ドSワンコとクズ眼鏡

うさき

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----side七海 『空白の屋上』

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 グスグスと聞こえたあーちゃんの泣き声に、慌ててみーちゃんの耳を塞ぐ。
 ただでさえ最近みーちゃんはどこか苦しそうに胃を抑えているのに、俺以外の事は考えてほしくない。
 
「…ご、ごめんなさい…っ。な、泣くつもりじゃなくて…っ」
「あ、ああ…いや…」

 いつも全く動じないカミヤンの驚いた声は初めて聞いた。
 しばらくあーちゃんの鼻を啜る声は止まらなかった。
 
「…結城は俺の気持ちを分かっているんだったな」
「はい。…ちゃんと分かってます」
「俺は今の自分の気持ちを変えるつもりはないんだ。そしてこの気持ちが実らないこともよく知っている」

 カミヤンの言葉を聞きながら、耳を抑えたままのみーちゃんを見下ろす。
 不安そうに俺を見つめる瞳と視線が合って、ニッコリと笑顔を作ってみせる。
 どこかホッとしたようにみーちゃんは俺の胸に顔を寄せてきた。
 
 やべ、可愛い。
 めちゃくちゃドキドキしてきた。

「…で、でも今はそうでも、人の気持ちは変わるものです。俺はカミヤンに変えてもらったから…っ」
「たまたま俺が結城の側にいただけだ。教師であればきっと皆相談に乗ってくれる」
「そうかもしれないですけど…。でもあの時相談に乗ってくれたのはカミヤンだったんです」

 不意にみーちゃんが小さく身じろいで、俺の胸に額を擦り付けてきた。
 だけどすぐに自分で自分の行動に驚いたのか、ぶわっと真っ赤になってる。

 あー、くそ。触りたい。
 耳を押さえてるから手を動かせない。
 ムラムラしてきた。

「カミヤンのおかげで今はもう自分は自分だって思えるようになりました。カミヤンがバスケ部誘ってくれたおかげです…っ」
「そうか。俺もバスケ部の顧問をしているのが楽しいんだ。自分が楽しいことに引き込んだだけだったんだがな」
「俺も楽しいです。七海先輩もゴリキャプテンも皆大好きです。引退しちゃったけど…」
「これからは結城がそう思ってもらえるような先輩になればいい」

 そんなことより今すぐみーちゃんにちゅーして、イヤイヤ言いながら気持ち良さそうな顔をする身体をズブズブに犯したい。
 たくさん快感を与えて頭真っ白にさせて、気持ちいいって言わせながら腰振らせたい。
 やべ、想像したら勃ってきた。

「…カミヤンがいたからそんな気持ちを知れたんです。じゃなきゃ俺はまだずっとあの時のままでした」
「比べることがおかしいんだ。結城は結城だ。他の誰でもない」

 ふとカミヤンとあーちゃんの会話が止まる。
 あんまりよく聞いてなかったけど、もしかしたら話が終わったのか。
 しっかりと耳を抑えたままのみーちゃんが、俺の胸の中でキョトンと小さく小首を傾げる。

 あ、今この人俺の事煽った。
 絶対煽った。
 
「…尊敬はしてるんです。だけど、期待されてて苦しかった。――俺と兄貴は違う。ずっと馬鹿な俺と違って優秀な兄貴にコンプレックス持ってたけど、俺は俺のやりたいことをやればいいんだって、カミヤンが教えてくれたんです」

 あーちゃんのふふ、という笑い声が聞こえた。
 なんかいい感じに話がまとまったならもう屋上から出てってくれないかな。
 そろそろ俺の方が限界だ。
 
「…だ、だから、その…っ。お、俺は俺の思うままに…こ、これからもカミヤンを追いかけます…っ」
「結城、それは――」
「い、いいんです。カミヤンだって俺と同じじゃないですか」
「それはそうだが…」

 ふわりと風が凪いで、みーちゃんから頭がくらりとするようないい匂いがした。
 あ、もうダメだ。今すぐ触りたい。
 
「…分かった。お前がずっとこの先も同じ気持ちでいる事があるなら、また考えよう。だが今は俺の大事な一生徒でいてくれないか」
「はい。それでいいです。…知っておいてほしかっただけなんで」

 もう二人の会話は放り投げて、俺はみーちゃんの耳から手を離すとどう見ても誘っているようにしか見えない小ぶりの尻に手を伸ばした。



 文化祭からの帰り道。
 エッチもしたしみーちゃんと仲直りも出来たし、ポカポカと暖かい胸を弾ませながら真っ暗な夜道を歩く。
 みーちゃんは安定のヘロ眼鏡さんでどこかヨタヨタした足取りだけど、そんな姿も愛しくてしょうがない。

 手を繋ぎながら上機嫌で隣を歩いていたら、ふと思い出したようにみーちゃんが俺を見上げた。

「そういえば神谷と結城が話している間、俺を気遣って耳を塞いでくれたのだろう?…その、ありがとう」
「――えっ?あー、そうそう。色々我慢するの大変でした」
「…我慢?そうか。お前も盗み聞きするのは心苦しかったんだな。すまなかった」
「いーえ、もうスッキリしたんで大丈夫です」

 ニッコリと返したら、みーちゃんは一度頭の上にはてなマークを浮かべてから「そうか」と可愛い笑顔を見せてくれた。
 身体に電流が走ったみたいにビリビリとその笑顔に惹き付けられる。
 みーちゃんは嬉しそうに俺の手を握り返して、ニコニコと笑顔を見せながら隣を歩く。

 やっぱりこの人、どう見ても俺を誘っている。


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