ドSワンコとクズ眼鏡

うさき

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 なんなんだと教頭を一瞥してから大浴場を出る。
 見張りは先に神谷がしてくれるとのことで、俺は仮眠することにした。
 慣れない土地でいまいち寝付けなかったが、しばらくして意識が薄れていった。



「…何をしている」
「――あ。起きてしまいましたか」

 目を開けると、思い切り人の顔を撮ろうとカメラを構えている神谷と目が合った。
 あまり寝た気はしないが、神谷が戻ってきているということは交代の時間らしい。

「…盗撮の常習犯は2年以下の懲役、または100万円以下の罰金だが」
「それくらいで済むなら光栄ですが、今までに撮った写真を没収されるとなると話は別ですね」

 うーんと眉を寄せて本気で悩んでいる。
 一体今までどれほどコイツは俺の写真を撮っているんだ。

「な、何もしてないだろうな」
「していませんよ。とても抗い難い寝顔でしたが、大切な人に強引に何かしようだなんてそんな考え俺にはありません」
「…そうか。お前がそういう奴で安心した」

 盗撮はどうなんだと思うが、一先ず胸を撫で下ろす。
 だが俺を見下ろす視線はどこか飢えたように熱に浮かされたままで、ゾクリと背筋が震える。
 慌てて身体を起こした。

「こ、交代だよな。異常はあったか?」
「…いえ、結構賑やかだったのですが、今はもう落ち着いています」
「そうか。疲れただろう。ゆっくり休んでくれ」

 視線を合わせずにサッとベッドから降りる。
 妙に絡みつくような視線を向けられている気がしてならない。
 外は蒸したような暑さだが、ホテル内は冷房が効いているから上着を荷物から取り出しにいく。

「…紺野先生、綺麗に消えましたね。良かったです」
「は?」

 意味がわからず顔を向けると、トン、と神谷が自分の首を指し示した。
 一度キョトンとしたが、その意味に気付いてカッと顔に熱が上る。
 確かそこは七海に付けられた痕があった場所だ。

「…お、お前には関係ないだろう」

 動揺しながら上着を取り出して、サッと羽織る。
 それから机に置いていた眼鏡ケースに手を伸ばしたところで、先にそれを取り上げられた。

「――おい、何をする」
「関係ないなんて寂しいこと言わないで下さい。俺はあなたが他の人と関係を持っていようが、あなたを嫌いになったりはしませんよ」
「は、何言って…」
「そう、例えば相手が生徒であったとしても――」

 俺を見つめる視線がどこか射抜くように不敵に歪む。
 どうやらまだ神谷は疑っているらしい。

「…いい加減にしろ。眼鏡を返せ」

 手を伸ばしてそれを取り返そうとするが、持ち上げられてしまえば届かない。
 コイツは七海と同じくらい…いや、恐らくそれ以上に背が高い。

 背伸びをして取り返そうとしたが、不意に反対の手が腰に周りぐいと引き寄せられた。
 すぐ鼻の先まで距離を詰められて、驚きに戸惑う。

「――な、何を」

 ただの同僚というには、さすがに言い訳のきかない距離だ。
 視線の先で綺麗な顔が優しげに微笑み、その瞳の深さに息を呑む。

「好きです。あなたがずっと…もうずっと前から好きだったんです」

 思いを告げるその視線は真っ直ぐで歪みがなく、七海が俺を見つめる視線を思い出す。
 どうしてコイツらは性別や年齢やら立場を気にせず、真っ直ぐな瞳で人にそんな言葉が言えるのだろう。
 
「ず、ずっと…って」
「…ええと大学の時からなので…もう10年くらいでしょうか」
「じゅ…っ」

 思わず言葉に詰まる。
 そもそもコイツ同じ大学だったのか。
 それすら俺は今初めて知ったというのに。

「一生隠し通していくつもりだったのですが、ストーカーということがバレてしまいましたので。一度ちゃんと想いを伝えておきたかったんです」

 神谷はそう言って俺を離して、持ち上げていたケースから眼鏡を取り出す。

「紺野先生大学で有名だったでしょう。数学でいくつも賞を取られていましたし、今みたいにこんなキツイ眼鏡も掛けていなかったので、ファンも結構いたんですよ?」
「…大学の時のことなどあまり覚えていない」

 昔からこの性格は変わらない。
 ファンがいたなんて初耳だが話しかけられることはあっても、そういい態度を取ってきた記憶もない。
 ただひたすらにあの頃は、勉強と研究が出来る環境を謳歌していた記憶しかない。

「実は大学時代にお話したこともあったのですが、元々学部が違いましたので。記憶に残ってらっしゃらないだろうというのは、分かっていました」
「…すまない」
「いえ、いいんです。そういう誰に対しても必要以上に変わることのないあなたを愛していますから。――ただ」

 そこで神谷は言葉を区切る。
 愛しているなんて言葉を他人に言われたのは初めてだ。
 それもここまでサラリと、当たり前のように言われるとは。
 
「あなたを変える人間が出てきてしまったのでしょうか。…どうか変わらない、今のままのあなたでいて欲しいです」

 そう言って神谷は俺に眼鏡を掛けた。
 人にこうされたのは二回目で、俺は自然と七海の顔を思い浮かべていた。

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