだ”
どこか自嘲しているような、朱亮の声が聞こえた。
魂だけの状態でもあんなにオーラがあって自信満々だったのに、今はほとんど力を感じない。
「え、役目を終えていたって。どういう、」
みんな、驚いてこっちを見た。
この声、俺だけにしか聞こえてないのか?
”天は、東亮。そなたを、御世の皇帝に選んだのだ”
「俺を!? 嘘だろ?」
”証拠に、星の力を持つ懐剣はそちらについていただろう?”
耀に渡された懐剣のことか?
服も元の世界に戻っていたはずなのに。いつの間にか、腰にあった剣。
不思議な力を持つ剣だ。
あの剣の力で。もう一度、この世界に流れてきたっていうのか?
*****
「朱亮、消えちゃうのか?」
”何、ただでは死なぬわ。あちらの世界に、空いた身体がある故。好きに使わせてもらおう”
「もしかして。俺の身体? いや、いいけど。川に落ちたよ?」
”問題ない。……東亮よ。耀を頼む”
「…………」
頼む、って。
”あれは、存外脆い男よ。幼少時の心の傷故か……心の無い人形のようであったのが、そなたの前では、ただの狭量な男になっていたとは。驚いたわ”
朱亮の声は、笑っている。
知ってるんだ。俺が、耀としたこと。
それなのに。
”頼むぞ。……東亮”
耀のことだけじゃなく。
劫の国や。国民のことも。頼まれたのだと伝わった。
「わかった。俺、頑張るよ」
朱亮の分も。
朱亮は。薄く微笑みを浮かべてみせて。
ざあっと、光の粒が崩れるように、消えてしまった。跡形もなく。
心が無い人形?
そんなことはなかったよ。
朱亮を心配して。とても心を乱していたんだ。
岡目八目というやつだ。
傍から見てる方が、物事が良く見える。
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