80 / 132
75
しおりを挟む「紺野先生っ」
終業式が終わると、生徒の流れを掻き分けて真っ直ぐに七海が俺の元へ駆けてくる。
ずっとビリビリとするような視線を感じていた。
頼むから俺を見ないでくれ。
こっちに来ないでくれ。
露骨すぎるがサッと踵を返して体育館へ出ていく。
「ちょっ…待ってくださ――」
「七海。早く教室へ戻りなさい」
後ろで神谷の声が聞こえたが、恐らく間に入ってくれたんだろう。
振り向かず真っ直ぐ職員室へ戻るため早足で歩く。
ともかく今日を乗り越えれば夏休みに入る。
特進科は夏期講習が義務付けられているため全く会わないことはないが、それでも当たり前に顔を会わせる今よりはずっと機会が減る。
時間がほしい。
もう少し時間を置いて心が落ち着きさえすれば、七海に対してもここまで露骨な態度を取らなくて済むようになるはずだ。
以前のように教師として然るべき行動を取れるようになる。
正しい行動が、きっと取れるようになる。
「――みーちゃんっ」
突然ガッと後ろから手首を掴まれた。
驚きに目を見開く。
「逃げないで。ちゃんと話をしましょう」
久しぶりに自分に向けられた七海の声。
触れられたところから、どうしようもなく痺れるような熱さが広がる。
なぜ追いかけてきた。
神谷はどうしたんだ。
さっき七海を引き止めていたはずだ。
「お、お前と話す事はない。いいから教室へ戻れ」
振り向くことも出来ず顔を前に向けたまま口を開く。
「こっち向いて下さい。話がしたいんです」
「俺に話はない。手を離せっ」
「嫌です。ここで離したらまた俺を避けるんでしょう」
ズキリ、と胸が傷んだ。
正しいことをしているはずなのに、あまりに自分の行動に感情が納得していない。
こんな気持ちがあるなんて知らなかった。
ざわざわと背後から音がして、生徒が教室へ戻る音がする。
このままだと教師も戻ってくるだろうし、神谷も追いついてくるだろう。
こんなところを見られたら今度こそ七海の評価にどう影響が及ぶのか分からない。
この大事な時期に俺のことで成績が下がるようなことなんて、絶対にあってはならない。
こんな最低な感情を抱いていたって、俺は教師なんだ。
「…もう離してくれ。頼むから」
吐き出した声が密かに震える。
こんなに抑揚のない言葉を生徒に吐くのは初めてだった。
七海がハッとしたように動きを止める。
「――おいコラ七海っ。担任に目潰し食らわせるとはどういうことだっ」
「げっ、もう追いついてきたっ」
後ろから神谷の声が飛んできて、七海がギョッとしたように声を上げる。
というかコイツ教師になんてことをしている。
「分かりました、今は戻ります。でも俺今日数学準備室で待ってますから。みーちゃんと話すまで絶対に帰りませんから」
「おい、それは――」
「卑怯でもなんでもいいですよ。生徒が学校でオールとかみーちゃんは見過ごせないっすよね」
七海はどこか冷たくそう言って俺の手を離した。
アイツの熱が引いて、神谷に怒られながら走り去っていく音が聞こえる。
廊下を走るな、というお決まりの文句すら今は思い出せなかった。
0
お気に入りに追加
125
あなたにおすすめの小説
俺の番が変態で狂愛過ぎる
moca
BL
御曹司鬼畜ドSなα × 容姿平凡なツンデレ無意識ドMΩの鬼畜狂愛甘々調教オメガバースストーリー!!
ほぼエロです!!気をつけてください!!
※鬼畜・お漏らし・SM・首絞め・緊縛・拘束・寸止め・尿道責め・あなる責め・玩具・浣腸・スカ表現…等有かも!!
※オメガバース作品です!苦手な方ご注意下さい⚠️
初執筆なので、誤字脱字が多々だったり、色々話がおかしかったりと変かもしれません(><)温かい目で見守ってください◀
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
R-18♡BL短編集♡
ぽんちょ♂
BL
頭をカラにして読む短編BL集(R18)です。
♡喘ぎや特殊性癖などなどバンバン出てきます。苦手な方はお気をつけくださいね。感想待ってます😊
リクエストも待ってます!
