235 / 251
番外編 side真島『ベタボレ王子の高校時代』
しおりを挟む「うめのーん、暇だったらこれからカラオケいこーよ」
「おー、いいよ」
ガシッと彼の腕をとる女の子を羨ましいと思った。
「高瀬ー、合コン行かね。人数足りねーの」
「おー、いいよ」
簡単に遊びに誘える男友達を羨ましいと思った。
「おい高瀬、そのピアスはなんだ。制服もだらしない着方をするな」
「おー…ってうわっ、さーせんっ」
彼に話を持ちかけられる教師を羨ましいと思った。
何度も深呼吸をする。
どれほどしても心臓の音は鳴り止まない。
でも今日こそは。
今日こそは絶対に彼に話しかける。
高校に入ってもう一年。
中学では結局話しかけられなかったけど、それでも絶対に彼と友達になりたいから同じ高校に入った。
レベルが低いと両親に大反対されて、幼い頃から逆らったことは一度もなかったけどそれだけは譲れなくて、家庭問題にまで発展しかけたけどなんとか認めてもらった高校。
それなのに俺は、まだ彼に話しかけることが出来ずにいる。
あまり人には言いたくないけれど、俺の家は父親が大企業の社長ということもあって子供の頃から勉強や習い事に関して行き過ぎな英才教育を受けてきた。
父も母も仕事で家にはほとんどいなかったけど、少し歳の離れた兄や姉と共にみっちり組まれた習い事のスケジュールを物心ついたときからひたすらに強いられてきた。
兄も姉も両親の望んだ通りの進路に進んで、兄は父の会社へ、姉は医学の道へ進んでいる。
この高校に入るために許された条件は、兄も姉も通ってきた某一流有名大学に必ず入学すること。
そしてもし入学することが出来なかったら、父親の紹介で卒業後は海外の大学へ行かされる事が決定している。
もしそんなことになったら彼に会うことも叶わない人生になってしまう。
ただでさえ友達でもなんでもないのに、一生接点がなくなってしまう。
「高瀬ー、3組の松田がメイド喫茶で働いてるらしいぞ。今日寄って帰んね」
「マジかよ。仲良くなればメイド合コン出来んじゃね」
「ぶっは、お前天才」
バクリ、と大きく心臓が跳ねる。
目の先で彼が友達と歩いていて、なにか楽しげに話をしている。
どうしよう。笑った顔がたまらなく可愛い。
どこかめんどくさそうに歩く姿がたまらなく可愛い。
ふわあ、と欠伸をする仕草もたまらなく可愛い。
ああ、好きだ。大好きだ。本当に大好きだ。
どうしよう。どうしよう――。
ドキドキして、緊張で足が竦む。
こんなに緊張することなんて、彼の前以外では一度だってない。
中学受験でも高校受験でも今までやってきたスポーツの大会やピアノのコンクール、その他大勢の前に出る機会は沢山あったけど一度だって緊張したことはなかった。
それなのに彼の姿を見るだけで身体は火が出そうなほど熱くなって、動かし方を忘れてしまったように身動きが取れなくなってしまう。
「あれ、プリンスじゃん。なんか突っ立ってお前の事見てね。まさか高瀬知り合いかよ?」
「はぁ?」
こちらに向かって廊下を歩きながら、隣で彼の友達が話しかけている。
気怠そうなその目がチラッとこっちへ向けられる。
――瞬間、ぶわっと全身に電流が駆け抜けたような感覚が走った。
彼と目が合って、呼吸が、心臓が、時間が止まる。
雷に打たれたようにその場から動けず、俺はただ固まったまま彼を凝視してしまう。
「いや?全く知らん」
ふい、とすぐ興味なさげに視線は逸らされて、俺の横をあっという間に彼は通り過ぎていく。
俺はかなしばりにあったように動けなくて、その場に立ち尽くしたままだった。
心臓が破れそうなほど早鐘を打っていて、目が合っただけなのになんだかもう泣きそうだ。
だって彼がほんの一瞬でも俺を見てくれた。
たった一秒でもその目に俺を映してくれたことがたまらなく幸せで、どうしようもなく嬉しい。
自然と呼吸が浅くなって、いつのまにか握りしめていた拳にはじっとりと汗が滲んでいる。
少しの余韻に浸ってからハッとして後ろを振り向いたら、彼ではなくその隣の友達と目が合った。
「はーやべ、目合っちった。イケメンすぎんだろ。俺プリンスにだったら抱かれてもいいわ」
「気持ちわり。勝手に掘られてろ」
なんの会話をしているのか分からないけど、俺もいつかあんなふうに高瀬くんと話をすることが出来るんだろうか。
顔を見るだけでこんなにガチガチに緊張していて心臓も壊れてしまったんじゃないかと思えるほどおかしいのに、やっぱり友だちになるなんて敷居が高すぎるのかもしれない。
それでもどうしたって恋い焦がれてしまう。
自分は彼を見るために生まれてきたんじゃないかと思えるほど、高瀬くんを見ると幸せで堪らなかった。
