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しおりを挟む週末、新卒の歓迎会が開かれた。
高卒の俺と違って大卒の奴も当然いるし、酒も交えて賑やかに行われた。
未成年に酒飲ませたことがバレたら会社が問われるから、当然俺はジュースだが。
相変わらず人をからかってくる先輩と話をしていたが、不意にスマホが振動した。
ちらりと見ると奏志からだった。
いつもどおり電話を掛けてきたんだろうが、そういえば今日歓迎会だってこと言ってなかった。
それでも一応上司の前だし、今電話に出るのはやめとくかと再びポケットへ滑り込ませる。
「彼女か?別に出てもいいぞ」
「いいんですよ。あとでフォローするし」
「へー、ガキがいっちょ前に余裕じゃねーの。付き合い長いのか?」
相変わらず人を子供扱いする先輩は、含んだような笑顔で俺に聞いてくる。
この顔は俺の色恋を話のツマミにしようとしてやがるな。
確かに男でしかもとんでもないイケメンと付き合ってるあたりツマミどころかメインディッシュになるくらいの話題性はあるが。
「別にそこまでじゃないですよ」
あんまり聞かれたくないしテキトーに答えて何か別の話題にしてやろと考える。
実際付き合いは長いっちゃ長いが、ちゃんと付き合い始めたのは卒業式からだ。
「付き合いたてか。会ってすぐ盛るような自己中ぶり発揮してると嫌われるから気をつけろよ」
カカカと先輩は茶化すように言って笑う。
なんだか物凄く思い当たるんだが。
玄関入って2秒で盛る奴を俺は知っている。
その後お酌したりグダグダと長い上司の話を聞かされたりして時間は過ぎていき、社会人は色々気遣い面倒くせーなと思いながら歓迎会は終わった。
それでも明日は休みだし、奏志誘ってどこか行くかと帰り道でスマホを取り出す。
画面を見たら、鬼のようにメッセがきてた。
電話しても出ないから心配したんだろうが、相変わらずのストーカーぶりだ。
『――う、梅乃くんっ。大丈夫!?』
「生きてるよ。今日歓迎会だったんだよ」
『…あ、そうだったんだ。そっかぁ。良かった…本当に生きててくれて良かった…』
大袈裟すぎんだろ。
電話越しで泣きそうなほどホッとした声が聞こえる。
コイツ俺がもし事故って連絡付かなくなったりしたら、一体どうなってしまうんだろう。
いやそれより仕事で遅くなることはこれからもたくさんあるだろうし、いちいちこんな心配の仕方してたんじゃコイツの身が持たない。
「あのさ、学生と違っていつも同じ時間に帰れるわけじゃねーから」
『う、うん。そうだよね。ごめんなさい』
「上司の前だったり先輩の前じゃすぐ電話に出れない事もあるし、いちいち気にしてたら――」
言いながら、なんだかフォローしてやろうと思っていたはずが説教みたいになっているなと気付く。
ここ最近挽回しないと、フォローしないと、と思いながら全然出来てない。
どこか電話越しにしょんぼりとした返事が聞こえて、俺はガシガシと髪をかいた。
「あー、そうだ。明日暇かよ?休みだから出掛けねえ?」
『――えっ、いいの?』
パアッと声が明るくなる。
会えるよ、暇だよ、と何度も繰り返して俺に言う奏志の言葉は変わらずに愛情で溢れていて、変にすれ違っていないことに一先ずホッとした。
翌日、昼過ぎに駅で待ち合わせをした。
ここで待ち合わせすんのは高校の通学時以来だ。
少し早く行ったのに、安定の先に着いていた奏志は俺を見ると大喜びで駆け寄ってくる。
「…はぁ、梅乃くんだ。久しぶりに会えてすごく嬉しい。大好きだよ」
「久しぶりって三日ぶりくらいだろ」
息をするように告白されたが、学校でもなきゃ知り合いが周りにいるわけでもないし今更気にしない。
デート中は終始ぼーっと惚けたような熱い視線を向けられて、こっちまでドキドキが伝わってくるみたいだった。
俺の方も久々にゆっくり一緒にいれることが嬉しくて、内心結構はしゃいでいた。
デートもいいが触りたい、なんてコイツみたいなことを思ってしまう。
ずっと幸せそうに人の顔ガン見してくる奏志とショッピングモールへ行ったり映画を見たりしながら時間を過ごして、夕飯は俺の家で食うことにした。
二人でスーパーに寄って、晩メシのリクエストをして、聞きたいと言うから仕事の話をしながら家までの道を歩く。
並んで話をしながら、自分の顔が熱くなっていることに気付いた。
心臓がバクバクしていた。
マンションが近付くにつれ、コイツじゃないが興奮気味になっていく。
触りたい。
帰って抱きしめて、その温もりを確かめたい。
真っ直ぐに与えてくれる愛情が欲しい。
どうせマンション入ったらいつも通り大興奮で押し倒されるか、壁に押し付けられるかして懐かれるんだろうなと予想して家の鍵を開ける。
「…あれ?」
が、気付いたら俺はリビングに立っていた。
玄関先を無事通過し、一度も触られること無くここまで辿り着いてしまったらしい。
マジかよ。ありえない。
一度唖然としたが、いやどんな発想だよと正気に戻る。
コイツの愛情に毒されすぎだ。
普通は家入ってすぐがっついてきたりなんかしないし、それにコイツだってさすがに俺と二年も一緒にいればそりゃ慣れる。
ずっとあんなことが毎回あるはずがない。
なんだか期待してたみたいで勝手に気恥ずかしい気持ちになりながら振り向くと、赤い顔で鼻息荒くなっている顔がそこにあった。
走ってきたのかよってレベルで肩で息をしている。
とりあえずなんかめちゃくちゃ我慢しているらしい。
「す、すぐにご飯作るからね」
だが俺に触れてくることはなく、サッとキッチンへ向かっていく。
今しがたの自分の考えを綺麗に払拭するような態度だったが、一体どうしたんだ。
「…あー、おい。別にメシ後でいいけど…」
横切っていくそのシャツを咄嗟に掴む。
触ってもいい、という意思表示だったが、奏志はビクリと驚いたように肩を跳ね上げた。
そのままぐいと俺を見ぬまま、手を引き戻される。
「だ、ダメだよ。今すぐ作らないと…っ」
よく分からんが謎の我慢大会が始まったらしい。
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