ご飯中トイレに行ってはいけないと厳しく躾けられた中学生
こじらせた処女
BL
志之(しの)は小さい頃、同じ園の友達の家でお漏らしをしてしまった。その出来事をきっかけに元々神経質な母の教育が常軌を逸して厳しくなってしまった。
特に、トイレに関するルールの中に、「ご飯中はトイレに行ってはいけない」というものがあった。端から見るとその異常さにはすぐに気づくのだが、その教育を半ば洗脳のような形で受けていた志之は、その異常さには気づかないまま、中学生になってしまった。
そんなある日、母方の祖母が病気をしてしまい、母は介護に向かわなくてはならなくなってしまう。父は単身赴任でおらず、その間未成年1人にするのは良くない。そう思った母親は就活も済ませ、暇になった大学生の兄、志貴(しき)を下宿先から呼び戻し、一緒に同居させる運びとなった。
志貴は高校生の時から寮生活を送っていたため、志之と兄弟関係にありながらも、長く一緒には居ない。そのため、2人の間にはどこかよそよそしさがあった。
同居生活が始まった、とある夕食中、志之はトイレを済ませるのを忘れたことに気がついて…?
【R-18】♡喘ぎ詰め合わせ♥あほえろ短編集
夜井
BL
完結済みの短編エロのみを公開していきます。
現在公開中の作品(随時更新)
『異世界転生したら、激太触手に犯されて即堕ちしちゃった話♥』
異種姦・産卵・大量中出し・即堕ち・二輪挿し・フェラ/イラマ・ごっくん・乳首責め・結腸責め・尿道責め・トコロテン・小スカ
【完結】ハードな甘とろ調教でイチャラブ洗脳されたいから悪役貴族にはなりたくないが勇者と戦おうと思う
R-13
BL
甘S令息×流され貴族が織りなす
結構ハードなラブコメディ&痛快逆転劇
2度目の人生、異世界転生。
そこは生前自分が読んでいた物語の世界。
しかし自分の配役は悪役令息で?
それでもめげずに真面目に生きて35歳。
せっかく民に慕われる立派な伯爵になったのに。
気付けば自分が侯爵家三男を監禁して洗脳していると思われかねない状況に!
このままじゃ物語通りになってしまう!
早くこいつを家に帰さないと!
しかし彼は帰るどころか屋敷に居着いてしまって。
「シャルル様は僕に虐められることだけ考えてたら良いんだよ?」
帰るどころか毎晩毎晩誘惑してくる三男。
エロ耐性が無さ過ぎて断るどころかどハマりする伯爵。
逆に毎日甘々に調教されてどんどん大好き洗脳されていく。
このままじゃ真面目に生きているのに、悪役貴族として討伐される運命が待っているが、大好きな三男は渡せないから仕方なく勇者と戦おうと思う。
これはそんな流され系主人公が運命と戦う物語。
「アルフィ、ずっとここに居てくれ」
「うん!そんなこと言ってくれると凄く嬉しいけど、出来たら2人きりで言って欲しかったし酒の勢いで言われるのも癪だしそもそも急だし昨日までと言ってること真逆だしそもそもなんでちょっと泣きそうなのかわかんないし手握ってなくても逃げないしてかもう泣いてるし怖いんだけど大丈夫?」
媚薬、緊縛、露出、催眠、時間停止などなど。
徐々に怪しげな薬や、秘密な魔道具、エロいことに特化した魔法なども出てきます。基本的に激しく痛みを伴うプレイはなく、快楽系の甘やかし調教や、羞恥系のプレイがメインです。
全8章128話、11月27日に完結します。
なおエロ描写がある話には♡を付けています。
※ややハードな内容のプレイもございます。誤って見てしまった方は、すぐに1〜2杯の牛乳または水、あるいは生卵を飲んで、かかりつけ医にご相談する前に落ち着いて下さい。
感想やご指摘、叱咤激励、有給休暇等貰えると嬉しいです!ノシ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる