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しおりを挟むだがその翌日の昼休み、数学準備室を訪れたのは結城だけだった。
「えー、眼鏡センセーだけっすか」
向こうも同じことを思っているらしいが、そう言いながらも室内へ入り込むとパイプ椅子を勝手に俺の机の横へと広げる。
どうやら七海がいないからといって帰るつもりはないらしい。
ひょっとして勉強する気があったのか。
「お前七海を気に入ってるからここに来ていたんじゃないのか」
「え?ああ、なんだ。ちゃんと気づいてくれてたんですね。眼鏡センセー鈍感そうだから、そういうの分かってくれないかなーって思ってました」
「…俺に分からせる必要はないだろう。学生の恋愛ごっこに大人を巻き込むな」
なぜ30にもなる俺が一回り以上年下の奴と同じ土俵に立たなければいけない。
疑われるのも恋敵にされるのもいい迷惑だ。
「だって七海先輩めっちゃ眼鏡センセーのこと大好きじゃないですか。眼鏡センセーだってお弁当作ってあげてるし、本当は好きなんじゃないですか」
「バカを言うな。俺は教師だ。生徒に恋愛感情なんて持たない」
「そんなの分からないですっ」
きっぱりと強気な口調で言われた。
なんだこの反抗的な態度は。
「お前は恋愛話をしに来たのか。勉強するつもりがないなら帰れ。そういう話をしたいなら神谷にでも言え。俺よりよっぽど相談に乗ってくれるだろう」
「…っか、カミヤンは…い、忙しいし」
「なるほど俺は暇だと思われているのか」
「そうは言ってないですけどっ。勉強、しますよ。意地でもしますし絶対帰りませんっ」
なるほど良い度胸だ。
勉強する気がある生徒ならちゃんと見てやる。
ただし俺は神谷のように優しくはないし、飽きたと言おうが七海のように宥めてやったりもしない。
やるからには手を抜かないのが俺の信条だ。
よく分からないがこっちまで意地になって結城と向かい合う。
これだけ言っているのに俺の口調に気圧されずに歯向かってくる生徒はコイツが初めてだ。
ああ、但し七海は例外だ。
なんて当たり前のように七海を除外視しつつ、なぜか結城と飯を食いながら勉強を教える。
結城は俺にしごかれながらも半泣きで勉強をしていたが、どうやら宣言通り投げ出すつもりはないらしい。
見てやったところ確かに頭は良くないが、それでも俺は根性のある生徒は嫌いじゃない。
よく分からない奴だと思っていたが少しばかり見直したところで、昼休み終了間際になって滑り込むように七海が数学準備室へ入り込んできた。
忙しなく俺の前まで来ると、パンッと両手を合わせる。
「みーちゃん、すんませんっ。キャプテンに呼び出しくらっちゃって」
勢いよく謝られたが、別に毎日七海と飯を食う約束をしているわけではない。
部活に勉強にと学生は学生で大変だろう。
「別にいい。昼飯は食べたのか」
「食べてないっす。あーもー俺無理。みーちゃんの弁当食わないと今すぐ餓死します」
そう言ってへにょっと脱力すると、そのままガバッと抱きしめられた。
突然のことにドカッと顔に血が上る。
「ちょっとぉ、七海先輩っ。俺もいるんですけどっ」
結城の声で慌てて七海を引き剥がす。
別にいつも通り文句を言って突き放せば良かっただけだが、なぜだかとっさの判断が出来なかった。
「あれ、あーちゃんまた来てんの。そういや最近あーちゃんが真面目に勉強してるからカミヤンが心配してたっけ」
「え、なんで…」
「紺野センセーに迷惑掛けてないかなってさ」
「――はぁ?」
七海の言葉を聞いて、結城が俺に鋭い視線を向ける。
思い切り睨みつけるような視線を向けられたが、感謝されることはあれどそんな態度を取られる理由はないのだが。
というか真面目に勉強して心配されるとか、こいつは一体どれほど不真面目な生徒なんだ。
「もーいいですっ。せっかく我慢して勉強してもこんなんじゃ全然意味ないしっ」
投げやりにそう言うと結城は乱暴に鞄を取って立ち上がる。
勢い余って机の上に立てかけてあったペン立てが床に落ちたが、それには目もくれず苛立つように数学準備室を出て行く。
「おいちょっと待て。なんだその態度はっ」
よく分からないが憤慨してる生徒をそのままにしてはおけない。
結城の後を追おうとすると、後ろからガシッと腕を掴まれた。
「ちょ、みーちゃん待ってくださいよっ。俺の弁当はっ」
「今はそれどころじゃない。さっさと結城を追いかけろ」
「えぇー…」
そもそも結城はお前の後輩だろう。
七海は一度悲痛な声をあげたが、俺の言葉で渋々結城を追いかけていった。
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