ドSワンコとクズ眼鏡

うさき

文字の大きさ
上 下
131 / 132

123

しおりを挟む

 次に意識が浮上した時は、病院のベッドの上だった。
 
「ストレス性の胃潰瘍ですね。ああ、教師は多いんですよ。特に30代からは発症しやすいですね。先生ストレス溜め込みすぎです。一ヶ月は入院してくださいね」

 医者にあっさりとそう言われた。
 胃潰瘍だと。一ヶ月も入院だと。

「おいまて、なんとかならないのか。この大事な時期に入院などありえん」

 思わず医者の胸ぐらをグイと掴みあげる。
 俺の行動に医者が青い顔でワタワタと隣を見上げた。

「ちょっ、先生吐血までしておいて何言ってるんですか。ちょっと同僚の方もなんとか言ってくださいっ」
「――すみませんでした。大人しくさせますのでもう行って下さい」
「なんだと神谷っ」

 逃げるように医者が病室を去り、神谷に落ち着いて下さいと宥められる。
 仕方なく息を吐き出してベッドに戻る。

「しかし胃潰瘍で本当に良かったですよ。他に何か重い病気だったらともう寿命が縮まりました」
「…迷惑を掛けた。胃潰瘍と貧血が同時に発症するなんてな。日頃の体調管理が甘かった」
「そういう問題でしょうか。ともかくゆっくりと今はお休みなさってください。こちらの仕事は何も気にしなくて大丈夫ですので」
「ふざけるな。そういうわけにはいかない」
「いつまでもそう気にしていると早く治るものも治りませんよ」

 神谷に言われ、うっと言葉を詰まらせる。
 とはいえ一ヶ月も休んでられるか。
 絶対に一週間で帰ってやる。

 納得していない俺の態度に、神谷が一つ息を吐き出した。

「お願いですからゆっくりなさって下さい。大好きな数学がいつまで経っても出来ませんよ」
「…それは困る」
「ね、ですから早く治しましょう。何か必要なものはありますか?入り用でしたらご自宅まで取りに行きますよ」
「お前を部屋に入れたらどこにカメラを仕掛けられるか分からない」
「……」

 何か言え。なぜ無言なんだ。
 やはりコイツには頼めない。

「必要なものは売店で揃えるから問題ない。それより忙しい所わざわざ病院までついてきてくれてすまなかった」
「いえ。ではお休みの邪魔になってはいけませんし、俺は学校に戻ります。本当に余計なことはせずゆっくりと休んでくださいね。それから医者も脅さないように」
「わ、分かっている」

 そう言ってベッド脇の椅子から神谷は立ち上がったが、慌ててその服の裾をぐいと引く。
 顔は上げられなかった。

「…あ、えっと…その」

 言葉が出てこない。
 ドクドクと心音が上がっていく。
 聞きたい事があるが、聞くのが怖い。

 言い淀んでいると、不意に神谷の手が俺の髪をゆるりと撫でた。
 安心させるような仕草に、心がじわりと緩む。

「…あなたを救急車まで運んだのは七海ですよ。ついてくると言ったのですが、すぐに紺野先生の立場を考えたのか俺にお願いしますと頭を下げて授業へ戻りました。ただの胃潰瘍だと携帯に連絡もいれましたし、心配には及びません。…まああの分だと学校が終わったら飛んで来そうですが」
「…そうか。ありがとう」

 七海の前で吐血だとか倒れるだとか、高校生には見たくないものを見せてしまっただろう。
 余計な心配をすることで、受験勉強の邪魔にならないといいのだが。

「紺野先生、今はあなたが心を休めるのが一番ですよ。それでないと我々も安心出来ません。ご自分のことだけを考えて下さい」
「…ああ」
「また来ますね。何かあったら遠慮なく俺に仰って下さい」

 そう言って神谷は学校へと戻っていった。

 ぐるりと室内を見回す。
 簡素な部屋だが、一人部屋らしく安心する。
 特に俺は相部屋などでは気が散ってゆっくり休めないし、神谷が気を使ってくれたんだろうか。

 考えたいことは山積みだったが、確かにこれ以上悪化するわけにもいかず俺は素直に身体をベッドへと落とした。
 


 ダダダッと廊下を勢いよく走る音がした。
 うつらうつらと寝ていたが、騒々しい音に意識が浮上する。
 ここは病院内だというのにどこのどいつだ、と思ったら扉が壊れんばかりの音を立てて開いた。

「――みーちゃんっ」
「ちょっと、静かにして下さい。それからお見舞いを希望される方はこちらにお名前を――」

 後ろから看護師数人を引き連れてきたのは七海だった。
 七海は看護師には全く目をくれず、俺のところまで真っ直ぐに来るとそのまま俺を抱きしめた。

 看護師が明らかに好気の目でキャーッと騒いだが、お前らも静かにしろ。ここは病院内だ。
 じとっと目を細めると、俺の視線に気付いたのか慌てて看護師は病室から出ていった。

 二人きりになった個室で、俺を抱きしめたままの七海にそっと声を掛ける。

「…心配かけたな。ただの胃潰瘍だから何も問題はない」

 俺を抱きしめる大きな背を、そっと擦ってやる。
 病室に入り込んできたときとは打って変わり、珍しく七海は黙り込んだまま何も言わなかった。
 ただ俺を強く抱きしめたまま、微動だにしない。

「もう大丈夫だから。…その、見たくないものを見せてしまってすまなかった」

 さすがに吐血は高校生には厳しかっただろう。
 自分でも反省しつつその背をゆるゆると撫でてやるが、七海はまだ俺を離そうとはしない。

「…あー、そうだ。神谷に聞いた。お前ちゃんと授業に戻ったんだってな。偉かったな。俺もそれを聞いて安心した」

 大きな体が何も言わずに震える。
 覚えのないその感覚に、ドキリと心臓が跳ねた。

 何も言わないんじゃなく、言えないのか。
 そう気付いて、堪らなく愛しさが込み上げてきてしまう。
 不謹慎だと思いつつも、嬉しいと思ってしまった。

「…バカだな。お前、泣いてるのか?」

 七海は俺を抱きしめたまま、ただ身体を震わせていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

親父は息子に犯され教師は生徒に犯される!ド淫乱達の放課後

BL
天が裂け地は割れ嵐を呼ぶ! 救いなき男と男の淫乱天国! 男は快楽を求め愛を知り自分を知る。 めくるめく肛の向こうへ。

高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる

天災
BL
 高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる。

俺の番が変態で狂愛過ぎる

moca
BL
御曹司鬼畜ドS‪なα × 容姿平凡なツンデレ無意識ドMΩの鬼畜狂愛甘々調教オメガバースストーリー!! ほぼエロです!!気をつけてください!! ※鬼畜・お漏らし・SM・首絞め・緊縛・拘束・寸止め・尿道責め・あなる責め・玩具・浣腸・スカ表現…等有かも!! ※オメガバース作品です!苦手な方ご注意下さい⚠️ 初執筆なので、誤字脱字が多々だったり、色々話がおかしかったりと変かもしれません(><)温かい目で見守ってください◀

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

R-18♡BL短編集♡

ぽんちょ♂
BL
頭をカラにして読む短編BL集(R18)です。 ♡喘ぎや特殊性癖などなどバンバン出てきます。苦手な方はお気をつけくださいね。感想待ってます😊 リクエストも待ってます!

ご飯中トイレに行ってはいけないと厳しく躾けられた中学生

こじらせた処女
BL
 志之(しの)は小さい頃、同じ園の友達の家でお漏らしをしてしまった。その出来事をきっかけに元々神経質な母の教育が常軌を逸して厳しくなってしまった。  特に、トイレに関するルールの中に、「ご飯中はトイレに行ってはいけない」というものがあった。端から見るとその異常さにはすぐに気づくのだが、その教育を半ば洗脳のような形で受けていた志之は、その異常さには気づかないまま、中学生になってしまった。  そんなある日、母方の祖母が病気をしてしまい、母は介護に向かわなくてはならなくなってしまう。父は単身赴任でおらず、その間未成年1人にするのは良くない。そう思った母親は就活も済ませ、暇になった大学生の兄、志貴(しき)を下宿先から呼び戻し、一緒に同居させる運びとなった。 志貴は高校生の時から寮生活を送っていたため、志之と兄弟関係にありながらも、長く一緒には居ない。そのため、2人の間にはどこかよそよそしさがあった。 同居生活が始まった、とある夕食中、志之はトイレを済ませるのを忘れたことに気がついて…?

【R-18】♡喘ぎ詰め合わせ♥あほえろ短編集

夜井
BL
完結済みの短編エロのみを公開していきます。 現在公開中の作品(随時更新) 『異世界転生したら、激太触手に犯されて即堕ちしちゃった話♥』 異種姦・産卵・大量中出し・即堕ち・二輪挿し・フェラ/イラマ・ごっくん・乳首責め・結腸責め・尿道責め・トコロテン・小スカ

【完結】ハードな甘とろ調教でイチャラブ洗脳されたいから悪役貴族にはなりたくないが勇者と戦おうと思う

R-13
BL
甘S令息×流され貴族が織りなす 結構ハードなラブコメディ&痛快逆転劇 2度目の人生、異世界転生。 そこは生前自分が読んでいた物語の世界。 しかし自分の配役は悪役令息で? それでもめげずに真面目に生きて35歳。 せっかく民に慕われる立派な伯爵になったのに。 気付けば自分が侯爵家三男を監禁して洗脳していると思われかねない状況に! このままじゃ物語通りになってしまう! 早くこいつを家に帰さないと! しかし彼は帰るどころか屋敷に居着いてしまって。 「シャルル様は僕に虐められることだけ考えてたら良いんだよ?」 帰るどころか毎晩毎晩誘惑してくる三男。 エロ耐性が無さ過ぎて断るどころかどハマりする伯爵。 逆に毎日甘々に調教されてどんどん大好き洗脳されていく。 このままじゃ真面目に生きているのに、悪役貴族として討伐される運命が待っているが、大好きな三男は渡せないから仕方なく勇者と戦おうと思う。 これはそんな流され系主人公が運命と戦う物語。 「アルフィ、ずっとここに居てくれ」 「うん!そんなこと言ってくれると凄く嬉しいけど、出来たら2人きりで言って欲しかったし酒の勢いで言われるのも癪だしそもそも急だし昨日までと言ってること真逆だしそもそもなんでちょっと泣きそうなのかわかんないし手握ってなくても逃げないしてかもう泣いてるし怖いんだけど大丈夫?」 媚薬、緊縛、露出、催眠、時間停止などなど。 徐々に怪しげな薬や、秘密な魔道具、エロいことに特化した魔法なども出てきます。基本的に激しく痛みを伴うプレイはなく、快楽系の甘やかし調教や、羞恥系のプレイがメインです。 全8章128話、11月27日に完結します。 なおエロ描写がある話には♡を付けています。 ※ややハードな内容のプレイもございます。誤って見てしまった方は、すぐに1〜2杯の牛乳または水、あるいは生卵を飲んで、かかりつけ医にご相談する前に落ち着いて下さい。 感想やご指摘、叱咤激励、有給休暇等貰えると嬉しいです!ノシ

処理中です...