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しおりを挟む期末テストが終わり、残りはテスト返し、そのあとは夏休みが待っている。
が、夏休み前の最後の行事としてもう一つだけ残っている。
これから進学、就職する三年生へ向ける進路指導説明会だ。
それもただの説明会ではなく、実際に卒業した生徒を呼んで経験談を話してもらうことになっている。
去年卒業した生徒からは二名呼んでいて、一流大学へ進学した特進科の生徒が一名、それに普通科から上場企業に就職した生徒が一名。
その他もう社会人となり相応の企業に就いている卒業生達を数人呼んでいて、それぞれ今の在校生にアドバイスという形で説明会をお願いしている。
俺が送り出した生徒も数多くいて、久しぶりに会う卒業生の成長を見るのが楽しみでもある。
「みーちゃんっ。俺のテスト結果見ました?全部見ましたっ?ご褒美くーださいっ」
「まだ何も言っていないっ」
見たも見てないも言っていないのに、さっさと人の腰を引き寄せてくる七海の身体をぐいっと押し返す。
とはいえ七海のテストの結果がどうなったかは気になっていて、ちゃんと確認済みではある。
今回はちゃんと全教科頑張ったようで、中間テストのように満点とはいかなかったが全教科しっかり成績が上がっている。
やはり七海はやれば出来る奴で、今までやらなかったのが勿体無いとさえ思ってしまう。
「で、ご褒美なんですけど」
ずいっと顔を近づけてきたから、カッと体温が上がる。
コイツは中間テストの時にご褒美と言って人を犯してきたし、必然的に身体が強張ってしまう。
心臓が変に早鐘を打ち始め、気持ちが焦りだす。
一体何をされるのかと思ったが、七海はパンッと両手を合わせるとどこか上目遣いに俺の顔を覗き込んだ。
「俺に一日でいいんで時間くれませんか?」
「…は?」
少し呆気にとられたが、ふと前に七海に言われた言葉を思い出す。
「ああ、そういえばデートがしたいとか言っていたな。だが現実的に考えて生徒と教師が一緒に出かけるところなどもし見られたら――」
「あ、そうじゃなくってですね…」
一体何なんだと首を傾げた時、不意に俺を呼ぶ校内放送が響いた。
午後から進路指導説明会だから、おそらく卒業生が来たのだろう。
「七海、悪いが教室に戻れ。呼び出しがかかった」
そう告げてあっさりと七海から視線を外すと数学準備室から出ていく。
卒業生とはいえせっかく在校生のためにわざわざ時間を割いて来てくれているのに、待たせるわけにはいかない。
「ちょ、待ってくださいって。話まだ終わってないっすよ」
七海が追いかけてくるが、その話は別にいつでも出来るだろう。
それにどうせデートだなんだと色恋を俺に押し付けてきて、人を振り回すような事を言うに決まっている。
最近はなんだか自分がおかしくて、どうしようもなくコイツの言葉を受け入れてしまう自分がいる。
不思議と断りの文句が出てこなくて、ともすれば好き勝手に甘やかしてしまいそうになる。
どう考えてもそんな指導の仕方は絶対に間違っている。
しつこく追いかけてくる七海を煩いとあしらいながら、渡り廊下まで降りてくる。
職員室につながる廊下の先、窓の外を眺めている一人の懐かしい姿を見つけた。
去年の卒業生で、普通科の生徒。
素行が悪く髪も染めていて服装もだらしなく、おまけに授業態度も酷かった。
よく真面目に勉強している後ろの席の生徒に話しかけていて、何度説教したか分からない。
それでもやる気のなさは目立つが、頭は悪くなかった。
まさかアイツが大手企業に合格したと聞いた時の驚きはあったが、なんとなく器用な奴だったから納得する気持ちもある。
どうやら在学中より少しは落ち着いたらしく、しっかりと着たスーツ姿がとても初々しく見える。
「七海、卒業生が来ているから大人しく教室に――」
戻れ、と言おうと隣を見上げたが、七海の視線は俺には無かった。
その目は渡り廊下の先、キラキラと何か宝物を見つけたように煌めいている。
びゅんっと風を切るように俺の隣から走り去っていった。
「たーかーせ先輩っ」
「うわっ。七海っ」
どうやら面識があったらしい。
が、そのまま思いきりその卒業生に抱きついた七海の姿を見て、唖然としてしまう。
それはまるで、俺に対する接し方ととても似ている気がした。
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