ベタボレプリンス

うさき

文字の大きさ
上 下
219 / 251

6

しおりを挟む

 週末、新卒の歓迎会が開かれた。
 高卒の俺と違って大卒の奴も当然いるし、酒も交えて賑やかに行われた。
 未成年に酒飲ませたことがバレたら会社が問われるから、当然俺はジュースだが。

 相変わらず人をからかってくる先輩と話をしていたが、不意にスマホが振動した。
 ちらりと見ると奏志からだった。
 いつもどおり電話を掛けてきたんだろうが、そういえば今日歓迎会だってこと言ってなかった。
 それでも一応上司の前だし、今電話に出るのはやめとくかと再びポケットへ滑り込ませる。

「彼女か?別に出てもいいぞ」
「いいんですよ。あとでフォローするし」
「へー、ガキがいっちょ前に余裕じゃねーの。付き合い長いのか?」

 相変わらず人を子供扱いする先輩は、含んだような笑顔で俺に聞いてくる。
 この顔は俺の色恋を話のツマミにしようとしてやがるな。
 確かに男でしかもとんでもないイケメンと付き合ってるあたりツマミどころかメインディッシュになるくらいの話題性はあるが。

「別にそこまでじゃないですよ」

 あんまり聞かれたくないしテキトーに答えて何か別の話題にしてやろと考える。
 実際付き合いは長いっちゃ長いが、ちゃんと付き合い始めたのは卒業式からだ。

「付き合いたてか。会ってすぐ盛るような自己中ぶり発揮してると嫌われるから気をつけろよ」

 カカカと先輩は茶化すように言って笑う。
 なんだか物凄く思い当たるんだが。
 玄関入って2秒で盛る奴を俺は知っている。

 その後お酌したりグダグダと長い上司の話を聞かされたりして時間は過ぎていき、社会人は色々気遣い面倒くせーなと思いながら歓迎会は終わった。
 それでも明日は休みだし、奏志誘ってどこか行くかと帰り道でスマホを取り出す。

 画面を見たら、鬼のようにメッセがきてた。
 電話しても出ないから心配したんだろうが、相変わらずのストーカーぶりだ。

『――う、梅乃くんっ。大丈夫!?』
「生きてるよ。今日歓迎会だったんだよ」
『…あ、そうだったんだ。そっかぁ。良かった…本当に生きててくれて良かった…』

 大袈裟すぎんだろ。
 電話越しで泣きそうなほどホッとした声が聞こえる。

 コイツ俺がもし事故って連絡付かなくなったりしたら、一体どうなってしまうんだろう。
 いやそれより仕事で遅くなることはこれからもたくさんあるだろうし、いちいちこんな心配の仕方してたんじゃコイツの身が持たない。

「あのさ、学生と違っていつも同じ時間に帰れるわけじゃねーから」
『う、うん。そうだよね。ごめんなさい』
「上司の前だったり先輩の前じゃすぐ電話に出れない事もあるし、いちいち気にしてたら――」

 言いながら、なんだかフォローしてやろうと思っていたはずが説教みたいになっているなと気付く。
 ここ最近挽回しないと、フォローしないと、と思いながら全然出来てない。
 どこか電話越しにしょんぼりとした返事が聞こえて、俺はガシガシと髪をかいた。

「あー、そうだ。明日暇かよ?休みだから出掛けねえ?」
『――えっ、いいの?』

 パアッと声が明るくなる。
 会えるよ、暇だよ、と何度も繰り返して俺に言う奏志の言葉は変わらずに愛情で溢れていて、変にすれ違っていないことに一先ずホッとした。
 

 翌日、昼過ぎに駅で待ち合わせをした。
 ここで待ち合わせすんのは高校の通学時以来だ。
 少し早く行ったのに、安定の先に着いていた奏志は俺を見ると大喜びで駆け寄ってくる。
 
「…はぁ、梅乃くんだ。久しぶりに会えてすごく嬉しい。大好きだよ」
「久しぶりって三日ぶりくらいだろ」

 息をするように告白されたが、学校でもなきゃ知り合いが周りにいるわけでもないし今更気にしない。
 デート中は終始ぼーっと惚けたような熱い視線を向けられて、こっちまでドキドキが伝わってくるみたいだった。
 俺の方も久々にゆっくり一緒にいれることが嬉しくて、内心結構はしゃいでいた。
 デートもいいが触りたい、なんてコイツみたいなことを思ってしまう。
 
 ずっと幸せそうに人の顔ガン見してくる奏志とショッピングモールへ行ったり映画を見たりしながら時間を過ごして、夕飯は俺の家で食うことにした。
 二人でスーパーに寄って、晩メシのリクエストをして、聞きたいと言うから仕事の話をしながら家までの道を歩く。

