ドSワンコとクズ眼鏡

うさき

文字の大きさ
上 下
64 / 132

60

しおりを挟む

「捕まえました」
「よくやった」

 ものの数秒後、首根っこ掴まれた猫みたいな状態で結城は七海に捉えられていた。
 俺も追いかけてはきたが、若者の風のような足の速さには全く追いつけない。
 授業も間近の渡り廊下で、どうやら他の生徒はもう教室へ戻っているようだ。

「なんで追いかけてくるんすかっ。もーほっといてくださいよっ」
「ほっときたかったんだけど、みーちゃんが弁当くれないって」
「おい七海。そんな言い方をするな」

 結城は七海を慕っているわけだし、いくらなんでもその言い方は――と咎めたわけだが、結城は特に気にした様子もなくパシッと七海の手を払った。
 
「もー、あーちゃんの気持ちは分かるけどさ。センセーに当たってもしょうがないっしょ」
「それは分かってますけどっ。だってあんな風に言われたらどうすることもできないじゃないっすか。それに眼鏡センセーただの石頭の真面目センセーだしっ」

 なんだとこの野郎。
 せっかく勉強を教えてやったのになぜそんな頑固親父のような言われ方をされねばならない。
 口を挟もうと思ったが、隣で話を聞いていた七海がポンと結城の頭に手を置いた。

「まぁでもホラ、だからこそ片思いだって分かるわけだし。俺はあーちゃんを応援してるけどな」

 そう言って宥めるように結城の頭を撫でている。

 俺が石頭で真面目なのは置いといて、片思いとはなんのことだ。
 七海が俺に片思いであるとして、結城を七海が応援する意味が分からない。
 結城は七海のことが好きなんじゃないのか。

 全く二人の会話が分からず置き去りにされていたが、当たり前のように結城に触れる七海に眉を顰める。
 どこか不貞腐れたようではあるが結城もそれを受け入れていて、この二人の仲の良さが伺える。

 前にもあったがこうやって七海は誰にでも簡単に触れているんだろうか。
 なんだか口を挟む気にもなれず、立ち尽くしたままその光景を見つめる。

「俺みたいにあーちゃんもさっさと言っちゃえば良いと思うけど」
「そんな七海先輩みたいに出来る人なんか中々いませんよ。それに俺の場合もう分かりきってますし…だからこそこっちをなんとか出来ないかなって」
「あー、なるほど。だから最近――」

 結城も少し落ち着いてきた様子で話し始めているから七海に任せているが、そもそもこの二人で分かりあえる話なのであれば大人の俺が口を出すべきではない。
 そういえば七海は少し前に結城と自分が同じだとか意味深な事を言っていたし、子供同士何か通じる話があるんだろう。
 何より同世代であれば、同じ目線で物事を考えられるはずだ。

 ――そう。いくら何をされようとやっぱり七海は子供で、俺とは違う目線で生きている。

 きっと七海も俺と話をする時と友人と話をする時では違うだろうし、年の差もあれば気を使って会話をすることもあるだろう。
 今のように結城を宥めることは俺には絶対に出来なかったし、学生同士ならではの同じ目線があっての事だ。

 ならもし――もしも七海と俺が同世代だったら。

 そう思い至って、そんな事を考えた自分に驚く。



「おや、三人で何をされているんですか?」

 不意に神谷の声が聞こえた。
 顔を振り向かせると渡り廊下の先から、こちらへ歩いてくる神谷の姿が見えた。
 これから授業へ向かうところなのだろう。

「…ああいや、二人に勉強を教えてから少し雑談をしていた。これから教室へ向かわせるところだ」
「そうでしたか。もう授業が始まりますしね。それより結城」
「――ふぇっ!?」

 何だ今の声は。
 猫が踏まれたような声だったが、今のは結城か。

「最近紺野先生に勉強を見てもらっていると言っていたが、お前は受け持ちの一年の数学教師の方が授業も含めて分かりやすいんじゃないのか?紺野先生は三年を受け持っているし、忙しい時期に学年の違う結城の面倒まで見るとなると大変だろう」
「ああいや、別に問題はない。教師なら相手が誰であろうと勉強を教えるのは当たり前で――」

 口を挟んだら、そっと七海に腕を引かれた。
 いつの間にか隣りにいたらしい七海を見ると、唇に人差し指を当てニッと悪戯な笑顔を向けられる。

 どういうことだ。
 静かにしろというジェスチャーに不信感を抱いたが、七海に腕を引かれるまま後ろへ下がって押し黙る。

「…あ、あの。すみません。でも紺野先生が良くて…」
「まあ確かに紺野先生の数学は素晴らしいが、七海だけではなくまさか結城まで――」

 ――ん?

 神谷が軽く説教するように結城と対峙しているが、それよりさっきまでとはうって変わり、なぜか結城の態度が煮え切らない。
 それどころかまるで人見知りのように顔を赤らめている。

「紺野先生は生徒指導も兼ねているし、問題ないとは言ってくれているがそれに甘えて迷惑を掛けないよう気をつけなさい」
「…はい。ごめんなさい、気をつけます」
「とは言っても結城がやる気になっているのは先生もすごく嬉しいけどな」
「…っあ、えっと。が、頑張りますっ」

 ――んん?

 俺とは正反対の態度、なんてものではない。
 ここにいるのは別人なんじゃないかと疑うレベルに態度が明らかにおかしい。
 それも作っている、という感じではなく真っ赤な顔で俯くその姿はどう見ても素だ。

「ね、だからあーちゃんは天然さんだって言ったでしょう?」
「――は?ど、どういう…」

 七海が俺の隣で、耳打ちするような小さい声で話しかけてくる。
 目の前にいる結城はあの強気な態度はどこへやら、まるで恋する乙女のように神谷の説教を聞いている。
 パチパチと瞬きをして七海の顔と、目の前の光景とを往復してしまう。

「言ったじゃないっすか。俺とあーちゃんは一緒だって」
「えっと――それはつまり…?」

 まだ状況が飲み込めずぽかんとする俺に、七海は屈託のない笑顔で続けた。

「だからあーちゃんは好きなんですよ。カミヤンのことが」
「――ええっ?」

 その線は全く考えていなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

【R-18】僕は堕ちていく

奏鈴
BL
R-18です。エロオンリーにつき苦手な方はご遠慮ください。 卑猥な描写が多々あります。 未成年に対する性的行為が多いですが、フィクションとしてお楽しみください。 初投稿につき読みづらい点もあるかと思いますがご了承ください。 時代設定が90年代後半なので人によっては分かりにくい箇所もあるかもしれません。 ------------------------------------------------------------------------------------------------- 僕、ユウはどこにでもいるような普通の小学生だった。 いつもと変わらないはずだった日常、ある日を堺に僕は堕ちていく。 ただ…後悔はしていないし、愉しかったんだ。 友人たちに躰をいいように弄ばれ、調教・開発されていく少年のお話です。 エロ全開で恋愛要素は無いです。

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

ドS×ドM

桜月
BL
玩具をつかってドSがドMちゃんを攻めます。 バイブ・エネマグラ・ローター・アナルパール・尿道責め・放置プレイ・射精管理・拘束・目隠し・中出し・スパンキング・おもらし・失禁・コスプレ・S字結腸・フェラ・イマラチオなどです。 2人は両思いです。  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる

天災
BL
 高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる。

処理中です...