0
お気に入りに追加
852
あなたにおすすめの小説
水の流れるところ
楓
BL
鏡の中の彼から目が離せなかった――。
幼い頃に母親に虐待を受け、施設に預けられていた藍沢誉(あいざわほまれ)。親の愛情を受けずに育ち、体裁ばかり気にする父親から逃げた九条千晃(くじょうちあき)。
誉は施設を出ると上京し、男に媚びを売ることで生計を立てていた。千晃は医者というステータスと恵まれた容姿に寄ってきた複数の人間と、情のない関係を繰り返していた。
接点のない2人にはある共通点があった。「あること」がトリガーとなって発作が起こるのだ。その発作は、なぜか水に触れることで収まった。発作が起こる度に、水のあるところへと駆け込んでいたある時、2人は鏡越しに不思議な出会いを果たす。非現実的な状況に戸惑いつつも、鏡を通して少しずつ交流を深めていった。ある日、ひょんな事がきっかけで、ついに対面を果たすことになるが――。
愛に飢えた誉と、愛を知らない千晃が、過去に向き合い、過去と決別し、お互いの愛を求めて成長していく深愛物語。
★ ハーフ顔小児科医×可愛い系雇われ店長です。ハッピーエンドです。
★ 絡みが作中に発生いたします。
★ 直接的な表現はありませんが、暴力行為を匂わす描写があります。
★ 視点が受け攻め交互に展開しながら話が進みます。
★ 別ジャンルで書いたものをオリジナルに書き直しました。
★ 毎日1エピソードずつの更新です。
【完結】酷くて淫ら
SAI
BL
早瀬龍一 26歳。
【酷く抱いてくれる人、募集】
掲示板にそう書き込んでは痛みを得ることでバランスを保っていた。それが自分に対する罰だと信じて。
「一郎って俺に肩を貸すために生まれてきたの?すげーぴったり。楽ちん」
「早瀬さんがそう思うならそうかもしれないですね」
BARで偶然知り合った一郎。彼に懐かれ、失った色が日々に蘇る。
※「君が僕に触れる理由」に登場する早瀬の物語です。君が僕に触れる理由の二人も登場しますので、そちらからお読み頂けるとストーリーがよりスムーズになると思います。
※ 性描写が入る部分には☆マークをつけてあります。
全28話 順次投稿していきます。
10/15 最終話に早瀬と一郎のビジュアル載せました。
【弐】バケモノの供物
よんど
BL
〜「愛」をテーマにした物語重視の異種恋愛物語〜
※本サイトでは完結記念「それから」のイラストで設定しています
※オリジナル設定を含んでいます
※拙い箇所が沢山御座います。温かい目で読んで頂けると嬉しいです
※過激描写が一部御座います
𝐒𝐭𝐨𝐫𝐲
バケモノの供物シリーズ、第二弾「弐」…
舞台は現代である「現世」で繰り広げられる。
親を幼い頃に亡くし、孤独な千紗はひたすら勉強に励む高校ニ年生。そんな彼はある日、見知らぬ男に絡まれている際に美しい顔をした青年に助けて貰う。そして、その彼が同じ高校の一個上の先輩とて転校してきた事が発覚。青年は過去に助けた事のある白狐だった。その日を境に、青年の姿をした白狐は千紗に懐く様になるが…。一度見つけた獲物は絶対に離さないバケモノと独りぼっちの人間の送る、甘くて切ない溺愛物語。
''執着されていたのは…''
𝐜𝐡𝐚𝐫𝐚𝐜𝐭𝐞𝐫
天城 千紗(17)
…高二/同性を惹きつける魅力有り/虐待を受けている/レオが気になる
突然現れたレオに戸惑いながらも彼の真っ直ぐな言葉と態度、そして時折見せる一面に惹かれていくが…
レオ(偽名: 立花 礼央)
…高三(設定)/冥永神社の守り神/白狐/千紗が大好き
とある者から特別に人間の姿に長時間化ける事が可能になる術式を貰い、千紗に近付く。最初は興味本位で近付いたはものの、彼と過ごす内に自分も知らない内が見えてきて…
ライ(偽名: 松原歩)
…高二(設定)/現世で生活している雷を操る龍神/千紗とレオに興味津々
長く現世で生きている龍神。ネオと似た境遇にいるレオに興味を持ち、千紗と友達になり二人に近付く様に。おちゃらけているが根は優しい。
※「壱」で登場したメインキャラクター達は本編に関わっています。
※混乱を避ける為「壱」を読んだ上でご覧下さい。
※ネオと叶の番外編はスター特典にて公開しています。
𝐒𝐩𝐞𝐜𝐢𝐚𝐥 𝐭𝐡𝐚𝐧𝐤𝐬
朔羽ゆきhttps://estar.jp/users/142762538様
(ゆきさんに表紙絵を描いて頂きました。いつも本当に有難う御座います)
(無断転載は勿論禁止です)
(イラストの著作権は全てゆきさんに御座います)
だいきちの拙作ごった煮短編集
だいきち
BL
過去作品の番外編やらを置いていくブックです!
