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しおりを挟む驚いたことに貞男はイギリスの大学に留学していて、だがバンクホリデーとかいうイギリスの祝日と被ってこの時期連休になっているらしい。
そんなわけでちょうど日本に帰国していた貞男と、部活帰りに来ると言っていた七海に声を掛けて俺達は集まることにした。
「嘘つき野郎、久しぶりだな」
待ち合わせした駅前、開口一番に言われた言葉にイラッとする。
相変わらずガラス細工のような綺麗な瞳とその辺の女子を物ともしない美人ぶりだが、人の顔見たら喧嘩売ってくるスタンスは変わっていないらしい。
やんのかコラと視線を細めたら、向こうも負けじと苛立たしげに視線を絡めてくる。
「おう結城。土産は」
「海外行ったならなんか美味いもん買ってこいよ」
「旅行じゃねーんだよ。ほんとお前ら二人ブレねーな」
「――あ、ユキ。着いてたんだね」
安定のどこぞの芸能プロダクションのスカウトに捕まっていた奏志が遅れて現れて、俺達の様子にニッコリと笑顔を作る。
「ユキとはちょうど明日会う約束してたんだよ。梅乃くんもユキも仲良しだから、一緒に会えてよかったなあ」
全く見当違いな事を言っている奏志をぶん殴りたくなるが、ヒビヤンがニヤニヤ笑っているので何でも無い顔でスルーする。
「奏志、あのね、俺行きたいところあるんだぁ」
そして安定のカワイコぶりっ子な貞男が、猫撫で声で奏志に話しかけている。
お前もブレねーな。
「梅乃くん。ユキがね、水族館行きたいんだって。みんなで行こう」
また水族館かよ。
どんだけ俺の周りは水族館好きな奴が多いんだよ。
というか俺4回目じゃねーか。
「真島がいいならどこでもいいよ」
「うん。俺はいいけど…あれ、名前が――」
貞男にまで名前呼びだとかめんどくせー視線を向けられる前に、先に手を打っておく。
そんなわけでどこか愕然としている奏志を放っておいて、俺はヒビヤンを引っ張って歩く。
4回目の水族館とかマジでどうでもいいが、せっかく日本に帰国している貞男が行きたいと言うなら断ることもない。
「別にいいけど水族館とか男4人でどうなんだよ」
ヒビヤンに真顔で突っ込まれたことになんだか安心感を覚える。
どうやら奏志に毒されて完全に異世界への扉を開けさせられていた俺は、ツッコミの腕が衰えていたらしい。
マトモなツッコミ入れてくれる奴がいることに、日常的平和を感じるレベルに安堵を覚えるとか俺の人生一体どうなってんだ。
辿り着いたそこはミカ先輩と仁美ちゃんと奏志と一緒に行った時と、やっぱり何ら変わらなかった。
楽しそうに奏志の隣で猫かぶってる貞男の姿を、じとっと目を細めて見つめる。
貞男はまだ奏志の事が好きなんだろうか。
「なに、妬いてんの」
「…はあ?」
ヒビヤンにニヤニヤしながら言われた。
今朝からもうずっと俺達のことをからかいたくて堪らないという顔をされている。
というかコイツわざわざ北海道から俺の事からかいに来たんじゃねーだろうな。
「今更貞男相手に妬かねーわ。それより水族館飽きた。近くにゲーセンあったから行かねえ?」
「お、いいな。俺も魚よりゲームの方がいいわ」
やっぱりヒビヤンとは気が合う。
どうせ女がいるわけでもないし、気心知れた男4人ならそう気を使う必要もないだろう。
久々に再会した親友と積もる話もあるだろうし、仲よさげに前を歩く二人には声をかけず、俺とヒビヤンはそこから離れた。
半泣きになった奏志がストーカーのごとく電話を掛けてきたのはそこから二分後で、俺のことを忘れてはなかったらしい。
ゲーセンにいることと、ゆっくり水族館見てこいよと伝えて電話を切る。
「高瀬、アレやろうぜ。勝ったほうが負けた方の言うこと一つ聞くのな」
「おー受けて立つ」
格ゲーを指さされて、学生時代散々友達と遊んだそれを思い出して対面の席に座る。
何命令してやろうかなと考えて、ヒビヤンが負けたらもう一週間くらい俺の相手しろと言ってみるかな、とニシシとほくそ笑む。
学校の単位がどうとかは知らね。
「…マジかよ」
だがその数分後、LOSEの文字が書かれた液晶の前でガックリと項垂れる。
社会人になってしばらくゲームやってないから、腕が鈍っているんだろうか。
これが社会人と学生の違いかと早くも痛感していると、対面にいたヒビヤンが含み笑いしながら顔を出した。
「何聞いてもらうかな。真島が面白そうだから高瀬北海道にお持ち帰りすっかな」
「交通費出してくれんならどこにでも行くけど」
北海道観光とか楽しそうだ。
修学旅行で行けなかったし。
「金とか現実的すぎんだろ。じゃーあれ教えろよ。どうやって真島に卒業式口説かれたんだ?」
「うわぁ…」
くっそ話したくない。
ヒビヤンにからかわれるネタ満載じゃねーか。
そんな感じでからかわれつつ遊んでいたら、奏志と貞男が顔を出した。
これからヒビヤンとレースゲームをやろうとしてたが、ヒビヤンを押しのけて袖をまくった貞男が隣に座る。
それからビシッと俺に人差し指を向けてきた。
「おい梅乃、勝負だ。勝ったほうが負けた方の言うことを一つ聞く。いいな」
お前もかよ。
――男と男の勝負が、今開幕する。
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