 並んで話をしながら、自分の顔が熱くなっていることに気付いた。
 心臓がバクバクしていた。
 マンションが近付くにつれ、コイツじゃないが興奮気味になっていく。

 触りたい。
 帰って抱きしめて、その温もりを確かめたい。
 真っ直ぐに与えてくれる愛情が欲しい。
 
 どうせマンション入ったらいつも通り大興奮で押し倒されるか、壁に押し付けられるかして懐かれるんだろうなと予想して家の鍵を開ける。

「…あれ?」

 が、気付いたら俺はリビングに立っていた。
 玄関先を無事通過し、一度も触られること無くここまで辿り着いてしまったらしい。
 マジかよ。ありえない。

 一度唖然としたが、いやどんな発想だよと正気に戻る。
 コイツの愛情に毒されすぎだ。
 普通は家入ってすぐがっついてきたりなんかしないし、それにコイツだってさすがに俺と二年も一緒にいればそりゃ慣れる。
 ずっとあんなことが毎回あるはずがない。

 なんだか期待してたみたいで勝手に気恥ずかしい気持ちになりながら振り向くと、赤い顔で鼻息荒くなっている顔がそこにあった。
 走ってきたのかよってレベルで肩で息をしている。
 とりあえずなんかめちゃくちゃ我慢しているらしい。

「す、すぐにご飯作るからね」

 だが俺に触れてくることはなく、サッとキッチンへ向かっていく。
 今しがたの自分の考えを綺麗に払拭するような態度だったが、一体どうしたんだ。
 
「…あー、おい。別にメシ後でいいけど…」

 横切っていくそのシャツを咄嗟に掴む。
 触ってもいい、という意思表示だったが、奏志はビクリと驚いたように肩を跳ね上げた。
 そのままぐいと俺を見ぬまま、手を引き戻される。

「だ、ダメだよ。今すぐ作らないと…っ」
 
 よく分からんが謎の我慢大会が始まったらしい。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

渡り人は近衛隊長と飲みたい

須田トウコ
恋愛
 20歳になった仁亜(ニア)は記念に酒を買うが、その帰りに足湯を通して異世界転移してしまう。 次に目覚めた時、彼女はアイシスという国の城内にいた。 その日より、異世界から来た「渡り人」として生活しようとするが・・・  最強の近衛隊長をはじめ、脳筋な部下、胃弱な部下、寝技をかける部下、果てはオジジ王にチャラ王太子、カタコト妃、氷の(笑)宰相にGの妻、下着を被せてくる侍女長、脳内に直接語りかけてくる女・・・  あれ、皆異世界転移した私より個性強くない? 私がいる意味ってある? そんな彼女が、元の世界に帰って酒が飲めるよう奮闘する物語。  ※一話一話は短いと思います。通勤、通学、トイレで格闘する時のお供に。  ※本編完結済みです。今後はゆっくり後日談を投稿する予定です。 更新については近況ボードにてお知らせ致します。  ※なろう様にも掲載しております。

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

親衛隊は、推しから『選ばれる』までは推しに自分の気持ちを伝えてはいけないルール

雨宮里玖
BL
エリート高校の親衛隊プラスα×平凡無自覚総受け 《あらすじ》 4月。平凡な吉良は、楯山に告白している川上の姿を偶然目撃してしまった。遠目だが二人はイイ感じに見えて告白は成功したようだった。 そのことで、吉良は二年間ずっと学生寮の同室者だった楯山に自分が特別な感情を抱いていたのではないかと思い——。 平凡無自覚な受けの総愛され全寮制学園ライフの物語。

組長様のお嫁さん

ヨモギ丸
BL
いい所出身の外に憧れを抱くオメガのお坊ちゃん 雨宮 優 は家出をする。 持ち物に強めの薬を持っていたのだが、うっかりバックごと全ロスしてしまった。 公園のベンチで死にかけていた優を助けたのはたまたまお散歩していた世界規模の組を締め上げる組長 一ノ瀬 拓真 猫を飼う感覚で優を飼うことにした拓真だったが、だんだんその感情が恋愛感情に変化していく。 『へ?拓真さん俺でいいの?』

弟、異世界転移する。

ツキコ
BL
兄依存の弟が突然異世界転移して可愛がられるお話。たぶん。 のんびり進行なゆるBL

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

騎士団長の溺愛計画。

どらやき
BL
「やっと、手に入れることができた。」 涙ぐんだ目で、俺を見てくる。誰も居なくて、白黒だった俺の世界に、あなたは色を、光を灯してくれた。

処理中です...