初めましての方は、こちらを試し読みだと思って活用して頂けたら嬉しいです😆
なんだか泣きたくなってきたに関しては単品で零れ話集があるので、こちらはそれ以外のお話置き場になります。
男性妊娠、小スカ、エログロ描写など、本編では書ききれなかったマニアック濡れ場なお話もちまちま載せていきます。こればっかりは好みが分かれると思うので、✳︎の数を気にして読んでいただけるとうれいいです。
✴︎ 挿入手前まで
✴︎✴︎ 挿入から小スカまで
✴︎✴︎✴︎ 小スカから複数、野外、変態性癖まで
作者思いつきパロディやら、クロスオーバーなんかも書いていければなあと思っています。
リクエスト鋭意受付中、よろしければ感想欄に作品名とリクエストを書いていただければ、ちまちまと更新していきます。
もしかしたらここから生まれる新たなお話もあるかもしれないなあと思いつつ、よければお付き合いいただければ幸いです。
過去作
なんだか泣きたくなってきた(別途こぼれ話集を更新)
これは百貨店での俺の話なんだが
名無しの龍は愛されたい
ヤンキー、お山の総大将に拾われる、~理不尽が俺に婚姻届押し付けてきた件について~
こっち向いて、運命
アイデンティティは奪われましたが、勇者とその弟に愛されてそれなりに幸せです(更新停止中)
ヤンキー、お山の総大将に拾われる2~お騒がせ若天狗は白兎にご執心~
改稿版これは百貨店で働く俺の話なんだけど
名無しの龍は愛されたい-鱗の記憶が眠る海-
飲み屋の外国人ヤンデレ男と童貞男が人生で初めてのセックスをする話(短編)
守り人は化け物の腕の中
友人の恋が難儀すぎる話(短編)
油彩の箱庭(短編)
スラムから成り上がった弟に恋人になってくれと迫られています
匿名希望ショタ
BL
【エリート弟×自己肯定感の低い兄】
「恋人になって欲しい」
十七年前に才能があり国一番の学園へと行った弟がいる。
その弟の枷になるまいと自分の生活がどれだけ貧相なものだとしてもお金だけを送り続けていた凡人以下兄の俺。
そんな俺が立派になった弟に恋人になって欲しいと迫られる。だけど俺はスラムにずっといてこんな醜いし...
人気俳優と恋に落ちたら
山吹レイ
BL
男性アイドルグループ『ムーンシュガー』のメンバーである冬木行理(ふゆき あんり)は、夜のクラブで人気俳優の柏原為純(かしわばら ためずみ)と出会う。
そこで為純からキスをされ、写真を撮られてしまった。
翌日、写真はネットニュースに取り上げられ、為純もなぜか交際を認める発言をしたことから、二人は付き合うふりをすることになり……。
完結しました。
※誤字脱字の加筆修正が入る場合があります。
【完結】君が好きで彼も好き
SAI
BL
毎月15日と30日にはセックスをする、そんな契約から始まった泉との関係。ギブアンドテイクで続けられていた関係にストップをかけたのは泉と同じ職場の先輩、皐月さんだった。
2人に好きだと言われた楓は…
ホスト2人攻め×普通受け
※ 予告なしに性描写が入ります。ご了承ください。
※ 約10万字の作品になります。
※ 完結を保証いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる