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天才剣士、異世界へ
選択のとき
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元の世界には帰れない、って?
どういうこと?
『あの祭壇には、代々の教皇が心血を注ぎ込んだ魔力が宿っていたのだが。祭壇に満ちていた魔力はもう尽きている。そして、召喚術は一方通行のもので、神子が元の世界に帰る方法は、もう無い……』
ゲオルギウスは、つらそうに言った。
『え、そうなの!?』
オリオンは驚いてる。
クリストファーとユージン、あの場にいた魔術に詳しい人は、そのことには薄々気がついてたようだ。
それで、かわいそうに思って、親切にしてくれたたんだろうか?
*****
『いいえ、帰れますよ?』
深刻な雰囲気の中、ノアがきっぱりと言った。
「……はい?」
え、帰れるの!? そんな。
あっさり?
『本当か!?』
ゲオルギオスが腰を上げた。
『一度限りですが。このラボの全エネルギーを使えば、ご主人様を元の時間、元の場所に飛ばすことが可能です』
一度限り。
ここの全エネルギーを使わないといけないくらい、遠いのか。
……3億光年も先だもんな。想像もつかないけど。
『そしたらここ、どうなるの?』
ハヴァローニはベーコンを齧りながら訊いた。
『私も消滅しますので。このラボを維持できず、崩壊します』
『ええ、そんな……もったいない!』
ノアは自分が消滅するかもっていうのに、随分あっさりしてるな。
機械的というか。
プログラムされた機械みたいなものなんだろうけど。
祭壇はもう、使えないんだよな。
じゃあ、元の世界に帰ったら。
もう、二度と。
みんなとは、会えなくなるんだ。
ゲオルギオスにも。
*****
……でも、俺には。
試合が。
学校が。
あっちには、家族がいて。
悪神退治が終わったら、すぐに帰るつもりだったけど。
軽く考えてた。
爺ちゃん、親父、母さんに。
もう二度と、会えなくなってもいいのか?
『……良かった。帰る方法がないのなら、俺が一生面倒を見るつもりだったんだが……』
ゲオルギオスは俯いて。
だった、って。
何で、過去形なんだよ。
『バカ、止めないのかよ』
オリオンが、ゲオルギオスを肘打ちした。
『勝……神子には、家族がいるし、故郷がある。それに、早く帰りたがっていた……、』
『ああ、ここよりずっと、暮らしやすそうな世界っぽいしな……』
ティトーが言って。
『飲み物が勝手に出てきても驚いてなかったし。それが当たり前な、便利な世界だったんだろう』
ハヴァローニも頷いてる。
いや、充分驚いてたんだけど。
魔法かと思ったんだよ。
もう何度も不思議な現象を見てるから、これも魔法なのかなって。
発達しすぎた科学は魔法みたいなものだって言うし。
どこまでが魔法で、どこから科学なんだかわかんないけど。
いや、そんなこと考えてる場合じゃ。
*****
ペールディカはぱん、と手を叩いた。
『全く男たちときたら、勝手なことばっかり言ってしんみりしてんじゃないよ! 決めるのは神子様だろうに。外野は黙ってメシでも喰ってな!』
みんなおとなしくなった。黙って、食事をしている。
母は強し、か。
……ペールディカ、すっかり元気になってよかったな。
元気な子を産んで欲しい。
そうだ。子供と言えば。
この先、竜人はどうなるんだろ?
竜人の遺伝子は、コピーを続けていくうちに、劣化していくようだし。
元通りに人と、竜に分離するのかな?
詳しく知っていたネストルは、もういない。
俺が元の世界に戻れば、このラボも消滅して、打つ手がなくなる。
それらの問題を放り投げて戻ったりしたら。家族から家を叩き出されちゃうよ。
自分がやり始めたことなら最後まで貫けって言うはずだ。
「……ノア。あちらに手紙を送るのは可能?」
『それくらいの質量であれば、太陽エネルギーのみで、こちらの燃料の心配も無く送れます』
「そうか……、」
だったら。
後は、俺が覚悟を決めるだけだ。
「ゲオルギオス、俺は地球……元の世界には帰らない。救世の神子として、ここに残って、すべきことがあるからな」
会心の笑みが浮かんだ。
*****
使い魔は、作った術者であるネストルが死んだのと同時に消滅したそうだ。
情報を集めてみれば。
人の目がないところでは、かなり悪さをしていたようだ。
あれはネストルが作ったものだった、と伝えて回らないと。
度々、村とかを襲撃してきていた魔物……使い魔が消えても。
まだこの世界には大ミミズとか巨大魚みたいな危険な生物とか、毒沼とか間欠泉とか竜巻地帯みたいな危ない場所はいっぱいあるけど。
最強の竜騎士が俺を護ってくれるから、安心だよな?
”死の光線”は危険だし、無駄にエネルギーを使うから、という理由で封印させた。
これからは、ここはこの世界の獣人たちのメンテ用ラボとして使わないといけないし。
各地域を竜騎士が警邏して回ってるから問題ない、とノアに言ったら、納得してくれた。
砂の国の移動要塞に顔を出して。
これまでの話をしたら、みんな大喜びだった。
やっぱり、移動要塞は古代の技術を使ってたようだ。落ちたコロニーの一部を利用して作ったとか。
ガレオスは初期の実験体で、研究者の一人だったって。
歴史の生き証人だった。
ネストルに見つからないよう、実験体にされた仲間たちを保護して。
研究者だったことも秘密にして。砂漠の中でずっと隠れてたんだって。
鮫って、長生きなんだなあ。
どういうこと?
『あの祭壇には、代々の教皇が心血を注ぎ込んだ魔力が宿っていたのだが。祭壇に満ちていた魔力はもう尽きている。そして、召喚術は一方通行のもので、神子が元の世界に帰る方法は、もう無い……』
ゲオルギウスは、つらそうに言った。
『え、そうなの!?』
オリオンは驚いてる。
クリストファーとユージン、あの場にいた魔術に詳しい人は、そのことには薄々気がついてたようだ。
それで、かわいそうに思って、親切にしてくれたたんだろうか?
*****
『いいえ、帰れますよ?』
深刻な雰囲気の中、ノアがきっぱりと言った。
「……はい?」
え、帰れるの!? そんな。
あっさり?
『本当か!?』
ゲオルギオスが腰を上げた。
『一度限りですが。このラボの全エネルギーを使えば、ご主人様を元の時間、元の場所に飛ばすことが可能です』
一度限り。
ここの全エネルギーを使わないといけないくらい、遠いのか。
……3億光年も先だもんな。想像もつかないけど。
『そしたらここ、どうなるの?』
ハヴァローニはベーコンを齧りながら訊いた。
『私も消滅しますので。このラボを維持できず、崩壊します』
『ええ、そんな……もったいない!』
ノアは自分が消滅するかもっていうのに、随分あっさりしてるな。
機械的というか。
プログラムされた機械みたいなものなんだろうけど。
祭壇はもう、使えないんだよな。
じゃあ、元の世界に帰ったら。
もう、二度と。
みんなとは、会えなくなるんだ。
ゲオルギオスにも。
*****
……でも、俺には。
試合が。
学校が。
あっちには、家族がいて。
悪神退治が終わったら、すぐに帰るつもりだったけど。
軽く考えてた。
爺ちゃん、親父、母さんに。
もう二度と、会えなくなってもいいのか?
『……良かった。帰る方法がないのなら、俺が一生面倒を見るつもりだったんだが……』
ゲオルギオスは俯いて。
だった、って。
何で、過去形なんだよ。
『バカ、止めないのかよ』
オリオンが、ゲオルギオスを肘打ちした。
『勝……神子には、家族がいるし、故郷がある。それに、早く帰りたがっていた……、』
『ああ、ここよりずっと、暮らしやすそうな世界っぽいしな……』
ティトーが言って。
『飲み物が勝手に出てきても驚いてなかったし。それが当たり前な、便利な世界だったんだろう』
ハヴァローニも頷いてる。
いや、充分驚いてたんだけど。
魔法かと思ったんだよ。
もう何度も不思議な現象を見てるから、これも魔法なのかなって。
発達しすぎた科学は魔法みたいなものだって言うし。
どこまでが魔法で、どこから科学なんだかわかんないけど。
いや、そんなこと考えてる場合じゃ。
*****
ペールディカはぱん、と手を叩いた。
『全く男たちときたら、勝手なことばっかり言ってしんみりしてんじゃないよ! 決めるのは神子様だろうに。外野は黙ってメシでも喰ってな!』
みんなおとなしくなった。黙って、食事をしている。
母は強し、か。
……ペールディカ、すっかり元気になってよかったな。
元気な子を産んで欲しい。
そうだ。子供と言えば。
この先、竜人はどうなるんだろ?
竜人の遺伝子は、コピーを続けていくうちに、劣化していくようだし。
元通りに人と、竜に分離するのかな?
詳しく知っていたネストルは、もういない。
俺が元の世界に戻れば、このラボも消滅して、打つ手がなくなる。
それらの問題を放り投げて戻ったりしたら。家族から家を叩き出されちゃうよ。
自分がやり始めたことなら最後まで貫けって言うはずだ。
「……ノア。あちらに手紙を送るのは可能?」
『それくらいの質量であれば、太陽エネルギーのみで、こちらの燃料の心配も無く送れます』
「そうか……、」
だったら。
後は、俺が覚悟を決めるだけだ。
「ゲオルギオス、俺は地球……元の世界には帰らない。救世の神子として、ここに残って、すべきことがあるからな」
会心の笑みが浮かんだ。
*****
使い魔は、作った術者であるネストルが死んだのと同時に消滅したそうだ。
情報を集めてみれば。
人の目がないところでは、かなり悪さをしていたようだ。
あれはネストルが作ったものだった、と伝えて回らないと。
度々、村とかを襲撃してきていた魔物……使い魔が消えても。
まだこの世界には大ミミズとか巨大魚みたいな危険な生物とか、毒沼とか間欠泉とか竜巻地帯みたいな危ない場所はいっぱいあるけど。
最強の竜騎士が俺を護ってくれるから、安心だよな?
”死の光線”は危険だし、無駄にエネルギーを使うから、という理由で封印させた。
これからは、ここはこの世界の獣人たちのメンテ用ラボとして使わないといけないし。
各地域を竜騎士が警邏して回ってるから問題ない、とノアに言ったら、納得してくれた。
砂の国の移動要塞に顔を出して。
これまでの話をしたら、みんな大喜びだった。
やっぱり、移動要塞は古代の技術を使ってたようだ。落ちたコロニーの一部を利用して作ったとか。
ガレオスは初期の実験体で、研究者の一人だったって。
歴史の生き証人だった。
ネストルに見つからないよう、実験体にされた仲間たちを保護して。
研究者だったことも秘密にして。砂漠の中でずっと隠れてたんだって。
鮫って、長生きなんだなあ。
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